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ゼロの支配者  作者: 雲黒斎草菜
時の番人
27/109

タイムリーパー参上

  

  

 夕食も済んで和やかな時間が流れていく中、いきなり麻由が何かを思い出したようで、天井を睨んでドンと立ち上がった。

「そうーだょぉ!」

 部屋の中を忽然と引き裂くようなタイミングだった。


「んだよぉー、ビックリするだろ」

 耳元でカンシャク玉を破裂させられた気分で俺は文句を垂れ、麻衣とミウはキョトンだ。


「思い出したのよぉー」

「何を?」

「ミウが言ってたカロンって、お父さんの書斎に有った研究ファイルの中で読んだことがある」

「お父さんの……?」

 麻衣は記憶の海をさ迷い、麻由は期待感を露わにして答えを待った。

「ああぁ。そう言えば六高山の研究所で……。そうか、ウチもなんや聞き覚えあるなぁってずっと思っとってん。せやせや。あの時にお父さんの書斎で見たんや」

「あの六高山にも研究所があるのか? お前んちって金持ちなんだな」

 俺の問い掛けに二人が同時に首を振った。

「アホか。それやったらこんな苦労せんワ」

「お金はないけど研究所だけはたくさんあるのよ」

 何が言いたいのかよく解からない話だが。


「せや! 修一!」

 よくよく大声を上げる双子だ。


「お願いがあるんやけど……」

「その目は何か企んでるだろ」


「水汲み手伝ってくれへん?」

「いやだ」

「なんで即答やねん」

「水汲みと聞くだけで重労働を想像する」

「バイト料弾むデ」

「どこまで行くんだ?」

 場所によってはおいしい話かもしれない。なぜなら、準禁止区域に水道設備は無い。そのためこの二人はどこかは知らないが、必要に応じて飲料水を運んで来るという話を聞いている。

「お父さんの研究所の地下」

「ことわる」

「だから何で即答やねん」

「お前なー。いま六高山だと言ったろ。ということはそこへ行くんだ。やなこった。どれだけ遠いんだ」

「行ったことあるの?」と訊いたのは麻由で、今度はそっちへ体の向きを変える。

「ないけど、いくつもの山を越えて行くことぐらいは知ってる」

 どちらも同じ声、同じ顔なので俺の態度も変化しない。


「でもちょうどいいと思わない? ミウの言ってたカロンの謎が解けるかも知れないのよ」

「川村教授がカロンを研究中だったのかもしれないが、それとミウが口にしたものとが一致するとは限らない」

「もう……冷たいのね、修一」

「んぐっ」

 潤んだ目で俺を見ないでくれ麻由。お前が悲しむとこっちの心までズキュンとくるんだ。


「麻由。こんなヘタレはほっとこ。ウチらだけで明日行こ。ほんで金輪際修一とは縁を切る」

「ちょーっ、待て! 何でお前はそう結論を急ぐんだ。俺はちょっと考えただけだろ。ミウの言うカロンと教授のカロンが一致したらいいなって思ったとこだ」

「ほな、カロン探し付き合ってくれるん?」

「カロンにすり替えやがったな。水汲みは?」

「当然やってもらう。ほんでヘタレでは無いとこをウチらに見せてぇな。ほな……」

 いちいちヘタレ、ヘタレと口に出しやがって……。

「なら、何だよ?」

「……惚れなおすかもしれへん」

「…………」

 気持ちいい言葉だな。麻衣くん。もう一度俺の耳元で言ってくれないかな。


「カロンって言ゃあ、ギリシャ神話に登場する三途の川を管理してた(かみ)さんのことだぜ」

 なんでそこで口を出すかな、親父。

「何が? いいじゃねえか。聞いたことがあるセリフが聞こえたんだ、口出ししたくなるだろ?」

 風呂から上がった親父がパジャマ姿で参加。

「へぇ、おっちゃん詳しいんやなぁ」

「あたぼうよ。こう見えたって役所じゃ博識で通ってんだ」

 と言った後、

「パンツ穿くしき、ってな」

 くだらん……。

 そんなくだらんことが言いたくて、麻衣からの愛の告白をジャマしたのか、この親父は。

「で、改めて懇願する。麻衣、もう一度たのむ。俺のことがなんだって?」

「明日は人足として雇うから、はよ寝ぇ!」


「ぶふっ」と麻由は吹き出し、ミウはニコニコ顔。親父は魂が抜けた空っぽの目で俺を見た。

「若いうちは盛大こき使われて来い」

 のヤロウ……。




 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆




 7月30日。朝7時――。


 ハイキングと勘違いしたお袋がオニギリを作って行けば? と提案したらしく、台所に女ばかりが集まって、わぁわぁきゃあきゃあ。そのかしましい声で目が覚めた。


 まだ半分眠る俺の判断力は地の底に落ちており、すっかり今日の予定を忘れていたが、途中で六高山の裏まで水を汲んで帰って来る、正真正銘の歩荷(ぼっか)だったことを思い出し、もう一度布団を被った。


 そこへ麻由が登場。

「修一、起きたぁ?」

 まだ返事もしていないのに、麻由は恥ずかしげもなく俺の部屋に入ってくると、皿に載せられたブツを楽しげに見せた。


「ほーら。これ修一の分よ。三人で作ったんだからね」


 それはご飯を握って固め、上から人工海苔を巻いたオニギリで、二つは同じ大きさで海苔の巻き方も揃った俵型。ひとつはそれよりひと回り大きい綺麗な三角オニギリだ。どう見ても俵型が麻衣と麻由の作品だろう。大きさも形もどこから見ても瓜二つだし、俵型のオニギリは関西風だ。ならミウは関東系だと推測できるが……どうでもいいよな、こんな話。


「修ぅは女子の作ってくれたお弁当持ってハイキングかよ」

 出勤支度の済んだ親父がスーツに腕を通しながらぼやく。

「ハイキングみたいに生っちょろくないんだよ。なにしろ準禁止区域内にある山を越えて水を汲んで戻ってくんだぜ。地獄だぞ」

「いいじゃねえか。可愛い女の子といっしょだろ。オレっちなんかババぁ相手だからな」

 といつまでもぶつくた文句を垂れる親父がやっと勤めに出て、その後しばらくして俺たちも家を出た。





 まずは三輪バギーを保管してある麻衣たちの屋敷へ行く。そこから登山の開始となる。もっとも屋敷のある場所だって山の中腹なので、すでに登山と言ってもいい。とにかく初めはリニアトラムで甲楼園駅を目指す。


「気をつけて行くんだよ」

 お袋は常套句となったセリフを吐き。

「おばちゃん、行ってきまーす」

「また来ますね。おばさま……」

 麻衣が返す元気な挨拶と麻由の満面の笑みを満足げに見た後、準禁止区域がどんな場所か知らないお袋はガキ相手の言葉を俺に掛ける。

「迷子になったら交番へ行くんだよ」

「うっせぇな……交番なんかねえワ」

 そんなお袋を睨みつけ、最後尾から出てきたミウをかしましく浮かれている双子のあいだに挟みこんで、俺は玄関の扉を閉めた。



 途中、変異体研究所へランちゃんのメインユニットを受け取りに寄ると、柏木さんが面白そうだから一緒に行くと言い出した。

「研究所って、そんなに暇なんっすか?」

 出されたユニットを受け取りながら尋ねた俺の質問に、

「部長ともなるとね。なんでも研究ってことで済ませれるの。いいでしょ」

「とか言って、ほんとうは六高の研究所へ行きたいんでしょ?」

「バレた? でもね、あの研究所とはあなたたちより長い付き合いなのよ」

 話を聞くと、柏木さんは川村教授の教え子の一人だったらしい。


「教授は憧れの人なのねぇ。あ。研究者としてよ。ここんとこしっかり理解よろしく。勘違いしないでね」

「分かってるって。柏木さんは変異体のことになると、周りが見えへんもんね」

 それは何となく察しますね。


「そうよ。私の恋人は変異体……って、誰がヘンタイやねん!」

 いきなり手の甲を壁に打ち当てて柏木さんが叫んだ。

「………………」

 凍り付く面々。


 柏木さんは虚をつかれたようにキョロキョロしたあと、恐々と尋ねた。

「ね。面白くなかった? 麻衣ちゃん?」

「う~ん。今の独り突っ込みは……60点やね」

 柏木さんは溜め息と一緒に肩を落とす。

「関西人は笑いに厳しいからなぁ……」

 後ろに払った白衣をなびかせながら、制服の腰ポケットへ両手を突っ込みしょぼくれる姿は、昨日の凛々しい柏木さんとはちょっと違って見えたが、それはそれで親しみを感じて気分は良好。今日は楽しくなりそうだ。



「そうだ。報告するの忘れてたわ。マンドレイクの子実体の一部だけど、よく調べたら石灰質が変異した特別な分子構造だったわ。これは大発見になるかもよ」

 いよいよすごいことになりそうな予感である。


「どういうことですか?」

「キノコと珊瑚と両方の性質があるの」

 微笑みを絶やすことなく麻由の質問に応える柏木さん。

「キノコと珊瑚?」

「そう。考えられないでしょ。陸上の珊瑚よ。それでもって完全な動物的挙動も備えている。おそらく普通の進化ではあり得ないわ。あぁぁ。一匹丸ごと捕まえたいもんだわねぇ」


「心配ないで、良子さん。修一は珍しいものを見つけるのに天才的な勘が働くからね」


 柏木さんは息が詰るほどの明るい破顔を俺に見せた後、右ポケットにから見慣れた物を取り出した。

「もう一つ忘れてた。日高さん。これ使ってみてくれる?」

 それは細身で色付きのレンズがはめ込まれた小さなメガネ。


「これは?」

「私のお古だけど。光の刺激を弱めて目を休めるメガネなの。視線の一点以外を見えなくするのよ。受験の時、集中するために使ってたのよ」

「それやったら、修一が掛けたほうがエエかもな」

「うっさぁい」

 麻衣をすがめる俺に、ミウは小さな唇をほころばせながら柏木さんからメガネを受け取り、可愛らしい鼻の頭にメガネのフレームを載せた。

「どう?」

 ミウは片手で押さえて小さな声で応える。

「少しマシ……」

 感情の薄い弱々しい声だったが、微笑んだ顔は晴れやかでひとまず胸を撫で下ろした。


「でしょ。よかった捨てなくて。じゃあちょっと待ってて。すぐ耐熱スーツに着替えてくるから」




 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆




 濃紺色をベースに胸を横断するオレンジのライン。変異体研究所の制服と同じデザインの耐熱スーツで現れた柏木さんは、遠くから元気に手を振って走ってきた。

「お待たせぇ。さぁ行きましょ」

 急きょ参加した柏木さんは駅の売店で自分のお弁当を買い込み、お茶の種類をワーワー騒ぎながら物色。俺的には毒でもないのなら何だっていいほうなので、そんなにハイテンションになる理由が解らない。会話だけを聞いていたらまさに浮かれる女子高生だ。粛々とついて歩くミウを少しは見習ってほしい。


 なんば南港から甲楼園までは数分なのだが、案の定口が閉じられることはなく。尽きない話を一方的に聞かされ続けて、リニアトラムは目的の駅に到着した。続いてロッカーに保管してあったライフルを取り出し、麻由は担いでいたショットガンを俺に寄こした。レッドカード所持者の監視の下であれば、準禁止区域内から俺も銃を所持してもよい。


 すっかり馴れた手つきで肩に担ぐ。銃の重みがずいぶんと軽く感じられるのは、喜ばしい事なのか悲しむべきことなのかどちらなんだろう。



「レッツ、ごーっ」

 時代のずれた柏木さんの掛け声を合図にして、全員が耐熱スーツのファスナを首まで上げて電源を入れる。乾燥した冷気がサーッと内部を広がり、べっとりとまとわり付く熱気を退(しりぞ)けた。もちろん俺のスーツは安物の私物スーツ。GHのスーツは麻衣たちの屋敷に保管してあるが、山麓あたりの気温程度ならこの安物でも十分対処できる。


「ミウ、大丈夫? ちゃんと着れてる?」

「うん。涼しい」

 ミウのインジケーターを覗くと外気温が48℃だ。スーツ無しだと半時間も歩けない。気温もそうだが、湿度の高さは凝縮現象がすぐに始ったのを見れば瞭然さ。スーツの表面が水滴で覆われいくつかの筋を作って流れ落ちていった。


「なぁ、親方さんよー。これからの予定はどうなってるんだ?」

 麻衣は横目で俺を睨んでから、説明を始めた。

「まず、真っ直ぐ事務所へ帰って、ランちゃんをキャリーバギーに乗せたらすぐ出発する。寄り道はあかんデ。そうでなくても往復するには時間的にぎりぎりやねん」

「六高の研究所って、そんなに遠いのか?」

「修一くんは宝来峡行くの初めてなのね」

 綺麗な面立ちを輝かせた柏木さんは、くるりと裏返って、そびえ立つ六高山地を仰ぎ見ていけしゃあしゃあと言う。

「あ、ほら見て。手前の山の中腹が麻衣たちの住んでるとこでしょ。それから向こうの山頂を越えたとこが宝来峡よ……峠を越えたら研究所はすぐね」

 遙か遠くにそびえた二つの山の(いただき)を二本の指で測る仕草をした柏木さんは、もう一度面に返ると俺に細い人差し指と親指の間隔を見せた。

「ほらほら見て。これだけの距離じゃない。目と鼻の先よ」

「げぇっ! あんな遠く……」

 山頂は見えるが、かすんだ先にある。俺はマジで歩荷(ぼっか)だと悟り、一気に疲れが噴き出したのは言うまでもない。




 ひとしきり汗をかいて坂道を登り切り、屋敷の門前に立った。麻由が扉を開けるのを待つあいだに俺は地面に尻を落とした。

「ここが出発点だろ?」

 この時点でもう俺はダウンさ。


「いつ見ても、すっごい建物ねー」

 感心して見上げる柏木さんの前で、ぶ厚い金属製の扉が開いた。無言で迎える奥深い庭が広がり、ジャングル特有の緑豊かな香りとカビ臭い風が舞い上がり鼻孔をくすぐった。


「おう。やっと来たか」

 いきなり放たれた異質な音声が俺の両脚を石化させた。


 反射的にショットガンを向ける麻衣の隣から、麻由が強張った声を張り上げる。

「なによ、あんたたち!」

 驚き七分、戸惑い三分だ。


 門の内側に座り込んで俺たちを出迎えたのは、昨日から俺たちの周りをウロつくスキンヘッドの巨漢と眼帯の痩せ男だった。

「何の用だよ」

 これまで危害を加えてくる様子は無く、どちらかと言うと、なよやかな態度は比較的緊張を緩めてくれる。


「お知り合い?」

 柏木さんは微笑んでいるが、こっちは笑えない。

「あんたらどうやってウチらのお屋敷に入ったんや。場合によってはここで撃ち殺すデ」

 そう、この事務所兼住居は川村教授の研究所でもあったためセキュリティは万全なのだ。


「め、めっそうもない。拙者らは怪しいもんではござらん」

「めっちゃ怪しいわ!」

 柏木さんは目を吊り上げる麻衣の肩に手を添えながら、

「どこの劇団の方?」

 どこまでも天然なのですね。柏木さんは……ある意味好きです。


「ウチの庭に勝手に入って……ってゆうより、この高い塀をよう越えられたな?」

「あ、まあ。拙者らに高さは関係ないので……あ。あの決して悪気はござらん……」

 麻衣と麻由がジト目で見て、大男はタジタジ。そして眼帯男はワレ関せずだ。


 相も変わらず柏木さんが首をかしげる。

「学校のお友達?」

 麻衣は、ふぅと息を吐いてから言う。

「なんでよ。こんなでっかい生徒がおるかいな」


「なんで俺たちをつけ回ってんだよ」

 俺も喚かずにいられない。


「そうや。今日こそはちゃんと言わな痛い目に遭うデ」

「そうよ、痛いわよ」

 麻由がギラリとしたブッシュナイフを抜き、

「でっか……」

 眼帯男が両手の平を広げて息を飲む。


「あいやお待ちくだされ。ちゃんと説明させて頂く……刃物は危険でござる。収めてくだされ、麻由どの」

「なんで、ウチの名前知っとんねん!」

 だいぶ興奮してるな、麻由くん。

 さらに一歩迫られてタコ坊主はでっかい手のひらを左右に振る。

「お……落ち着くでござる」

「ござるって、おもしろーい」

 柏木さんはぷぶっと吹き、状況は緊迫してんだか楽しんでんだか、よく解からない空気で満たされていく。


 眼帯男が柏木さんを顎でしゃくりつつ。

「どうする、ガウロパ。無関係の女性がもう一人増えちまってるぜ」

「あら、無関係って失礼しちゃうね。私は柏木良子。この子たちの姉みたいなもんよ。それにこの外人さんの保護者でもあるの。よろしくね」

 柏木さんは両腕を腰に当てて胸を張り、筋肉男はなぜか顔を赤らめて、眼帯男は鼻を鳴らす。

「ふんっ。修正は人数が少ないほど楽なんだ、うわぁぁっ!」

 眼帯男は喋っている最中に大男に払い飛ばされた。


「何しやがる、ガウロパ!」

 お前は黙ってろ、的な目で眼帯男を睨み倒してから、スキンヘッドの大男はさっと俺たちの前へにじり寄り、丁寧に片膝を折った。


「姫さまを保護していただいておりながら、数々の無礼をお許しくだされ。これこのとおりお詫び申す」

 深々と頭を下げるが、時代のズレた言葉遣いに圧倒されて俺たちは何も言い返せない。したら怖いもの知らずの柏木さんが一歩前に出た。

「ござるって、この人たち何屋さんなの?」

「それがね。このあいだからウチらの周りをウロウロしてるホモダチやねん」

「えっ、ホモ?」

 朱唇を『モ』の形で丸めたまま、柏木さんは元いた位置まで下がって固着。


「あのな。オレたちはそんな変な関係じゃねえって言ってんだろ」

 眼帯男は大男と目でうなずき合い、そしてもう一度大きな声で宣言した。

「オレたちはな。リーパーってんだ!」


「おっさん。宗教の勧誘やったらいらんちゅうてるやろ!」

 麻衣がきっぱりと両断する。


「バカ。宗教じゃねえって! オレたちゃタイムリーパーだ!」

「テレビの人?」

「本番5秒前でぇす、ってそりゃタイムキーパーだ! 何、言わすんだ」

「うふふ。おもしろーい」

 柏木さんのズレた質問をノリ突っ込みでいなせるとは、この眼帯男、ただ者ではないな。


「やっぱりあんたら漫才師やったんか」

「違うって言ってんだろ! バカどもめ。いいかよく聞け」

 眼帯男は必死の形相で唾を飛ばして叫んだ。


「オレたちは、タ、イ、ム、トラベラーだ!」


「はい、はい。分かったからね。おっちゃん」

 麻衣は眼帯男の隣でポカンとする大男も立たせると、二人の背を押して門の外へ、

「トラベラーさんも大変そうやけどな、ウチらもこれからあの山を越えなあかんねん。旅行の斡旋やったらよそ行ってな……ほなね」

 麻衣は二人をしっしっと手で払って重い扉をドシーンと閉めた。


 旅行会社の人とは違う気がするけど……。

 忠告しようかどうか悩む俺の前で、麻衣は手のひらをパンパンと叩いて終結とした。

  

  

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