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人形狂想曲  作者: オーメル


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第七十八話 長野を越えて

 長野の道は他の県よりも荒れている印象がある。

 勿論俺の知っている県なんて僅かしかないが、それでも他の県よりは整ってはいない。五年前の平和な頃であれば先ず修正案件であり、それがこうして放置されているのは単純に県の予算が少なくなっているからだろう。

 他に考えられるとすれば物資不足であるも、そもそも簡単なものにせよ修正するなら工具で十分。それが用意出来ない筈もなく、故に業者に頼む金が無いと辿り着くのは必然だ。

 巨石が転がる様は他ではあまり見る機会は無いが、俺は既にそれを体験している。単純に突破するだけなら俺達ならそこまで苦労は無いものの、他では苦しいだろう。

 それを久方振りに起動した端末のカメラ機能で撮り、彩達の助けを借りながら巨石を登る。

 横に複雑に積まれた石の数々はさながら壁だ。発生源を見る限り、以前は左右を崖に挟まれた道だったようである。

 それが怪物の攻撃によってか崩れ、こうして人物の往来を封鎖する壁となってしまった。


 取り除くのは一苦労だ。この壁の上から通過する道を構築するか、トンネルを作った方がずっと良い。

 それでも完成させるには年単位の時間が掛かる。それを待っている間に状況は更に切迫するかもしれないし、或いは好転するかもしれない。

 今の状況を正確に解っていない国民としては、やはりそんな状況で年単位の作業はしたくないと思うだろう。

 否定をするつもりはないし、少なくとも俺は突破出来たので文句を言うつもりはない。

 壁を突破し、その下に見える隙間に足を挟まないようにしながら慎重に進む。壁の横幅はかなりのものであるが、縦幅は然程広くはない。十分も歩けば直ぐに終わりが見え、今度は足場を探しながら降りて行った。

 周辺はこの壁によってか人気が無い。本来ならばこの道も人の往来が激しかったのだろうが、最早そんな気配は欠片とてありはしなかった。

 

「車が通らないと車道も大分広く感じるな」


「最初から車が通るように設計されていますからね。往来が無くなればこうなるのは必然でしょう。我々としては人気の無い方が有難いですね」


「違いない」


 人気が無ければ警戒を厳重にする必要も無いし、新たに現れれば即座に彩達が気付くだろう。

 これまでの間に戦いは嫌という程起きた。出来ればもう二度と戦いなんて起きてほしくないが、それをするにはやはり防備の厚い施設で引き篭もっていなければならない。

 それでは息が詰まるし、何よりも人らしい生活なんて不可能だ。特に俺達の場合は完全に不当そのものである。

 冤罪も冤罪。悪であるのは相手側の方であり、けれど明確な証拠を掴む所までは辿り着いていない。そもそも逃げている時点で証拠なんて掴めないも同然なのだが、それを掴むにしても場所が解らないのであれば迂闊に軍施設に忍び込む事も出来ないだろう。

 頼れるとすれば現時点で味方となっている軍の人間くらいなもの。それでもどこまでいけるかは定かではなく、よって俺達も動く必要が何処かで出てくる。その時に味方は多いに越した事は無いものの、宛は無い。

 

「この分なら長野を越えるのもそう長い話じゃない。岐阜に突入してからは数日くらいは情報収集も兼ねて何処かの廃墟で足を止めたいな」


「そうですね……長野を越える事はこのままであれば難しくはないでしょう。スキャン範囲内にも反応らしい反応はありません。精々が動物くらいなものです……ですが」


「ですが?」


 今後の予定について呟くように口にすれば、彩もそれについては同意してくれた。

 しかし、最後の部分で口籠った。一体どうしたと顔を向ければ、彼女は岐阜があるだろう方向を見つめながら、何処か不安を滲ませた表情を浮かばせる。


「岐阜にも基地があります。規模は然程大きくは無く、練度も殊更突出した訳ではありません。恐らく純粋に戦えば私の方が勝つでしょう。……けれど、そこに居る一人のデウスだけは話が違います」


「厄介な相手がそこに居るって訳か」


「ええ。十席同盟に名を連ねている者が一人――名を、Z44と言います」


 十席同盟。その名前を呟く時だけ、彩の雰囲気は冷たくも不安が混ざったものとなる。

 普段であればデウスの名前をいくら出そうとも通常通りのままである彼女がそうなる相手。それだけで脅威に感じるのは当然であり、だからこそその名前の人物について詳しく知らなければならない。

 どんな人物なのかを尋ねれば、彼女は暫く中空を見つめながら言葉を纏める。そこには何と言えば良いのかと困惑する雰囲気もあり、やはりそのZ44という存在が並ではないと思わせる。

 

「戦闘という意味では私よりは低いです。しかし、継戦能力は非常に優れています。これを待てば勝てるといった場面や殿において、彼の力は必要不可欠と言っても過言ではありません」


 それは純粋に、俺達にとっては一番相手にしたくない存在という事を示している。

 時間稼ぎをされてしまえば援軍が呼ばれてしまう。それで逃げ切れるならば問題にはならないだろうし、彼女も然程強くは言いはしない。

 けれども継戦だ。戦いを続けるという意味では、逃がさないというのも十分に範囲内に入る。

 援軍を呼びつつ、相手が常に此方に向かってくるように適度に仕掛けるのだ。それで崩れる筈の部隊を崩さずに持ち堪え続けられるなら、正しく有能と言う他にない。

 実際にどれだけの時間を稼げるかはその時の環境に左右されるだろうが、決して短くはない筈。そして何の消耗も無いデウスの追加部隊が激突すれば、相手側が崩れるのも道理。

 俺達にとっては地獄も同然だ。それだけ消耗が続けば彼女達の摩耗も加速し、どこかのタイミングでパーツ破損による動作不良を起こしかねない。――そうなれば最終的には全員が動けないまま捕縛されるだろう。


「十席同盟には確か情報を送った筈だろ?」


「そうです。しかし、相手がそれに対して味方をしてくれる道理はありません。軍の法を優先させるのであれば逆に確保しに来るでしょう」


「Z44という人物はそうする可能性が高いと?」


「正直に言えば低いです。ですが他の十席同盟との関係を維持する事を最も優先する人物ですから、可能性は残っています」


「成程……」


 Z44そのものが軍に素直に従うタイプではないのは解った。

 そして、今後の事を考えて行動する人物であるのも理解した。目先の評価を気にせず、後の栄光をこそ取る。

 その為に戦力的に最高峰の十席同盟との円滑な関係を維持しようとするのだ。他の同盟者が俺達を捕まえる事を是とすれば、Z44もまた捕まえる事を是とする。

 だがだ。F12は彩にまだ席は残っていると語っていた。それを彩本人が捨てたばかりだが、本人が言っても他の同盟者が認めなければ席はそのまま存在し続けるだろう。

 その上でZ44が彩をまだ同盟者だと思っていれば、彩本人との関係も維持しようとするかもしれない。

 それは希望的観測であるものの、決してならないと決まった訳でもない予測だ。

 最大の目標としては岐阜の無事な突破である。その為にZ44がもしも戦闘の為に動いたのであれば、その時点で十席同盟そのものも敵となったと考えても良いかもしれない。

 

「なるべく岐阜の基地の近くは通らないルートを作ろう。相手がどこまで此方のルートを予測してくるかは解らないが、少なくとも自分が所属する県の監視くらいはさせる筈だ」


「彼等であれば隣り合っている全ての県を全域とはいかないまでも監視しているでしょう。岐阜もそうですが、京都と隣り合っている滋賀も十分に危険です」


「……最終目的地の更新も視野に入るか。なら、当面は岐阜突破に注力しよう」


 次から次に問題事は発生する。彩がそれを開示しなかったからこそ起きた問題事の山なのだが、その点に関して責めるつもりはない。

 今は兎に角考える。どうせ隠しても隠さなくても状況は何も変わらなかったのだから。

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