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人形狂想曲  作者: オーメル


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第七十一話 再会

 叩き付けてくる風圧によって肌に痛みが走る。

 殆どの風景が一瞬ですり抜け、さながらビデオの早回しを見ているかのようだ。それが彼女達にとっての普通であると思うと、あまりにも人間は弱いと認識せざるを得ない。

 背後では無数のデウスの姿が今も追い掛け続けているだろう。時折撃たれた弾が横を通過していくが、彩が回避をしているのか命中の気配は無い。

 その返しにワシズ達が撃っているのも影響は与えているのだろう。デウスが武器を持っていれば否応なしに専用武器と勘繰る。解析されればそれまでだが、現状は追い掛ける方に意識を集中していると見るべきだ。

 横を見る。

 あれだけ離れていた百足まで既に辿り着き、その長い胴体を遠目で確認する事が出来た。その胴体の殆ど全てが無事なままだが、動く気配はまるで見えない。俺達が逃げている間に弱ったか、死んだのだろう。


「やっぱりそう簡単には撒けないか……ッ」


「同じデウスですから。逃げるだけでも一苦労ですよッ……!」


 目の前に立ち塞がるように生えた巨木がいきなり現れ、それを彩が拳で破壊する。

 普段は柔らかい筈の拳が一撃で太い幹を圧し折る姿は解っていても唖然とする他に無い。彼女であればその巨木に当たらないようにルート変更をすることも可能だったのだろうが、それが出来ていないあたり慌てているのだろう。

 無理も無い。というよりかは此処で慌てなければ最初から考えていたのではないかと勘繰るレベルだ。

 現に横を並走するワシズ達の表情に普段の余裕は無い。明るいワシズも今は真剣に前と後方に交互に視線を彷徨わせ、シミズは撃つ瞬間のみ背後を振り返っている。

 命中は考えず、ただ少しだけでも怯めばそれで良い。時には頭上の太い木の枝を撃ち抜いて落下させ、速度を緩めさせる事も忘れてはいない。

 しかし、それでも最終的な距離に然程の変化は見られなかった。

 相手もまた回避と破壊を繰り返す事で一度離れた距離を縮め、決して逃がす様を見せない。


 職務に忠実というべきか、しつこいというべきか、兎に角俺達にとってプラスには働いてはいないのは事実である。

 このまま果たして逃げ続ける事が出来るかは甚だ不明であり、百足が遠目に見えるという事はあちら側のデウスが回り道をして逃げ道を封鎖する可能性も十分以上に有り得た。

 デウスのスペックについては向こうの方が詳しい。それを知った上での戦法は軍の方が間違いなく上で、故に俺達は一刻も早く森に飛び込んで障害物を増やす必要があった。

 俺達にとっても障害物が多い場所は決して有利に働く訳では無いが、それでも俺達がルートを決めることでの優位はある。

 

「このまま森を抜けて次の街まで――――」


「――前方に反応多数!」


 無意識で零れた言葉に、しかし彩が悔しさを滲ませた叫び声を漏らす。

 悪い想像は直ぐに現実と化す。そんな言葉に悪態を吐きたい気持ちを抑えつつ、急停止する彩の反動に確りと両肩を掴んで耐える。他の二人も即座に停止。直後に前後に別れて装備を構え、彩も俺を降ろして装備を呼び出す。

 そして交戦の構えを見せた俺達の前に、前後から無数のデウスが出現した。

 後ろから追っていた者達はブースターを付けず、前から来た者達は全員がブースターを装着している。この事から百足討伐は終了し、此方を追って来たのだと解った。

 きっと主任務が終わった事で一時的に百足組は自由になっている。その自由も現場で活動している軍の人間の命令によって容易く縛られるのだろうが、少なくとも今はまだ変化していない。

 或いは向こう側の指揮官も俺達を捕まえる事を命じたか。それならば、俺は二人の指揮官にその姿を認識されたことになる。

 これは今後の生活が不安になるが、今はこの苦境だ。思考をフル回転させるも、あまりのデウスの数に冷や汗がまるで止まらない。


「総数はどれくらいだ?」


「今この場には六十体居ます。突破は難しいですね」


 小声で彩と言葉を交わし合うも、六十という数には最早笑うしかない。

 それだけの人数が追って来たのだ。過剰という他に無く、ジープの音が聞こえた所為で現場の人間にも姿を見られる事になるだろう。

 前後のデウス達も、俺達も、互いに睨み合う。

 不思議なのは一気に捕獲に動かない事だ。確かにデウスを一気に捕まえるというのは難しいかもしれないが、戦力比率は十倍なんてもんじゃない。複数人で取り押さえるのも不可能ではないのに、どうしてか誰もが武器を構えるだけでそれ以上のアクションを見せなかった。

 それはジープが現場に到着するまで続き、中から迷彩服に身を包んだ細身の男性達が現れる。

 彼等は俺達の存在に随分驚いたような顔を見せるも、直ぐに冷静な仕事人としての面を表に出した。そこに優しさなど無いのは間違いない。


「――先ずは感謝を。百足の足を止めてもらったお蔭で我々側のデウスでの討伐が可能になった。現在は既に死亡済みであり、現場には少数のデウスを残している」


「そうですか。なら良かった」


「ああ、本当に助かった。……だからこそ、君がデウスを連れている事実に対して我々は拘束しなければならないというのが酷く悲しく感じるよ」


「大人しく捕まるとでも?」


「思うとも。一目で解ったさ、君はそこのデウスを人間と同等に扱っている。そこの小さい子達の目を見れば余計にその印象は強まったよ」


 渋く、静かに、淡々と。

 俺の彼女達の扱いを的確に見抜き、だからこそデウスに自爆特攻をさせるような真似はしないだろうと確信していた。それは現状において悪手なのかもしれないが、一歩も足を動かすつもりはない。

 逃げるのならば皆でだ。その意志を込めて威圧感すら抱かせる軍人を睨む。決して負けるつもりはないという思いに――しかし別の場所から声が間に入った。


「お久し振りでございます、姫様」


 声の主は後方で俺達を追っていたデウスの内の一体。

 此方へと一歩前に出て、そのヘルメットを取り外す。中から現れたのは彩達よりも大人の雰囲気を感じさせる、黒髪の長髪を持った美人だった。

 そのデウスが向ける目の先に居るのは彩だ。彼女は一瞬だけ目を細めて、その相貌を更に冷たく染めた。

 

「貴様か、F12」


「……まさか覚えていただけているとは思いませんでしたわ。こんな私の個体情報程度、即座に消すものかと」


「あの頃は味方だっただろうが。それに何時また同じチームに入るとも限らなかったからな」


「あのチームは只の偶然ですわ。貴方程の御仁が入るチームではなかった。当時の指揮官は既に不正を働き強制労働施設に送られましたわ」


「そうか」


 F12と呼ばれたデウスは酷く彩を崇拝するような面持ちで言葉を告げる。

 武器を構える姿勢も早々に捨て去り、今では跪いていた。さながら神を仰ぎ見るかのような顔に、何処か狂気を感じるのは自然だろう。

 彩の昔がどうなのかは解らなかった。それをどうでも良いとも感じていた。

 だが実際は、決して無視してはならなかった事なのかもしれない。少なくとも、彩の存在は特別なのだ。

 気付けば、後方から此方を追っていたデウス達は武器を降ろしていた。F12と同様にヘルメットを外し、それを片腕で抱えるように持ちながら敬礼をしている。

 とてもではないが逃げ出したデウスに対する態度ではなかった。そして、前方から挟んできた百足組はそんな後方組に対して困惑を露にしていたのだ。

 

「どうしたというのだ。詳しく聞かせろ、F12」


「おや、この方を知らないのですか?――――それはあまりに愚かですわ」

 

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