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ゼロの支配者  作者: 雲黒斎草菜
九州編
61/109

 地球の裂け目

  

  

 麻衣たちが火山性ガスの中で生息する生物の採取を始めたのだが、そのかしましいこと。ぎゃぁぎゃぁ、ぴぃぴぃ、黄色い声が操縦席前部から渡ってくる。


「あかんって。もうちょっとゆっくり動かさなぁ」

「あー、ゆっくり。ダメってまだ早い!」

「こ……これはなかなか難しいもんでござるな」

 操縦席前部にマニピュレーターの操作器具が並んだ場所がある。操縦席でガウロパが操るのは大型のアクチュエーターで、そっちは駆動装置に絡まった異物や重量のあるモノを持ち上げたりするロボットアームで、キャノピーの最前部に設置されたのは、精細なモノを(つま)み上げる小型のアームなのだ。


 それをガウロパに操作させて麻衣と麻由は皿を被った気色悪いカニを捕まえようと躍起になっている。


 手にはめた操作グローブを上下左右に移動させて、握ったり放したり、妙な舞いを披露するガウロパだが、操作方法は操縦席のモノと同じなのに、どうしてもうまくいかないらしい。

「この精密マニュピレーターは拙者の体に()うておらん。あっちの大型マニピュレーターではだめか?」

「あかんよ。相手は小さなカニや。あんなんでやったら握り潰してまうやんか」


 腕の動きや加減を増減して先端の器具に伝えるのがロボットアームなのだが、ガウロパはパワーがあり過ぎる分、アームの先がつい過剰反応してしまい、カニを摘まもうとしたのに隣の岩を持ち上げたり、的外れもいいところだ。


「ぬぬんうんぬ。ぬぉぉ。これ以上力を抜くことができぬ。こ、これは難しい仕事でござるな」

「ガウさん、もっと右よ。だめ行き過ぎたって」

 麻由がガウロパのスキンヘッドをぴしゃぴしゃひっぱ叩いて指図するが、カニの動きのほうがちょこまかと早い。


「このマニピュレーターでは無理でござる。こんな小さなものを掴むようにはできてござらん」

ガウロパはついにさじを投げ、痺れを切らした麻衣が手を出す。

「ガウのおっちゃん代わって。ウチがやる」


「がんばってよ、麻衣。あー、逃げるよ。急いで!」

 興奮しているのは相も変わらず変異体バカだけで、ミウは興味無しを貫き通して立ち上がった。

「ミウ。今から、ウチがカニを捕まえるで」

 麻衣が気勢をあげるが、

「わたしは結構です。ギャレーヘでも行ってお茶を頂いて来ます」

 やはり素っ気ない返事。


「これから面白くなるのにね」

「なあ」

 麻衣と麻由は互いに顔をそろえてひとうなずきして、

「よーっしゃ。いくでー」

 気合を入れてマニピュレーターを操作するものの、しょせんは初心者さ。とんでもないところの小石を持ち上げたりしてガウロパと大差ない。


「だめねー。あんたたち下手くそすぎ。私がやってあげるから、見てなさい」

 柏木さんが白衣の腕を捲り上げながら参加を表明。


「私はサンプル採取の腕を買われて研究所部長になれたようなものなのよ。いい? 所内一の腕を見せたげるわ」

「ほんまなん?」

 冷やっこい目で見つめる麻衣にひと笑い浮かべると、柏木さんは麻衣から取り上げたマニピュレーターの操作グローブを片手にはめた。そしてぐいっと手を前に伸ばして指を広げる。外に伸びたロボットアームが同期して動くのを確認すると麻衣に振り返った。


「どれがいいの?」

「あそこの青っぽい岩の陰に隠れた丸い形が綺麗なヤツがいい」

「これね……ほいっと」

 人の腕と同じ動きでロボットアームがさっと近づくといとも簡単に白いカニを摘み上げた。


「「すごい!」」

 麻衣と麻由は歓喜の声をあげ、

「お……おみごとでざる」

 ガウロパは尊敬の眼差しで見つめた。


 アームは折り畳まれて格納庫に入り、大きな音を上げて二重ハッチになった第一室で殺菌され、慎重に空気の入れ換えを行った後、カニは密閉容器に入れられて第二室に移った後、もう一度ケース全体の殺菌を行ってコンベアーに載せられて後部格納庫で待ちわびる麻衣たちの前に現れた。



 採取ケースに飛びつく双子の姉妹。

「名前は何ていうんやろ?」

「お父さんは『丸皿甲羅蟹(マルザラコウラガニ)』って命名してたわよ」

 部屋に戻って来る麻衣と麻由の会話を聞いて、そのまんまじゃないか、と思いつつ、込み上げる笑いを堪える俺。


 二人がキラキラした視線を注ぐガラスケースの中では、窮屈そうに手足を動かすカニが入っていた。

「元気そうや……」

「うん、よかった」

 お互い丸まった前髪を指先に絡めながら覗き込む仕草もそうだが、首の角度や指の動きまでまったく同じで、鏡に映したように同期した姿にめまいさえも覚えた。


 双子ってここまで似るものなんだ。驚きの視線で後ろから見つめる俺の視線に気付きもせず、二人は会話を続ける。

「餌は何やろね?」

 こいつら飼う気だ。


 二人の肩口からカニを覗き込み、柏木さんが穏やかに語りかける。

「このカニは教授が発見した例しかないから、あなたたちが第二発見者よ。お父さんが見逃したところが無いか、よーく観察しなさい。あれば学会に提出すればいいのよ」

「ほんまやな」

「真面目にやらなきゃね」

 丸い瞳を黒々とさせてうなずくと二人はガラスケースを大切に抱えて研究室へ歩き出した。


「地獄の生き物を車内に入れて、カビ毒汚染は心配ないのか?」

 背後から問うイウへ、二人同時に振り返った。

「安心し。ここはガーデンの外や。それから殺菌消毒済みやし、ほんでから研究室から外には出さへんよ」

「解毒剤もあるしね」

 部屋に入る二人を最後まで見守っていた柏木さんが、ふいに俺とイウへと半身を捻った。


「あなたたちにとっては、ここは地獄かもしれないけど、あの子たちにはお父さんが残してくれた大切な贈り物なの。分かってあげて……」

 白衣の腰ポケットへ両手を突っ込んで、静謐な瞳で見つめるその奥に叱責の色を見た。ようやく俺は重大なことに気付かされた。


 ここは双子にとって両親の想いが残る大切な場所なのだ。それを地獄呼ばわれはされたくないだろう。

 込み上げる罪悪感に強く自省する。

「気付いてやれず、ごめん。麻衣、麻由……」


 イウもしばらく唇に力を込めていたが、ふっと抜くとまんざらでもなく微笑んだ。

「……可愛いじゃねえか」

 優しげにうなずくと、

「ここは現代組が唯一存在しうるたった一つの世界なんだよな。いろんな時代でいろんな世界を見てきたもんだから、ちょっとひねくれてたんだ。悪りぃな、他意はない。もう二人の前では言わん。約束するぜ」


「あなた。意外にいい男ね」

 思いがけず素直に謝罪したイウに柏木さんは桜色の頬に柔らかな笑みを浮かべたが、イウは口と鼻から半分ずつ息を吹きかけると、背中を向けてまた狸寝入りに徹した。




 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆




 火山丘が遙か後ろに下がり、気温が幾分かは下がった。ついでに俺の緊張もだいぶ緩んでいた。

「糸状菌の林を見て安心するから、恐ろしいな」

 俺の独白にミウが白く艶々した顔を向けて、肯定も否定もせず、愛想笑いのような笑みを浮かべるのは、たぶん俺と同じ気分なのだろう。


 しばらく行くとアストライアーがゆっくりと停止した。カニを捕まえた場所から18キロ南へ進んだ位置だった。


『断層帯の亀裂周辺です』

 ランちゃんの案内放送みたいな報告が俺の胸をずきりと刺した。


「これがそうか……」

 誰もが目の前に横たわったモノを見て沈黙。

 火山帯を抜け、ケミカルガーデンに戻った空には再び巨大な子実体の天井が広がっていたが、ここに来てその様子が変化した。屋根が東西に長く切れて空が剥き出しになったのだ。切れ目の幅は数百メートル。つまり九州を南北に分断させた例の亀裂の前にたどり到着したわけだ。


 人の侵入を阻む大地の裂け目。ケミカルガーデンによって文明が破壊された向こう側へ渡るには、海から回り込むか空を越えないと行けない。後はランちゃんのみぞ知る68キロメートルのジグザグルートしかない。


 そんな異世界へ好んで訪問しようとする変わり者は変異体研究所の職員か俺の知るバカだけさ。ほらさっきから初めて向こうへ渡れるんだと騒いでいる。


「いよいよね。麻衣、麻由。そのときが来たんだよぉー。どうする?」

 込み上げる興奮を抑え切れずはしゃぐ柏木さんに負けないぐらいに、麻衣も声を高々に上げて言う。

「ほんまやー。なんや知らんけど、ウチもドキドキしてきたぁ」

「うーん。あたしもよー」とは麻由。


 それぞれに愉しげだが、俺には少し憤りを感じる。消沈した未来組とのギャップがありすぎるからだ。こっちはまるで思いつめたオジギソウのようにうなだれ消沈している。もちろん俺だってそうさ。アストライアーの行く手を阻むのは深さ330メートル、幅数百メートルにわたる断崖絶壁なのだ。



「さぁ、ランちゃん。あなたの腕の見せどころよ」

 柏木さんが天井のインターフェースドームに向かって決然と言い切った。いよいよである。


『了解しました』


 崖の縁で止まっていたアストライアーが静かに裂け目に沿って東へ進み出した。

 キャノピーの右側に真っ黒い口をあけた裂け目が見える。穴の底はここからでは黙視できないが、見ないほうが体にいい。


 崖っぷちは歳月の経過で角が丸くなって、各所でひびが入っており、あまり近づくと崩れてしまうのではと思われる。だから近寄って欲しくないのに、ランちゃんは平気で崖の(ふち)ギリギリを通ろうとする。


「あ……あんまり精神的によくない景観ですわね」

 震えたミウの声が俺の隣から伝わり、イウは静かに居眠りの真似。そう、こいつは寝ていない。歯を食い縛って堪える仕草が顎の動きでバレバレだ。


 ガウロパは崖側の尻を浮かして少しでも体重を左へ寄せようと躍起だが、それは何の効果も無い。でもその気持ちはよくわかる。


「ら……ランちゃんさぁ。あなたの腕はよく分かってるから、もう少し崖から離れて走ってよぉ」

 普段能天気な柏木さんもついに弱音を吐いた。数メートル右横に走る亀裂は道路の溝ではない。深さ300メートルを超す亀裂だ。肝っ玉が縮み上がるのは俺だけではない。



『それは恐怖という感情ですか?』

 意外にもランちゃんから尋ねてきた。こんなことは初めてだ。


「きょ……恐怖? バカ言わないで、怖くなんか無いわよ。でも……さ。ほら、日高さんが青い顔してるからさー」

 後ろを振り向いて平然と言う。


「なんですか。ひとをダシに使わないで頂きたいですわね」

 ミウはぷいっと顔を逸らして言い切った。

「わたしはぜんぜん怖くなんかありません」


 張りあおうとする柏木船長。

「わ……私だって怖くないわよ。なんならもうちょっとぐらい近寄ってもいい気分よ」


『わかりました』

 アストライアーがぐいっと絶壁の(へり)に近寄った。

 途端、裂け目の角が崩れていくつかの岩石が音を出して奈落の底に落ちていった。


「きゃぁぁぁぁぁ!」


 柏木さんとミウが勢いよく立ち上がり、仲良く抱き合って悲鳴を上げる。それに反応してアストライアーが崖から離れたコースへ戻った。


 麻衣も手の平に滲ませた汗を膝で拭ってから、天井のインターフェースドームに睨みを利かす。

「お……おちょくってるやろ。ランちゃん」


『緊迫した空気を和ませるテクニックです』


 ってぇぇ――っ! それって柏木さんが以前遣っていた言葉じゃないか。


「悪い冗談はよしてください。とても笑えませんわ」

「ほんとね。だんだんこの子、変わってきたわ」

 唖然とした表情を浮かべてミウと手を握り合う柏木さんだったが、俺はランちゃんがやらかした振る舞いを誰から学習したのか目星が付く。こんな悪い冗談をするのは麻衣たちしかいない。そう断言できるのは、その一番の被害者が俺だからさ。




『崖下への降り口周辺に到着しました』


 キャノピーから外を眺めて、俺は再び体を強張らせた。

 確かに斜めに降りて行く通路にも似た岩の出っ張りが見えるが……。


『ここが以前発見した底に下りる通路です』

 とランちゃんが言い、

「また冗談を言ってないよな?」

 瞬きも忘れて示された場所を凝視する俺と、

「こ、これを降りるでござるか!?」

 操縦席で立ち上がったガウロパ。


 スキンヘッドの巨漢が叫ぶのも無理はない。地の底へ向かって岩の出っ張りが作る通路の幅が、アストライアーの幅ほどしかない。つまりギリギリなのだ。


『左は垂直の壁、右は300メートル以上の深さがある断崖絶壁。素晴らしい景観をお楽しみください』

 どこまでが冗談でどこからが本気なのか、人工知能にそんなシャレた機能はあり得ないし、それよりもこんな命がけの観光ツアーはお断りしたいわけで……。

「素晴らしくなんかあるかい!」

 思わず突っ込む俺の言葉を無視して、ランちゃんは何の躊躇も無く切り立った崖から向こうへ延びた出っ張りへ、重い車体を載せようとした。

 そのとき、全員の意見が一致した。


「「「「「「「無理だって!」」」」」」」

 7名がハモった。


 無限軌道の先端が触れた刹那。出っ張っていた岩が崩れて、粉塵を上げてぱっくりと大きな穴を開けた。(おのの)き喚く俺たちの視界へ真っ黒な亀裂の奥が一気にズームアップ。


「どわぁ――っ!」


 車体の半分は崖の向こうに突き出していた。


 俺ははっきりと目の当たりにした。崩れた岩棚の破片が猛烈な速度で底なしの闇へ向かって吸い込まれて行く恐ろしい光景を。

 ガウロパが咄嗟に左のマニピュレーターを伸ばしてバランスを取り、ランちゃんは瞬時に高速逆回転でバックさせた。


 二人の連携のおかげで崩落(ほうらく)からは逃れることができたが、

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃー」

 ちびった。ちょっとだけ俺はちびった。たぶん幼稚園以来だ。



 アストライアーが大きく後退して崖から離れて停止。

 生きているのが不思議なほど心臓の鼓動が高鳴っていた。たぶんこれまでの人生の中で最高血圧を記録したと思う。


 怖いもの知らずの変異体バカも前の席で頭から湯気を出してぶっ倒れていたし、隣でミウが固く目をつむり、何かうわごとみたいな言葉を唱えて細い指を絡めあって震わせているし、それなりにパニくったようだ。


「間一髪でござる! 危なく一緒に落ちるところでござったぁ」

 オーバーアクション気味に大きな手でスキンヘッドの汗を拭って、ガウロパが座席の上で一気に力を抜いた。


「これもラン助どのの冗談でござるか? ちとやりすぎではござらぬか?」


『謝罪します。通路が劣化を起こしています。通行不可能と判断します』

 この期に及んでも平坦な声で淡々と述べるランちゃんが信じられなかった。


 死の一歩手前で目の当たりにした恐怖と、そこからかろうじて生還できた喜びとが混ぜ合わされた結果、腰が抜けてグタグタになった俺の前では、少し焦り気味の柏木さんが秀麗な眉を寄せてミウに喰いついていた。

「日高さんさー。未来のナビゲートはどうしたの? 時空震に近くなると先のことが分からないの?」


 ミウは小さな唇を尖らせる。

「私は予言者ではありません。ゴーグルを常に外していられませんし……」

「だってナビゲートしてくれるって」


 グイグイ迫る柏木さんだが、こっちも負けていない。

「異なる時間の流れを感じることはできます。ですが正しく流れているウチは手の出しようがありません」

「ということは……」

「そうです。落ちそうになるが落ちなかった……が正しい流れだったのです。ランさんとガウロパの機転に感謝すべきですわね」


「そっかぁ……正しい時間の流れなら察知できないのね」

 と言ってから、何かに気付いた小動物みたいに顔を上げた。


「それって何の役にも立たないじゃない」

 ミウは何も言わず肩をすくめて見せただけだった。



 気を取り直して柏木船長が訊く。

「ランちゃん。他に道は無いの?」


『ありません』

 乾いた返事だった。


「どうしようか……」

 白衣の前で腕を組んだ柏木さんは、座席に身を任せて疲れた吐息をした。顔色もずいぶん暗い。

 この人はランちゃん頼りだから、肝心のランちゃんがお手上げだと宣言したのだから、どうしようもない。


「海を渡るってのは?」と麻由。

 柏木さんは虚しく首を振る。

「船じゃないから浮かばないわ」

 そりゃそうだ。そう都合よくいくワケがない。


「空だって飛べないし」

 悲しそうにつぶやく柏木さんに、ガウロパが提言する。

「でも崩れた規模がたいしたことが無ければ、通路を拵える、あるは修繕すれば通れるかも知れないでござるぞ」


「そうよね。崩れた先がどうなっているかで答えが変わるわね」


 しばらく思案に暮れていたが、やにわに笑顔を戻した。瞬く間に、世界の国々が抱える難問を独りで解決したみたいにすっきりした表情を浮かべて、柏木さんが宣言。


「今日はここでまでよ。明日の朝一番に外の状況を確認してから予定を考えましょう」

 決断力は誰にも負けない。




 一点の迷いもなくそう言い切る柏木さんの勢いに飲まれて、何か言おうとしたミウも黙り込んだ。

 この人の雰囲気に呑み込まれない人がいたら知らせてほしい。粗品を進呈したいところだ。


「さぁ、そうと決まったら、夕ご飯よ。麻衣、麻由、頼むわね。私はシャワー浴びてくる」

 唖然とする俺たちを尻目に、白衣を旋回させて柏木さんは階下に降りて行った。なんともいえない芳しい残り香が渦を巻く空間だけが取り残されていた。


 ああ、いい匂いだ。深呼吸しておこう。



 嵐が去った後の気だるい空気がしばらく続き、やっと双子が息を吹き返した。

「ほな、麻由。準備しよか……」


「ではラン助どの。店じまいじゃ。エンジンを止めてくれ」

 ガウロパはランちゃんに停車の命令を告げて操縦席から降りた。


「今日はひどく疲れたでござるよ……」

 体力の化け物と言えるガウロパを疲れさせたんだ。俺だけが疲れたのではないことを知って、なんとなく安堵する。


 ミウはゴーグルの奥から赤と青の双眸を光らせて床に直接正座をすると上目に天井を見つめた。これは何かを考え込んむときのミウの仕草なのだ。


 やっぱり何か起きるのかもしれない。柏木さんには言えない何かが。

「不安だ……」

 目の前で道も無くなったことだし、旅はここで断念して帰ったほう良さげに思うが。


 次の日の昼過ぎには、俺の願いは虚しく夢と消え去ることとなる。

 あーめん。

  

  

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