第九十六話 真道
新しいルートは以前のルートと比較すると安全度は高くなる。
街に近付いていくのだから安全度は自然と高くなり、同時にデウスの発見率も加速度的に増していく。
だがその発見率も最早気にする必要も無い。隣では彩が時折背後を振り向きながら俺の速度に合わせて走ってくれている。
PM9達も同様だ。全員が集合して俺に合わせてくれたお蔭で置いて行かれる事は無かったが、実際の進行スピードはこれでガタ落ちになっている。全員が武器を持っている関係上、そうなるのは仕方がない。
既に最初に来ていた部隊は四肢を破壊する事でこれ以上の接近を避ける事が出来た。次の敵は西南から来ていたデウス達であるが、他にも反応は既に出ている。
その数は彩曰く六十五機。とてもではないが俺達に対して過剰過ぎる戦力投入だ。
まるで指名手配犯になった気分を感じつつも、捕まらない為には全力で県外にまで逃げる必要がある。他の県に移動すれば管轄する基地も変わるし、此方の事情をあちらが隠すつもりであれば迂闊に話も通せない。
それによって時間は稼げる。逃走用の時間は非常に貴重だ。
何かをするにしても相応に時間が必要で、現状においてそうするには無理矢理な突破だけ。不意に巡ってきた思考がまさかの正解を引き当ててしまった事はまったく嬉しくなく、あるのは只の怒りだけだ。
岐阜県内における自然の占める割合は僅かに一割程度。けれどもその一割の範囲は非常に広大であり、人間が特定の個人を捜索するには非常に困難極まりない。
それをデウスのスキャンで解決したのは当然と言えば当然だが、そうするにしてもスキャン範囲拡大の装備を全員が使うのは不自然だ。
北海道の事情も合わせ、如何なる装備も優先的に北海道側に回される筈。それにも関わらずに三桁にまで及ぶだろう装備を用意したのは異常極まりない。
何処か別の基地からも支援が無ければ有り得ず、その繋がりに関しては宛が複数ある。
「……彩、どう思う」
「唐突過ぎます。確かに街には比較的近い位置に居ましたが、それでもピンポイントで一小隊が近くに居たのは違和感が強いです」
「これは意図的なもの。つまりはそう言いたいんだよな?」
「はい、それも長野側と岐阜側が手を組んでいる可能性があります。……それに」
岐阜と長野が手を組んだ。それは考えられる要素であり、加えて他にも繋がっている可能性のある場所も存在する。
恐らくは彩も同じ考えを持っているだろう。十席同盟であれば一部が協力することも吝かではないだろうし、それによって各種装備を揃えたと考える事は可能だ。
であれば、俺達は結局軍に裏切られた事になる。それは俺にとって結構な衝撃であるものの、まだ明確な証拠を掴めていない所為で半信半疑といった想いの方が大きい。
それを確認しなければ全面的に悪であると断ずる事は出来ない。そして、確認手段はある。
端末には長野指揮官殿の番号の他に大尉殿の番号もあるのだ。そこから協力を仰ぐ事も出来るかもしれないが、大尉殿も敵であればどうしようもない。
「PM9……今回の突然の襲撃について、お前達が関与している事は?」
「無い無い。例えしていてもZ44の独断だろうな。一応言っておくが、装備の貸し借りは今は無理だ。何処の基地も余裕があるって訳じゃない。あの装備をあれだけ用意出来たのは最初から索敵に力を入れていたからだろうさ……表側の人間ならばね」
「――意味深な答えに感謝するよ」
表側の人間。つまりは軍人として普通の業務のみを行っている人間であれば予算を組む際に地道に索敵力を強化していたのだろうが、裏側であれば俺達の思っていた通りの事が秘密裏に行われている。
十席同盟ならばそんな機会に遭遇する事も一度や二度ではないだろう。だからこそ、十席同盟として関与していればPM9も気付く。そして、そんなPM9が気付いていないのであれば関与の確率は低い。
Z44の独断。その線も加味する必要がある訳だ。
どちらにせよ今は岐阜の基地に深くは関われない。再度軍からの逃走も含め、考える必要が出てくる。
「新しい反応が出ました。残り五分で接敵。数は十」
「また隠れていたのかよッ」
「少数メンバーで撃破するぞ。我々が先行で突撃する」
「了解。ではPM9達が先頭を進み、我々はこの速度を維持します」
チームとしては現状二つだ。なので一時的にチームを分離し、PM9達を先行させる。
彼女の使用武器はHG。他にも武器があるのだろうが、表に出している装備は基本的にその一丁だけだ。
戦闘方法は結局見ていないのでどんな感じなのかは不明なまま。されど装甲持ちを短時間で潰すあたりにPM9の強さを感じる。
他の者達も尽力しただろうが、それでも一番戦闘に対して意欲を感じているのはPM9だ。
戦いに対する強烈な欲はそのまま戦闘力に変換する事も可能だろう。実績もあるし、相手にしたくないという意味では間違いなくPM9は当て嵌まる。
早速とばかりにPM9達は前へと進む。
ぬかるんだ土ではないのは有難い事だ。相手にとってもプラスだろうが、俺達にとってもプラスに働いている。
だが相手は新しい反応なのである。つまりは六十五機の適性反応はそのまま残っている訳で、碌に隠していない俺達では追うのも難しくはない。
真正面から対抗するのは絶対に避けなければならないのだ。とくれば、やはり県越えは必要だ。
その為に敢えて街中に入るのも考えとしては有りである。他人を巻き込む事にもなるが、街に接近する人数が減るだけでも俺達にとっては非常に助かる事だ。
「相手の数が多過ぎる。このままだと追いつかれるのも確実だ。一般人には悪いがルート途中の街に入り込もう」
「ならばPM9が撃破したのと同時に速度を上げます。シミズ、ワシズ、二人で対空を」
「了解!」
「解った」
横の森では銃撃音と爆音が鳴っている。既に爆発物も使用許可が入っているあたり、俺達を殺す事も念頭に入れていると見るのが妥当だろう。
本格的に此方に攻撃を仕掛けるつもりなのだ。それが指揮官の意向から外れている事を願うが、派手に爆発音を響かせているあたりその願いはまったく意味が無いだろう。
走り続けて十分。此方に接近させないように戦い続けてくれたお蔭か彩から十機全滅の報告を聞くまで敵の姿を見る事は無かった。森の木々を飛び越えるように現れたPM9に怪我らしい怪我は見えない。
逆に三人のデウスは僅かに服等が焦げているものの、それでもダメージとしては極めて軽微。PM9曰くあんまり練度は高くないとのこと。
PM9を十割とすると今回襲撃を行ったデウスは三割程度。具体的な数値にしてもPM9の全力を知らない身としては何ともコメントし辛く、けれどもそれを彩に当て嵌めればある程度は掴める。
「彩なら何割だと思う」
「二割です。私はPM9よりは強いのですので」
「あ?なんだって?もういっぺん言ってみてくれよZO-1」
「事実だろう?二百戦中百九十五勝がそれを示しているぞ」
「馬っ鹿野郎、あんなのは只の模擬戦だろうが。本気の殺し合いだったら私の方が上なんだよ……信次、お前もその辺は理解しとけよ」
「OK……一先ず対等だとは理解した」
理解してねぇじゃねぇか!というPM9の言葉は無視して、合流した俺達は今後の予定を軽めに説明して一気に彩に抱えられる。
そのまま一気に加速を始め、目指すべき街へと全て無視して移動を開始した。
理解のある軍人である事を願いながらも、抱えられたままズボンに入れていた端末を掴む。街に到着と同時に確認もしなければならない。
浮かんだ番号は既に決まっていた。
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