山麓横断トンネル
それから俺たちは無言で最初の坂を登りつめた。やれやれと膝に手を付き小休止。顔だけを上げてそこから先を遠望する。
「なっ。なんだこりゃ?」
視界に飛び込んできた光景を見て一気に脱力した。低く立ち込める曇天の下、遙か向こうにいくつもの坂が大蛇の昼寝のように横たわっていたからだ。
大昔は太い道路が山を貫いて自動車で峠越えができたと思われるが、今じゃガソリンも枯渇。人もいなくなった地上は、ジャングルが左右から迫って道は細り、かろうじて繋がっている程度だ。ただスコールの濁流は別の谷間を流れるようで、アスファルトの跡が比較的しっかり残っており、歩きやすいことだけが救われる。
「お前ら毎月ここを歩いて通ってるのか?」
俺の声が静かな山並みを響いて渡った。
「そうや。カビ毒の混ざる雨水なんか飲みたくないもん」
「そりゃそうだ……」
当たり前のことを言われて返事に困り、再び歩き出す俺たちに遅れること数メートル、柏木さんが握っていた小枝を愉しげに振った。
「ここらへん懐かしいわぁ……」
この人だけは確実にハイキング気分だ。その天真爛漫なところが羨ましくもあり、可愛くも感じる。
「昔は探査車でここらをぶっ飛ばしたもんよ」
やんちゃ時代のことを語るような口調だ。
「柏木さんもローバー乗ってたん?」
「研究所のちっさいヤツね。二人乗りなの」
「そんなのがあれば水運びが便利なのになぁ。もう無いんすか?」
俺の質問に柏木さんは苦笑いみたいな冴えない笑みを浮かべて答える。
「地上で乗り物を使うのを政府が禁止したのよ」
「甲楼園駅にレンタルモーターカーがありましたよ」
「駅周辺という条件付きなの。ここまで乗り込めないわ」
「なんで山岳地帯だけ禁止にしたんだろ? 一番必要とされる場所なのに」
「私たちよ……。変異体研究所の人間がうろつかないようにするためよ」
「何のために?」
「研究所の人間には知られたくない何かがあるんでしょ」
その説明では納得できなかった。俺の知る情報とかけ離れていた。
「政府と研究所って協力し合ってるって聞いてますよ」
柏木さんは片目をつむり、赤い唇に細い指を当てた。
「これ内緒よ。ほんとうはとっても仲悪いの。表向きだけ協力してんのよ。だって研究費の半分は国から貰ってるんだもん……ね?」
そんな大人の事情を俺に打ち明けられても――。
返事をためらっていたら麻衣が代わった。
「ウチらの生活費も、ほとんどは政府からの援助なん?」
柏木さんは渋そうな表情を浮かべ、切れ長の目をさらに細めて首肯した。
「この国は何をやろうとしてるんすか?」
「だから暗黒時代って言われるんだ……」
柏木さんが答える前にイウが割り込んだが、途中でガウロパに遮断された。
「何か知ってるのか?」
と問う俺に、口をモゾモゾ波打たせていたが、もう一度ガウロパに睨まれて、イウは指でバッテンを拵えた。
「へっ! 時間規則に反するから……言えねえんだよ」
「修一どの。こいつは犯罪者。関わらないほうがいいでござる」
とは言われても、なんだかイウの言動は気になるんだよな。しかしこの巨人の眼力で制されたら太刀打ちできない。俺はモヤモヤしたモノを頭の中で浮かべて引き下がった。
だらだらと続くいくつかの丘を越えた俺たちの前に、稜線がそびえ立ち猛烈に長い登り坂が迫った。
「ひゃぁ。なんだこりゃ」
イウが見上げて、悲鳴のような声を出した。
麻衣の話ではこれが最後の難所らしい。ここを越えたら六高山の向こう側に出る。
――と説明を受けてから2時間は経つ。出発から3時間半だ。まだ最後の急坂を越えられないでいた。
「なぁ麻衣。まだかよぉ……。まだなら休憩しないか? みんなバテてきてるぜ」
ミウは途中からランちゃんの荷台に横座りになって移動中。まぁ。この子にこの坂を歩かせるのは酷だが。
あんなに元気だった柏木さんは、遙か後ろで拾った棒切れを杖にして固着している。
「おっちゃん。良子さんの救助に行ってくれる?」
ガウロパは麻衣からの厳命を熱く受けとめ、目を丸々と広げて嬉しそうに首肯すると、ぴゅーっ、と飛んで行った。慌ててイウも後を追う。
「ばっか野郎ー。いきなり離れるなぁー」
イウにとっては命がけなのに、俺たちはなぜか笑ってしまう光景だった。
ガウロパは柏木さんに棒切れでスキンヘッドを叩かれながらも、
「ボスのボスからの命令でござる。ではちょっと失礼するでござるぞ」
ひと言告げてから、大胆にも柏木さんを小脇に抱えた。
「こ、こら、放せ。このタコ。ば、馬鹿! どこ触ってんのよ、えっち、ばかぁー」
小脇に抱えた柏木さんがあまりに暴れるので、ガウロパは「ちょっとの辛抱でござる」と言うと、彼女を小荷物みたいに肩に抱き上げ、えっほ、えっほと走って帰ってきた。
ちょっとガウロパが羨ましかったのは俺だけでなく、イウもそれらしい視線を振り、ガウロパにくっ付いて再び坂を上がって来た。
「よっしゃ。もうちょいや。行くでぇ」
初めはガウロパの肩の上を嫌がっていた柏木さんなのに、5分もしないうちに、口笛気分でスキンヘッドにしがみ付いて気勢を上げた。
「高くて気分爽快よー、ほらみんな頑張ってぇ」
今度は麻由が羨ましそうな眼差しで柏木さんを見上げ、すぐに視線を滑らせてくる。
「あんたも、あたしと麻衣を両肩に乗せてあれぐらいしなさいよー」
「ば、馬鹿やろぅ。俺は自分の体重を持ち上げるだけで、いっぱいいっぱいだ。二人も載せたら身体が壊れちまうだろ」
「ふんっ。役立たずぅー」
赤い唇を尖らして悪態を吐く愛らしい姿を見つめつつ、俺の口から出た返事は正反対の「死ね、バカ!」だった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「むぅ…………」
腕を組んで唸っていた。
目の前で登り坂道が真っ黒なトンネルに呑み込まれて先が見えないのだ。おそらくその中もずっと登りが続くと思われるが、外から見る限り暗闇にしか見えなかった。
「これを通るのでござるか?」
あのガウロパでさえも怖気づくほどの深い暗闇が無限に続くトンネルだ。柏木さんも肩の上で凝視する。
「ローバーで来た時はこれほどじゃなかったわ」
「地上で起きる変異は短時間やからね」
固唾を飲んで深部を覗こうとしたが、まるで黒いカーテンが下ろされたようだった。
「なぁ。他に道が無いのかよ?」
俺が代表して、部隊長に進言する。
「あるよ。峠越えの道が……」
「なんだよ。それを早く言えよ。そっちを通ろう。このトンネルはちょっとまずいだろ」
俺の主張に麻衣がこともなげに返す。
「ウチらはかまへんけど。峠越えはもっと急坂で、ずっとウネウネの登りや。あと3時間は続くで。ほんでその後は同じ下り坂が2時間や。かまへん?」
「ぅげぇぇぇー」
麻衣と麻由以外の全員が顔を見合わせ、麻衣は楽しげに続ける。
「こっちの山麓横断トンネルやったら、あと30分ほどやけど……」
全員の視線が、指の先に広がる暗黒の空間に集まった。
中はしーんと静まり返り、気味が悪い蔦が垂れ下がっているし。足元には得体の知れない下草が覆い茂り、不気味以外の言葉が何も浮かばない。
耳を澄ますと遠くで水の滴る音が響いてくる以外は真の暗闇だ。
「どうするの。修一?」
麻由が急かしてくる。
「お……俺が決めるの?」
「そやろ。あんたは小隊長やろ。部隊長があんたに任せるちゅうてんのや。あとはあんたが決めぇな」
ガウロパたちの熱い視線が俺へと注がれる。
「こんな役がいちばん苦手なんだよなぁ」
もう一度麻衣へ尋ねる。
「このトンネル。安全なんだろうな?」
麻衣は笑った目のままで応える。
「追い出したらね……」
「追い出す? なにを?」
眉根を寄せる俺へ、麻衣は意味ありげな言葉を投げ掛けた。
「いろいろおるやんか」
何がそんなに楽しいんだ、麻衣?
首をひねる俺の横で、麻衣は麻由へ目で合図を送る。
麻由はコクリとうなずくとライフルをランちゃんの荷台に置き、俺からショットガンを取り上げてバラバラと弾丸を抜いた。
「何すんだよ?」
「爆裂弾に替えるの」
「爆裂弾?」
「派手な音が出るだけ。破壊力はほとんど無いよ。横断トンネルが崩れたら元も子もないやろ」
「――ねぇ。音で何をするの?」
ガウロパの腕に足を掛けて柏木さんが肩からゆっくりと降りてきた。
その姿を見て、俺は大昔の映画で見たゴリラのバケモンと美女の話を思い浮かべて苦笑いを浮かべた。まさしく美女と野獣だ。
妄想を広げる俺の前で麻衣が自慢げに鼻を膨らした。
「ほな、始めんデ。よう見ときやー」
同時にミウがひどく怯えてランちゃんの首にしがみついた。その行動に釣られて俺も咄嗟にしゃがむ。きっとこれは何か未来の出来事を視たに違いない。
みんなが見守る中、麻由は平然とした態度でショットガンのグリップを肩に当てた。そして予期せぬタイミングで引き金を引く。
ドゥオォォォォォーーーォォォォーーーォォォーーーォォーン。
銃口から真っ赤な炎が噴き出し、耳をつんざく強烈な爆音が長く尾を引く予期しない大音量だった。頭の中で意味不明の金属音が響いて唸りあげた。
「うわあ。くらくらする……」
しばらくして聴力が復帰。
「なんだ? 何も起こらないじゃないか」
振り返って麻由たちに訴える俺の後ろ髪に微妙な空気の揺らぎが伝わってきた。ざわざわとした気配が奥から広がる。初めはゆっくりと、そのうち地面を通して微振動が感じられ、
「な、な、なに?」
山の斜面に開けられた黒いトンネルから真っ黒な煙みたいなものが、忽然と噴き出した。
それは音に驚いて突出してきたオオコウモリの大群だ。行く先を見失ったコウモリたちが吹き荒れる風を纏い、狂乱の騒ぎで飛び出してきたのだ。
何匹なんて数える範疇をはるかに越えている。黒い塊となったコウモリが空を目指して飛び回った。
「きゃぁぁぁぁぁー」
悲鳴を上げて、おたおたする柏木さんをガウロパが大きな身体で覆いかぶさり防御しており、
「オマエはミウのガーディアンじゃねえのか、バっカ野郎!」
イウから尻を蹴飛ばされる光景を俺は麻衣の腰にすがりついて見ていた。
「すげぇぇ」
大口をあげて見上げる俺。
コウモリの大集団は曇天を駆け上がる竜のように空をうねって昇っていく。
「いつまで抱きついてんねん」と、麻衣に張り倒されて俺はバギーの横手に転がり込んだ。
「こ……コウモリの動きに驚いただけだろう」
ふんとによぉ~。と怒りつつも、柔らかい感触を思い起こしてスケベ笑いをする俺へと、
「頭を下げて。もっと大きいのが来る」
ランちゃんの荷台の陰に潜んでいたミウがそう告げた。
「まだ何かあるのか?」
疑問を浮かべる俺の耳元で麻由が二発目のショットガンを撃った。
ウォォォォォーン、という余韻が耳に残った。
トンネルの入り口で撃たれたショットガンの音は大きすぎて、鼓膜を伝わる音圧の限界を超えており、音として認識されない。ただの爆風としか感じなかった。
ようやく我に返った俺は、ひとまず文句を垂れる。
「撃つなら撃つと宣言しろ! いきなりやられると……な、なんだ? おい、こりゃなんだ? 風か?」
言葉途中にして、俺はミウが告げた『頭を下げて』の意味を噛み締めることに。
激しい風が波動をともなって噴き出してきた。とほぼ同時にガラスを叩き割ったような甲高い雄叫びを上げて、2匹のバードオブプレイがトンネル内を暴れまくりながら飛び出してきた。まるで噴火口からマグマが噴き出すようさ。物凄まじいまでの勢いと脳髄を直接突き上げる衝撃音を轟かせて、俺たちの頭上スレスレを飛んで行った。
「うわあっ! なんだこれ!」
猛然と放たれた風圧に吹き飛ばされたイウが尻餅を突ついて叫んだ。
「バードオブプレイだよ!」
答えた俺にイウは丸い目をくれる。
「バードオブ?」
「猛禽類の変異体なんだ。鳥だよ、鳥」
尖った爪が赤黒く光るドラム缶並みの太い両足は灰色の毛に覆われ、巨大な胴体はちょっとした航空機さ。そして何よりも恐ろしいのは猛禽類特有の曲がった太いクチバシだ。山ほどある大きな花崗岩をクチバシで砕いて巣の中に敷くほどだから、そりゃすごい生き物さ。
そんな巨体がトンネル内をまともに飛べるはずがないのだが、パニックになった連中にはそんなこと無関係のようで、まるで大陸弾道ミサイルの打ち上げを真横から目撃したようだった。
「あの真っ赤な目玉。怖ええぇー」
興奮がなかなか冷めず、俺の心臓はいつまでも甲高く脈を打っており、イウも一つしかないブルーの瞳をまん丸に広げて激しく訴える。
「何て生きモンだ。あれで鳥かよ? 見たかあの爪! あんなのにひと掴みされたら人間の胴体なんて、ぷっちん、だぜ。だろ?」
なぜ肯定と疑問を混ぜたのかは知らない。たぶんそれだけ興奮したんだろうな。
中から飛び出した2匹のバードオブプレイは、名残惜しげに俺たちの上空を旋回していたが、さらに撃ち上げられた麻衣のショットガンに脅されて、六高山の彼方へ消えて行った。
「なんだかかわいそうになってきた」俺の独り言に、
「ほな今から峠越えする?」
と麻衣に言われておとなしく引き下がった。
「さぁ、入るで!」
部隊長の元気な声で俺たちの行進が再開した。
行きに見せた元気は完全に吹き飛んでおり、暗いトンネル内を恐々と進むことに。
蔓の垂れ下がる中はそれほど荒れてはおらず、アスファルトもほとんど原型を留めていて、久しぶりに平らな道を歩いた気がした。
だが染み入る暗闇は恐怖を誘う。
「ランちゃん。バッテリー持ちそう? できたらライト点けて」
麻由の声で先頭に明りが点った。
柏木さんは完全にガウロパを盾にして、後ろに回した丸太ほどの腕にしっかりとしがみ付き、ガウロパは楽しげに進軍中だ。
なるほど……。あういう方法もありだな。
あわよくば麻衣も俺にしがみ付いてくれないかなと思って、その前に出て胸を張って歩いてみた。さっき抱きついたときの柔らかな感触がたまらなく心地よかったからだ。
「修一……」
麻衣が俺の腰のベルトをくいくいと引くので、ちょっと期待して振り返る。
「なんだよ? 怖いのか?」
「アホかっ!」
その一言でかたずけられると呆けてしまうよな。
「ほら、止まらんと聞きや。そこにゴミ屋敷みたいなとこがあるやろ? 中を覗いてみて」
麻衣はギラギラする目で俺を見つめ、ショットガンの先でトンネルの奥を示した。
言われた場所を確認する。
何だろう――。
こんもり盛り上がった雑草や木材、岩石の破片で作られた小山が十数メートル先にある。最も高いところは天井の半分近くまで盛り上がっている。
歩きにくい瓦礫の山をガラガラと崩し、ちょっとした登山を敢行。頂上から中を覗き込む。
「なんか、白いものがあるぞ」
「ほんとぉ?」
麻由の嬉しそうな声を訝しげに思いながら、中心部へ下りて行く。目も慣れてきて、白い物がはっきりと見えてきた。
「何かあるぞ。白くて丸い……あっ!」
物体を目前にして絶句。
「げげぇぇっ!」
「それ貰っていくでぇ」
瓦礫の向こうで麻衣の平たい声がする。でも震えて手が出せない。
それはバードオブプレイの卵だ。初めて目にする巨大な卵。両手で抱え腹で支えてやっとの大きさだ。正真正銘世界最大の猛禽類の卵だ。
「じゃ、じゃあ。これって……あいつらの巣かよ! どひゃぁー怖ぇえよー」
恐怖に怯える俺さまの情けない声が、トンネル内をコダマして響き渡った。
「早よここを去らな、あの子ら戻ってくるよ~」
麻衣から告げられた脅し文句を聞いて俺の危機管理センターがオーバーロード。全身を粟立たせ両脚が地面に抜付けられて、完全に接着してしまった。
「麻衣ぃー! ちょっと助けてくれぇ~。足が動かんぞー!」
でっかい卵を両手で抱きかかえたまま俺は叫ぶだけだ。
「うげぇえ! まだ温かい!」
手に伝わるほのかな温もりが余計に現実感を醸し出される。
(早くしないと、ここの連中が戻ってくる)
俺は無我夢中で小山を乗り越えると、外側へ向かって飛び降りた。途中で何度か玉子を地面に落としたが、そんなことぐらいで割れる代物ではない。ガウロパたちも俺が巣から盗んできた丸い物体を見て凝然とした。
「ったく……。暗黒時代とはよく言ったもんだぜ」
イウのつぶやきが妙に心に響いた。俺も同感だ。こんなでっかい卵を抱く鳥がいるんだ。あり得んよ、マジでな。
「さぁ残り、半分ぐらいよ」
麻由の指さす先に小さな希望の光りが見えている。
「出口だ!」
柏木さんがガウロパの腕から肩に飛び乗って叫ぶ。
「ガウさん早く外に出てぇ」
競走馬のスターティングだ。またがる馬を駆り立てて柏木さんがガウロパの頭を叩く。ヤツは目元をほころばしながら明るく吠えた。
「よーし、行くでござるぞー!」
駆け出そうとするガウロパをイウが慌てて引き止め、
「待て。オレも連れて行け。こんなとこで爆死はいやだ」
ガウロパはうなずくと、左手にイウを抱きかかえ、右肩に柏木さんを乗せて走り出した。
「ふふ。いい感じじゃないあの人たち」
微笑みを浮かべる麻由へ、ランちゃんの首にしがみついたミウも釣られてピンクの頬をほころばせた。
「ミウも仲間の人が見つかってよかったね」
少女はまだ戸惑った様子だが、
「うん。あの大きな人は何か暖かいの」
「あんたのガーディアンや言うてるから、深い関係のある人やったんやで」
しかし意外にもミウは異なる返事をした。
「知らない……」
「なんやの。不服なん?」
「ううん」
ミウは首を振って、数秒ほど逡巡する。
「あの、眼帯の人のほうが気になるの」
「あんた。警察の人間なんや。タコ入道はタイムパトローラーで、あの眼帯男を捕まえたって言ってたから、あんたはあのタコの上司なんとちゃうやろか」
ミウは出口へ向かって駆けて行くガウロパの後ろ姿を焦点の合わないメガネの奥から眺めて、小さな口を開いた。
「そうなのかな?」




