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人形狂想曲  作者: オーメル


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第九十七話 困惑と現状

「もしもし、聞こえますか?」


 真夜中の街の内部。

 彩に抱えてもらったまま走った俺達は襲い掛かるデウスの群れを撃破しながら最速で街に入った。

 既に撃破数は彩曰く二十を超え、されど増援そのものは完全に消えてはいない。県内部のほぼ全てのデウスが俺達の元に殺到しているのだから当然だが、それでも減っているように見えない状況は俺達にとって非常に不味い。

 撃破した時に相手のデウスから武器を強奪して弾薬問題を解決してきたものの、このまま数が増えていけば銃だけでは対処しきれないだろう。

 そうなる前に少なくとも情報を手にしなければならない。そして、それをする為にも俺は敢えての接触を選んだ。

 選択する番号は大尉のモノ――ではない。

 確かに安全性を考えるならば大尉に電話をすべきだ。けれども、俺は敢えて危険に飛び込む事を選択した。

 この電話によって相手は此方に位置を確実に手に入れる事が出来る。それが解っているからこそ街に入り、デウス達の接近を牽制した。

 

 真夜中の街は非常に静かだ。今ならば多少デウスが入ってきたとしても然程問題にはならないだろう。 

 だが、それでも真夜中で銃撃戦を街で起こす事は出来ない。この時勢では銃撃一発でも民衆が騒ぎ出す。この街にだって警察は居るのだ。そちらが警備を厳重にしていれば組織的騒動は避けられない。

 デウスに対する評価よりも軍の評価そのものが低下するのは確実である。故に位置が解っていてもこの街に入ってから襲撃の気配は一度として無かった。

 まだ包囲の選択肢が残っているので油断は出来ない。速攻で此処を抜け出す必要があるし、逆に此処に閉じ籠っていれば軍側が警察に要請して俺達を捕まえようとするだろう。

 此処は一時的に平和なだけだ。だからこそ迂遠な道を選ばず、最短ルートを選んで長野の指揮官殿に電話した。

 この時間に電話をするなど甚だ失礼極まりない。もしかすれば既に就寝している可能性があるが、あの時の思考が正解であれば確実に起きている筈だ。


『――聞こえている。どうした』


 果たして、通話は繋がった。

 本人に眠たげな色は無く、その声音は非常に冷静だ。若干声を潜めているのは他の者達にこの電話を覚られたくない為か。深夜に電話をするような相手が居るなんて、確かに怪しまれるだろう。

 しかしながら、此方はそちらの道理に付き合うつもりはない。最初の時であれば失礼だと電話を選ばなかったが、もしも手を組んで行っていれば敵対も確定だ。

 

「単刀直入にお聞きします。岐阜の指揮官殿とどのような取引をしたのですか」


『取引?……一体何のことだ?』


 今の俺達は歩いている。彩達はスキャンをしながら俺と指揮官殿の会話に耳を立て、その全てを記録していた。

 不審な情報を一片でも漏れれば彼女達が必ず拾う。相手はそれを最初から理解している筈なのに、それでもはぐらかす言葉を吐いた。

 それだけで俺の信用度は落ちたものの、まだ会話して数秒だ。これだけで決定打と決める訳にはいかない。

 湧き出した怒りを今は胸に鎮め、努めて冷静さを保ちながら現時点で手に入った情報を伝える。

 相手が指揮官殿が決めたルートに突如として出現した事。相手の装備の充実具合。纏めてしまえばたった二つであるものの、それでも怪しさの漂う内容だけだ。

 それにこの街を目指してからの相手の速さも違っていた。ルート上に突如として出現した際には焦ったものの、それ以降は全てスキャン範囲外から範囲内への移動による出現だ。

 

 増援による出現であると緊急時にはまともに考えられなかったが、今ならばそれはおかしい事である。

 完全に潜んでいたのだから同様に複数の部隊を潜ませておくことも可能だろう。進行ルートに無数に部隊を隠していれば奇襲も容易であり、それが外れたからこそデウス達は大慌てで移動してきたと推測する事が出来る。

 しかしそうするには俺達や長野の指揮官殿が持っているルートの情報が必要不可欠。手に入れるには俺達から情報を盗むか、指揮官殿と内通していなければならない。

 万が一に指揮官殿の所から盗む線も無いではないが、軍人がそんな簡単に盗ませるような場所に情報を隠すだろうか。

 これが只の紙媒体であれば金庫等に隠す事も出来るので突破は簡単だ。データとてデウスであればプロテクトを掛けても比較的容易に引き出してみせるだろう。


 情報不足が多い事は否めない。けれども、長野の指揮官殿は先の電話で明確に岐阜の指揮官殿と繋がっている事を話していた。

 そこで突き崩せるかは解らない。そもそも誰かを責めるなんて苦手なのだ。

 言うべき内容は言い切り、相手側の反応を待つ。電話先では暫くの間沈黙が続き、何かを思案しているような雰囲気を感じる。それがどういった意味での沈黙なのかは解らないが、俺からは更に言葉を並べる他に無い。

 

「襲撃を仕掛けて来た者達は殺傷を是とする気で手榴弾等も保有していました。もしもこれが貴方と繋がった事による結果ならば、残念ながら我々は貴方達を敵と認識するしかありません」


『――待て。手榴弾だと?』


「そうです。……今の発言、やはり何かありますね?」


『……流石にこれ以上は止めるべきか。よし、事情を説明しよう』


 最初の惚け具合とは一転して、いきなり長野の指揮官殿は真剣な声音で俺の言葉に答える。

 やはり長野の指揮官殿が関係していた。それを知っても素直に嬉しくは無く、隣の彩は俺の持つ端末に鋭い目を向けている。もしも目の前に指揮官殿が居れば彼女は射殺していただろう。

 しかし、少々予想とは違う言葉だった。向こうにも何か俺達の話せない理由があったのだろうと思いつつ、相手の言葉を聞く。

 今回、俺達の存在によって長野の指揮官殿は明確に人とデウスは共存出来ると思ったらしい。

 それについてはF12も同意であり、他にも上下関係はあっても険悪になっていない指揮官殿も居るとのこと。そんな指揮官殿と繋がりを作ろうとして、岐阜の指揮官殿に辿り着いたそうだ。

 

 互いに言葉を交わす度に意見が合致し、最終的には二人で酒を飲むような仲に。十席同盟のメンバーが在籍しているのも長野側にとってはベストな状況であったそうで、その後も何回か秘密裏に連絡を交わし合って俺の事を話したそうだ。

 結果的には岐阜側は感激していたそうで、それが真実であれば是非会ってみたいとのことらしい。

 けれども、岐阜側に疑いがあったのは事実だ。その言葉だけでは真実であるとは思えないし、長野側がマキナも含めた情報を渡しても確信にまでは至らなかった。


『私は尋ねたよ。ならば、どうすれば信じてくれるのかとね。それに対する答えとしては、追い込むだった』


 俺達を窮地に追い込み。その時の反応で真実か否かを確かめる。

 それが真実であるならば良し。否であるならば俺達に関わらず、そのままマキナを潰す事だけを考える。

 つまり今回の一件については全て演技であり、相手側は俺達を殺すつもりはないのだそうだ。そして、この一件にはZ44も一枚噛んでいるらしい。

 

『君には悪い事をしたと思っている。出来るならば情報を伝えたかったが、それでは追い込めないと岐阜側から塞がれていた。……私も他に味方が欲しかったのだ』

 

 言い訳だな、と締め括った指揮官殿。

 そこには確かに謝罪の意思があったし、言っている内容も決して間違いであるとは思わない。

 人は一人では生きられないのだから、誰かと繋がろうとするのは自然なことだ。ただそれでも、俺の心の中には何とも言えない感情が渦を巻いていた。

 怒りたい気持ちはある。悲しむ気持ちもある。そのまま許したい気持ちだって嘘ではない。

 されど、それらが全て混ざって何も言えない。もうじき街の外に出てしまうというのに、次の言葉が中々出てこなかったのだ。

 ――だからなのか、そんな俺の様子を見ていた彩が端末を奪い取り耳に当てた。

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