2話
なんやかんや絶望で1週間位寝込みそうになったが、そんな場合じゃない現実が迫っている。
さっきまでの悲観っぷりの中、そんな場合じゃないのはどんな場合だと言いたくなるが。
「多々良優」は今年で生まれて15年、つまり15歳になる。
現世で生まれた人々は皆、15歳になると職業の選定と、その為の修業を兼ねた学校へと入学をするらしい。
数千年前は学校なんて大層立派な物は存在しなかったが、15歳で職に就くのは変わっていないな。
職業というのは絶対であり、それは誰とて避ける事は出来ない通過儀礼だ。
この超病弱体質の「多々良優」も例外じゃないのだが……
「ただでさえ今生きてるのが奇跡な状態なのよ!! 入学なんて下手したら死に行くだけだわ、許可できない!」
母です。
「入学はどの道避けては通れない。免除されても今年だったのが数年先になるだけだ、それなら優の気持ちを考えて今入学させるべきじゃないのか?」
父です。
はい、修羅場です。
分かっていました。
この体質が原因だろう、母は学校の入学をどうしても認められないようだ。
まぁ気持ちは分かる。普通に生活している今でこそ、人一倍体力がない位で済んでいるが、これで適正職業「戦者」と認定されたら死ぬのが目に見えてるからな。
戦者はオレが勇者の称号を得る前の職業だったから、どんだけ大変なのかよく覚えている。
職業は千差万別、戦う事が仕事の戦者から、国の数多ある書物を管理する事が仕事の司書まである。
きっと、母は万が一に前者の様な職業が選定された時の事を考えて心配してくれているのだろう。
学校は寮な為目が届かない分余計に。
だが、父が言っている様に俺は入学が免除される資格があるが、それは良くて1、2年の話で入学は絶対らしい。
――――入学しない者、即ち職業に就かない者は無力者として処刑される。
今も昔もだ。
選定された職業はその者の運命でもある。
漁師の家系に生まれた漁好きの少年が漁師と選定される事もあれば、同一の家系でも菓子作りが好きだった場合菓子職人に選定される事もある。
要はその人その人に一番合った職業が定められるのだ。
一度定められたが最後、死ぬまでその職業の仕事を突き通す――――。
まぁ、歳とか体力を考慮しての仕事量になるから、ほとんどの人が喜んで仕事をしているけども。
以上の様に今の俺は間違っても戦者なんて選定されない自信がある。
むしろ程遠い存在だからな。
唯一の心配点としては、職業に定められるような特技も無ければ趣味もない所か。
大体の人は選定前に大方何の職業に選定されるか予想が付くものだが、今の俺は全く予想が付かない。
きっといつも小説を書いてるストーリーテラー少年だったら、職も小説家だろう。
そしたら母も喜んで入学を勧めたはずだ。
「母さん、心配してくれてありがとう。でも父さんが言ってるように、入学は避けて通れないんだ。俺を見てみなよ、どう考えても戦を駆け巡ったり、体力を使うような職業に定められる見た目じゃないだろ?」
正直、自分で言ってて悲しくなるな。
「でも優……! もし優の身に何かあったら……」
「優もこう言ってるんだ。それに入学しなかったらしなかったで無力者になるんだ、そしたらどうなるかわかっているだろう?」
「……ッ!」
きっと子供思いの良い両親とはこういう事なのだろう。
両親共に俺をとても愛してくれているのが分かる。
生きて欲しいから何より身の安全を心配する母。
心配しながらも子供の考えを一番に優先してくれる父。
この環境がいかに恵まれているかと思うと、同時に入学する事が少し惜しくなる。
ま、しなきゃどの道死ぬんですけども。
「……無理は絶対にしないって誓うよ。それにもしかしたら学校の中で、この体質を治す鍵が見付かるかもしれないんだ。少しでも良い思い出と経験を持って帰れるようにするよ」
「優……。分かったわ。本当に無理だけは絶対にしちゃダメよ。何かあったらお母さん無理矢理家に連れて帰るからね」
「母さんの言う通りお前の身が第一だからな。学校は楽しい所だ、なるべく良い思い出を作ってきて欲しいが何かあったら父さんも黙ってはいないからな」
世界最高峰の医学でも原因不明なんだから、学校で鍵が見付かるだなんて出任せの他ないが、なんとか説得できたようだ。
入学及び職業選定は3日後、入学生と学校関係者のみで内密に行われるらしい。
昔は誰彼構わず見に来て、一種のお祭り騒ぎだったのに大きく変わったもんだな。
……とりあえず身支度しなきゃな。