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人形狂想曲  作者: オーメル


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第九十一話 悪夢・Ⅰ

 何時もよりも女性の比率が増した道中において。

 世間話は増え、静けさを一切感じない騒がしさが俺の耳を埋め尽くしている。普段であれば静寂にも近い状態であっただけにその騒々しさは通常の倍だ。

 基本的に話しているのはPM9だけ。彩はそれに対して純粋に怒ったり冷静な一言を漏らすだけ。

 会話というには彩側が送られたボールを切り捨てているのだが、未だPM9の口は止まらない。彼女を護衛する四人のデウスも我関せずと完全に無視を決め込み、俺達も俺達で彩に同情しつつも一切会話に加わらなかった。

 それなのに騒々しいと感じるのだから普段の静けさは異常の域なのかもしれない。……いや、PM9が特別に話題を放り続けているだけだろう。普通の人間であれば危険地帯を進むのに明るく話す事はしない。

 そんなPM9のマシンガンじみたトークを全て無視すれば彼女は突然不機嫌となって暴れるだろう。その時に止める役となるのは必然的に彩やワシズ&シミズとなる。

 こんな場所での大暴れだ。双方に甚大な被害が起きるのは想像に難く、故に彩は諦めを滲ませながら会話を続けていた。


 歩きでの道は既に一日の目標まで到達しかけている。

 見慣れた夕日も既にほぼ見えなくなってきているものの、完全に暗闇になる程ではない。これが完全に暗闇になる前に手頃な場所で休むつもりだ。

 その為にもあちらこちらに視線を彷徨わせているものの、そもそも場所そのものは何処にでもある。

 こんな場所を誰が通る訳でも無し。道端でテントを作ってそこで休んでも別に構わないのだが、何となく自分の中の常識がそれをする事を咎めた。

 なので別の場所を探しているものの、今度は会話の間に挟まるのが嫌過ぎて迂闊に声をかけられない。

 話題が一旦途切れたあたりで挟もうと思ってはいる。けれどもPM9には話の切れ目というものが見当たらないのだ。

 話が終われば次の話へ。秒もかけずに話を繋げていく様は別の意味で女性らしさを感じられる。ちなみにこれは邪推であるが、PM9の会話内容が物騒ではあるものの日常的な内容なのだ。さながら恋人の会話っぽさを感じられ、密かにPM9は彩の事が好きなのではと思っている。


「そろそろ良いか?」


「……どうしたー?」


 致し方無し。完全に無理矢理断ち切る他に無いと声をかけ、PM9の意識を此方に向けさせる。

 彩は俺の事を救世主か何かのように見つめていたが、ただ寝る場所を作ろうという話をしたいだけである。なので彩には苦笑を向けて、俺はPM9に寝床の話を始めた。

 

「一先ず此処で寝る用意をするぞ。アンタ達は眠らなくても平気だろうが、此方は寝ないと明日に響く。完全な夜になる前に就寝だ」


「ああ、そういえばそうだな。普段はデウスだけの部隊で活動していたもんだから、気付くのに遅れたよ。了解了解」


「解っているとは思うが距離を取るぞ。此方と其方の間は五十mにし、間には彩が立ってもらう」


「意外と短いな。その距離なら直ぐに襲えるぞ?」


 勿論そんな事は解り切っている。けれども、今現在においてPM9が襲い掛かる気は無いのも解り切っている。

 此方を面白そうに見ている素振りからも揶揄い気味であるのは確かだし、そうでなくとも彩にとって確実に止められるだろう。勝負に発展するのはPM9が苛立ちを感じた内容次第だが、俺が寝る程度で苛立ちはしまい。

 それをした時点で破滅は確定だ。絶望的に人間との相性が悪いとしか俺には言えない。そうなってはどれだけ強くても十席同盟には入れないだろう。

 その点からも彼女の事を見て、俺はこの距離に設定した。彩にも視線だけを送り、本人も無事に首肯してくれたので問題は無い。

 そのまま余計な会話が始まる前にテントを立て、そのまま中に入る。他に誰も入る事は無く、先程までとは一転して静かな空間が俺の眠気を一気に湧き上がらせた。

 

 寝るのはほぼ一瞬と言っても良いだろう。横になった瞬間に意識が暗闇に引き摺り込まれる独特の感覚を抱きつつも、それに抗う事無く意識を落とす。

 されど、思考そのものが消える気配は無い。それどころかはっきりとしたままの意識は覚醒時の状態と変わらず、瞼を閉じていた筈の目は開いている。

 周りの風景は何時か見た白の世界。確か俺の母親が出てきて、彩によく似た人物の写真立てがあった夢だ。

 これも同様に夢の世界なのだろうと思いつつ、久方振りの世界を適当に回ろうと最初の一歩を踏み出した。――――しかし、その足は一歩を踏み出した瞬間に停止したのだ。

 身体が自動的に停止した訳では無い。直ぐ目の前にまったく見た事のない風景が見えたからだ。


「此処は……研究所?」


 楕円の窓。目を開いた時のような形から先に、明らかに研究所と思われる場所が存在していた。

 だがそれは、良い意味での研究所ではない。まったく逆の最悪な意味での研究所だ。

 悲鳴が聞こえる無数の牢屋が映ったモニター。数台のパソコンに拘束具が取り付けられた診察台があり、無機質なステンレスの棚には大量のファイルが収められている。

 その中に向かって試しに腕を伸ばしてみるものの、透明で硬い物に遮られていた。

 入る事は出来ない。ならば俺はそれを見るしかないのだが、正直に言って見ていて気持ちの良いものではないだろう。

 現に俺の耳からは誰かを連れて来る声と物音が聞こえた。連れて来られている人物は悲鳴を上げているが、その度に鈍い音がしている。恐らくは何処かを殴られているのだろう。


 やがて現れた人間は見た事のない顔をしていた。脂で濡れた黒髪を伸ばし放題にし、服は囚人用と思われる灰色の上着とズボンだ。頬には青黒い痣が存在している。

 口元から血が流れているあたり、どうやら殴られたのは頬なのだろう。半ば引き摺られて診察台に四肢と首を拘束された男性は、小さな呻き声を出すだけだ。目に力が無い様子からして精神的異常を抱えているのは明白である。

 その近くには二人の警備兵と思わしき青色の警官服姿の男達が存在し、パソコンに向かって歩く白衣を着た老人が居た。胸にネームプレート等が無い様子から役職は不明であるものの、十中八九博士のような立ち位置であるのは間違いあるまい。

 それに、その老人が何か箱状の物を持ってきた瞬間に今まで虚ろな目をしていた拘束中の男が正気に戻って絶叫を上げ始めた。証拠そのものは無くても見るだけで十分に察する事が出来る。

 

 そこは研究所というよりは実験施設と表現した方が良いのだろう。

 何を実験しているのかはこれから強制的に見させられる。どうして自分がこんなよく解らない夢を見ているのかが不明であれども、単純に妄想だと切って捨てるにはリアリティがあり過ぎた。

 箱状の物体には無数の複雑な模様が刻まれている。それを被験者である男の胸に押し当てた直後、箱は仄かに光を放ちつつ胸の中に収められていく。

 正に非科学的光景。夢であると断じてもおかしくない状況に言葉も出てこない。

 被験者も同様の気持ちだったのか、その状況を絶叫を上げる事も止めて唖然と見つめている。


『おめでとう。これで君も我が同士だ』


 博士と思われる老人の声が実験室に響いた。その意味は俺には解らない事で、けれども決して良い意味ではないのだろう。

 唖然とした表情をしていた被験者はその後直ぐに拘束から解放されて警備兵二人に引き摺られていった。

 暫くした後に、今度は別の人物が引き摺られてやって来る。その人物は今度は女性だ。

 服装自体は全て一緒。髪の長い女性は俯いたまま引き摺られて診察台に寝かされる。――――その際に見えた顔は、彩本人そのものだった。

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