序章
(前略)なんやかんやあり魔王に支配された世界だったが、勇者であるこのオレが魔王を倒し平和が戻ったのであった。
あれから数十年。
そんなオレも今や死ぬ間際だ。
勇者たるもの戦いの中で死にたかったが、オレはあまりにも強すぎた。
それもそのはず、魔王を倒す程の実力だ。
誰とて致命傷を与える事は敵わなかった。
オレの死因は何かって?
そう、病死だ。
勇者が病死だなんて笑い話にも程がある。
この世界は魔王軍に弾圧されていた1つである医学が魔王の死後急激に発展し、病気という病気の治療方法が発見され不治の病は全て無くなった。
そんな中で罹ったオレの病は新種かつ致死性、進行速度が高いらしく、治療法が確立する頃にはこの世にはいないだろう。
どれだけ肉体が脆くやせ細った人でさえ病死する事がなくなった世界で勇者が病死。
多分この先数百年は病死した勇者の伝説が語り継がれるだろう。
オレの体だ、今でもじわじわと病が体を蝕んでいく感覚が手に取るように分かる。
きっと1週間を待たずにオレは死ぬだろう。
――――子供の頃読んだ本を思い出す。
人は死ぬとあの世と呼ばれる所で修業だったか、良い事だったか、何だったかをして徳を積んだ後また人として転生するらしい。
この世では世界を救うほどの徳を積んだんだ。
だから、次の人生では病死なんてしない、もっと恵まれた生き方が出来るはずだ……――。