時を受け継ぐ者
愛らしい二人の寝顔をゆっくり観賞してから、俺は食堂へと戻った。
ミウがちらりとこちらへ視線を寄こしてから咳払いをし、全員の視線を浴びた俺が席に着いたのを確認してからやっと口を開いた。
「これは仮説ですが……」
間を空けて妙に深い呼吸をするミウ。何をそんなに躊躇うんだ?
麻衣の存在が麻由の現存を左右する。なんだか小難しい話ではありそうだが、それよりもどこを問題視するのかまったく理解不能で、俺の疑問は膨らむ一方さ。
柏木さんももどかしそうに訊く。
「どうしたのよ、日高さん?」
ミウは重苦しい空気を引き摺っており、俺と柏木さんを交互に鋭い視線で見届けていたが、動きにくそうに唇をもたげた。
「信じられない話ですが、しっかり聞いてください」と念を押し、柏木さんは「何なの?」と予想もつかない進展を警戒して、薄い笑みを浮かべつつも強張った。
「先ほどの麻由さんの、現象は珍しいものではありません」
「なに?」
同じ言葉を繰り返す柏木さん。切れ長の目でじっとミウを観察するような鋭い視線で見ていた。
「セリフデリートはパスが通じる者どうしで、過去の時間流を侵されたときに起きます」
「それはもう何度も聞いてるわよ。パスって、その二人に時間が繋がってるということでしょ?」
そう。俺もそれは理解した。でも――。
「時間が繋がってるから……消える?」
徐々に俺の声から力が抜けていく。
影響し合うというのは解かる。でも消えるっていったいなんだ。確かに麻由は消えそうになったさ。
「時間の流れは未来を作り、それは原因と結果の連続体です。そして原因と結果が繋がることをパスが通じるといいます」
もう少し小学生でも理解できる優しい言葉で説明にしてくれないかな。
ひとまず俺はうんと返事をして、柏木さんは黙って瞬く。
少しの間を空けてミウは続けた。
「その『原因』は麻衣さんで、『結果』が麻由さんです」
「え?」
理解したつもりだったが、そう単刀直入に言われると唖然とした。
柏木さんもそう感じたらしく、楽しげな雰囲気を消し去った。
ミウはもう一度言う。
「原因である麻衣さんが、結果である麻由さんを影響させたのだと思われます」
「「麻衣が原因で麻由が結果?」」
疑問符を浮かべる俺たちとは裏腹に、ガウロパとイウは息を潜めていた。それはミウの言葉が事実を述べるからこその沈黙だった。
でも柏木さんは今にも飛び付きそうな勢いだ。
「二人のどちらかがこの時間の人ではないって言いたいわけ?」
ミウは小さくうなずくと、こう言った。
「麻衣さんと麻由さんは、双子ではありません」
「なっ!」
「はぁ?」
ここは笑うところなのか?
「あなた、何を言い出すかと思えば……。あのね、もう少し面白い話にしないと誰も笑ってくれないわよ」
あまりに突拍子の無いミウの説明に、俺も柏木さんも拍子抜けだった。
「わたしは笑い話をしているのではありません。セリフデリート現象がなぜ起きたかです」
「私たちの時代にそんな現象は認識されてないわよ。でもあなたの言葉をそのまま信じたとします。でも二人が双子ではないと言う話に繋がらないわ」
ミウは一拍おいて俺と柏木さんを睨み返し、真剣に向き合った。
「理由は不明です。しかし理屈が通るのです。いいですか? 麻衣さんが麻由さんの過去を握ってるんです。つまり麻衣さんがどうにかなると、パスで繋がった麻由さんが消えるということは、時間的に麻衣さんは過去の人で、麻由さんは未来の人になります」
「だ……だめぇ。ますます解らないわ、日高さーん。二人は双子、同じ時間の人よ」
半笑いで柏木さんが立ち上がろうとするのを見て、イウが真顔で告げた。
「はっきり言ってやれよ、ミウ。こいう事例はよくあるとな」
いつもと異なるマジな口調なので、俺たちはドキッとした。
ガラスみたいに透き通った瞳を瞬かせて柏木さんは眼帯男を捉えたが、イウは逸らすことなく見つめて、しかも静かにうなずいた。
こいつら本気なんだ……とあらためて驚いた。
麻衣と麻由は同じ両親から生まれ、今日まで同じ環境で育て上げられ、性格はどうであれ瓜二つの姉妹が他人だと言うのか?
「他人だとは言っていません」とミウは言い返すが。
「ならもっと無茶苦茶じゃないか。こんなバカみたいな話のどこが理屈通りなんだよ」
俺の脳ミソが拒否権を発動。今にも停止しそうだ。柏木さんも同じ気分のようで、漆黒の瞳をパチクリさせて黙り込んでいる。なのにミウは話をやめようとしない。
「二人は時間のパスで繋がってるのです。過去と未来とに。それが16歳の少女だということは、彼女たちはここで死ぬような運命ではないということ。だからこそ、わたしと良子さんが助けるという別のパスが繋がっていたこと。それに気づかせてくれたのです」
「はぁ…………」
大きく溜め息を吐いた。この段階で意味不明だった。でも柏木さんは理解していた。
「時間のパスが繋がった二人が同じ世界に存在する。とくに珍しいことではないわよ。例えばお爺様と孫の関係がそうでしょ」
なるほどね。そういうことか。さすがは頭が切れる。超納得だな。
ミウもしっかりとうなずき、
「そのとおりですが、今回は同じ年齢であることが問題を複雑にしています。この現象がどのような時に起きるか、まず異時間同一体だった場合の話をさせてください」
柏木さんは瞬きを繰り返してうなずいた。科学者になると頭の構造が違うことを悟る。俺のはいよいよ麻痺状態さ。
「異時間同一体の二人が同じ場所に存在できる時間は、互いの時間の差に等しいのです。ただしこれは未来の人物が過去へ飛んだ時、という条件を加えさせていただきます。その逆は今の問題から逸れますので除外です」
この後の話はさらに難解になり俺の脳ミソは完全停止。仕方が無いので、いったん理解した柏木さんから噛んで含めるようにして聞いた話が次のようになる。
まず用語の説明をしておこう。
過去の人物と未来の人物が同一人物だった場合、これを異時間同一体と呼ぶ。これはこれでいいよな。
で、この二人が同じ時間帯に顔を合わせたとしよう。例えば一方が二日未来から来たとしたら、二人の時間差は二日だ。すると二人が一緒に存在できるのは二日が限度だと言う。
なぜなら、二日経つと未来の方は自分のいた時間に達するので過去に飛ばないといけないことになるだろ? だって二日後の未来から来たってことになってんだから飛ばないと時間規則に反する。だから二人が別々に存在できるのは二日が限度。ようするに二人の時間差が限度だと説明できる。
なるほどね……。
これを麻衣たちにあてはめるんだってさ。
するとこうなる。二人は16年間一緒に暮らすんだから、最低でも16年以上未来から来ていないといけないことになり、同じ年齢って言うわけにはいかない。しかもこの話、現実的には大きな間違いがあって異時間同一体は顔を合わせることができないのだ。感情サージと呼ばれる恐ろしい現象が起きる。
感情サージって言うのは、ここまでで何度もミウやイウが説明していたあれさ。過去の人物の感情が記憶を通して未来に伝わり、その人物が放出した表情がまた過去に伝わり、を永遠と繰り返して発狂するんだと。あとなんかややここしいことも言っていた。同じ自我を持つ生物は、一つしか存在できないという自然界の摂理があって、重複融合共振が起きるとか起きないとか。
そんな理由だから麻衣と麻由は異時間同一体ではあり得ないらしい。そんなこと長々と説明しなくったって、最初から分かってらい、って言いたいね。
で。ミウの本題はここからだった。
「昨日現れたイウの偽者のように、分岐した未来からきた人物というのもパスが繋がっていますが、それはリーパーに限っての話です。時間を飛べないお二人には関係のない話です。つまり、わたしの仮説というのは、残りのほう……」
柏木さんの綺麗な喉が上下に揺れたのを見て、俺はミウの話が結論に近づいたことを悟った。
「ウソでしょ……」
色の異なるミウの視線が、くぐもった声を漏らす柏木さんへと移動して静止した。そしてほんの少しの間を空けて、天地がひっくり返った。
「麻由さんは……麻衣さんが産んだ自身の子供です」
「あふぁぁぁ?」
気の抜けた炭酸水のフタを開けたような返事をして、俺は脳ミソを木端微塵に吹き飛ばされて椅子から転げ落ちた。
柏木さんも赤い唇を丸々とさせて呼気を止め、2秒後に息を吹き返して半笑。
「え? それがあなたの言うパスが繋がるという意味なの?」
「そうです。運悪く毒蜂に刺されましたが麻衣さんが存在できたからこそ、麻由さんを出産したのです。そして麻由さんが16年間生きていた。ということは、麻衣さんは蜂に刺されたが死ななかった。これが今回におけるパスの正体です」
「ぬぁ――っ!」
「ええ――っ!」
二人そろって叫んだ。あー叫ぶさ。そりゃそうだろ。
「み……ミウ。お前頭大丈夫か? 難しい事ばかり考えていておかしくなってないか? 麻由と麻衣は2302年5月10日生まれの双子なんだ。同い年だ。この意味解るだろ? 他に何がある」
柏木さんも白衣の裾を引っ張って座り直して真剣な声をあげる。
「その話は変よ。二人は教授のお子さんなの。私は小さなころから知っているし、小学校の二人と一緒に遊んだ仲よ。なにバカなところに着地してんのよ?」
それでもミウは淡々と続ける。
「産まれた、そのときはどうです?」
「そ……それは。写真を見せてもらっただけよ」
と言ってから、
「あ、そうだ。レッドカード取得時に親子のDNA鑑定をする規定になってるわ。その時に判別されるはず……」
ところが柏木さんはついと言葉を閉じ、一拍ほど間を空けてから言い直した。
「だめだ、これだと確実な証拠にならない。レッドカードに登録されたDNA情報は本人がどこの誰かを鑑定するだけのものだから、日高さんの仮説通りだと麻由から見て祖父母となる教授夫妻の遺伝子も混ざってるわ」
「それって……どういうことですか?」
ほんと、俺の頭って回転悪いな。
柏木さんは俺に振り向いて説明する。
「ご両親の遺伝情報が麻衣にも麻由にも混ざっているから、誰が見ても教授の子供だと判定されちゃうわけよ」
ミウも力強くうなずく。
「そのとおりです。川村家の血筋を受け継ぐ麻衣さんですので、麻由さんにも遺伝されています」
「い、いや。それは……」
慌てる俺だが、ミウは揺るぎない。
「親子がそっくり似ることは不思議でも何でもありません。ただ、親と子、年齢という時間的な差があるために、普通は区別がつきます。でも、親と同時次期に産まれたその子が同じ時間を経て成長した場合、果たしてどちらが親で、また子だと判別がつくでしょうか?」
親と同時に産まれたその子供?
口を開きすぎて顎が外れそうだ。なんだそりゃ?
「日高さん? 本気なの?」
「ご両親に尋ねれば簡単なことですが、それができないのが残念ですわ」
「お前、マジで言ってんのか?」
「わたしは真剣です。そうでないと今回の現象の説明がつきません。麻由さんは、麻衣さんから産まれた直後に何らかの理由で、過去の麻衣さんが誕生する時間に移されて、一緒に育てられたのです」
ゴーグルの奥から射貫いてくる視線は尖った刃物のようで、まったく微動だにしない自信が満ちていた。
その姿を見て俺は脳天からぶった切られたような衝撃を受けた。
普通なら一笑して済ませる話なのに、俺の前に並んだ三人組は時間を自由に飛ぶことができる特殊な人たちなのだ。その実態を何度も目の当たりにしている以上、連中の口から出たセリフを『バカ』のひと言では払拭できない。
柏木さんは一人ぶつぶつと唱えだした。
「日高さんの仮説によれば、麻衣は麻由を産むまで生きていたことになる。だから16歳の少女であるこの時間域の麻衣は死なないと言い切れた。それで日高さんは気づいた。この難局を助けた人がいると…………それが私とあなたなのね」
「そのとおりです。良子さん」
しかし柏木さんは首を振る。
「理屈は通るけど……そんなこと有り得ないわ」
柏木さんは見開いていた瞳を瞬かさせると、静かに険しい表情に戻して、
「じゃあさ、麻衣と……。誰の子だと言うの!」
最も恐れていた質問を口にする柏木さんの唇の動きを俺はじっと睨んだ。
誰の子だと言うの!
柏木さんの発したフレーズが頭の中でリフレインする。
今のは死刑宣告を突き付けられたにも等しい。
ずっと隠し持っていた俺の気持ちが木っ端微塵だ。麻衣も麻由も俺から遠くへ離れたように感じた。
喉がカラカラになり、力の抜けた俺の脚は自らを支えきれず、ぶるぶる震える。強く唇を噛むことでその場を耐え忍んだ。
じっとミウの返事を待つが、何も回答しない沈黙が不気味だった。
だ、誰の子だと言うんだ。
まだ耳にこびりついている。
胃が痛くなってきた。
「修一さんはこの仮説をどう思われます?」
「ふへ?」
やっと口を開いたミウの言葉に対して とんでもなく変な声が出た。
「麻衣さんの夫となる人の影が麻由さんから見て取れるんではありませんか?」
「な……なにを言い出すかと思ったら……」
ワザとらしく鼻から息を吹いた。だが内心は鼓動を跳ね上げていた。心の奥底に仕舞い込んであった大切な物を射抜かれた気分さ。麻由からだけ受ける強い庇護心。この強い感情があるから俺だけは麻衣と麻由を見分けられる。
じわじわと湧き上がってきた感情を俺はさっと拭い去った。
「そんなものが分かるはずないだろ」
「あなたは麻衣さんと一緒になる気は無いのですか?」
ドガンッ。
「あだだっ!」
座席の背もたれにすがってかろうじて立っていたので、思わずバランスを崩して椅子と一緒にひっくり返った。
慌てて椅子の背を起こして手を振る。
「無い無い。俺と麻衣は従業員と雇い主の関係だ。いっつも喧嘩ばかりしてるだろ。あれが正体さ。よくそんなくだらんことを言ってくれるよな」
真剣な顔してそんなことを言われると現実を思って滅入る。
麻衣が好きなのは俺の本心さ。間違いはない。でもそれは願いであって現実は異なるだろ。たぶん……。きっと俺ではない別の人。そうだな、科学者みたいに明晰な人と一緒になるんじゃないかな。そしたら子供だって授かる。これが現実さ………。
(修ぅ! 夢を掴んだら死んでも放すんじゃねえ!)
忽然と頭の片隅で親父の声がした。
初めて麻衣と麻由を家へ呼んだ時、親父にそう言われた。
あの頃の二人は貧乏のどん底で、生活費すべてをガーデンハンターにつぎ込んでいて、昼飯代も無くて二人は昼休みそろって腕立て伏せをして時間を潰していた。しかも笑ってな。あの姿に俺は心打たれた。何とかしてやりたい一心で家へ呼んだ時に、あのバカ親父に尋ねられた。オマエは二人に何をしてやりたいんだと、ただの慰めならこれを最後にやめろって言われた。だけど俺は本気だと答え、二人を幸せにしてやるのが俺の最終目的だと断言したら、親父からそう告げられて言葉を失った。
こんな時にバカ親父の言葉が浮かんでくるなんて……。
冷や汗が吹き出し、手のひらがびっしょりだ。
黙り込んでしまった俺を前にして、ミウはしっかりとした声で言う。
「修一さんを困らせるつもりはいささかもありません。いえ。私の仮説には続きがあるんです」
「な、な、何だよ?」
もう怖くってしどろもどろさ。
「麻衣さんと比べて麻由さんの手先の器用さは、少し突出しすぎてる気がしませんか?」
「うっ!」
昔から俺も感じていた事をミウは突いてきた。
麻衣と麻由の外面的な違いはそこなのだ。
麻由のほうが明らかに手先が器用だ。ナイフを握らせれば右に出る者はいない。麻衣は度胸こそあるが、そこまで器用だとは言えない。双子ってそんなもんだと言われればそれまでだが、どうも腑に落ちなかった部分ではある。
おっと。よく考えたら、これはミウの仮説だった。真実を語ったわけではない。
こういうのは洗脳って言うヤツじゃないのか。危なくミウの術に落ちるところだった。
「あははは。ミウおもしろいなぁ。もう少しでお前らの冗談を真に受けるところだった」
マジでバカらしくなった。これは何の話し合いだ?
「麻衣と麻由が元気になった。これでお終いさ。あーよかった。また明日から平穏な毎日がやって来る。さぁ。ミウ。飯にしよう。もう夕方だろう。今日の当番は誰だ? 俺か。さてじゃ晩飯は何にするかな? ガウロパ、リクエストあるだろ?」
ガウロパはとても優しい眼差しで俺の視線を受け止めてくれた。
「えっ? 何だその表情」
超困った。この後の行動がとれない。
お前らマジなのか?
ミウはゴーグルの奥から真剣な面持ちで瞬きを繰り返す双眸を覗かせ、イウも俺の様子をじっと探って動かないでいる。
戸惑った。
激しく戸惑って、俺は頭を抱え込んでしまった。麻由の中に別人の存在がもし現れたとしたら、それが麻衣の配偶者、『夫』となるべき人物なんだ。
明日からどんな顔して麻由と接すればいいんだ。
目の前が暗くなった。これまでの思いが入り乱れ騒然とする。上手く考えがまとまらない。
「あ――っ」
もう一つ重要なことを思い出して背筋が震えだした。
あの時。そう宝来峡の研究所でアヌビスから暗号化ファイルを抜き出す時さ。
ランちゃんは俺をキーパーソンだと言った。
それは柏木さんだ、と俺が言い返したら、そうでないと今回のタイムパラドックスが崩壊するとまで言ったんだ。
言ったっけ?
言ったような気がする。
言うワケないだろ。相手は人工知能だぞ。
ランちゃんは特別なんだ。
頭の中で別人格が現れて葛藤する。
もしかして……。
妙な期待感と戸惑いとほんの少しの恐怖が滲み出た。
麻衣と俺が一緒になって……麻由が生まれた……。
大きくかぶりを振る。
何を勝手に都合のいいほうへ逸らすんだ。バカか俺は!
俺は乾いた声でもう一度断言する。
「お前ら頭おかしいぞ!」
ミウはそれでも言い続けた。
「先ほどの現象は母親になるべき麻衣さんがアナフィラキシーショックで死に直面したため、これから産まれるべき麻由さんの存在が希薄になったのです!」
「バカなこと言うな! 麻由と麻衣は双子だ! それ以外のなんでもない。この話はこれで終わりにしてくれ!」
憤然とする俺を見て、ミウは両手の拳を硬く握りプルプルと震わせ、イウは言い聞かせるように、そして静かに言う。
「修一……。オレもミウの説明が一番しっくり来る。間違っていないと思う」
「やめろ! 麻由が麻衣の子供だなんて言われて、へぇそうなんだと返せるほど俺は二人を軽く見ていない。この気持ちどうしてくれるんだ。麻由が大好きだという気持ちはどうしてくれるんだ!」
あぁぁ――言っちまった。
一世一代の告白にミウが止めを刺す。
「それは自分の娘だからですよ。恋愛ではなく慈愛です」
「ば、バカな!」
とミウに突っ返すのが精一杯。またもや脳裏を突かれた。
「ミウ……。とりあえず今日はこれでやめよう。それが真実かどうかは、もう少し先送りしてくれ。でないと、俺……。平常心を保てる自信がない」
限界だった。頭がショートしそうだ。
柏木さんがパンパンと音を出して手を叩いた。
「やめよう日高さん。とにかくこの話は保留にしましょう。今重要なのは麻衣は命拾いした。それから麻由は心配で気を失った。これでいいじゃない。時が進めば真実が見えてきます」
柏木さんは強制的に話を打ち切らせ、ミウもその言葉に素直に引き下がった。
「――ですわね。時空震はもう少し先です。嵐はこれからやって来るのです」
俺はくたくたに疲れていた。晩飯も喉に通るかどうかあやしいもんだ。
「修一。晩飯はオレとガウロパが作るぜ。オマエはちょっと休んどけ」
「そ……そうでござる。拙者が好物を作ろう。お主は何が好きじゃ?」
二人の心遣いに涙が出そうだった。




