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ゼロの支配者  作者: 雲黒斎草菜
九州編
52/109

 時感旅行

  

  

「宿題……ですか?」

 朝食もほぼ終盤、それぞれに好みの飲み物を傾ける頃合いで、ミウは自分の飲んでいたホットミルクの器をことりと置いて、薄桃色の顔を上げた。

「意外やな……」

 話を聞いていた麻衣がつぶやき。

「今日大きなスコールが起きるんじゃない」と麻由だ。

 どいつもこいつも腹立たしいセリフを並べやがって。


「ばかやろー。俺たちは高校生なんだ。夏休みの宿題をこなすのが学生の義務だ。お前らみたいに朝から晩までショットガンをぶっ放しているのとはワケがちがう」

「アホか。必要に迫られへん限り撃ってへんわ。それに、」

「宿題なんかもうほとんど終わってるわよ」

 途中で麻由が遮った。

「さいですか……」

 エラそうに言うんじゃなかった。


「まぁ。いいでしょう、わたしが取って来て差し上げます。喧嘩はやめてください」

 それでは村上に自慢できない。


「実はさ。俺も連れてってほしいんだ」

「えっ!」

 珍しくミウが固まった。


「いや、しかし一般の方を過去へ連れて行くことはできません」

「そこを何とかお願いしたいんだ。こんな経験めったにないだろ。過去に戻れるんだぜ」


「しかしですね……」

 かたくなに断る時の対処方法はイウから聞いている。パスファインダーはプライドが高いから少し見下した口調で絡むと、必ず突っかかって来ると。


「一般人を連れてミウなら時間を飛べるって言ってたけど……。ははーん、実際は飛べないんだな」


「お言葉を返すようですが……」

 イウの言うとおりだ。案の定ミウは熱くなり、グリーンのショートパンツの前を平手でパンとはたいた。


「時空震の壁に衝突したショックも完治しておりますし、超視力抑制ゴーグルも手元に戻ったわたくしは百人力です。修一さまの一人二人、いえ、四人でも五人でも連れて飛んで差し上げます」

 ガウロパがうなずくところを視るとウソは言っていないようだ。


「俺一人でいいんだ。だから楽勝だろ?」

「で……ですが……」

 まだ首を縦に振らない。しかもよく分からないことを言う。


「まんがいち過去の自分と出会ってしまったら、あなたの命は無いものとなりますわよ。麻衣さんや麻由さんの前から消滅することもあります」

「おいおい。怖いことを言うなよ。何で過去の俺と出会ったら俺が消えるんだよ」


「感情サージと言うものが起きます」

 ガウロパが大きくなずき、イウはニタリニタリといやらしい笑みを浮かべて、会話に参入するチャンスを狙っている。


「感情サージってなんだよ。これか?」

「そりゃぁ、スプーンだ。サジじゃねえよ。サージだ」

 楽しげに割り込んだイウがミウに代わって説明を始めた。


「過去の自分と出会った時を想像してみろよ」

「鏡を見たようなもんだろ?」

「鏡はたんなる光の反射だ。それとは全然違うだろ。いいか過去の自分になった気で想像するんだぜ。いきなり目の前に未来の自分が現れるんだ。お前ならどう思う?」


「そりゃぁビックリ仰天だろうな。未来の俺が目の前に現れるなんてことあり得ないからな」

「だろ? すると驚いた感情が記憶となって未来の自分に伝播(でんぱ)するだろ、そうすっと未来のほうの脳ミソにいきなり、あの時に吃驚したていう記憶が泡みたいに突出するから、やっぱり未来のお前も驚く。したら、その感情がまた過去の自分に伝播し、またまたそれが未来に伝わる。これを繰り返して脳ミソが沸騰すんだよ。マジな話な」


 本当にそうなるかどうかやってみないと解らないが、理屈はそうかもしれない。


「この現象は時間域の異なる同一人物、つまり異時間同一体が出会った時に起きます。この場合、互いの時間差が大きいと周りに起こす影響も大きくなります。一人だけの被害では収まらず、麻衣さんや麻由さんの未来にまで深く強く影響がおよび、最悪の場合、日本の未来まで変わってしまうかも知れません」


「マジかよ……日本の未来ってそりゃ大袈裟だろ?」

「そんなことわかりませんよ。たとえば難病治療に効果のある薬を発見する人物が、その影響で生まれなくなったら、日本が病魔に侵され何千人と死ぬかもしれません」


「怖ぇえな」

「なるほど。そういうこともあり得るわねぇ」

 途中から柏木さんも参加。腕を組んで大きくうなずき、ミウはそちらにも視線を振る。

「そうです感情サージは一種の時空震で、とても危険な現象の一つなのです」

 と話を閉じようとしたが、イウが楽しげに鼻の穴を膨らませた。


「だけどな……」


 そこへパッと目を広げた柏木さんが再度乱入。

「会わなきゃいいのよー」

「そ。そうだ……」

 横から答えをかっさらって行った柏木さんをイウは迷惑げな目で見つめ、ミウは黙り込む。

 たぶん返す言葉を失ったのだろう。


「そうか。宿題を取りに行く日を熊本に来た当日、つまり麻衣たちと水を汲みに行ったあの日の午後にしたら俺たちは麻衣の屋敷にいた。つまり俺の部屋には俺はいない。だから過去の俺に出会うことは無い。その理屈であってるよな?」


「そういうこった」とイウが言い、ミウが噛みつく。

「どうしてあなたはわざとかき混ぜようとするのですか」

「こんなチャンスはめったにねえんだ。修一にも時間移動の経験を積ませたほうが、これから先、時空震の渦に入った時に慌てなくていいじゃねえか」

 イウの主張が的を射ていたようでミウは黙り込み、代わって柏木さんが見開いた丸い目を(まばた)かせた。

「あれ? このあいだ水汲みで峠越えする時、この二人が同じ時間にもう一組現れて異時間同一体の実演をしてくれたわよ」

「ええっ!」

 批難(ひなん)めいた光をゴーグルの奥から放って、ミウは二人を睨め上げた。

 そしてつぶやく。

「なんて無茶なことを……」

 大きな肩をすくめたのはガウロパで。筋肉がモリっと動いた。

「じ……実はリーパーの説明を手短にするために……仕方なしで実行した次第で……」


「ったく、危ないことをして」

 ミウは叱責色の濃い溜め息一つ落とすと俺と柏木さんに説明。


「リーパーは頻繁に時間を行き来しますので、たまに過去の自分や未来の自分と出会いそうになることがあります。そんな時は徹底して相手を無視します。存在を認めた瞬間感情サージが発生しますので、そうならないように普段から訓練しています。だからと言って危険は危険なのです」


 柏木さんは綺麗な顎をコクンと落とし、

「だからあのときあなたたち目を合わそうとしなかったのね…。ふーん。そっかー」

 そうだっけ? そんな細かいところまで観察するなんてさすが科学者だな。

 変なところで感心させられたが、なんだか話が逸れてきている。


「俺は地上にある麻衣たちの家でお前ら未来組と一緒にいるんだ。だから俺の部屋には俺がいない。たかが宿題を取りに行くだけじゃないか。そんなに難しい事じゃないだろ?」

「まぁ。そうですけど……確実な時間帯って覚えておられます?」


「俺の携帯に通話記録がある」

 ポケットをからフィルムフォンを取り出して開いて見る。


「ほら、2日前の7月31日。午後1時33分ってなってる。この時間の後ならお袋も電話に出てるし、俺の部屋には誰もいない」

「確かに問題ありませんね」

 俺の粘り勝ちだ。ミウは渋々うなずいた。


「よし、連れてってくれ」

「あー、いいんだぁ」

 柏木さんんが駄々をこねる子供にも似た声を上げた。


「修一くんだけが、時間旅行を経験できるんだー」

「いや。ちょっと物を取りに行くだけですよ。それも2日前の午後ですし」

「でもその瞬間、場所は違っても、あなたが二人存在することになるのよ。どんな風に感じるのかな? あ? ねえ? これって時間じゃなくて時感ね。あは。時感旅行なのよ。ああぁ。なんだか素敵ねぇ……」

 胸元で手を握り締めて夢を見るような柏木さんの視線は、俺から離れてどこか遠くを彷徨っていた。


 チャンス到来だ。俺はミウに耳打ちをする。

「目をつむってる今のうちだ。さっさと連れてってくれ」

 ミウは急いで白い顎を前後させると、俺の腕を取った。


 瞬間、目の前が真っ白になった。ほんの短い時間だが柔らかい物に包まれた感触が通り過ぎた。

「はっ!?」

 気づくと自分の部屋に立っていた。それは瞬きほどの時間だった。


 目の前にあったのは自分の勉強机、洋服ダンス。見慣れた窓にアイドルのポスター。丸ごとすべてが俺の部屋だ。1秒前は九州のジャングルだったのに。


 遅れて目まいが襲った。膝から崩れそうになって小さなミウの体にすがりついた。

「目まいは船酔いみたいなものです。すぐに収まります」

「お前は大丈夫なのか?」

「慣れですね」

 と答え、ミウは掛けていた超視力抑制のゴーグルを外した。

「なんで取るんだよ?」

「この先のお母上さまの行動を視るためです。いきなりここに入られたら、いくらなんでも言い訳できません。あなたはここにいないんですから」


 そういうことだな……理屈では解っても実感がわかない。何せ、2日前の自分の部屋なんだ。何の違和感も無いが、確かにこの同じ時間に俺は麻衣たちの屋敷にいた。脳にはそう記憶があり、まさかここに未来の俺が来ていることなど微塵も思ってないはずだ。いや。思っていなかった。これって他人事じゃないんだ。


 ミウは俺の部屋のど真ん中で、キョロキョロと見渡して感心した風に言う。

「意外と綺麗にされてるんですわね」

「当たり前さ。俺は綺麗好きだからな」

「麻衣さんたちとはだいぶ……」

 と言いかけて、ミウはぱっと両手で口を押さえた。


「あいつらの部屋は汚いのか?」

 ミウは笑った目をしたまま、大きく銀髪を左右に振って見せたがもう遅い。よしあいつらの弱みをゲットだ。これをネタに言うことを利かせてやろう。


「修一さま。あまり時間がありません。早く荷物をまとめてください」

「着替えも持ってっていいか?」

「別にかまいませんよ、修一さまのご自由にしてください」

「あのな、ミウ」

「はい?」

 長い銀髪をなびかせて可愛い顔を俺へと寄せた。


「お前も麻衣たちみたいに、俺のことを呼び捨てにしていいんだぞ。『修一さま』って、仰々しいぜ。もう仲間なんだからな」


「で、でも……」

 しばらくモジモジしていたが、

「ではお言葉に甘えて……。しゅ、修一」

 言った途端に目元を赤らめて恥ずかしそうに視線を下げた。もじもじとグリーンのショートパンツの上で指を絡めて言う。

「だ……ダメです。わたしにはできません。麻衣さんや麻由さんが黙っていませんから」

「なんで? 関係ないぜ。何か言って来たら、文句言ってやるから安心しろよ」


「あなたと麻衣さんとの関係に、わたしが入るのは時間規則に反します。お申し出は感謝しますが……やはりやめておきます。修一さま」


「え?」

 ミウの意味ありげな言葉に俺は引っかかった。

「俺と麻衣との仲が未来に影響するのか?」

「…………」

 ミウは無言で目を逸らした。今の振る舞いは何かを知っている。きっと俺たちが未来で重要なことをやらかすんだ。それを実行させないと未来が変わってしまうほど重要なことだ。


 それを問いただすのはとんでもなく怖いことだと悟った。未来は知らないほうがいい。何も知らない本人が切り拓くから未来がやって来る、柏木さんがミウの前で断言したのを聞いたことがある。そうさ未来を知ると必ず逸れる。そして異なる未来が訪れる。


「わかったよ。お前の気の済むようにしな」

 ミウは宝石にも見えるほどの色の異なる瞳で俺をじっと見つめてこう言った。


「修一さん……」


 見る間に頬を赤らめるものの。自分で納得してうなずき、

「これからはそう呼ばせていただきます」

 瑞々しい頬にえくぼを作って微笑む面立ちが天使に見えた。


 とその時だ。ダイニングの方で電話の呼び出し音が鳴った。

 パタパタとスリッパで駆け寄る気配は耳に沁みついた普段の音でまったく違和感が無く自然に耳に入ってきた。


 だがミウが緊迫する。

「見つかる前に戻ります。さ、はやく宿題を探してください」

 そらそうだ。俺は電話の向こうにいるのだ。こんなところにいてはいけない。


 そしていつもの聞き慣れたお袋の声が誰もいない家の中を渡って来る。

「はい、山河(さんが)です……あれ? 麻衣ちゃん。どうしたの?」


 電話の相手は間違いなく麻衣だ。そう確信すると同時に俺の腕が総毛立った。電話口の向こうに俺がいる。

「な……なんだこの波動?」

 現在の状況を想像して興奮したのではない。不気味で小刻みな波動が全身を包んでいくのだ。粟立つ感触が波を打って広がるのを感じる。

「それは重複存在現象です」

 ミウが俺の腕の辺りへ視線を当ててそう言った。


「重複?」

「距離を隔てていますのでそれほどでもありませんが。近くなるほどに激しくなります」


「こそば痒くて変な感じだな」

「感情サージもありませんのでまだ笑っていられますが、ひどくなると発狂するらしいですよ」


「そう。いいわ。思いっきりこき使ってやって。サボりそうになったらケツでも引っ叩いてやって、麻衣ちゃん」

 お袋の会話は俺の記憶と一字一句違わない。耳の奥がジンジンするのは記憶の声と重なってまるでエコーが掛かった感じだからだ。


「修一さん、まだですか。母上さまに見つかったら後が面倒になります」

 急いで宿題のタブレットと着替えをかき集める。


「ふたりとも、修一をお手柔らかに頼むわね。こんどこそね。フレーフレー、修ぅうぅ」

 何度聞いても恥ずいことを口走ってるよな。


「あんた! 今度こそ答えを出して帰ってくんだよ。麻衣ちゃんか、麻由ちゃんか……」


 まずい。このあと俺が無理やり切るんだ。


「あっ、修一!」


 切りやがった。ここから先のことはもう分からない。

「早く……」

 ミウが急がせるので余計に手元が震える。重ねた着替えが崩れて部屋に広がってしまった。慌ててミウも手伝いひと塊にする、ちょうどそこへ扉が開いた。


「修一?」

 部屋に入って来たお袋と目が合った。次の刹那、頭が真っ白になった。




「うぉぉっと!」

 いきなり後ろから蹴り倒されたかと思うほどの衝撃を受けた俺は、前へつまずき二歩ほどトントンと進んで体勢を整え、ミウも同じ仕草でつんのめった。

 実際に飛んでみて実感した。これは時空間の繋ぎ目を乗り越えるときの勢いが強いからだ。ガウロパたちには起きない現象なのでミウの能力がいかに高いかを妙実に表している。



 遅れて襲ってくる目まいと吐き気に耐える俺の前で、柏木さんと麻衣が向き合った状態で、顔だけをこちらに向けて固まっていた。

 二人はスローモーションでちっちゃな口を開ける。

「えぇぇー。もう行っちゃってたの?」

 残念そうな柏木さんの声と、口の先を尖らせた麻衣がぶー垂れる。

「なんやミウ。ウチも行きたかったのにー」


「俺の部屋なんか何も無いですよ」

 と言いわけする俺へ、年甲斐もなくすねて見せるのは柏木さんだ。


「私は別にあなたの部屋に行きたかったのじゃないもの。時間航行を科学者として経験したかったのよぉ」

 まあまあ、となだめつつ俺はさっきのことを報告する。


「それよりちょっとまずいことになったんだ」

「どしたん?」

 興味ありげに顔を覗き込んでくる麻衣へ伝える。


「戻る寸前、お袋に見つかった」

「ヤバイんちゃうの?」

 意外にもミウは、涼しい顔で言った。

「訊かれても、すっとぼければいいんですよ」


「きゃっはー。おんもしろそう」


 柏木さん。あなたはお祭りが好きでしょうね。

「どして知ってるの?」


 思わず眉間を摘まんだ俺へと柏木さんは無邪気な眼差しをくれ、再び口先を平たくしてぷりぷり頬を膨らます。

「ちぇぇー。そこに私がいたらいろいろ実験したかったのにぃぃ。いいなぁ。修一くん、いいなぁぁ」

「いつかチャンスを作りますから。ここはご辛抱ください」

「いやだぁー」

 促すミウに肩を揺すって見せるなんて、麻衣でもしませんよ。柏木さん。


「いいなぁー」

 まだ身体をくねくねする。


「……もう、そんなに拗ねないで、あなた年いくつですか? 私たちより上でしょ。いいかげんになさい!」

 見せられているほうが恥ずかしい。


 柏木さんは黒髪を頬に垂らしながら下を向いて、まだブチブチ言っていたが、そのうち諦めたのか、

「ふんだ。いいなぁ。二人して仲良くお出かけしてぇ!」

 と誤解を生みそうなセリフを残して操縦席へ消えた。


「な、仲良くって。修一さんとわたしはそんな関係じゃございません」

 アストライアーの先端へ向かって鼻の頭にシワを寄せるミウ。

「さん?」

 俺を呼ぶ口調が変化したのに気付いた麻衣が、ギロリと睨みを利かせた。

「ほぉぉ。何か進展があったんやね?」

「な、なんだ、その目は」

 俺を上目遣いに、足の先から頭の先までじっくりと視線を這わせる麻衣。


「『さま』じゃないんだぁ」

 麻由も指をポキポキ折り、半ば脅迫めいた仕草で胸を突っ張らせた。


「お……お前らビーストと並みの威嚇しやがるな。な、なんだ。別にいいじゃないか。『さん』で。俺たちは仲間だ」

 ここでオタオタすると喉元を喰らいついてくる可能性がある。相手がビーストならな。

 とりあえずここはミウに消えてもらう。後ろ手でミウを追い払い、彼女も危険を察知。柏木さんの後を追った。


「なんで、そんな怖い顔すんだよ」

「向こうで何があったん?」

 麻衣は鋭い視線で俺の眉間を狙い撃ち。

「何か怪しいんだぁ」

 詰め寄る麻由。

「ない、ない。なにも無い。ただ、ミウだけがここで浮いてるだろ。お前らと同じぐらいの年齢なのに俺に対して『さま』は他人行儀だろ。だから呼び捨てにしてもいいんだぞって、言ってやったんだ。そしたら、あいつはお前たちに遠慮して『さん』付けにしたんだ。結構あいつなりに気を使ってんだぞ。その辺を察してやれよ」


 俺と麻衣の関係が時間規則だと言ったミウの言葉は心の奥にしまっておく。教えてしまって、妙に意識されても困る。


「べ、別に……ウチらヤキモチを焼いてんのとちゃうで、な、なんと言うか……な?」

「う……うん。別に修一なんか、なんとも思ってないしぃ」

「だったら。早く食事の準備に戻れよ。どんどん出発が遅くなるだろ」


「そんなん、あんたに言われんでもわかってるワ!」


 ギャレーに戻る二人の後ろ姿はまるで亡霊のようだ。後ろ姿を見て再びミウのセリフが甦った。

 俺と麻衣の関係が時間規則? ならば麻由はどこへ行った?

 麻由は俺のことを何とも思っていないのか?

 それはそれでなんだか寂しい話ではあるな。

  

  

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