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ゼロの支配者  作者: 雲黒斎草菜
九州編
66/109

 狂った時代考証

  

  

 紫式部を香子と呼ぶ女性はイウを熱い視線で見つめながら言う。

「せっかく煌びやかな世界で一人悦に浸っていたというのに、この無骨な男が突然現れてパスファインダーが困ってるから助けてくれと……。誰かと思ってよく見たら……あたし近眼なんですけど、ほら、メガネ掛けれないでしょ。平安時代ですから……。ま、そんことはどうでもいいんですけど。よく見たらイウじゃありませんか……だってこの人ったら……」


 やっと話の全貌が見えてきた。集まった人たちは、時間項に当てはまるリーパーをイウが探して連れて来たのだ。って、最初からミウが言っていたよな――理解遅っ、俺。


 現代組には理解し難いことだらけで、次から次へと疑問が湧いてくる。

 次のジャンクションまでご一緒に、とか言ってつけど、イウはこの人たちに何をさせるつもりなんだろう。それよりもこんなおかしな連中と俺たちやっていくのか? 


 半ば唖然となって全員を見渡す。したら白塗りのお笑いタレントみたいな男の人と目が合って一息に気落ちする。


「ムリ……気が重い。どうしよ……」


 苦渋の選択を頭の中で練り上げているあいだ、十二単(じゅうにひとえ)のおデブちゃんは機銃掃射のようにしゃべり続けていた。

「――今頃来て何よ、ってちょっと腹が立ったんですが、何せあれですわ。昔……お世話になったこともあったし、あ、あの、一緒に暮らそうって約束したこともありましたの。やっぱり情って言うんですか? 放っとくことってできないでしょ……気になりますよね? だからわたくし……」

 急にモジモジしだした平安京へ、ミウが苛立ちを抑えて訊く。

「その話、長くなりますの?」

 鼻に掛かるゴーグルの縁を押し上げて、露骨に眉をひそめた。


「あ? いえいえ。とりあえず昔なじみが困ってると聞いて、ほらこうして、お(つぼめ)さまより食料を頂いて、それ持参でやって来ましたのよ」


 十二単を纏った女性は屈託の無い無垢な微笑みを浮かべて、見たことも無い銀色の素材で拵えたリュックらしきものを持ち上げて見せた。中には根菜類の束が詰まっていた。


 古時代から来た割に、その未来的なリュックはないだろ。なんて大雑把なんだろ。


 突として黄色い声が割り込んだ。

「ちょっとぉ~。聞き捨てならないわねぇ!」

 昭和時代から来たパーマのおねえさんだ。


「あんたね。イウちゃんと暮らす約束したって、大嘘つかないでよ。この人はアタシと暮らそうって約束してんだからね!」


 平安京はすぐに反論。

「それは昔のこと。最新の時空情報では、わらわと暮らすことになっておるのじゃ」

「ウソおっしゃい。情報が間違ってるに決まってんじゃん。時空震で歪んだ似非情報よ。時間流の誤差よ誤差。ゴミみたいなもんよ」


「ちょ……ちょっと、あなたたち……」

 ミウもあいだに入って立ち塞ぐが、だんだんと二人の声が甲高くなっていく。


「キィィィ。何が誤差ですか! わらわとイウちゃんとの仲をお(ぬし)は知らぬからじゃ!」

「ふーんだ。知るわけないわ!」

 パーマの女性は赤い舌を小さな口からぺろぺろと出して挑発する。


「尻軽女の分際で、わらわにたて突くと申すか!」

「ああぁ、たて突くわよ。それよりあんたのほうこそ姉を立てなさい。妹なんでしょ!」


 え――っ! こいつら姉妹なのか!?

 こんなところでこんな状況なのに、まさか姉妹喧嘩(きょうだいげんか)が始まっていたとは気がつかなかった。片や昭和、片や平安京だ。


 息を飲む展開に愕然とした俺の前で、ぶ厚い着物姿の女性も怯まず捲し立てる。

「なによ! お姉ちゃんは昔からそうよ! 自分のことだけしか考えてないのよ」

「はぁぁ~んだ。こんな時代なのよ。自分のことで精一杯よー」

 そりゃいろんな時代もあるでしょうね。


 慌ててイウがあいだに入った。

「オマエら人前で恥ずかしい会話すんじゃない」

 イウの両脇に女性二人が互いにしがみ付き、細い身体を挟んでさらに罵りあう姉妹。こうなると時代考証崩壊寸前だ。


「この人は、わらわと一緒になるのじゃ!」

「何よ、そんなに太って、イウちゃんはスリムな身体が好みなの。アタシのボディ見てよ。完璧でしょ。平安の下膨れ、お、ん、なぁ~」


「なんですってぇぇぇぇ!」

 妹は大声を出して怒りを露にすると目を吊り上げた。


「お姉ちゃん! 未来で変な噂が立ってるの知らないでしょ。GHQの幹部で――なんて言ったっけ? 『マッサカサマー』だっけ?」


「バーカ。マッカーサーよ!」


「そうよ。そんな偉い親父と付き合うことなんて、ぜぇーったい無理だって。きっと枕営業したに違いないって噂が立ってるわよ!」

「な……なによ! そんな営業していませーん! それならあんたこそ藤原のオヤジに何かしたんでしょ。でないと、式部(しきべ)ちゃんと仲良くなれるはずがないじゃない」


 せっかく習った日本史をぶち壊す会話はやめてくれ。昭和と平安がぐちゃぐちゃになっちまったじゃないか。


「静かになさーいっ!!」

 頭痛を耐えるみたいにして額を押さえる俺の耳に、ミウの制する声が鋭く突き刺さる。


 ミウが怒りつけたところで、姉妹どうしのいざこざはそう簡単には収まらない。ついにパーマの女性はロングスカートの裾を翻して十二単の襟を鷲掴みにした。


「このぉぉ、デブが!」

「うっさい、アメリカかぶれ!」


「えぇぇぇぇぇーーーーい! やめぬかっ!!」


 激しく繰り広げる歴史をまたいでの痴話喧嘩の前へ、ずんっ、と腰に刀を差した白ヒゲの老人が仁王立ちした。

「お主ら、好いた殿方の前でそんな醜い争いをするでない。千年の恋も一瞬で冷めるわ!」

 おおぅ、古代の爺さんのクセに妙にドラマチックだ――パチパチパチ。


「このっ! 罰当たりめが!!」

 白い顎ヒゲを指に絡めた老人は取っ組み合う姉妹を一喝した。


 さすが年の功である。その滲み出る威圧感に制されて、平安時代では美人であろうふくよかな女性と、くりんくりんに丸まった昭和初期のパーマスタイルの女性が同時に口を閉じた。ゆっくりとイウの腕から手を放し、恥じ入るように一歩引き下がった。


 意外とイウはモテるんだ。

 これが俺の感想だった。


「やれやれ……」

 ヒゲの老人はそう漏らすと、呆れ返って逆に黙り込んでしまった銀髪のミウに、体を丁寧に向けて毅然たる声で自らを宣言。

「拙者は京都から参った義悠孝信(ぎゆうたかのぶ)と申す」と言ってから舌を出した。

「いやこれは失敬。向こうでの名を言うてしもうた。拙者は義悠(ぎゆう)ラダンと申す。足利義教将軍のご長男『足利義勝(あしかがよしかつ)』どのの養育係として、潜入しておったんじゃが、こやつ、イウには昔、借りがあってのぉ。まだ拙者が室町の生活に慣れんころじゃった……ずいぶん世話になったんじゃ。それがな……」

「昔話は結構です。時空震のことは知っておられたのですの?」

「ふぉっふぉっふぉぉ」

 長い白ヒゲをゴシゴシしごきながら、リーパーでなければ詐欺師か妄想癖患者決定の説明をする老人はミウの顔をマジマジと見た。


「お主。立派になられて……。ワシに見覚えはござらぬか?」


 俺は(ひざ)をぽんと打つ。リーパーたちは共通して人の話を聞かない。うん、たぶん正解だろうな。



 ミウは訝しげに老人を見上げ、老人はほくほく顔を曝すと自分の鼻先を指差した。

「ワシじゃ。時間局長の従兄弟(いとこ)でラダンでござるぞ。ほれ、3025年の4月ごろじゃったかな。お主がパスファインダー昇進の祝いをするからと、1438年の文月に駆けつけたのを覚えておらぬか?」


 よくそれだけ過去から未来までごちゃ混ぜになっていて、記憶が混乱しないもんだ。



 ミウはふっと明るい表情になり、

「よく覚えています。武士がかぶる兜に電飾を施して、向こうでは蛍将軍と呼ばれていた方ですわね」

 無茶苦茶じゃないか。


 耳を疑うことを平気でやっちまうぐらいだから、会話だって相当に軽い。

「ああ、あれな。あれは室町時代へ飛ぶ前に平成の秋葉原によってパーツを買ってったんじゃよ」

 うそだろ……。


「それはそうとミウどの。蛍ではござらんぞ。頭を光らせるから逆ボタルじゃ。ぐおぉっほっほっほ」

 逆でも表でもいいけど、電気街で買い込んだ電飾を兜なんかにつけたらヤバイだろ。歴史が変わっちまわないのか?


「意外とあの頃の人々は大らかなんじゃ。誰も詮索はせんかったぞ。逆に本物の蛍を貼り付けて真似る輩がたくさん現れたぐらいじゃからな。がぁはっはっは」


 なんか胃の辺りが痛くなってきたな。



「そうそう。これは拙者からの土産じゃ」

 と言うと、やっぱりリュックみたいなバッグから大きな鯛を二匹出して、でーんとテーブルの上に並べた。


 太っていて丸顔、プラス顎ヒゲ。釣竿こそ持っていなかったが、ほとんど恵比寿様だ。


「えべっさんや」と漏らす麻衣。

 思うことはみんなおんなじだった。



 室町時代なのに電飾の兜を被っていたと暴露された蛍将軍が最後にポツリと言った。

「時空震のことは、イウに言われるまで知らなんだ」

 老人は腰の刀をぐいっと引き抜くと、テーブルの上にドカッと置き、適当な場所に腰掛けた。


 おそらくあの日本刀は正真正銘の真剣だ。置かれた時の重々しい音はオモチャではないことを語っている。

 案の定、刀剣類に異様な盛り上がりを見せる麻由がそっと手を伸ばそうとするが、柏木さんにぺしっと叩かれてぴゅっと引っ込めた。


 その光景を笑った目で見つめて、蛍将軍はふぅと力抜き、

「ひさしぶりじゃ。こんな遠方まで来たのは……」

 目尻に疲労感を滲ませて、アストライアーの中を見渡した。




 爺さんが取った行動を合図にして、他のリーパーたちもそれぞれの時代から持ち寄った食べ物を一斉にテーブルへ並べ出した。

 なんで食い物を持ち寄って来るのか……理由は知らないが、みんな手に手にいっぱいのモノを持参していた。


「パスファインダーはん。ワテは2019年の神戸から来ましたんや……」

 訊き慣れた関西弁に思わず安堵する俺たち。その前にどんっと出されたのは、でっかい肉の塊だった。


「これはA5ランク、BMSでランク12を取った牛肉でっせ」


 ジャンパー姿の男性はいかにも商人風で、関西ならではの人当たりの良さと、底抜けに明るい口調が緊張をほぐしてくれる。

「どないでっか、2019年に最高級の称号を貰ろた神戸ビーフや。キロ1万8千円の上物を5キロやで! イウやんには、日ごろ商売の情報を貰てるからな。今日は大盤振る舞いでっせ」


 海中都市では調理済みの肉料理がほとんどで、生肉(なまにく)を使うのはテレビや映画での話だ。だけど麻衣と麻由は平気で調理する。ただしバードオブプレイの大型鳥獣さ。


「バードオブプレイ? なんでっかそれ? へ? 鶏肉(とりにく)? しょーもな。これはA5ランクでっせ。なに? 身の丈十数メートル……」

 オヤジさんは寸刻息を飲んで、

「逆に喰われまっせ! おお怖ぁ」とのたまわれた。


 バードオブプレイの玉子の話もしたほうがいいのかな。


 とにかく披露された肉塊は見るからに美味そうな色艶をしており、こんなのは食ったことは無いけど、麻衣と目を合わせたのはちょっと恥ずかしい行為かな?


 ところがミウは手を口で塞いで目を逸らした。

「血なまぐさいものは……ちょっと」

 だそうだ。もったいない。


「それよりも、あなた!」

 つとミウは目元をわずかに吊り上げた。神戸から来たおやっさんにだ。

「商売の情報とはなんです? まさか時間規則に反してませんでしょうね」と目を怒らせた。

 その前にガウロパの巨体がぬんと立ち塞がる。


 オヤジさんは「しもたぁ!」と小さな声で叫び、

「や……やってまへんでー。めっそうもおまへん。ううううう、ううん」

 唾液が飛び散るほど首を振って否定した。


 ミウはすがめて睨んでいたが、すぐに表情を緩めた。

「今日はやめておきましょう。でも後日、何かありましたら、ガウロパが出向きますので……そのつもりでいらしてください」


「お、お、お、オーケーや。なんも後ろめたいことはしてまへんで、普通の商売上での情報やからな。どこそこの街では何がよう売れるとかの情報や……。そうや、どこが時間規則に反するんねん。べっちょおまへんで(別に問題無し)」


 初めはうろたえていたが、途中から納得のいく言い訳を考え出したのか、急速に元気になるとリュックをゴソゴソ。

「せや。おねえちゃんらに土産(みやげ)があんねん」

 取り出したのはモサモサとした毛皮の切れ端にしか見えない物だ。麻衣と麻由に手を出させて上に載せた。


「これ何やの?」

 麻衣が摘み上げて、目の前でプラプラさせる。

「ラビットフットやがな」

「「ラビットフット?」」と二人同時の返答。


「せや。お守りや。イウやんから、あんたらハンターやって聞いたからな。危険なことから身を守ってくれる、不思議な力を持ったお守りや」

「へぇぇ~、そーなんや。おおきに、おっちゃん」


「それな三宮のセンター街で手に入れたんやデ」

「サンノミヤ……?」

「神戸知りまへんの?」

「あったのは知ってるけど……」とは麻由で。

「えっ!」

 オヤジさんは丸い目を剥きだして絶句。それから訊きだした。

「三宮はどこ行ったんや?」

 と言ってからミウの顔色を(うかが)う。

「ワテは過去の神戸から来てまっけど未来人や。この時代もワテからみたら過去やろ? そやさかいに訊いても時間規則に犯しまへんで」


 ミウは小さくうなずいてから、

「ただしそれを過去の神戸で漏らすと時間規則違反です」

 鋭い眼光はオヤジさんの眉間を射貫いていた。


「も……もうええわ。おねーちゃん。未来の三宮がどうなったか知らんほうが気が楽や」


 麻衣は半笑で応える。

「三宮はたぶんジャングルの中やけど神戸は健在やから安心し。ただし海の中でね。神戸沖アンダーシーランドちゅうねん」

「なんや、遊園地みたいな名前でんな……」

 オヤジさんは複雑そうな表情を浮かべ、麻衣と麻由は貰ったお土産を開封。

「早速付けよー」

「なんかカワイイね」

 背中に回したライフルとショットガンを肩から降ろすと、二人がテーブルに置いた。


「うぉぉ、ごっつ! 本物の銃や」

 麻衣たちはキーホルダーになったラビットフットをストラップに括るが、オヤジさんは銃器に目を奪われた様子。


「こんなべっぴんはん(綺麗な女子)が銃を持つやなんて……暗黒時代とは、ようゆうたもんや」

 と漏らした言葉にミウのひと睨みが入って、再びオヤジさんは小さくなった。


「す……すんまへん」





 同じリーパーどうし、またここでは滞在時代の人物として成りきる必要がない。さらにしがらみも無いようだ。彼らはフリーな時間域だと悟ったらしく、和みだし、柏木さんが珍しく(失礼……)出したお茶を飲みながら同窓会然とした騒ぎになってきた。



 昭和の姉と平安の妹はおとなしくなっていて、お互いの話をしていたが、俺はそれよりもまだひとことも声を聞いていない白塗りの男性に俄然興味がそそられた。


 その男は意外にもガウロパと知り合いのようで、自ら近寄り積極的に話しかけている。

「ガウロパさま。いかがでごじゃりましたか、戦国時代は?」

 ガウロパを『様』呼ばわりするこの白塗りの男性もへんな形に眉毛を剃っており、真っ白なタイルみたいな顔にそれは小さく黒い二つの点だった。


 笑いをこらえるのが苦痛なほどなのに、ガウロパはまじめな雰囲気で語る。

「うむ。たいそう面白き時代でござったな」

 まんざらでもなかった様子でうなずき、白塗り男性はか細い声でほろりと笑い、

「その言葉……おもしゅろうごじゃりますな」


 あんたの方が面白いぞ、と耳元で言ってやりたい。

 それよりいつの時代から来たの? その顔はメイク? 年齢は? 仕事はなに?

 質問ならいくらでも湧いてきた。


「修一さん……」

 ミウがそっと俺の袖を引いて、その場から引き離すと、

「あの白塗りは、公家(くげ)さまの……その……一種のファッションですわ」

 あまりに俺が凝視し続けるので、聞こえるギリギリの音量で横から知らせてくれた。


「ほんとうに向こうでは、あんな顔してんの? 笑わせようとしてるんだろ? 違うの?」

 ミウもさすがに首をひねる。

「さぁ? でもあの格好でここへ時間跳躍して来てますから……あれで本気なんでしょうね」


「マジかよ……」


 にしたって……だ。

 時代背景の異なる人たちを掻き集めて、イウは何を計画するのか。

 あの白塗りのお武家さまも必要なんだろうか?


 異様な光景に押し流されるようにして俺たち現代組は部屋の隅に固まって、リーパーたちの行動を眺めていた。

「あの滑稽(こっけい)な人ってなんなの?」

 科学者柏木良子さんの頭脳をもってしても意味不明ならしい。


「公家様だってミウが言ってましたよ」

 と俺が説明し、

「クゲってなんやの?」麻衣が首をかしげて、

「お侍さんじゃないの?」

 麻由もまったく同じ振る舞いをした。


 嘆息と共に(なげ)いたのは柏木さんで。

「生態系の分類ができないわ」

 変異体生物と比べてあまりにも特異な状況を前にして、三人は固まってしまった。


 そんな俺たちの前で話しは進展していく。


「ミウ……」

「なんですか?」

「ほれ、もういいぜ」

 懐疑と困惑の海に溺れる俺の向こうで、イウが片足を突き出して指さした。


「掛けろよ、アンクレットをよぉ」

 ミウは楽しげに談笑を続ける人たちを見据えて、すん、と鼻を鳴らした。

「何のことですか?」

 イウは足先を前に突き出して振って見せる。

「何をすっとぼけてるんだよ。オレの気持ちは固まった。ほら、拘束しろ」

「はぁ?」

 ミウは途中で会話を遮った。

「何を白けるようなことを……。みなさんあなたのことを慕って集まったのですよ。そんなことより、何か余興でもなさい。歌とか踊りとか……そうですわ。修一さんとコントでもされたらいかかがです?」

「ちょっと俺まで巻き込まないでくれよ。日本史を代表する皆さんの前でそんなことできるわけないだろ」

 ふふっ、と歳に似合わない大人びた笑いを浮かべると、ミウはイウと向き合った。


「さぁ。そろそろ種明かしをしてください。こんなに食料を持ち込んで大勢のリーパーを集めたのには、どんな秘策があるんです?」


 ミウの問い掛けが浸透する。時代祭りの出場控え室みたいな部屋が一瞬にして静かになった。


「いいか? よく聞けよ……」

 イウは深呼吸をしたあと、みんなの視線を集めてこう言った。


「力を合わせりゃ、飛ぶだろ?」

  

  

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