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人形狂想曲  作者: オーメル


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第九十四話 目的意識

 俺達は何の為にこの旅をしているのか。

 一つは逃走そのものが理由だ。俺達が逃げるだけでマキナ関連の情報は常に流出することになる。焦っているマキナ側が俺達を必死に追っているかどうかは定かではないものの、既に流出は軍内部にまで広がった。

 隠し続けていた計画は彩の脱走と俺達の逃走によって密かに軍に浸透していき、最終的に名のある者達にまで届いている。

 それによって施設の破壊は始まり、同時に情報の収集も開始された。もう俺達を追う事は不可能であり、暫くの間は軍に捕まらないように隠れる必要が出てくるだろう。

 最終的にマキナ計画の全てが消えてくれれば俺達が逃げる必要も無くなる。その時になって俺達の旅は終わり、彩達とは別れることになるのだ。

 現状は緊急なので一緒に居られているものの、こんな状態が何時までも続く筈がない。どれだけ彩が否定したとしても、定められた法を無視すれば相応の罰がやってくる。

 幸せは何時までも続かない。それを知っているらこそ、俺は無難を選択するのだ。今宵の別れとならないのだから、端末でやり取りするくらいは出来る。


「やっと此処まで付いたかぁ……」


「最後のポイントに到着。PM9、お前達の部下と一緒にスキャンを」


「解ってるよ。さっさと行くぞ」


 最後の別れ道。

 高低差の激しい複数の崖を降りきり、人一人が通れる程度の細道を進み、服や肌を汚しながらやっと到着した。

 最初の行き辛さのお蔭か今度はストレスがあまり溜まらなかったものの、疲れない筈も無い。今直ぐにでも座り込みたい気持ちを抑えてスキャンが終わるのを待つ。

 今度の場所は丘の上だ。脇には滑る事が出来そうな乾いた坂道が存在し、そこから下に向かって進めば長野の指揮官殿が示してくれたルートと同一になる。俺達の決めたルートを進むのならば暫く脇道を進み、途中にある細道を通って街の傍を抜ける形だ。

 どれだけ速く到着しても此処で一日を過ごす。そう決めていただけに未だ陽の昇っている現状は勿体なさを感じるものだが、今更変えるなんて真似は出来ない。

 決定権は相変わらず俺が持っているままだ。PM9達に関しては俺達に付いて来ているだけであり、此方の決めた内容について従っている訳では無い。

 

 兎に角、相手が近付いているかを待つ必要がある。

 そのまま三十分は何時でも逃げられるように警戒していたが、全員が戻って問題無しだと告げられた。

 ただし、PM9の件がある。隠れているデウスが居る可能性もある以上はデウス組の警戒以外にも何か別の原始的な警戒装置を作る必要がある。

 思いつくのは鳴子だ。鳴らす道具の案としては缶詰があるが、時間経過による劣化が無い所為で気付かれるのは確実。となれば、次に使えるのは木材くらいだろう。

 幸い周辺には枝くらいなら大量にある。それを組み合わせれば探知にも引っかからない原始的な鳴子を作り上げるのも不可能ではない。

 ただ、音を拾えるかどうかは俺には無理だ。よっぽど離れた場所に仕掛けなければ相手も警戒するだろうし、俺達が動いても間に合わないかもしれない。

 

「……あ、落とし穴も良いな」


 他に原始的な方法は何かないか考え、落とし穴も候補として挙がった。

 相手はブースターを活用するかもしれないが、それならば彩達が解る。即座に隠れるか迎撃の構えを見せれば奇襲を許す事も無いだろう。

 逆に発見されるのを恐れて地面を歩くのであればこっちのもの。早速警戒用に落とし穴を掘ろうと提案し、俺は早速地図を取り出した。

 陽はまだ高い。この時間を有効活用しない手はないだろう。

 端末で場所を指定。範囲はなるべく広く取り、深さは足首程度までで良い。深く掘ってもデウスでは即座に突破されるだけだ。ならば浅くして気付き易いように閃光手榴弾を連動するように設置した方が利口だ。

 俺達が来た方向にも穴を作りたいものの、時間を考えると三つが限界だろう。それにあの位置で既に相手が気付いていれば今頃はもう襲われてもおかしくない筈だ。

 

「俺が手伝う必要は……無いか」


「まぁな、正直足手纏いだ。テントでも立てて早めに飯食った方が良いぞ」


「そうするよ。彩達もそれで良いか?」


「問題有りません」


 護衛として俺の傍にはシミズが残される。

 最近は完全に護衛役として彼女が傍に居る事が多くなった。それで何か変わる訳ではないが、二人でテントを作る事もこれで二回目だ。岐阜に来るまでの間もテントを使用していたので、互いに手慣れた動きで特にミスも無く組み上がる。

 後は中に入って皆が戻ってくるのを待つだけだ。そう思っていると普段は外で待つ事も多いシミズが中に入ってくる。一体どうしたと顔を彼女に向ければ、即座に彼女は胡座を掻いた俺の上に乗っかってきた。

 急な行動に驚きが胸を占めるが、それでも甘えてきたのは事実だ。シミズが自分から甘えてくる事など殆ど無かったのだから、此処は存分に甘えさせてあげるべきだろう。

 シミズはそっと自身の頭を差し出す。輝く豊かな白髪は俺の鼻を擽り、つまりは撫でろと言っていた。

 

「どうしたんだよ」


「別に」


 普段から身嗜みを整えるような事をシミズはしていない。それでも撫でた時に感じた髪の質感は最高で、何時までも撫でていたくなるものだ。枝毛も無く、指でそっと彼女の髪を梳いてみると驚く程引っかからなかった。

 こうしていると何だか彩達に悪いかもしれないが、実際俺が穴を掘ろうとしても邪魔になるだけ。少しでも彩の心配の種を取り除こうとするならば素直に留守番をしていた方が良い。

 結局シミズは彩達が帰ってくるまで俺の足の上に居続けた。猫のような彼女の姿に此方は和んでいたが、彩としてはあまり嬉しい事ではなかったようだ。 

 シミズに怒りの目を向けているのをPM9は愉快そうに笑い、ワシズが苦笑を浮かべる。

 露骨な嫉妬であるのは俺にも解るが、彼女が敵になるかもしれない相手の前でも感情を見せるのは個人的に信じられるものではない。

 それだけの熱量を持っていたとすれば、もしも爆発した日には俺は監禁されるかもしれない。

 既にそんな気配はあるが、最後の線は守る筈だ。


「ほらほら、嫉妬してる暇があるならさっさと報告を済ませろよ。その後に好きなだけ甘えれば良いだろうが。……少なくとも十席同盟の中じゃお前達は恋仲認定だぞ?」


「……マジ?」


「マジだ。結婚制度は無いからデウスと人間の結婚は存在しないが、事実婚でもするんだろうとSAS1辺りが特に言ってるぞ」


 なんてこった。

 そんな気持ちが全面に出た俺は口を大きく開けてしまった。唖然というか、驚愕というか、既に有名なデウスにはそんな風に広まってしまっているのだ。

 彩を見れば、彼女は満更でもない顔をしていた。あれは絶対に隠している顔だ。

 頬も仄かに赤いし、露骨に俺の視線から逃げている。チャンスがあれば甘えてくる未来を容易に想像し、一応無駄な努力かもしれないが訂正をPM9にしておいた。

 まだするつもりはないぞという言葉に対してPM9はまだかと変な部分を強調していたが、この辺については妙な誤解をされても困る。彩も彩で俺の言葉に更に頬を赤くした。

 最早隠しようもない赤面振りにこっちまでも頬が赤くなる。突然のピンク色の空間は周囲一帯を見事に染め上げてしまった。

 ――そんな中でシミズだけは嫌そうな表情をしていたのが、個人的には胸に残る。

 デウスを幸せにするのは俺にとって最重要事項だ。折角喜んでくれた子に不満を感じさせる訳にはいかないと、話題転換の意味も込めて咳払いをした。

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