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ゼロの支配者  作者: 雲黒斎草菜
九州編
74/109

 混迷する世界

 いよいよ時間系SFの真骨頂に突入です。

  

  

 2318年、8月7日。午前2時――。


「しゅ……修一!」


 昨夜で終わったと思っていたのに、今夜も麻衣が飛び込んできた。

 まったく騒がしい奴だ。テントの上から飛び付き、ばたばたと暴れまくってシートの上から大声を上げた。

「こ、こら、修一、起きぃって。寝てる場合ちゃうで!」


「……なんだよ、ったく!」


 半分寝ぼけマナコでテントのシートに包まれて、ぼやぁんとするものの、薄いシートを隔てて、またもや飛びついたうえに抱きついてくる柔らかい感触に――ま、それはそれで結構なことなのだが。


「麻衣、落ち着け。今夜もか? こらぁ! 暴れるな」

「きゃん。どこ触んねん、バカ。アホ! スケベ! エッチ!」


「うるさい! 触られたくなかったらまず離れろ。俺はテントの中なんだ。何がなんだか解らんだろ」


「う……うん。わかった」

 やっとおとなしくなった。


「またミウか?」

 シートから顔を出す俺に、麻衣は血の気の無くなった顔で大きくうなずいた。

「階下のデッキから外を見てたら、そこにミウがぼぉぉっと立っとったんや。青白い顔して生気の抜けた怖い顔。あんなミウ見たこと無い」



「で、外にミウを見たとき、寝床は見たのか?」

 真ん丸い目を俺へと向けて、可愛く首を振る。


「見てへん……」


「バカか、それを先に確認しろって言ってんだろ!」

 麻衣は無言でコクコクと頭を振ると、ぴゅーっと階下の寝室へ飛んで行った。


 ゆるゆると起き上がり、俺も階段を降りようとしたが、女性陣の寝室に近づくと他人の目が怖い、特にイウのがな。で、階段の上で待つことにした。


「こう毎日だとたまらんよな……」

 トイレに起きた子供の付き添いをする親の心境だ。


 しばらくすると階下から人影が上がって来た。

 麻衣が戻ってきたのかと思ったら、色っぽい寝間着を纏った柏木さんだった。


 薄い水色のパジャマでチャイナ風の襟が可愛い、全体的に見て、きゅっと絞られたデザインはとんでもなくそそられる。大人の色気というのもいいもんだ。


 柔らかそうな布地に身体の線がはっきりと見えて、生唾ごっくん。

 柏木さんも薄暗い通路に立っている俺に気づき、


「あんれぇ? 修一くぅん? 何してんのぉ?」


「いや、別に……柏木さんこそ、どこ行くんすか?」

「おしっこ」


「あ、あのね。トイレは下っすよ」

「修一くんはなに? 夜這(よば)いでもすんの? 麻由は寝てるけど、麻衣なら何かゴソゴソしてたわよ」


「ば、バカなこと言わないでくださいよ。俺がそんなことするわけ無いでしょ」

 喉が引きつりそうだ。


「ミウは寝起きが悪いから、寝てからはやめたほうがいいわ。目が覚めたあと、しばらくすっごく機嫌が悪いんだから」

「い、いや。あのですね……」


 柏木さんは、たぶん半分寝ぼけていたのだと思う。一旦食堂へ向かってから頭を掻き掻き戻って来た。


「えへへへ。トイレ行くつもりなのに操縦席へ行こうとしちゃった」

 と言って、もう一度階下へ消えていった。


 ちゃんとトイレへ行けたのだろうか?



 しばらくして。

「いま、柏木さんが、上がって来たやろ?」

 やっと麻衣が戻ってきた。


「あの人、少し寝ぼけていたけど、ちゃんとトイレ行ったのか?」


「たぶん行ったと思う。けど、ときどき帰って()んと床で寝てることがあるからね」

「柏木さんのほうが睡眠障害症じゃないのか?」

 俺が溜め息を吐いていると、麻衣が小声で伝えてきた。

「ミウは寝とったわ……」

「だろ。あいつが外に出るわけないだろ。さぁ寝よう。毎晩だとこっちがおかしくなりそうだ」


 文句を言う俺の袖を麻衣が力強く引いた。

「ちょっと来て。今日はランちゃんに頼んでタイムラプス録画をしてもろてんねん」

 と言って背に隠していたA4サイズほどのコンピュータパッドを差し出した。


「寝る前から、今までの映像や。ちょっとあんたも一緒に見てぇな」

「明日でいいだろ。俺、眠いんだって……」

「まぁええからこっち来てぇって」

 無理やり食堂に引き摺られ、乱暴に着席させられた。


 麻衣は今日もピンク地にイチゴの柄が散らばったパジャマさ。なのにこいつはまた寝間着姿で俺に飛び付いていることを忘れて、平然と胸を揺するもんだから、河原での入浴シーンを思い起こしてしまった。


 確かにあれは見ごたえのある光景だった。それが目の先で薄い布地一枚隔てて……。

「ごほんっ」

 関係ない想像はやめておこう。


 麻衣はパッドを起動させた後、インターフェースポッドへ声の音量を下げて訊いた。

「ランちゃん。1時間前あたりから録画データをこっちのパッドにアップロードしてくれる?」

 俺に対しては無茶苦茶のクセに、この辺はちゃんと操縦補助席で眠るガウロパたちに気を遣っている。


『……………』

 ランちゃんは無言でポッドの中を緑の光の点滅で合図すると、テーブルに載った薄っぺらい画面にアストライアーの後方景色を録画した画像を映し始めた。


「ランちゃん? なんで麻衣のときは喋らないんだ? 俺のときはあんなにべらべら喋ってくるのに……」


 変なところを気にして天井を見ていたら、麻衣がぐいっと俺の前髪を引っ張った。

「いででで……」

 無理やり画面に顔を向けられて憤慨する。

「お前は、俺にだけ遠慮無しだな」

「あんたやからや。ココ喜ぶとこやで」

 何なんだ、その意味不明な賛辞は……。


 すがめて麻衣を見ていた視線をパッドの画面に戻した途端、一気に鼓動が跳ね上がり絶句した。

「こ……これは誰だ!?」

 記録されるはずの無い映像が目に飛び込んできた。


 画面に映る問題点を麻衣の指が示す。

「どう思う? ミウやろ?」

「ゆ……幽霊みたいだ」


 緑の光りの中に広がる糸状菌の林。それに半分同化して立つ髪の長い少女。それも緑の光りで見にくいが、髪の毛が白っぽい。顔もぼんやりとしているが、ほぼ言い切れる。


「ミウ……だな」


 うめき声にも似た台詞(セリフ)を漏らす俺の表情を麻衣が凝視する。

「どう? ウチの()うてる意味わかったやろ?」

「ほんとだ……」

 完全に目が覚めた。


「これはミウだ……」


 映像の中の少女は影のようにゆらゆらと揺らぐが、ちゃんと白い足を交互にクロスさせてアストライアーの後ろをうろついている。そして時々顔を上げて後部ハッチを窺うような素振りを見せていた。


「足があるから幽霊じゃない」

 とつぶやく俺の頭をひと殴りして、麻衣が厳しい顔をした。

「あんたは科学者に向いてない!」

「なる気ねぇーし」


「ほんならあんたは、ただのスケベ、ちゅうことやね」


「な、なんだよ!」


「よう見てみぃ。あんたの好きな生足で歩いてるやろ?」

 好きなのは親父だ、と言い返したかったが、その前に重要なことに気づかされた。


「やっと気づいたん? ニブチンやね」と溜め息をつく麻衣。

「耐熱スーツを着ていない」

 ようやく黙ってうなずく麻衣。


 夜中であってもガーデン内は気温50℃を越えるはずだ。


「じゃ……アストライアーに乗るミウではない別のミウか? それともよく似た子か?」

 麻衣もそっと頭を振る。

「それやねん……」

 喉の奥で何か言いたそうだが、ぐっと押し殺すと映像に視線を落とした。俺もつられてディスプレイを見つめる。


 数分後、外をうろついていた少女は霧みたいに景色へ溶け込んで消えた。


「短い時間やけど……確かに女の子やろ?」


 俺は小刻みに頭を前後させた。

「ミウは下で寝てるんだから、たぶんこの子はあれじゃないのか……」


 麻衣は俺が言おうとしたことを察したようで、

「ウチもそう思ってるねん。超未来人やろ?」

 生唾を飲み込みそっとうなずく。

「別の未来の、いや分岐した先に存在する別のミウだろうか……ちがうかな?」

 俺たちの浅い知識では、結論まで及ばない。


「よし、それ消さずに置いておけよ。明日、朝のホームルームで発表しよう」

「うん」

 二人だけになると、どうしても高校の教室にいる気分になって、ここが人跡未踏の九州の奥地ということを忘れてしまう。


「そのパッドは修一に預けとくわ。もう一度見といてな……ほな、明日」

「おぉ、それじゃ」

 俺も手を振って階段で別れ、急いでテントを建て直して中に入った。


 すぐに睡魔が襲うものの、まぶたの裏には今見た映像のぼやけたミウがくっきりと焼き付いていた。あれは確かにミウだ。でも本人は寝室にいる。

「なんか嫌な予感がするぞ」

 昨日、ミウとガウロパが語り合っていた言葉とどこかで重なる事に気付いたころには、俺の瞼が重く圧し掛かってきた。






「しゅういち……しゅうちゃん……」

 遠くで俺を呼ぶ声がする。誰だ?


「……おきて……しゅうちゃん……」

 麻衣か? 誰だっけこの声?


「どうしたの……修一?」

 ランちゃんか?

 薄目を開けると、プリズムから漏れたような虹色の光があふれた。


「なんだ?」


「何言ってんの……ランちゃんって誰よ?」


 さっきから……ん?

「ほら! 起きて! 修一、起きなさい。麻衣ちゃんがもう迎えに来てるのよ!」


「えぇっ!」

 一気に目が覚めた。ガバッと立ち上がったが、あまりの光量にめまいがして膝を床につけてしまった。


「ほら、早く。カバンは?」

「カバン?」


「教科書のタブレットはちゃんと入れてんの? なにこの薄ぺらいカバンは?」

 俺の目前に学校のカバンを突き出してきた女性を見上げて息を飲んだ。


「お……お袋っ!」


「なにがお袋よ! 早くして。麻衣ちゃんを待たせると、またあんた叱られるでしょ。高校生にもなって年下の女の子に小言を貰うなんて、母さん情けないわ」

 お袋は肩を落とし、大げさに溜め息を吐き、

「まあ相手が麻衣ちゃんだからしょうがないけどね」

 長々と愚痴を並べたくるのは、間違いなく俺のお袋だ。


 そこへ。たた、たん、と弾むように部屋に飛び込んできた女子が、爽快な声を張り上げた。

「また夜更かししとったんやろぉ」

 声高に放つ馴れ馴れしい口調と聞き慣れた声に息の根を止められた俺は、その場で呆然となった。


 半そでの襟付きの白シャツを着て、ちっちゃな藤色のタイを揺らしたチェックのミニスカート姿。


 それを見て思わず叫んだ。

「学校の制服だ!」

 麻衣はメガネを額に引っかけてそのメガネを探している間抜けな奴を見るような目でキョトンとした。


 きっかり二秒ほど経過して口を開く。

「まだ寝ぼけとんかいな……。正確には女子の制服や。あんたの制服はこれやろ! それとも今日はミニスカートで行くんか? 別にかまわんけど、ウチのそばには寄らんといてや」


 そう言い放つと、壁に掛かっていた男子生徒の制服を引っ剥がして俺のベッドへぽいと放り投げたかと思うと、おもむろに俺のパジャマを脱がしにかかった。だが、お袋は横でニコニコして傍観するだけ。


「ちょっ、ちょ……」

 俺は堪らずその手をつかんで制するが、お袋がその行為を咎めた。

「ほらほらなにしてんの。夫婦喧嘩するのはまだ早いからね。修一が遅いから麻衣ちゃんが怒るのよ。あたりまえでしょ」


 そこへ聞き慣れたダミ声が、

「――麻衣ちゃん。そんなバカは放っといて、こっちでお茶でも飲んでようぜ」

 ダイニングの方から呼ぶのは親父で、麻衣は「ちゃっちゃっとしぃや」と口を尖らせるものの、俺から離れると声のする方へと消えた。


 この口調とこの勢いは確かに麻衣だが……。なぜ俺はここに居る?


 麻衣の風貌は見慣れた高校の制服姿だし、どこも変わってはいないが、辻褄が合わない。これはいったいどういう状況なんだ。

 俺はアストライアーの後部デッキに立てたテントの中で寝ていた。でも目覚めたらここは俺んちだし、しかも俺の部屋だ。


 九州での出来事は全部夢だったのか?

 俺は大きく(かぶり)を振る。それだけは決してありえない。ならまだ俺は眠っていて夢を見ている?

 いやいや、夢の中でそれを自覚することは無いはずだ。


 夢ではないことを裏付けるかのように、向こうから再び親しげな声が渡ってきた。

「ほんま、いつもより15分 ()よ来て良かったわ。また遅刻するとこや」

「悪いなぁ、いつも麻衣ちゃんに世話焼かせて。あんたが居なかったらあいつ生きていけないからな。バカな息子を持つと苦労するぜ。こんなヤツでもよろしく頼むな、麻衣ちゃん」

 親父と麻由の会話が続く。

「ふふ。ここ来たらいっつもその話やね。まぁウチに任せといて……あぁええって、おっちゃん。お茶やったらウチが入れるからぁ。ほら座っといて」

「すまねえな。麻衣ちゃん。どうだ明日からここで暮らすか? オレん()はかまわんぜ」


「アホなこと言わんといて……あっ、おばちゃん、お茶の葉っぱ替えたんや」


 俺のベッドに散らばるパジャマをかき集める手を止めずに、お袋もダイニングへ向かって答える。

「そうなのよ。お父さんが前のお茶飽きたって言うからさ」

「おっちゃん。こんなエエお茶。だいじに飲まなあかんで。これって高級なヤツやで」


 俺は茫然としながらも、みんなの会話に耳を傾けていた。

 あの貧乏臭いことを言うのは、麻衣に間違いないし、安月給のクセに高級志向なところは間違いなく俺の親父だ。


「やっぱりここは俺んちか?」

 と納得しかけた思考を強く否定する。


 んな、ワケはない。


 ベッドに座って辺りを見渡すが、そこは後部格納庫の硬い床でもないし、俺のテントも見当たらない。


「準備できたん?」

 湯気をゆらゆらさせた湯飲みを握って、再び麻衣が部屋に入って来た。


「朝食抜きは体に悪いっちゅうてるやろ。せめてお茶だけでも飲んで行き」

 俺は机の上に置かれた湯呑へ目を転じる。朝から熱い飲み物など口にしないはずだ。

 そう言えばいつもより気温が低い。クーラーの利き過ぎか?


 不穏な空気を感じて声を出そうとしたが、つい逡巡した。何から訊いたらいいのかさえも解からない。


 夢を見ているみたいに曖昧な意識ではない。しっかりと地に足が付いており、全身の神経からあらゆる情報を得ることができる。足の裏から伝わる床の感触、部屋を漂う朝食の匂い、ELランプによる照明のわずかな揺らぎでさえも目の網膜にしっかりと受け取れる。俺の頬を優しく撫でる麻衣の息遣いだって感じる。こんな生々しく伝わる夢なんてあるものか。


「ま……麻衣……」

「ん? なんや、ネクタイか? ほら貸してみ」

 麻衣の視線は机の上にあった濃い緑の帯を指している。

「なんで……?」

 この色は三年生の色で、俺は二年生だ。二年生は藤色……そう麻衣のネクタイがその色だ。ということはあいつが二年で、俺が三年だと言いたいのか?


 さらに不可解な現象を発見した。 

 昨夜、テントの上から麻衣が飛びついて来た時に打った痛みが、まだあばら骨に残ることを鑑みると、ならばあれも現実。間違いない。


 続いてネクタイを鷲掴みにしてみた。ソフトな生地の肌触りもリアルに伝わってくる。


 俺は振り返ると手の中のモノをぽいっと放った。それは綺麗に放物線を描いて麻衣の手に渡り、麻衣は勉強机の椅子を引き出すと、その上で膝立ちになり、受け取ったタイを広げて俺のうなじへと白い腕を回してきた。


 ふんわりと鼻孔をくすぐる心地よい香りが漂う。それは石鹸の香りだった。


 これは現実なのか、非現実なのか、判断をしかねる間に俺を迷わす事象が矢継ぎ早に連続していまい、頭の中はパニック寸前だ。

 しかし答えは一点に絞ることができる。これが夢ならリアル過ぎる。

 ネクタイの触感もしっかりして、どう考えてもこれは――。


 俺は確信した。

 これは夢ではない!


 しなやかに指で布地を絡めていく麻衣に訊く。

「お前、寝不足じゃないの?」

「なんで?」

「幽霊の正体を暴いたろ?」


「なにゆうてんの?」

 濡れた黒色ガラスみたいな丸い瞳が俺を上目に見つめていた。


「……そっか。ウチの夢を見たんやね。ふふふ。なら許したる。そんで? どんな夢なん? 何か興味あるな。ウチどんな格好してたん?」


「ピンクでイチゴ柄のパジャマ着てた」


「――っ!」

 絶句を堪えた呼吸を麻衣が瞬時に飲み込んだ。それが俺にも伝わった。


「なんで知ってんの? パジャマ姿なんかあんたに見せたこと無いのに」

 今度は下を向いてモジモジ。

「偶然の一致や(おも)ても、なんか恥ずかしなってきたやんか。修一…」


 おかしい。こんな麻衣はぜったいにおかしい。あいつが俺にネクタイを巻いてくれるだけでなく、パジャマごときで恥じいることはない、こんなこと火星にある二つの衛星が正面衝突するよりも有り得ないことだ。


 頬を染めて恥じらう可愛らしい仕草でありながらも、手際よく俺の首にネクタイを巻き始めた麻衣の肩越しに、もう一度部屋を見渡してみる。

 確かに俺の部屋だが妙な雰囲気を肌に感じる。わずかに違和感が拭いきれない。設えはまったく同じだが本箱に見覚えの無い雑誌が数冊見える。それか忘れてしまったのか。


 椅子の上で膝立ちになり、栗色のふわふわ癖っ毛を揺らして俺の胸元を見つめて揺れ動く黒い瞳へ、ついつぶやく。

「お前……麻衣か?」

 再び、麻衣は上目遣いに俺をじっと見た。

「まだ寝てんの?」

 鼻と鼻が当たりそうになり、思わず固唾を飲む。


「い、いや。ミウが……」


「なにそれ。またアニメの話?」

 小声をつぶやき、今度は校章を襟に付け、それが終わると麻衣は両手で俺の肩をぽんぽんと払った。


「はい、おしまい……。急いでや。今日は変異体のテストがある日や。ウチが教えたとおりに勉強したん?」

「………………」


 どこだここは……。

 誰だ。お前……。


 呆然とする俺の手を引き、麻衣は席を立つ。

「はよぉー。学校行くでぇ!」


 学校だと?

「今は夏休みの真っ最中だぞ」

「何ゆうてんの? はよ急ぎ!」


 麻衣。お前こそ何を言っているんだ。

  

  

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