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人形狂想曲  作者: オーメル


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第九十九話 Z44

 街の外に出てから、敵の襲撃はまったく無かった。

 既に長野の指揮官殿から通達が来て止められたのだろう。あるいは、まだ近くに街があるから襲わずに周囲を見ているだけなのか。

 PM9から周囲には依然として多数の反応が残っている事が既に伝えられている。

 彩が未だ機嫌を元に戻さないので仕方なくPM9が率先して話す係となっているが、それ自体本来はしたくなかったことだろう。PM9は彩の今の状態に困惑を隠せない。

 此方と話しながら何回も彼女は彩に視線を向け、当の本人は無言を貫いている。

 彼女が依然として機嫌を元に戻さないのは、一重に軍との関係を完全に断ち切れなかったからだろう。あの時の通話によって断ち切れれば、俺に謝罪をしながらも晴々しい表情をしていたに違いない。


「気持ちは解るが、あまりに性急が過ぎるぞ」

 

「……ですが、今回の出来事で解ったのです。軍に良心があったとしても誰かを軽視するのは止めないのだと」


 彼女の肩を叩いて注意と慰めの言葉を送るものの、彼女の言葉には仄暗い感情が籠っている。

 そうなったのも自然だ。此方が勝手に期待してしまったのもあるが、それでも何も言わずに試されるのは気分の良いものではない。それが質の悪いドッキリのようなものであれば軍嫌いの彼女が加速するのも当たり前である。

 最初に彼女の電話を聞いた時から気持ちは解るが性急過ぎると思っていたものの、気落ちするのは俺も一緒だ。そして俺達が苦い気持ちを抱いている光景見ている所為でワシズやシミズの軍に対する印象もよろしくない。

 PM9も決してフォローせず、この場には本当に軍に対する嫌悪感が漂っていた。

 だが、最高戦力を保有しているのも事実。迂闊に断ち切っては長野の指揮官殿が暴走しないとも限らない。

 ここはゆっくりと距離を取っていき、空気のように何時の間にか消えているのがベストだろう。あの指揮官殿がそう簡単に忘れてくれるのかとも思うが、そうしなければまた何度厄介な目に合うかも解らない。


「それにしても、新規ボディか……」


「まだ調査段階のようだがな。だが、俺もそちらには興味がある」


 PM9が話題転換を起こす為に放った呟きに俺も便乗する。

 当のPM9は此方を呆れたように見ていたが、何時までもこの空気のままではいたくないと彼女も思ったのだろう。

 何も言わずにその話題に乗っかり、俺も素直な疑問をPM9にぶつけていく。

 従来の性能よりも遥かに高い新規ボディは今の戦場を更に有利に持っていく事が出来るだろう。効率の面でも良くなるのは間違いなく、旧来のボディが勝てる確率は一気に低くなる。

 彩も更新をしなければ勝てる確率は低いままだ。その意味では今回の取引は心象を抜きにすれば決して悪いものではない。

 逆に此方にとっても有利に働くものであり、されど相応にデメリットも存在する。


 それが俺達の逃走の原因となったマキナだ。彼等が造ったボディであるならば、それは警戒しない訳にはいかない。

 軍側で調べるのは当然として、俺達も独自に調べる必要もある。それをするのは俺達側の三名のデウスであるが、視覚から見える範囲で俺も確り確認するつもりだ。

 軍側の調べは正直に言って信用出来ない。恐らく本当に存在すればスペック表も貰えるのかもしれないが、もしも貰えないのであれば更新そのものを断念する必要も出てくる。

 怪しい技術に手を出せば大抵の場合はしっぺ返しが来るものだ。特に今回の場合は俺だけが被害を受ける訳じゃない。逆に彩達の方が被害を受ける側であり、それを考えると彼女の提案には不安が残る。


「PM9もやっぱり欲しいか?」


「それはそうだろう。どの程度の強化が見込めるかは不明だが、相手の指揮官の言葉通りなら継戦時間も遥かに伸びる。長時間戦い続けるにはその新規ボディは必須だ」


「私達としても軍に対抗するには新規ボディは欠かせません。情報通りのスペックならば更新はさっさと済ませるに限ります。恐らくはその新規ボディも優秀な指揮官のみに優先配備する代物なのでしょう」


 彩も混じった新規ボディの話はその後も続く。

 陰鬱な雰囲気は俺達には似合わない。真剣に、そして柔らかく、自然体のままに進むのが俺達だ。

 襲撃の気配は未だ無い。既に大分街から離れたものの、どうやらデウスからの襲撃は完全に鳴りを潜めたと考えても良いだろう。

 彩に状況を確かめると、徐々に徐々にとデウスが下がっているそうだ。反応が消えた者も多く、このまま完全に居なくなるのも時間の問題だろう。

 せめて岐阜側からも謝罪の一言が欲しかったが、直接のやり取りはまだ無い。だから謝罪をする気は無いと言われればそれまでである。同時に俺達もそんな者達とは関わり合う気は皆無だ。

 

 ――彩が別の反応を捉えたと俺に告げる。

 デウスの反応ではなく、その種類は上空を移動しているそうだ。ゆっくりと此方に近付いてくる事から軍用ヘリだと彼女達は決め込み、実際に目視出来る範囲内に見えたのは胴の長いヘリだった。

 深緑で染められたヘリが俺達の近くにまで進み、そのまま地面に向かって高度を下げていく。

 扉には日本軍特有の日の丸マークが刻まれているので日本軍なのは間違いない。今までの流れから察するとして、相手は長野か岐阜だろう。

 電話をしてからまだ数時間程度であるものの、相手は非常に速い。

 距離から察するとしては岐阜の基地から考えるのが自然だ。とすると、相手は岐阜の指揮官殿だろうか。


 銃を構えたまま相手が降りてくるのをそのまま待つ。

 風を巻き起こしながら着陸したヘリは無事に停止し、扉がゆっくりと開かれた。

 中から現れたのは年若い青年とも言える存在だ。細身の姿からはとても実力者には見えず、しかし非常に顔が良い。

 普段からデウスが抜群の見た目をしているのは知っていたが、目の前の存在はそれ以上だ。物語に出てくる王子フェイスとも言える美男子は、此方に向かって明らかに営業用の笑みを浮かべていた。


「や、久し振りだねZO-1」


「何の用だ、Z44」


 彩の言葉によって相手がこれまで俺達を苦しめた一因であるZ44だと解ったが、見た目だけではどうしてもあんな真似をしたようには見えない。

 ある意味ギャップであるものの、このギャップは決して良い方ではないだろう。

 現にPM9も良い表情をしていない。これが元々の関係ならば別だが、少なくとも両者の間に溝があるのは確実である。

 中から出てきたのはZ44だけだ。操縦は自動で行ったようであり、操縦席には誰も居ない。

 軍は最先端の技術を保有している。なので自動化そのものにはまったく気にならない。一番気になるのはZ44だけが此処に来ている理由だ。

 

「僕の所の指揮官が謝罪をしたいようでね。連れて来てくれって言われたんだ。僕だけなのは他に関与しているのが居ないからだね」


「謝罪等不要だ。最早関わりたくもない」


「解っているよZO-1。だが、実際君の情報は懐疑的だったのは事実だ。君とて同じ立場であれば似たような手段を使って確かめようとしただろ?」


「確かにそうだが、少なくとも事前に情報は伝達する。貴様のような真似などするものかよ」


「そうか。それなら悪い事をしてしまったな、改めて謝罪しよう。申し訳なかった」


 Z44は素直に頭を下げるが、非常に胡散臭い。本人に反省の意志を感じられず、恐らく二回目があれば何の戸惑いも無く行うだろう。

 彩達もそれを感じているのかZ44の姿に鋭い目を向けていた。彩にいたっては嫌悪感を露骨に表に出している。

 これでは何があっても彩の心象が改善することはないだろう。そして、Z44も自身の姿勢を直す事も無いように思える。

 

「――さて、それじゃあこっちに来てくれ。君のボディのメンテについても話がある。一度は基地に出向いてもらわなければならないのは君だって解っているだろう。後、PM9についても話がある。どうして此処に居るのかとかね」


 頭を上げたZ44は先程の彩達の言葉など最初から聞いていないかのように言葉を並べる。

 その全てが正論であるのは言うまでもない。基地でメンテはするものであり、PM9も正式な命令書を提出しないと怪しい存在として拘留されかねない。

 Z44は何処か選択があるように匂わせているが、実際は選択肢など存在しないのだ。――故に俺達は嫌悪を抱きながらもヘリの中へと入って行った。

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