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ゼロの支配者  作者: 雲黒斎草菜
ケミカルガーデン
11/109

 黄金色のお宝

  

  

 天井が大きくせり上がったおかげで前進はずいぶん楽になった。

 さらに奥へと進むと再び糸状菌の草原が広がり、そこは大きなドームの中に作られた不思議な花畑だと言ってもいい。しかも天井のグラバから放たれる緑の光は衰えていない。足元に自分の影ができるほどさ。まるで端の見えない巨大なホールの中心に立ったようだ。


 ひとまず腰を伸ばして辺りを見渡す。

「なるほどね。こりゃあ、商売になるな」


 あきらかに俺の知らない存在感のある植物がちらほら見えた。それらは個々に特徴があり、商品になりえる個性が見られた。


 たぶんこの辺りがこいつらの仕入れ先だと察しがつく。倉庫に保管された同種の物を見たことがある。右手の奥にある竹みたいに真っ直ぐに伸びた群生植物がそう。色の鮮やかさは素晴らしくて、目にも眩しい生きいきとした若竹色をしており、珍しい観葉植物として部屋に飾れそうだとあの時も思った。



 もちろん見たこともないモノのほうが多い。たとえばあれだ。桜色の大きな丸い葉が集まって風に揺れている。しかもその葉は淡いピンク色の発光色で縁取られ、ちょうどLEDの電飾で施された看板だ。


「節の無い竹も珍しいが、なんだあの綺麗なピンクの光。あれだとパチンコ屋の電飾じゃないか。葉の縁が光るって、植物か? 動物なのか? だいたいね、植物は緑色という世界の常識がここでは完全に無視だな」

 思いついたまま並べたくった疑問を麻衣が即答。

「これがケミカルガーデンや。これまでの進化から逸れた世界。ここがそうやんか」

「………ここって地球?」

「昔の地球ではないわね。でもそうしたのは人類よ」

「…………」

 返事のしようがなかった。その場しのぎのおざなりな温暖化対策のつけがこうなったのだ。自業自得なのさ。

 麻由が俺の吐息に答えた。

「でもあたしは、これが真の地球かも知れないって強く思うの」

「どういう意味?」

「地球はこうやって元の姿に戻ろうとしてるんじゃないかなって……」


 麻由の言葉がなぜか無性に胸に突き刺さった。授業で習った部分とどこか交差していたからだ。

 人工物を元の分子に分解してしまうケミカルガーデン。1万メートルの深海に沈んだゴミでさえ原形をとどめるのに、ここでは半年もあればカビの胞子に抱き込まれ、それは分子レベルに分解され、いつのまにか消えてしまう。そのメカニズムは未だに謎のままだが、川村教授らの研究テーマであったことは学校でも教えられていた。


「とにかく先進むで、ヘタレ腑抜ぞうくん」

「お。おう、ってだれがヘタレだ!」

 そうそう、こんなところで感慨にふける場合ではない。俺は二人の仕事の手伝いをする約束になっているのだ。ガーデンハンターズのスタッフとして使えないヤツと結論出されたら、こいつらともう会えなくなるかもしれない。

「ここは一発気張るぜ」

 声に出して気合いを込めた。




 空を覆うアーチの下にできた空間を進むと、再び糸状菌の林が行く手を阻み始めた。

 遠望するものの、(もや)みたいにボケてよく見渡せないのは、それらすべてが地面から生えた糸状菌がゆらゆらと立ちのぼっているからだ。



 たなびく糸状菌の林を掻き分けて進んでいく二人を追うこと十数分。背後に動くモノの気配を感じて振り返った。

「うぇ~? なんだこりゃぁ?」

 麻衣たちが伐採して広げた空間に、不思議な物体が浮かんでいた。


 身体は光を素通しにする透明で、丸い尻から周期的に射出音を出して移動するこいつは、いったい何なんだろう?

 おとなしそうだから大騒ぎはしないけど、いきなり襲ってきたりしないかな。


 俺の肩口からランちゃんが首を伸ばして浮遊する物体にレーザーポインターを当てて首をかしげている。一緒になって息を詰めていたら、見る間にその数が増えてきた。緑色の光が注ぐ空間をホタルのように漂う姿は神秘的でさえある。


 何かに憑りつかれたみたいに見つめる俺に麻衣が声を掛ける。

「どないしたん?」

「こいつら、どうやって飛んでるんだ?」

 麻衣の丸い瞳が上目遣いにじっとそれを見つめる。

「ほら、よーく観察してみいな」

 しばらく見ていたら気付いた。そいつらは尻から白い気体を周期的に噴き出しているのだ。


「これは飛海月(トビクラゲ)ってゆうねん」

 麻衣が鼻先を静かに浮遊するクラゲにも似た変異生物をショットガンの先で示した。


「なんだそりゃ。まんまじゃないか」


「広いとこが好きでこうやって空間を作ってあげると必ず寄ってくるねん。それと、その子すごいねんで。薄い皮膜に熱い空気をいっぱい溜めていて、熱気球の原理で浮かぶんよ。お尻から噴射させるのは蒸気やねんで」


 信じられないことを麻衣が口にした。

「いくらここの気温が高いからと言って、蒸気の力で生物が空を移動していいのか? 生物学的にも力学的にもそんなこと可能なのか?」

 俺の貧弱な脳ミソでは理解できない世界だ。



「うわ――っ!」

 息を吐く間もなく、次のイベントが起きた。

 目の前へ、つーっと1本の黒い糸みたいなものが滴り落ちてきたので、急いで身をかわしたのだ。


「あんた。その粘液に触れたらアカンよ!」

 糸を引く気味が悪い粘った液体だ。

「なんだこれ? なんかの樹液か?」

 垂れてくる元へ視線を振って、俺は眉根を寄せた。


 乱雑にぶった切った濃い紫色のビニールホースにしか見えない物体が下がっている。

「くっせー」

 先から黒色の粘液を垂らすのだが、そこから放出される臭いのひどいこと。腐った獣の臓物にも似た悪臭が漂い、俺は急いでマスクの上から鼻をつまむ。


「髪の毛に張り付いたら、洗っても三日は嫌な臭いが残るからね」

「うげえぇ。マスクを通して猛烈な臭いがくる」


 滴る粘液は音も無く、また途切れることもなく伝うので、紫色の紐が垂れていると勘違いして手を出しそうだが、触れたら最後、強烈な腐敗臭の液体を浴びることになる。

 熟したブドウの房にも似た果実がいくつもぶら下がる光景を目にするが、それはとんでもない思い違いで、丸く膨らんだ美味そうな実は、その黒い粘液が満タンに入った膨らみで、摘まんだ瞬間周りに弾け跳んでひどい目に遭うと言う。


「うぜぇ~」と叫んだ後、数歩進んで、

「くっせぇー!」

 ここに来てから文句しか出てこない。でもこんなのはまだ序の口なのだ。


「さぁ。この辺から始めよか」

 半分逃げ腰でついて行く俺のリュックを麻衣が強く引っ張ったので尻もちを突いた。

「痛ってぇな。なにすんだよ」

「今回はね。黄蕨(キイワラビ)の芽を採取せよと、クライアントさんからの命令です。いいですね、山河くん」

 クライアント、すなわち依頼主のことだ。

「ちゃんと採ってよ」

 尻もちをついた俺の前で、前屈みに腰を傾げた麻由が両腕を当てて頭の上から念を押した。

 上から目線が気になるが、よく考えたら俺はこいつらから雇われたしがない従業員なのだ。それなりに応対しないとマズイので、

「社長ー。キイワラビの芽とか言われても、俺、知りません」

 栗色のフワフワ頭にヘッドク―ラーを巻いた麻由へ進言すると、全く同じ顔の麻衣が口を三角形にした。

「アホか! 事前に調べて来んかぁ!」

「………………」

 んにゃろー。ブラック社長め。



 麻衣はしばらくブツクサ言っていたが、リュックから写真を取り出して見せた。

「ほらね、頭に叩き込むんでや。この『しゅっ』と伸びて、『くりん』って先が丸まったのがキイワラビ。目を突き刺す黄色をしているからすぐに分かる」

「しゅっと伸びて、くりんって丸まる」か――。

 擬態語ばっかりで、ひでぇな。皆目分からないぞ。


 そうも言ってられない雰囲気なので。

「解ったよ。長く伸びて先が丸まった黄色い植物だろ。探し出してやろうじゃないか」

 やけっぱちで行こうとする俺を麻衣が引き止めた。

「ランちゃんにアシストしてもらうからね」

「はぁ? 三輪バギーに何ができるってんだよ」

『ぴゅーりゅ』

 麻衣のセリフを聞いてランちゃんが飛んできた。

「こいつ素人やから、ランちゃんお世話頼むね。ウチら生活掛かってるからマジで仕事するワ」

『ぽりゅっぴぃー』

 まかせといて、とでも言ったのか、自信ありげに首を前後に振って、俺の腰にボディを擦り寄せてきた。


「冗談じゃないぜ。なんでこんな三輪バギーにアシストされ……」

「名前で呼んであげて!」

 麻由の怖い目に撃沈された。


「怖えな。ほんとに……」


 ランちゃんがついて来いと力強くタイヤを回転させて進みだしたので、後を追うことに。

「ランちゃんの動きをよく見て勉強しぃや。技は見て盗めって昔からゆうやろ」

 腹立たしい麻衣の声を背に受けながら、

「そりゃぁ、人間様を対象にしたときの言葉だ。バギーのお供なんかやだぜ」

 ところが、俺が文句を垂れていたのは、ほんの数分間だけだった。




「えっと。長く伸びて先が丸まった黄色いヤツと……」

 どこを見てもビルにも匹敵するキノコの巨大アーチと地面を結ぶ糸状菌の束が垂れ下がった茂みが続く世界だ。もっと奥へ行ってみたいが、二人からあまり離れるなというボスの命令だし。ていうか、もし迷って俺ひとりになったら、もと来た道を駅までたどることは不可能に近い。


 レーザーポインターの輝線をあらゆる方向へ飛ばして、ランちゃんが俺の前を通り過ぎた。

「お前ねー。何を探してんのかわかってんの?」

『ぴゅりゅーぽ』

 俺の胸に輝線を当てて首肯。

「態度だけじゃダメなんだぜ……ちゃんと採らなきゃ女王さまたちに吊し上げを食うんだ。お前だって充電してくんないかもしれないだろ?」

 すこしのあいだ俺の顔を見つめていた三輪バギーがいきなり速度を上げた。

 もつれまくった縄が垂れさがる奥へ、ランちゃんは糸状菌の束をブチブチ引き千切って飛び込んで行った。


「なんだ、どうした?」

 茂みに横穴が開いたので、俺もその後を走る。

 十数メートルほど入り込んだ先でランちゃんは忙しなく首を振り、コマネズミみたいに機敏に走り回り、ばっさばっさ糸状菌の束を引き千切って進んで行った。


 パワフルな動きに俺、しばし釘づけ。

「すっげ!」


 数瞬の後――。


 ピーピー。


 バギーの頭の天辺に緑色のライトが灯ると警報音が鳴りだした。

「なんだ? 故障か?」


 急いで近寄って後ろから声を掛けた。

「どーした、ランちゃん?」


 三輪バギーは頭を回転させて振り向くと、レーザーポインターを俺の胸に当て、続いて地面を示す。その仕草を何度も繰り返すが、何を言いたいのかさっぱり分からない。


 仕方が無いので、ここは一つうちの女王さまにお伺いを立てることに。もとの場所に飛んで戻り、地面に視線を落としてうろつく麻衣を呼ぶ。

「おーい。ランちゃんがなんか変だぞぉー!」

 俺の声で麻衣が駆けて来た。


「この奥だ!」

 バギーが作った横穴を指さす。

 麻衣が飛び込み、三輪バギーがピーピーいっている場所へ走り寄る。


「よっしゃ。ランちゃん、アラーム止めて」

 麻衣の命令で音が止まった。急激に訪れた静寂に耳が痛くなりそうだ。


「今のは警報か?」

 首をかしげる俺の袖を引いて、ショットガンの先でバギーの前方を示す麻衣。


「ほら。これがキイワラビや」


 俺は言われた先へ目を転じる。飛び込んできた眩しい色に息を飲んだ。

「わおぉ。ほんとだ。綺麗な色してんだ!」

 それは黄金(おうごん)と言うべきの美しい黄色だった。

 そしてもう一度叫ぶ。

「こんなにデカイのか! 写真じゃ分かるはずがないだろ!」


 それは1メートル近くある1本の植物の芽だ。麻衣の説明どおり、しゅっと真っ直ぐに伸びて、先っぽがくりんと丸まっていた。


「さすがランちゃん。もう見つけよった」

 麻衣はマスクの端から見える頬を薄く桃色に染めて、嬉しそうにぷくんと膨らましてから俺に視線を振った。


「あんたは見つけたん?」

 ぶんぶんと頭を振る。

「だってよぉー。あんなに大きいって言わなかったじゃないか。もっと小さい物だと思ってさ。下ばっかり見てた」


「ジブン、ほんまに役に立たんなぁ」

「よく言うなぁ……」

 立腹半分、憤然とした俺は文句のひとつでも言ってやろうと振り返ろうとする、その肩をランちゃんが首を伸ばして止めた。


 なんだ? 仲裁でもする気か?

 不審に思い辺りを注視すると、バギーの放った赤いレーザーポイントの輝線が俺の足下で揺れていた。

「あ、ほら! あんたの目の前に芽を出したばかりのがある!」

 俺のつま先数センチ先に黄金色で高さ10センチにも満たない、毛筆の先みたいな先端がすいっと伸びている。

「うぉっ。こんなとこにもあったのか?」

「その辺も見てたんと、ちゃうの?」

 がっくり肩を落とす俺を麻衣が冷ややかな目で見るが、それは無理というもの。こんな色彩鮮やかな草原の中からこの黄色い芽を見つけるのは至難の業なのだ。


「いやそれにしたって、このバギーはこんなものまで識別できるのか?」

「ゆうたやろ。ランちゃんをなめるなって。この子の物体識別能力はずば抜けてエエねんよ。それより……」

 麻衣はふぅ、と息をゆっくり吐いて尋ねる。


「ちゃんとランちゃんの探し方をマスターしたんやろな?」


「ば、バカ言うな。あんなの人間業じゃない。コンピューターの認識処理に勝てるわけないだろ」

 必死の攻防にもかかわらず麻衣は無視。

「とにかく、あんな感じで探したら一本ぐらいは見つけられるやろ」

 と言って、ゴツゴツと。

「い、痛ぇって。ショットガンの先で頭を叩くなって!」


 遅れて麻由も駆けつけた。

「ランちゃんもう見つけたの?」

「そうやねん。やっぱり連れて来た甲斐があるワ」

 な、なんで俺を睨むんだ、麻衣!


 地面を凝視する麻由。

「どこ?」

「お前だって見えてねえじゃんか」

 俺は麻由を片目ですがめ、麻衣は急いで地面を指差す。

「ほら、そことそこ」

「すごいねぇランちゃん。この長いのは芽が出てまだ数時間。それよりこの短いのは出たばかりのいちばんいい状態じゃない。さすがね」


 バギーは首をにゅっと麻由へ向けると、数回小さく頭を振ってからレーザーポインターを俺へと合わせた。

「そっちの芽は、もうちょっとでこいつが踏み潰すとこやったんや」

 こいつって言うな。


 ランちゃんは短いキイワラビと、俺とを交互に見て、ぴゅー、と鳴いた。

「優しいなランちゃん。ほら。こっちの小さいほうは、あんたが見つけたんやって。譲るみたいやで」

「うっそ……うれしい」

 しかし喜んでいてもいいのだろうか。バギーの情けを受ける俺って……なんか恥ずくない?





「よっしゃ。こら下っ端!」

 麻衣の言葉に気づかず、ポケーッとしていたら、

「あんたのことやろ! スタッフテストに合格するまでは、下っ端や!」

 またもやショットガンの先っちょで頭を叩かれた。

 というよりスタッフテストって……いつからそんなもんが始まったんだ。


「出発と同時!」

「それはお前らの口車に乗せられて……」

「レッド―カードの試験に受かりたいんでしょ? だったらあたしたち先輩の言いつけを守らなきゃ」

 うーむ。麻由から温情あふれる言葉で悟らされたら、嫌とは言えない。


「こら、ヘタレはよせえ!」

「痛ぇえな。なんだよ?」

 こいつらのアメとムチは絶妙のタイミングでやって来から避ける間もない。


「まずは採取ケースや。中サイズと小サイズ出して」

「へいへい。ボス。分かったよ」


「ちゃっちゃっと、しぃやー。なんやったら、ランちゃんが運んで来た荷物、全部あんたが背負うか? そのほうが公平やろ」

「バカ言うな。俺は歩荷(ぼっか)をするために来たんじゃない。腰がへし折れるだろ」

「ふんっ。役立たずのヘタレくんや。このアホっ!」

 どれだけ罵倒すれば気が済むんだ。こんな黄ろっちい草の芽で――。


 言葉の暴力で蹴り飛ばされる俺の前で、麻由はナイフを使って黄金色に輝く芽の先端から数十センチほどのところで切り取り、それぞれの採取ケースにそっと入れ、小さいケースのほうを俺に渡しながら、

「あと3本見つけたら、今回の遠征費がチャラになるわよ。頑張ってね」と、俺の肩を叩いた。


「ぬぁんですとぉー! たったの5本でチャラですとぉー! いったい1本いくらになるんだよ?」

 俺の問いに答えることはなく、二人は黙って作業に戻って行った。


 仕方がないので脳内電卓を広げることに。


 5本で経費がチャラだとすると……。

 俺のバイト代が1日1万円(最初はタダ働きの予定だったんだが……)だから、2日で2万円。経費は弾やら食料、燃料で10万ほどだから、合わせて12万か……多めに15万と見積もると。黄色のヤツは1本3万円にもなるんだ。


 俺は息を呑んだ。

 こんな黄色い芽が1本で、地獄のバイト3日分かよ。

 麻衣に銃の先で小突かれようと、拳骨で叩かれようと痛みが吹っ飛ぶ気分だ。


「こんな物がそんなに高価なんだ……」

 途中から小声になる俺へ、

「なにブツブツゆうてんの?」

 糸状菌の陰から麻衣が怪訝な眼差しで顔を出した。そして続ける。

「コレは新薬の試料になるねんて。そうとう珍しいモノらしいよ。だから身体を張ってウチらはこんな奥まで入るねん。分かるやろ? あんたが村上としょうもないことして遊んどる裏ではこんな世界があることも知ってほしいねん。何か重いものを感じてけえへん?」


 俺と村上がくだらん遊びをするかどうかは別にして、麻衣の言葉は俺の心に熱く伝わった。この二人は真剣に生きて行く術を教授、いや両親から学んだのだ。


「解ったよ、麻衣。必ずレッドカード所持者になってガーデンハンターズの正式メンバーになってやるさ」

「うふふ。頼りにしてるで、下っ端」



 とりあえず、ランちゃんからお情けで譲ってもらったキイワラビの入ったケースをリュックに入れて、糸状菌の茂みの中へ再び踏み込んだ。もちろん黄色いやつを探すためだ。




 しかし――。


「無い! もう無いって……。もう採り尽したんだ」

 腰が痛くなって俺は音を上げた。糸状菌の束が全部それに見えてきて、それと周囲のカラフルな色に目まいがしてきた。


 遠くのほうで発見を知らせるランちゃんの警報音がまた響いた。

「あの野郎、何本目だ……」


 少しすると、また警報音が――。

 ますます。歩荷(ぼっか)が俺の専属になりそうに思え、焦燥にまみれるばかりだった。

  

  

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