1話
俺がオレとして認識出来るようになったのはいつ頃からだろうか。
まぁ時期はどうでもいい、俺は前世勇者だった記憶を取り戻し、現世で「多々良優」として生きている事を認識した。
正直初めは夢の延長で、頭が都合のいい様に作り話を流してるもんだとばかり思っていた。
元々「多々良優」はファンタジー好き少年だったしな。
でも、日に日にその夢は現実味を増していった。
確信に至ったのはつい昨日の事、オレにとっては最悪の日だ。
――――聞いてしまったのだ。
病を患い死んだ勇者の話を。
初めて聞いた話だったが、その全容はまさに前世のオレそのものだった。
それに加え、この世界は不治の病が一切存在しない。
数百年……いや、千数年先か?
どれくらい先かは分からない。
確信した。
前世と現世の世界は同じだ。
街の風景や人々を見た所、前世からかなりの年数が経っているのが分かる。
見た事もない服装、自動で動く乗り物、ペット化した魔獣、見た事もない魔術。
「多々良優」として当たり前と思っていた風景だったが、オレとしては正直失神しそうな位頭が追い付かない。
加えて知りたくもない事実が分かった。
数百年先は語り継がれるだろう伝説と冗談でいったオレの死に様がまさか本当に、今も尚語り継がれるとは思わなかった。
それだけならまだ良い。
現世で初めて知った、というか現世じゃなきゃ知れなかった事実も分かった。
――――――オレの死んだ次の日に治療法が発見されたのだ。
なんなんだろう、この不運さ。
多分俺が前世程の強さがあれば、不運を恨んで魔王化してたと思う、マジで。
何故前世程の強さって言い方をしてるかって?
前世で世界を救う程の功績を積んだんだから、現世でもそれなりの才能が予め追加されてると思うよな?
俺もそう思った。
……「多々良優」として生を成したこの肉体はあまりにも脆かった。
名前は超優秀そうなのにな。
前述したように、この世界の医学は発達しており不治の病なぞ存在しない。
そう、それはこの肉体もそうだ。
そうなんだが。
「多々良優」の肉体は完治はするがその後すぐに病気が再発する肉体なのだ。
原因は不明。この症状を持った人間はオレの時も、死後数千年間も、誰一人として発見されていない。
そんな肉体だ、今に至るまで病気の治療で入退院を何十回も繰り返した。
幸いな事に、罹っている病気の全てが命に係わる物ではない為、最近は定期的な検診で済んでいる。
裏を返せば、「完全にお手上げ 後は死なないように経過を見るしかない」と放り投げられたのだ。
――――あの、世界を救った勇者なのですが?
前世で散々病死を悔やんで死んだ身なのですが?
神様、一体俺が何をしたんでしょう?