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人形狂想曲  作者: オーメル


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第七十五話 新地点

 踏み出した足の調子は悪くない。

 身体に不調らしい不調など無く、普段のままに活動することが出来る。

 起き抜けの移動の所為で目が痛く感じるも、感じる爽快感は仕事前の朝では感じることは無かっただろう。

 端末に登録しておいた機器も未だ不調を見せていない。どうやら大尉達は本当に味方になってくれたらしく、ネット検索を封印されていないだけでも俺にとっては有難い。

 新しく登録された電話番号にはそのまま大尉という名前を表示させているものの、使う機会は出来れば無い方が良いだろう。もしも使う機会があれば、それはつまりピンチに陥っているということなのだから。

 別れてから既に一週間。その間に不穏な情報は一つも拾わず、結果的にかなりの距離を進む事が出来た。

 今居る場所は長野。新潟・富山寄りに歩きながら次の目的地である岐阜を目指している。

 

「あの……そろそろ離さない?」


「拒否します。言う事を一つ聞いていただけるんですよね?」


「そりゃそうだが、何でこんな恥ずかしい思いをしなきゃならんのだ」


 リュックサックの重さは相変わらずだ。慣れたとはいえ、重いものは重い。

 それに加えて左腕には細腕が絡みついている。相手は彩であり、恋人の如く左腕に彼女の右腕が絡みついていた。

 表情は柔らかく、正に幸せを甘受する女性の顔だ。職場の友人が結婚した際に見た奥さんも似たような顔をしていたなと思い出しながら、この羞恥に意識を向けないようにしている。

 当の彩は俺の考えていることなど御見通しなのだろう。更に抱き着き、今では他の部位の感触まで解ってしまう。

 それを態とだと解ってしまう自分に今だけは恨みを覚え、最終的に致し方無しと諦めの境地に行っていた。

 背後にはワシズとシミズが普段と同じ様に付いて来ている。ワシズからの揶揄いを含めた眼差しを受けているのは彩が最初に行動をした時点で解っていたものであるが、時間経過と共にそろそろ弄ってきそうだ。

 反面、シミズは普段通り。静かに此方についてきているものの、視線だけは此方に完全に固定だ。

 少なからずシミズも過激な部分がある。それを表に出さない分静かな印象を周囲に感じさせるだろうが、解っている側からすれば少し不気味だ。


「このままでいいから、少し話すぞ。これから先は東京から徐々に離れていく。それに合わせて立ち寄る街とかも段々と田舎に近付いていくし、技術的な店は家電量販店のような一般的な店を除いて全て軍関係のモノだと思っておいてくれ」


「つまりそのような場所を発見した場合は迂回するのですね?」


「可能であればそうだ。だが、どうしても避けるのが難しい場合はギリギリを最速で通過しよう」


「ではまた何時ものように持てば良いですね。了解しました」


 日本は東京に一番兵力を集めている。

 それは一度日本のほぼ全てを怪物に占領されたからであり、安全圏の拡大した今現在では東京を中心に復興を進めている。その為、東京に近ければ近い程最新のテクノロジーに触れる機会が増えるのだが、離れれば離れるだけ田舎へと近付いていく。

 この辺は五年前の日本と然程変わりは無い。しかし、変化そのものの差は顕著だ。

 例として青森は今現在において電気も水道もガスも来ていない。怪物の能力によってかほぼ全域が森に変わり、自然豊かなモノへと逆行していた。

 そこで暮らすのはほぼ不可能であるし、現在一般人が入れる青森の範囲はまだ少ない。完全開放をするならばやはりその先にある北海道を解放しなければならず、今はそれを目的とした戦いの準備に軍は集中している。

 

 そして、軍が未だ敵を完全に殲滅出来ていない以上は企業もほぼ全てのリソースをそちらに回すしかない。

 結果的に他所に回せない弊害は未だ復興が進まない街に発生し、さながら中世的な街の存在もあるにはある。家電も中古品を個人が修理する時代だ、完全に世界大戦の頃に近い。

 そんな中に明らかに技術的な施設があれば十中八九軍か、軍と手を組んでいる企業の物だ。

 一週間前の件では軍に助けられたが、次もそうである保証は皆無。なので発見次第逃げに徹するのが最善であり、漁る事が出来るとしたら廃墟も同然の場所くらいだろう。

 そんな場所では大抵は何も手に入らないだろうが、漁らないという選択肢は俺達の場合は少ない。

 

「問題はやっぱり皆の修理施設だよなぁ……。そろそろ彩の方も無視出来ないレベルに入っているだろ?」


「……今の所は、まだ動けますね」


 指の関節や足を曲げながら彩は暫く自身の状態を調べ、今はまだ問題無しと告げる。

 ワシズ達も問題は無いとのことだが、その状態が何時までも続く訳がない。次の戦いで一気にすり減れば修理は絶対にしなければならないし、俺達にとっての安定した生活をするのなら修理可能な存在や施設を手に入れなければならない。

 全てを完全自動化出来れば人の必要性は薄いが、それはかなり難しいだろう。そもそも人の手が入る事によって支配等が出来ているのだから、殆どの修理施設には自動化の概念は無い筈だ。

 そうすると修理施設を手に入れる、或いは修理設備そのものの設計図を手に入れて一から作り上げる。

 かなりの高難易度だ。しかし、それが出来なければ今後の安寧は無い。

 そう簡単に使う訳にはいかないとはいえ、手札として軍との繋がりは得た。しかも一人は指揮官クラスだ。

 本当に味方かどうかは定かではないものの、少なくとも表面的には俺達に縁が出来た。その真偽を確かめつつも、修理施設を利用出来れば俺達に迫る難題は一先ず解決を見せる。

 しかしそれは、貸しを作る行為でもある。それを利用されて無理難題を出されれば、俺達は一気に崖っぷちにまで追い込まれるだろう。


「……軍に頼るのは最終手段だ。出来ればこっちが相手に頼られるような状況で修理施設を使えれば万々歳だな」


「難しいでしょうが、確かにそうなれば私達にとって有利に事が運べます。十席同盟にも私の現状は伝えている筈ですので、或いはそちら側から何らかのアクションはあるかもしれません」


「そういえばその話もあったな。……十席同盟は本当に信用出来るのか?」


 新しく判明した事実として、彩の所属先だ。

 十席同盟が如何程の権力を持っているのかをまだ具体的に掴めている訳ではないものの、少なくとも実力だけで見れば並のデウスではその席に座る事は許されない。

 十席という言葉通り十人のデウスがその席に座るのだろうが、その各々に恐らくはランク付けはされてはいないと俺は思っている。

 考えられるとすれば、やはりそれは特定の分野に関しての突き抜けた適正だろうか。

 彩自身がその話題について触れてほしくはなさそうな気配を漂わせているので聞けないが、もしもそうであれば十席同盟は最精鋭チームであるとも言える。そこからアクションが起きれば良いにしろ悪いにしろ何かが起こるのだろう。

 しかし、彩の雰囲気的に決して仲が良いだけの存在達とも言えない。

 俺の質問に彩はやはり良い顔をしなかった。口を真一文字に結び、機械的な印象を覚える顔を浮かばせている。


「信用出来る者も居るには居ます。そちらからのアクションであれば私も然程問題にはしないのですが、一部問題児とも言えるデウスが居るのは確かです。そちらからアクションを仕掛けられた場合、先ず素直に言葉を信じない方が良いでしょう」


「軍にもそんなデウスが居るのか?……なんというか、意外だな」


「基本的に平均的なデウスは個性を内側に隠している部分が多いです。ですが、十席同盟に座っているデウスに関しては個性的な面が強く出ています。それは本来指揮官等によって封じられても文句は言えないものですが、成果によって指揮官達の口を封じているのです」


 軍にも様々なデウスが居る。それが解ったあの接触は、俺に異なる感覚を与えていた。



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