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ゼロの支配者  作者: 雲黒斎草菜
九州編
67/109

 史上最大の作戦

  

  

「力を合わせんだよ!」

 何か言葉が足りない。それよか俺の理解力が足りないのか?


「なんていうことを!」

 だけどミウは桜色の頬を引き攣らせて固着した。


「どないしたん?」

 きっかり5秒。辛抱が切れて麻衣が背中をつついた。


 ミウは壊れかけのおもちゃみたいなギクシャクした動きでイウに近づき、言葉の先を投げかける。

「あなたバカなの?」

「ば……バカって……あのな」

 冷たいセリフにイウは息を飲んだが、あらためて捲し立てた。

「これだけ大勢のリーパーが集まったんだ。みんなで力を合わせればできる。成せばなるさ。オレたち全員で、この乗り物を過去に飛ばすんだ!」


「ええぇ――っ!」


 鼓膜を震わす柏木さんの大音声。耳の穴に指を突っ込んだのはお公家様だ。

「ごめんなさい……」

 白塗りの男性に謝罪の言葉を捧げる白皙の美人は白衣姿さ。白色どうしで、何がなんだかよく解らない笑い顔を向け合っていた。


「こ……こんな巨大なものを時空移動させるんですか?」

 ミウが引くところをみると、その作戦は相当に無茶クチャな話なんだと思われる。

 麻衣と麻由は意味が解らず、同じ困り顔を向け合い、柏木さんはミウとイウを交互に観察。


「お前の能力なら、何メートルの亜空間を制御できる?」と訊くイウに。

「真剣にやれば10メートル……」

 と答えたミウを笑い飛ばす白ヒゲのご老中。

「ふぉっふぉっふぉっ。ミウどの、なにを弱気になっておる。パスファインダーともあろうお方が自身の能力を過少評価してはいけませぬな。昇進テストの時を思い出してみなされ」

「あの時は必死でしたので、20メートル以上の空間を引き摺りました」

 遠慮がちに応対するミウにうなずきつつ、

「そうじゃろう。ここに集まったリーパーは遠くの時代まで飛べる能力に長けておる連中ばかりじゃ。あいつは別じゃがな」

 操縦席に戻ろうと前を横切ったガウロパへ顎をしゃくる白髭のご老中。ガウロパは罰悪そうにスキンヘッドをぺしゃりと平手打ちした。

「拙者の能力はたいしたことはござらんが……。そうだ、このテーブルぐらいは……」

「無理することは無いでごじゃる」

 出たぁ。お公家様だ。


「お主は皆の足手まといにならぬように、一緒に飛ぶだけでよかろうぞ」

 女性っぽい仕草で、お公家様はそう声を掛け、俺は再び込み上げてきた笑いを必死になって堪える。

 おもしろい。なんだか知らないが、この人おもしろいぞ。


 あ、いや。そんなことはどうでもいい。

 お公家さまの挙動に話の矛先が大きく逸れてしまったが、この人たちの目的は……。喉から出かけたそっくりそのままの言葉を柏木さんが叫んだ。

「ウソでしょ! 噴火で亀裂ができる前の過去へアストライアーを移動させる……と言うの?」

 奇妙な仮装行列のおかげで、すっかり亀裂のことを忘れていたが、俺たちの旅はとん挫を余儀なくされようとしていたのだ。


 イウは半歩前に出ると、自慢げに鼻を鳴らす。

「そうだぜ。大地震と共に阿蘇が噴火して九州を分断させちまったのが2203年だ。だからそれよりも、できたら数年過去へ飛ばすんだ」

「でも、その時代だと人が住んでるかも……」

 不安を募らせる柏木さんだが、イウは口の端を歪めて自信満々な様子。

「崖の向こうまで移動したら、またこの時代に戻す。ほんの数分だし、もし誰かいたとしても問題ねえ。記憶を細工すりゃいいんだ。ていうか噴火予知がだいぶ進んでるから、全員が避難していてこの辺りはもぬけの空さ」


「……しかし」

 粘っこい吐息をミウが漏らしたが、イウは気にせず続ける。

「な、史上最大のイリュージョンだぜ。手品じゃない本物だぜ。リーパー界でも例を見ない」

「そんな無茶は誰もやりません!」

「だからオレたちがやるんだ。理論は間違っちゃいねえ。史上初の快挙だぜ」

「成功すれば……です」

 イウは奮起をみなぎらせるが、ミウは消極的だ。


「できるわよ」

 言い切るパーマ頭のおねえさんへ、ミウは怖い目を向けた。

「なぜ断言できるのですか? 複数のリーパーがひとつのものを時間移動させるには、正確なタイミングで跳躍を始めなければ、失敗どころか、運ぼうとするモノが粉砕してしまいます」


 俺は時間移動しようとしたミウを掴んで、危うく怪我をしそうになった時の激痛を思い出した。言うとおり猛烈な力が掛かかるのだ。


 ぶぁさっと十二単を翻して平安京の女性がイウを指さした。

「この人のアイデアはそこにあるの。それはわたくしたちにインプラントされているコミュニケーターに付属のトランスミッターがあるでしょ。あのクロックを同期させるのよ」


「ああ……」

 なんか頭痛がしてきた。


 時代考証が無茶苦茶だ。『トランスミッターのクロックを同期』って、西暦989年の平安京に住む女性が十二単を纏って口から吐くセリフではない気がする。


 ところがミウの色の異なる瞳がゴーグルの奥で言い様の無い輝きを見せた。それは可能だという確信に近い光だった。


「あれを使えば確かに完全な同期が取れますわね」

 みるみる明るい表情に変化していくミウの顔色がまぶしかった。


「そんなことできるの? 日高さん」

 不安を訴える柏木さんにミウはほころんだ。

「えぇ。間違いありません。できます」

 ミウは軽々と断言して俺たちには意味不明な謝辞をリーパーたちに送る。


「そうですか。それで……。皆さんありがとうございます。こんなに食料を……」


 掻い摘んで話を整理すると、イウの作戦はこうだ。

 亀裂がまだ無い過去へアストライアーを飛ばして、向こう岸まで移動してからまた現代に戻す。そうすれば確かに崖の対岸へ行ける。でもそれとこのご馳走の山はなんだ。前祝いのパーティでもするのか?


 テーブルの上の食料を見つめて首を捻っていたら、イウが鼻で笑った。

「オレたちリーパーはな、時間跳躍をしたら飢餓状態になるんだ」

「そうでごじゃるぞよ。腹が減って死にそうになるんでごじゃる」

 その顔とその口調で言わないでください、お公家様。ふきだしそうです。


「聞くところによると、あなたたちの冷蔵庫にはろくな物が無いって言うじゃない」


 昭和のおねえさんが無遠慮(ぶえんりょ)にそう言いのけ、柏木さんは『余計なことを言って』的な目でイウを見たが、頬の力を緩めて肩をすくめた。

「まぁ。冷凍食品ばかりで、学生の下宿みたいな食べ物しかないのはほんとうだもんね」


 柏木さんは恥じるような雰囲気を漂わせて、おずおずと引き下がった。そしてテーブルの上で山積みになっている具材へ目を通して、おもむろに溜め息を吐いた。

「誰が料理するの?」

 柏木さんは微妙にたじろいでいた。

 ここは一つ、あなたにはお願いしませんからご安心くださいとでも告げておいたほうがいいのだろうか。



「しかし……のぅ」

 ヒゲを擦りながら、白ヒゲのご老中がわずかに逡巡する。

「問題が二つあるんじゃ」

「何でしょう?」

「これだけ大きな機体じゃ。時間移動はできても空間移動まではできぬ」


 ミウは、あぁと同意し、イウが蛍将軍の後を継いで説明する。

「オレが詳しく調べたところ……」

「いつ調べたの?」

 柏木さんが割り込んだ。

 俺にも同じ疑問がある。イウがいなかったのはほんの十数分だけのことだ。じっくりと調べる時間は無いはずだ。

「昔から計画してたんやろか?」

「イウも未来が見えるのかな?」

 現代組が一斉に浮かべた疑問を察したイウが説明する。


「この時代を離れていたのは十数分でも実際は相当な時間が過ぎてんだ。それはな、リーパーは飛んだ次の瞬間に戻れるから経過時間が無いように感じるだけなんだ」


 その意見にミウが口を挟んだ。

「偉そうに豪語する割りにはだいぶ遅れましたわね。理由はなんですか?」

「時空震がだいぶ近いせいさ。まともにここに帰るのに揺すぶられちまって、えらい迷ったんだ」

 他のリーパーもそれぞれに肯定的な視線を交わした。


「過去へは飛べても、こっちに戻るのは難しそうですね」

 ミウは耳にかかる銀髪を払いのけ、イウも異論は無いようでうなずく。

「二つの問題のうち一つはそれだ。それから将軍がおっしゃった、空間移動ができねえ件だが、地震の影響で隆起したらしく、昔の地面は今より40センチ低いんだ。だから過去に飛んだ途端、落ちる」

 途中で言葉を区切り、一つしか無い目が柏木さんに転じられた。

「どうだろう先生? この乗り物は40センチの高さから落ちても問題ないか?」


 柏木さんは目を丸くしたが、いつからこの話を聞いていたのか、突然、ランちゃんが口を挟んだ。

『その程度の落下によるショックは問題ありません』


「ないって言ってるよ」

 Aiの言葉をオウム返しするってのは、科学者としていかがなもんだと言いたいが……。

 かと思うとまだ誰も言ってないのに、ランちゃんに尋ね直す柏木さん。


「帰りはどうすんの? 今度は40センチ地面に潜っちゃうよ」 

『左マニピュレーターを損傷していますが、数秒間程度ならボディを持ち上げることが可能です』


「数秒もいらないわよ。ね、お姉ちゃん?」と首をかしげたのは平安京で。

「1秒もいらないんじゃない?」

 パーマのお姉さんが他人事みたいに言いのけて、肉屋のオヤジもこともなげに結論を急かそうとする。

「ほんならあとはこの時代と向こうとを繋ぐ、ぐっちゃくちゃになってしもた時空道をパスファインダーはんが、拓いてくれたらええだけやがな」


「承知しました。その問題はわたしが何とかします」

 麻衣と同じ関西弁のオヤジにミウはうなずきを返し、

「心強いお言葉。感激し申したでごじゃるぅ」

 どうしてもこの場にそぐ合わない口調で返すのがタイル顔のお公家さま。


 ぷっ!

 腹の底から笑いが突き上げる。真面目な打ち合わせなのに緊張感がそぎ落とされるのだ。あそこだけがコミカル路線になるのは一体どういう理由からだろう。麻衣と麻由も互いに後ろを向いて肩を震わせていた。



「さぁ。やるんやったら()よしまひょ。肉の食べ時を逃しまっせ」

「そうね。さっさとやって、パーッと打ち上げといきましょうよ」

 誰も肉の話なんかしてないのだけど、昭和のおねえさんも気もそぞろなのがありありとしていたが、

「あぅ……」

 昭和のお姉さんが背に払った黄色い髪の毛が、お公家様のチョンマゲに絡んだ。


「ごめんあそばせ」

 お公家様は迷惑げに丸く剃りこんだ黒眉を歪めたが、これではっきりした。あのチョンマゲは本物だ。絡まったからってカツラみたいに外れることがない。互いに引っ張り合いが始まった。


「すげぇ」

 ある意味驚愕の光景だ。

 歴史上、絶対に絡み合うことの無い男女が髪の毛どうしで絡み合っている。そんなおかしな光景をミウが苦々しく見つめながら、行動を開始した。

「それでは、わたしが先に行って道を拓いて来ます。その間に各自の持ち場を決めておいてください。跳躍先の同期時間もおって知らせ」

 ます、と言う前にミウは火花が弾けるような閃光を上げて消えた。


「おほぅ。さすがパスファインダーさまじゃ。見事なまでの跳躍光であらせられるな」

 白ヒゲのお武家さまが感嘆の声を上げ、昭和のおねえさんとお公家さまも髪の毛でアーチを拵えたまま眩しい光を見つめて固まった。

「やっぱりすごいわね……」

 ポカンとしたのは平安京の妹さんだ。



 最初に我に返ったのはイウで、

「さぁみんな準備してくれ」

 後方へ指示を飛ばした。

 しかし間髪入れずにフラッシュが弾け、目映い光りの中からミウが飛び出してきた。


「さて、道はつけてきました。時間は2203年7月25日、午前9時にします。ちょうど115年と10日前です」


『その日は、噴火の当日になります』

 と告げたのはランちゃんで、ミウが銀髪のロングヘアーを手で払って応える。

「問題ありません。跳躍力の温存を考えるとギリギリのほうがいいのです。それに噴火の兆候があるため、住民はみな避難していて誰もいませんでした。これは好都合ですわ。どうですか、噴火の12時間前でも危険でしょうか?」


『噴火8時間前から群発的に地震が起きますが、この位置とこの時間からだと、差し迫った危険はありません』


「結構です。ではその時間に決めます」

 ミウは小さな口先からふうと息を吐くと、パンパンと手を叩き、

「さぁ始めます。時間同期の調整をしましょう」

 未来組の方で勝手に話が進んで行くのは仕方が無いが、柏木さん的にはどことなく腑に落ちないのだろう。ぱっと挙手をした。

「ちょっと待ってよ、日高さぁーん」

「なんですの?」

 相も変わらず上から目線のミウ。


「現代組はどうしたらいいの? これから時間跳躍の瞬間を体験できるのよ」

 かなり興奮の様子。頬が上気して薄桃色に染まっていた。ちょっと見とれてしまう面差しだ。


「現代組は向こうで実体化した時に、この乗り物が40センチほど落下して大きな衝撃が来ますので、それに神経を集中させてもらえれば結構ですわ」

「それだけ?」

「それだけです」

「なんにも無いの?」


「…………さぁ。皆さんの協力を得る時間です」

 無視した。

 ミウはぷいっと柏木さんに背を向けて、リーパーへ手を振って散らばれと命じた。


 しばらくじっとして様子を窺っていた柏木さんだったが、特に気にすることも無く、俺たちを招き寄せた。

「じゃぁ始まるから、私たちはあっちへ行ってようか。邪魔したら悪いしね」

 この人はどこかの神経が一本切れた淑女的美人を装うが、実はきっちり計算高い理科系の一面を持っている。さっさと操縦補助席へ移動すると、天井のインターフェースドームへ向かって、ミウたちには聞こえない程度の小声で囁いた。


「ランちゃん。これから起きることをタイムラプス録画とマルチスペクトラルスキャンをしてちょうだい」

『了解……』

 なぜかランちゃんまでも小声になるのが、なんともやはり人間臭い。

 俺も天井をすがめて通り、自分の席に着いてシートベルトをロックした。


 先に報告しておこう。柏木さんの計画は録画もスキャンも虚しく失敗したのだ。

 ミウの説明だと時間の流れない亜空間では光の波動もピクリともしないため、光学的な機械や電子機器は一切動かないそうだ。




 カチャリ、カチャリと、前の席からシートベルトをロックする金属音がした。

「すごくない? 115年前の九州へ飛ぶんやで」と麻由に訊くのは麻衣で。

「うん。ドキドキしてきた」

 二人は落ち着きのない様子で何度も座り直すと、再度シートベルトを確認。離陸寸前の飛行機みたいだが、飛ぶのは空ではない。時間なのだ。


 俺は緊張で張り詰める空気に耐え切れずに目をつむり、逆にはしゃぎ出したのはこの人だ。

「なんかさー、さっきから喉カラカラなのよ。お水飲みに行っちゃダメかな?」

「やめといたほうがええんちゃう?」麻衣に止められ。

「う~ん。飛ぶ前の空気を吸いにみんなのとこに行きたいのよ~」

 まるでダダをこねる子供だ。じっとしていられずにバタバタしていた。


 少ししてガウロパとイウがやって来て、跳躍が始まることを知らせると、二人は決められた位置に移動した。


 ややもして後方からミウの声が渡る。

「同期信号に合わせて跳躍します。皆さんコミュニケーターは起動していますか? カウントダウン開始します!」

 


 操縦席はガウロパとイウが陣取り、緊張した顔を向け合い、隣の研究室兼ギャレー(キッチン)の通路に昭和のおねえさん、食堂にお公家さん、その後ろ後部格納庫までの広い範囲はミウが受け持つようだ。そして階下の寝室に十二単の妹さん。機械室は肉屋のオヤジさん。電源パワー室に蛍将軍が配備されていた。


 うまくこの人数で全体をカバーできているとは思うが、マジでこんな巨体のアストライアーを115年も過去へ飛ばして、再びここへ戻すことができるのだろうか? そうなったらウェルズ爺さんも真っ青のはずだ。


「同期10秒前! ガウロパは無理せず、自身を115年前に飛ばすことだけに専念なさい」

 奥からミウの厳しい声だ。

 ガウロパは喉を上下に動かして唾を飲んだ。


「安心しな。力尽きたらオレに知らせろ。何とかしてやるから」

「大丈夫でござる。一度だけ100年を超えたことがある」

 肩の筋肉をもりっ、と膨らまして言うものの、どことなく心細そうな顔をした。


 そこへシートベルトを外した柏木さんが、たたっと駆け寄って潤んだ目で下から見上げた。

「ガウさん頑張ってね」

 何を思ったのか、跳躍の寸前にこの人は席を立ったのだ。

 驚いたイウが表情を強張らせたが手遅れだ。跳躍が始まってしまった。


「柏木……どのっ!」

 駆け寄ろうとした柏木さんにガウロパが身を捻った次の瞬間、目の前が真っ白になり、体が柔らかいゼリーみたいなものに包まれた。


 寒い夜に暖かいフカフカのフトンに包まれた時と同じ、心地よい感触が広がる。その真ん前で、目映い閃光に包まれて柏木さんがガウロパの腕にすがった状態で停止した。まるで一枚の静止画を見るようだった。


「こっちへ!」

 ガウロパが動いている。声も聞こえる。でも俺たちは身動き一つできない。ガウロパは柏木さんの華奢な両肩を大きな手で包み込んだ。


 一瞬緊張した目でイウが近づこうとしたが、すぐに穏やかになると再び持ち場に戻り、何かに集中した。


 寸刻もして、後ろから突かれたようなショックが起きて強烈な浮遊感に包まれた。

 それはほんの刹那のことで、何も考える間もなく――。


 バサバサバサ!


 アストライアーの外壁の向こうで、樹木の擦れる激しい音とともに、どんっ! と突き上げられて、俺はシートベルトで固定されたまま上下に揺さぶられた。


 ガウロパにがっしりと掴まれた柏木さんのきれいな脚が両膝から曲がり、まるでジャンプしたようにピョーンと飛んだ格好になった。しかしガウロパに上半身を持たれているため、跳ね上がったのは白衣の裾と、タイトなミニスカートのスリットの一部。ちらりとピンクの下着が。


 いきなり麻衣と麻由が後ろを振り返って、怖い目で俺を睨んだ。

「見たやろ!」

「な、なにを?」

 急いで視線を逃がす俺。麻衣はふんと鼻を鳴らしてシートベルトの金具を乱暴に外して立ち上がった。


「おっさん。いつまで抱き合っとるんや!」

「あぅ……」

 首の上からカタチのいいスキンヘッドの天辺までを真っ赤に染めて、ガウロパは柏木さんを慌てて解放。柏木さんも数十センチの高さから、とんと飛び降り喜色の面立ちをほころばせた。


「見て見て、飛んだわ。ねぇ、修一くん見てくれた。私、時間を飛んだのよー」

 いやいや――見えたのは可愛い下着だけですから、それと飛んだのではなく、ガウロパが持ち上げたところから降りただけですよ。


 その横でスキンヘッドのタコもひどく興奮した声を張り上げた。

「拙者も飛べたぞ! 一気に115年も飛べたでござる。今までの最高記録だ! これも柏木どののおかげでござる。このご恩は生涯忘れませぬぞ」

「いやいや。憶えなくていい。明日までにキレイさっぱり忘れて頂戴」

 苦笑を浮かべて平手をぶんぶん振って後退りする柏木さんを見て想起するのは、俺の網膜に焼き付いたピンクの可愛い下着……、

「げっ!」

 麻衣の怖い顔とオーバーラップ、あんど、クロスフェードで入れ替わる。


「な、なんだよ」

「べつに……」

 麻衣はキャノピーへ一目散に飛んで行った麻由に呼ばれて、そっちへ消えた。


「あれも一種の超能力だな」

 と隣からつぶやかれて、異論のない視線をイウへ振る俺だった。

  

  

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