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ゼロの支配者  作者: 雲黒斎草菜
九州編
50/109

 グランドワーム

  

  

「さて。どーしよっか」

「何か手は無いんですか?」

 焦燥感剥き出しで迫る俺へ、柏木さんは嫣然と微笑む。

「落ち着きなさいって、そのうち名案が浮かぶから」


「どうしてそんなに落ち着いていられるのです!」

 ミウだって俺と同じ気配を前面に押し出して白衣の美女に迫っている。


 能天気なのか、のんびり屋なのか柏木さんはニコニコするだけ。

 焦ったミウはとんでもないことを言い出した。


「ガウロパ! 時間警察の威信にかけてあの獣を追い払いなさい!」

 胸を張って外を指差すミウへガウロパは頭を下げた。

「はっ! ではライフルとカートリッジをお借りできませぬか?」

「戦国時代にライフルは無いでしょ?」と訊くのは柏木さんで、

「あ、いや。拙者は未来警察でござる。斧と棍棒から日本刀、続いてライフルからフェーザーガン、光子魚雷まで何でもござれです」

 銃器の進化過程を聞いてるんじゃないって。


「ぐわ――っ!」

 唐突に状況が反転した。

 ミウがどこまで本気で命じたのか、ガウロパがどこまで本気でブラックビーストと対峙しようとしたのか確認することができなくなることとなった。


 予想だにしなかった横からの衝撃だった。

「だあああー」

 叫びながらイウが吹っ飛び、

「どわぁーっ!」

 俺もいきなり横っ腹を蹴り倒されたみたいなショックを受けて側面の壁に激突した。


 ショックは一度だったが、腹を揺るがす低い波動は収まらず、やがて大きな地響きと変化する。


「えっ! え? え、なに?」


 室内が大きく傾き始めた。通常では考えられない方向へ傾いて行く。

「何が起きてんだっ!」

 機内の隅で丸められた紙屑みたいに転がっていたイウが、何とか立ちあがり大きく傾く床を滑りつつ側壁にあるフレームバーにしがみついた。


 続いて響くランちゃんの報告。

『警告! ボディに最大許容値に迫る圧力がかかっています』


 ここにきてやっと柏木さんが大声を上げた。

「ランちゃん、現状報告!」


 緊迫した状況にはそぐわない甘声が続く。

『巨大な生物がボディに寄り添っています。圧力急上昇中』


 一旦収まっていた室内の傾斜が再び増してきた。


「ギギギギギー」

 不気味な軋み音を上げて床が信じられない角度になり、平衡感覚を失い思考が混乱。

「おい、なんだ? どうした! な、なんか変だぞ?」

 あっちでイウが喚くが、俺だって何がなんだか解らない。


 意味不明の状態に慄く室内が急激に暗くなった。硬質ガラスで覆われたキャノピーに黒い大きな影が覆い被さったのだ。


「うげぇぇぇぇ! なんだこりゃ!」

 操縦席が暗闇に包まれた次の寸刻後、まるでシェイカーだ。今度は逆方向に振り回された。


「痛ぇぇぇぇー!」

 首が引き千切れるかと思うほどの逆加速の衝撃を受けて、反対の壁に激突。目の前が暗くるその短い時間に、俺はキャノピーの外で展開された信じられない全貌を見た。


「んっげぇー!」

 さっきから叫んでばっか。でも仕方が無い、それは褐色の巨大な壁だった。いや正確に言うと壁ではない。とてつもなく気味の悪い体液に包まれた生物の皮膚だ。体毛はまったく無く、褐色よりも肌色に近い表面をブヨブヨと波打たせて大量の粘液を滴らせている。それが蠕動するたびにガラス面に嘔吐を誘う虹色の模様を描く。それはそれはただひたすら、きしょい。


「こ……これはなんですか!?」

 ミウは圧倒される大きさに驚いてまったく動けない。色の異なるバイアイの目を見張るばかり。


「これが……あれか! あの……それ」

「地獄の一丁目だ!」

 イウは頭を抱えてダンゴムシみたいに床の上で丸まり、俺は言いたいことの半分も言葉にならないほどに慌てていた。


「きゃぁわーん。麻由! グランドワームのご登場やー!」

 黄色い歓喜の声をあげたのは麻衣で、

「うんきゃー。粘液すっごーい」

 子供みたいな声をあげたのは麻由ではなくて、柏木さんだった。

「…………っ!」

 麻由は好奇に煌く黒い瞳をぱっと広げ、カマ首をもたげ始めた気色悪い巨大な肉の塊を凝視。その瞳は爛々としており、ショーケースの中に並ぶ宝石を見つめる眼差しそのものだ。


「お……お前ら反応がおかしい! アイドルを前にして狂喜乱舞するファンと同じ目をしてっぞ!」


 変異体バカに喰いついてやろうとした直前、

「わ、わ、わ、わ、わーっ!」

 キャノピーから光が射し込んで来た。つられて視線を滑らして気を失いそうになる。

 ミミズは巻きつけたボディをゆっくりと引き剥がし、粘液の糸を垂らしながら空高く延びていくところだった。


 先っちょは蛇の頭みたいに丸みを帯びているが、目や鼻どころか突起物がまったく無くてのっぺりした先端に蠢く繊毛(せんもう)がぎっしりと生えた、これまで見てきた生物の中でもっとも気持ち悪く進化した生き物だ。


「ああ。生きててよかった」と麻由が唱え。

「完璧なグランドワームの成虫や! やっと逢えたわぁ」

 平気でブラックビーストへショットガン撃ち込む麻衣が恍惚と変化していく。


「ランちゃん! 生態観察と実写の撮影怠らないでよ」

『承知しています。レントゲン撮影もしますか?』

「もちよー。消化器官が気になるのよー」

 俺はあなたたちの脳神経細胞を見てみたいです。



 巻きついてきたグランドワームはアストライアーより太いのに、動きはしなやかで、大きく体をくねらせてボタボタと粘っこい液体を滴らせる。その色と言い、糸を引く粘液と言い、触らずして背中を寒い物が突っ走る感触は生涯忘れないだろう。


 そんな光景を俺と未来組が正常な精神状態で観ていられるわけがない。ピンクに色付くミウの頬っぺたが、色を失い青白くさえ見える。

「き……気分がすぐれません……」

 手で口を覆い、嗚咽を堪えてキャノピーから顔を逸らした。


 そうなるとこっちにも感染する。

「うっ。ぐげっ。リバースしそう……」

 生々しく蠢く肌色の肉塊と滴る粘液を見つめていたら苦い胃液が込み上げてきた。本気でやばくなりそうな気配を感じたので、俺も目を逸らした。


 みたびアストライアーがシェイクされた。室内が激しく揺れて、

「どがぁぁぁぁぁぁぁぁー」

 めったに怯まないガウロパが操縦席で雄叫びをあげた。

 透明で粘度の高い体液をぼたぼたとアストライアーの表面に垂らせて巨大ミミズが大きく身体を仰け反らした。


 その迫力はもの凄まじく、龍のごとく空高く体をうねらせると、地面の上で咆哮をあげるブラックビーストの群れのど真ん中目掛けて、まるでムチでも打つかのように自分のボディを勢いよく振り落とした。


 大地震が起きたに等しい地響きを立てて、ビーストもろともたくさんの樹木が吹っ飛んだ。それでも残ったビーストがミミズを襲う。鋭く尖った牙を剥きだして肌色のゴムにも似た表面に食らいついた。その行為が――あるのかないのかは知らないが――ミミズの脳にカチンと来たんだろう、アストライアーを巻き付けてもまだ有り余る尻尾――尻尾とは言わないがそう表現するしかない――先端までシャープに細くなった長い胴体が怒りに任せて暴れ狂う。猛烈な風をともなって宙を飛び、地上スレスレを水平に薙ぎ払った。


 サーモバリックの数倍はある爆風がジャングルを駆け抜けた。もうもうたる砂煙と引き千切れた樹木の残骸が辺りに飛び散ったところまでは視界に入っていたが、さらなる変化が起きて、俺たちはミミズとビーストの観戦どころではなくなった。


 不意に強い引力を感じたかと思うと身体が浮遊した。

「うおっ! アストライアーを持ち上げたぞ! みんな何かにつかまるでござるぅ!」


 勢いよく回転して持ち上げられる感覚が室内に伝わり、俺たちは悲鳴をあげて座席に飛びついた。



「早くシートベルトを……」

 柏木さんの喚起に従って、俺たちは急いでベルトを締めた。


 いくらアストライアーが頑丈だといっても、この高さから地面に叩き落とされたら、おそらく真っ二つに折れるかひしゃげてしまう。そうなったら駆動輪に異物どころの騒ぎではない。命そのものが危ぶまれるのだ。一難去ってまた一難。俺は目を固くつむって最悪の事態を想像した。



 少時もして、機内が静寂の底に沈んでいることに気付いた。

「どうしたんだ……?」

 薄目を開けて息を飲む。

「うわわわわぁっ!

 我が目を疑う光景がそこにあった。


 天と地が90度回転していた。ガウロパの操縦席が真上に見える。


「アストライアーが縦になってるぜ」

 イウの絶叫がこだまし、

「どうりで背中が座席に抑えつけられると思ったのよー」

 この期に及んでまだ能天気な物の言いを続けられるとは。もう神様級の極楽トンボだな柏木さんは。


 ミミズに投げ飛ばされるという最悪の事態からは逃れたようだが、グランドワームは大事なモノを包み込んだつもりなのか、アストライアーに柔らかい胴体を巻きつけ、そのままトグロの中心へ押し込んでしまった。おかげで俺たちはキャノピーを上にしてほぼ垂直状態だ。


 クルーザー級のボディを誇るアストライアーを巻きつけてしまうグランドワームがどれほどの大きさなのか、外に出て見なくても察しがつく

 こんなのが暴れたのだから、外のブラックビーストは一匹も残っていないはずだ。


「み……みなさん無事でござるか?」

 ガウロパの問い掛けに身体を動かすメンバーだが、うかつなことができない。垂直に立ち上がった室内はとんでもなく恐ろしい光景だ。

 操縦席を真上にして後部格納庫が遙か下にある。煙突に近い状態に置かれていた。


 そんなこんなの超危険な状況なのに。

「見て、見て! 良子さん。口前葉(こうぜんよう)が進化してる。口の形状が旧世代の個体とは違うデ」


 どこ見てるんだ、こいつら――。


「ほんとだわ。口は退化してると思ってたのに、やっぱ環境に適合してるんだよ。すごーい」


 小躍りしそうな三人を睨んでミウが憤然とする。

「ちょっと、あなたたち! この状況を見てなんとも思わないんですか!」


 シートベルトを命綱にして本気で身動きが取れないのに、前の三人はミミズしか目に入っていない。ミウが怒り出すのは至極当然だ。

「少しは緊張感を持ちなさい。ここは動物園ではありません!」

「え、なんで?」

 ミウのセリフに柏木さんはむしろ戸惑ったようすで、

「こんなに間近でグランドワームを見た人は、たぶん世界でも私たちぐらいよ。すごくないの?」

 ミウは眉間しわを寄せて、憤懣やるかた無いといった顔で憤然とする。

「すごいのはあなたの頭の中です。変異体以外に何も見えないんですか!」


 捲し立てるミウを無視して、こっちでは麻由が、

「見ってぇー。もう一匹出てきたよ」

 嬉しげに指を差した。


 俺は麻由の指が示す先を見て、またもや戦慄が走る。

 そいつはもう少し小柄だが、それでもドラム缶よりはるかに太くて、長さは電柱の倍ほどはある。そしてこっちの親方よりもっと色白だ。


 ヌベヌベとした体液を光らせて、大人二人が抱えるほどの長いパイプが猛然と波を打って突っ込んでくる光景を想像してくれ。それを目の当たりにするんだ。気が遠くなりそうになったっておかしくもなんでもない。



 一匹で完全に(もてあそ)ばれているのに、さらにお友達の参加となるともう手一杯。さすがのブラックビーストも逃げ去っており姿はなかった。


「あれはこいつのメスでござるな」


「ブッ、ブゥゥー」

 不正解らしい。


「ミミズは雌雄同体でーす」と柏木さんからの回答。


「そうやで。卵を産むタイプもおるけど、この子らは無性生殖や。分裂で増えるねん」

 つまらん人生だこと――。


「そっよー。たぶん今現れたのはちょっと小さいので分裂した相方かもね」

「小さかねえよ」

 とはイウ。

「やっぱここは地獄だ……」

 一つしかない片目を強く閉じて頭を抱え込んだ。



 しなやかに全身をくねらせ、まるで巨大なムチのようだ。風切り音がここまで伝わってくる。音の大きさからしてミミズの出す力は相当なものになる。


 二匹に巻き付かれたら、さすがのアストライアーも一巻の終わりだ。

 だけど恐怖におののく俺たちの予想は大きく外れた。


 ほぼ垂直になったボディが緩い角度に戻っていく。どういうわけか俺たちをとぐろ巻きにしていたほうが、それを解きだした。そしていとも簡単にアストライアーを解放すると目の前で二匹が絡み合った。


 再び激しい振動と床のきしむ音が伝わったが、アストライアーは駆動輪を下にして地面に転がされた。


 二匹はすぐ隣で絡み合った。それが挨拶なのか、いがみ合っているのか、雌雄同体らしいのでオスメスの行為ではないと思われる。もしそうだとしても、そんなものを俺の前で見せるんじゃない。


 とにかくここはひとまず退散するのが良策では? という俺の願いが柏木さんに伝わった。


「ランちゃん。どう、動ける?」

 柏木さんの指示を受けて動き出した駆動装置から小刻みな振動が伝わり、キャノピーの外の景色が流れ出した。


『駆動ギアの異物が取れています。発進可能です』


「じゃぁ、ミミズの見学ツアーはここで終わりまーす。麻衣、麻由。もういいでしょ。次行くわよ」


 次って――。

 おいおい、夏休みの変異体研究に予定を変更する気じゃないだろうな。

 呆れるやら腹立たしいやら。どっと疲れが襲ってきた。




 ようやく未来組も緊迫した空気から元の緩んだ空気に入れ換わり、ミウの顔色も瑞々しいピンク色に戻ってきた。


「しかし無事でよかったでござる」

 最初に一段高い位置にある操縦席からガウロパが口火を切り、

「ホントですわ。よくあそこで解放してくれましたわね。あのまま巻きつかれたらどうなっていたことやら……」

「どうもこうもねえよ。たぶんミミズの解剖学が永遠と続いてたんじゃねえの」

 ひっくり返された亀が自力で起き上がったみたいに、イウの声にも力が戻る。


「そうねえ。節足類と環形類は私の専門だから三日は行けるわよ」

 嫌なことを柏木さんが言うもんだから、

「お前らうっとりするんじゃない」

 そんな講義を望むのはこの二人だけで、

「夏休みのあいだにどちらかでエエからお願いしたいわ」

「あたしは節足類がいい」

「俺はどちらも嫌だ。もう見たくもない」

 そう、変異体生物はうんざりだ。


「オレもだ。あの体液を思い出すだけで鳥肌が立つ」

 イウは自らの体を抱くようにしてぶるっと体を振るわして見せ、俺も肩をすくめてアピールするしかなかった。


『モーター負荷40パーセントです。左駆動部分の過負荷状態は消え去りました。安心してください。船体強度も維持されています』

 黙々と職務を全うするのはランちゃんだけで、どうにか柏木さんだけも船長役を思い出したようで、天井のインターフェースドームに尋ねた。


「被害報告してくれる?」

 すぐにランちゃんの返答が。

『左側面のカメラ損失、左マニピュレータ先端駆動アクチュエーターに損傷が見られますが、それ以外は正常に機能しています』


「ミミズから受けた損害は無かったんだ」

 意外な結果に嘆息する俺、そして麻衣は偉そぶって。

「だから安心せぇ、ってゆうたやろぉ」


「言ったか?」

「もともとグランドワームはおとなしい生き物なの。私たちみたいに……ねぇー」


「どこがだよー」

 前列でうなずき合う三バカへ鼻息を浴びせていると、

「わたくしも未来を視る目を持つものとして、結果は知っていましたので、慌てることもありませんでしたわ」

「あ、ホンマやな。さすが未来人や」

「ね。ミウ。これからも危険が起きる前に解ったら教えてね」

「あ……あ、いえ。それは時間規則に反しますのできかねますが、安全なほうへは誘導できます。なにしろワタシは常に未来を視ていますから」

「ミウがいると頼もしいね」


 いやいや、あの慌てようは未来を視ていたとは思えない。


 案の定、イウが俺に向けてアイコンタクト。それは確実に『視えてねえぜ』と言っていた。

 このことに関してはイウから聞いて知っている。時空震の影響でミウは未来がよく()えていないことを。

 でもここはミウに花を持たせてやろう。麻衣と麻由との関係が円滑に行くのであれば。な、イウ?

 奴は俺の思いをどうとったのか知らないが、鼻息一つ吹いてそっぽを向きやがった。




「おかげで駆動部分も掃除できたし、ブラックビーストも蹴散らしてくれたし……ありがとさん」

 キャノピーの外で並走するミミズ二匹に感謝の意を贈る麻衣は優しげに手を振り、俺は素直な感想を述べる。

「でかいだけに、移動速度もすごいな」

 その光景は昔見たことのある古い映画、象の大群と共にサファリを走り抜く四輪駆動車の映像だった。


 それから十数分ほどミミズとの並走が続いたが、やがて連中はジャングルの奥へと消えて行った。



 結局、ミミズは俺たちに一切危害を加えていない。それよりもあの凶暴なブラックビーストを追い払ってくれたのである。

「ほんとうは助けに来てくれたんじゃないかな?」

 と、つぶやく俺の声にイウの意見は対照的だ。

「んなワケねえだろ。たまたま偶然だ」


 でも柏木さんは首を振る。

「可能性は無いとは言えないわ。小さいグランドワームはブラックビーストに襲われることもあるから、アストライアーを仲間だと思って、連中を懲らしめに来たのよ」


 年の割りに可愛いことを言う白衣の美人へ、ミウが鼻を鳴らす。

「ミミズの脳ミソごときで。そんな感情的な行動を取るかしら……ね、修一さま?」

 隣に座るミウがそう尋ねるが、お前はもう少し可愛らしい感想を言えなのかとは言えず、溜め息を吐くことで返事とさせてもらった。





「疲れた……」

 時間は午後2時。昼食時間をとうに過ぎていたが、まだご飯にありつけていない。


「お腹減ったねぇ」

 柏木さんの手は止まったままだ。

 俺とミウは見つめ合って渋い顔をした。そして麻衣と麻由から渡される食器類をキレイに拭いて戸棚に片づける作業に戻った。

 イウとガウロパは重量のあるモノの後片付けだ。あっちでガタガタと埃っぽい音を立てている。


 思い出してくれたかな。縦に掛けられたアストライアーの状況を……。柏木さんは重要なことを俺たちに知らせていない。アストライアーが走行を始める前に、食器棚にカギをかけ、調度品からテーブル、椅子類を所定の固定器具でロックすることを。


 それを怠った上に縦置きにされたら機内がどうなるか。


 そう、あらゆるものが後部格納庫へ滑り落ちて、何度か起きたシェイク状態で混ざりあい()しあい、見るに無惨な状態になる。食器類はこのようなことを想定してプラスチック製なのでほとんど割れなかったが、テーブルとイスが折り重なり戸棚から飛び出た機材と食器がその中でミックスされて雑然とした光景。


「ねー。このままでいいんじゃない?」

「バカなことを言うのではありません!」

 とミウに叱咤される大阪変異体研究所部長、27才。


「必要な時にこの中から引っ張り出して使おうよ」

「ま……まさかあなたの部屋はゴミ屋敷なのですか?」

「え……っ!」と息を飲んだ柏木さん。俺は聞き逃さなかった。小声で「それも時間を超えた目で視たの?」と言ったことを。


 ほんと、力が抜けますね……先生。

  

  

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