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人形狂想曲  作者: オーメル


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第八十九話 同盟者

 向かい合う二人。

 互いが互いに関係者であり、同じ組織の仲間である。当時の頃を俺は知らないままだが、少なくとも彩の顔は再会を喜ぶ類のものではない。それはF12とのやり取りからでも解っていた事である。

 今更何か変に思う事は無い。それよりも危惧すべきは、相手側が何の用で此処に来たのかだ。

 十中八九此方にとっては不味い展開だろう。そもそも十席同盟に所属しているのならば此方の情報は把握している。

 その上で破壊を目的にするつもりなら、此方は全力で迎撃しなければならない。

 夜に現れた四つの反応はほぼ間違いなくこの四人組だ。昨日は此方を発見出来なかったと思い込んでいたが、実際はそんなことはない。彩は一度として隠蔽をしていなかったので相手側にも此方の位置は筒抜けだ。

 反応が無くなったのは一時的に体内温度を隠したからだ。感知判定が出る特定の温度以下になるまで下げ続け、彩達の感知から逃れたと考える事が出来る。


「一体何の用だ。私達の事情は把握していると思うが?」


「勿論。解ってなかった無理してこんな場所まで来てないぜ?」


 彩が厳しく、そして戦意を感じさせる声でPM9に言葉を送るものの、当の本人は彼女の感情なんてそよ風程度にしか感じていないのか不敵な表情で首肯と共に激情を流している。

 俺なら少なくともああは余裕を維持出来ない。氷柱が差し込まれる感覚を抱きながら一目散に逃げるだろう。

 そしてそのまま一瞬で追いつかれておしまいだ。或いは、銃の一撃で終了かもしれない。

 一触即発。今の状況を適切に表すのにこれだけ良い言葉も無いだろう。一秒後には互いに銃の引き金を押すと確信しながらの会話は心臓に悪い。

 それでも退く訳にはいかないのだ。此処で逃げれば情けない男という印象だけが残る。

 そうさせない為にも、多少は無茶であっても前に出る必要が出てくるのだ。これは百足の時と一緒である。

 

「マキナ関連の問題施設はある程度発見しておいた。ついでに潰したし、情報も同時に収集中だ。お前の情報を切っ掛けに汚職行為に精を出す軍人も発見されたし、このまま探し続ければ近い内に何か手掛かりが手に入るだろうさ。それによって多少なりとて軍が浄化されるのなら、お前の評価は決して悪くはならない」


「お前が私を褒めると気持ちが悪いな」


「おいおい。これでも褒める時は確り褒めるタイプだぜ、私は。確かに最初はお前の現在を聞いてキレたもんだが、今は結構冷静なんだよ。まぁ、一発殴るくらいはさせてほしいもんだが」


「どうだか。お前は一番私に当たりが強かっただろ。その言葉を素直に信じられんよ」


「違いない」


 含むような笑い声には快活さがある。それでも肉食獣めいた印象は拭えないものの、他とは違うタイプだ。

 軍内には様々なデウスが居るものだが、このPM9のような存在は珍しいだろう。個性が爆発していると言えるし、明らかに日常生活を送れないような性格破綻者にも見える。

 本人にそれを言えばもれなく撃たれそうだが、しかし大多数の者達が似たような印象を覚えるだろう。

 険がありながらも何処か和やかな会話は、俺には嵐の前の静けさに見える。この会話の後には大規模な争いがあるかもしれないと、そんな予感を強く感じてしまうのだ。

 PM9の幼い見た目はまったく彼女の性格を和らげる事は無い。ワシズ達よりも年下な見た目の筈なのに、大の大人を遥かに凌駕する感情の熱量は子供特有のものではない。

 

「で、結局お前は私達を通すのか」


「そもそも私は今回の一件には関わっちゃいない。ウチの馬鹿野郎から無理矢理命令を作成してもらってな。それでこっちに来ているだけ。Z44も今は私が此処に居るのを知らねぇし、他の十席同盟もそれは同じ。だから態々邪魔する必要性は私には無い」


「なら、通っても構わないな」


「――いいや?それは違うぜ」


 瞳に籠った熱情が全体を焼き尽くすように彷徨わせる。

 俺達の姿を見て、彩達が持っている武器を見て、何事かを観察しているようにも伺えた。それが何を示すのかは、正直に言えば予測を立てるのが容易に過ぎている。

 相手は確か短気な性格だと彩は以前F12に向かって告げていた。その彼女が十席同盟で脱走について容認していたとはとても思えず、だからこそPM9が手元にHGを出現させた時点でどうするかは決めている。

 その銃を手元で遊ばせながら、PM9は俺に流し目を送っている。それが示す意図が俺には解らないままだが、何となく行動しなければならないと無意識で足は一歩前に出た。

 それによって全員の視線を集めることになる。何を言えば良いのかを暫く考え、やがて嘘を言うのだけは止めておこうと素直な気持ちを口にした。


「アンタは、彩を捕獲する気で来たのか?」


「十席同盟の中じゃそうなっているな。私としては破壊で良いとは思うんだが、まぁウチ等の中にも穏健派が居るってことだよ。或いは破壊するのが勿体ないって奴がな」


「――いい加減、本気で話せよ」


 話していて解る事がある。相手はデウスであるが、人間に近しい嗜虐性を内包しているのだ。

 虐めるのが楽しいと思っている存在なのか、それとも俺のような明確な格下が居るからこその態度なのかは不明だが、その行為は人の神経を逆撫でする。

 短気な相手であればそれだけで機嫌を悪くするだろう。そういった人間を見た事もある。

 それが解ってしまうからこそ、俺の気持ちは今急激に冷め始めていた。やがては完全なゼロになり、人の心を捨てたような言葉を吐いてしまうかもしれない。

 PM9は此方を言葉の裏で嘲っている。少しでも遊び、今の俺達の限界を探っている。

 ならば限界を見定められる前に勝負に出るしかない。これは新しい無茶だ。けれどしなければならない無茶でもある。

 

「何時までも世間話をするような性格でもないだろう。アンタの本質は、恐らく戦場で暴れる事を快楽とするものだ。そんな奴がこんな場所で悠長に話し続ける事を楽しむ訳がない」


「……へぇ。そんな解り易かったかい?」


「ああ、お前みたいなタイプはある意味典型だ。その顔を見れば嫌でもそうだと確信するだろうさ」


 PM9の凶暴性は、人間で言えばおよそ典型的とも言える。

 サイコパスのような特殊性のあるものとは違い、謂わば戦いの興奮を求める不良のような単純なものだ。

 だからこそ簡単に解ってしまうし、本人も隠すつもりは一切無いのだろう。より凶暴さを前面に押し出して此方を見る目は、下手な肉食動物の比ではない。虎やライオン程かは流石に解らないが、ただのチンピラが出せる殺意ではないのは明確だ。

 それを全て俺に叩き付け来るのだから心が悲鳴を上げている。今にも逃げたいと思考の大半が占領を始め、男の体面なんて気にするなと本能が訴えていた。

 本来ならばそうするのが良いのだろう。彩達に任せるように後ろに隠れれば、それだけで彩は守ってくれる。

 彼女は正に最強の盾だ。その背後に隠れれば彩が此方の想いを汲んで守ってくれるに違いない。


「…………」


「…………」


 それでは駄目なのだ。今この瞬間にPM9から目を逸らせば、恐らく何か致命的な失敗を犯す。

 半ば以上妄想の域だが、それでも負けてはならないと強く思うのだ。逆にその凶暴性を制御してみせると言わんばかりに此方も睨み返し、何故かその場は俺とPM9との視線の戦いになった。

 相手は時間が経過する毎にその熱力を引き上げ、俺はそれに対抗する。けれども総量的にはPM9の方が上であり、俺が押し潰されるのも時間の問題だろう。

 ただでさえ息が苦しいのだ。これ以上になれば呼吸困難に陥っても不思議ではない。

 そんな俺の前に立ち塞がるように、彩が出る。烈火の印象を持つPM9とは真逆の極寒の印象を持つ彩は、それだけで足も氷結したのではないかと一瞬感じてしまう。

 

「彩、今は――」


「これ以上は私が許しません。――PM9、お前も情けない真似をするな。程度が知れるぞ」


「……っはっはっはっはっは。いや中々どうして。ZO-1、良い奴に巡り会ったじゃないか。まだまだラインに到達した訳じゃないが、少なくとも他の雑魚よりは遥かに良い。思わず連れて帰ろうかと考えてしまったよ」


 小さく拍手を送るPM9は一気にその戦意を引き下げる。彩も同様に寒波を引き下げ、感じる温度も元に戻る。

 

「どんな奴かと思ったもんだが、良い人間だ。……よし、じゃあ此処は一つ提案をしよう」


 いきなりの褒め言葉に俺も彩も困惑顔だ。転がるように表情が変化する様は、先程までは一切感じなかった子供らしさを抱かせる。

 

「私が一時的に協力してやる。Z44の放ったデウス部隊も軒並み潰してやるよ」


 そして更に唐突に、PM9は困惑している俺達を更に困惑の奥地にまで叩き込むような言葉を放った。

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