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人形狂想曲  作者: オーメル


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第七十話 銃の姫

 ワシズが最後の銃弾を放ち、それは百足の足を貫く。

 彼女達が放った五百発の内四百近くが足に命中し、それだけの数を当てられた百足も流石に余裕の態度を見せられなくなっていた。

 動作そのものは緩慢に、今度は凶暴性を剥き出しにして周辺を飛び交うデウスに自身の顎を振り回す。

 放たれた顎はレイピアの刺突の如く空中に突き上げられ、それを回避すれば断頭台のように内側の刃を地面に叩き付ける。

 巨体故に動作そのものは遅いものの、しかし範囲が極めて広い。

 場所によっては山一つを丸ごと両断する程の威力を誇り、暴れるだけで地震を引き起こす。その地揺れによってジープが横転する事態が発生し、脱出に必死となる兵の姿が見えていた。

 つまるところ、ワシズ達の攻撃は時間を掛けて結果を出したのだ。完全な足止めには至らなかったものの、少なくとも移動に集中させる事は止められた。

 これより後は攻撃のみ。一度でも動作が緩めば、残るは袋叩きをするだけだ。

 

「……はぁ」

 

 溜息を一つ。信次は出来上がった結果を息をせずに見つめ、今思い出したかの如く呼吸を再開した。

 全弾全て消費して、結局足は止まらなかった。されど今度は攻撃に集中し始め、確かに移動速度は低下した。ワシズの視界からの映像で相手は視界に入った対象を優先的に攻撃するようで、今は空を飛ぶデウスを中心に大規模な攻撃を繰り返している。

 最高の結果は叩き出せなかったが、現状の手札の中では文句の付けようが無い結果になった。

 であれば危険を犯して弾薬を求める必要など無く、即座にワシズ達に帰還の言葉を放つ。彼女達には帰還した後に労いの言葉を言おうと信次は判断し、背負っている彩と一緒に街へと歩を進めた。

 彩が静かである限り、彼等全員はスキャンの範囲内だ。街へと入ればその範囲外に無事出るだろうと信次は決め込み、ワシズ達に追加で情報を送っていた。

 その際に諸注意をいくらか教えつつ、次に彼が考えるのは百足撃破後だ。

 

「これで後は任せられる。……とくれば、考えるべきはルートだ」


「――それだけ、では、ありません」


「彩?もう範囲外に?」


 考え始めた信次を止める言葉を彩は放つ。通常であれば彼女は現在話せない状態だったのだが、軍のほぼ全てが百足に集中したお蔭で警戒レベルが幾分か低下している。

 行動そのものは出来ないものの、言葉を話す程度は出来る。そうした判断を下せるだけの余裕を手にした彼女は、だからこそ彼が知覚していない異常について教えなければならなかった。

 

「これは私だけしか感知出来ていません。――街付近に百足を討伐する部隊とは別の部隊の反応を掴みました。中隊規模ですが、ほぼ全てがデウスのみで構成されています」


「何だって?……隠蔽は、無理だよな」


「申し訳ございません。流石に新しい部隊に対して攪乱するのは難しいかと」


 百足が居る場所とは反対方向。新しく現れた反応は彼にとって無視出来る問題ではない。

 既に彩は限界状態。しかも軍であるのでワシズ達では誤魔化す事は出来ない。正体が露見するのは避けられず、最早逃げ切るのも不可能。出来る事があるとしたら物理的に隠れるくらいだが、それをしてもスキャンによって発見される。

 ――詰みだ。恐らくは百足を撃破する別動隊が動いたのだろうが、それは今の彼等にとって最悪でしかない。

 軍に所属していないデウスが何故か存在するなど、軍側が許容する筈も無し。処分か捕獲かは定かではなくとも、交戦に発展するのは確定だ。

 一度バレたら最早そこまで。これまで会わない事を前提として動いていたが、最早その手は取れない。

 悪足搔きをしても無駄に終わる。ならば、打てる手は存在しなかった。


「――ワシズ達が到着したら攪乱は止めよう。それよりも全力で逃げた方が良い」


「露見は覚悟、ですね」


「何時かは起きる事だ。それが今日だっただけで、俺がそれを予測し切れなかった。悪いのは全面的に俺だな」


「そういう引き受け合いは今は止めましょう。ワシズ達に連絡を、もう接敵まで数分です」


 端末を操作。ワシズ達に事の説明を行い、露見覚悟の全力逃走を開始する準備を行う。

 移動手段は彩が信次を持つ何時ものスタイル。逃走方向は街から百足が住んでいた森方向に進む。

 当然追う者が続出するだろうが、その点は信次側に考えがあった。といっても簡単なモノで、人が住んでいる街や村に入るということだ。

 デウスには早々に会えない。会えるだけでも珍しく、若い者であれば握手の一つは求めてくるだろう。

 だがデウス達を率いる指揮官はその現象を快くは思わない。何せ人の居る場所にデウスが現れるのならば、そこで人では解決出来ない問題が発生しているということになる。

 それを民衆に悟られ、騒がれたくないのだ。最悪の場合は指揮官の責任問題にまで発展する。

 強大な権力は人を惹くに十分な代物だ。それを求めて闘争も発生するのだから、握っておきたい者は危険を回避しようとするだろう。

 

「到着!」


「右に同じ」


 空中から着地したワシズ達の表情は普段よりも明るい。

 それは日常ではまったく全力を出せなかった反動のようなものであり、発散出来たのは二人にとっては良い事だった。しかし状況がそれで解決する訳では無く、更に彼女達は移動をしなければならない。

 その分のパーツの摩耗は避けられないが、今行かねば囲まれるのは必然。彩も攪乱そのものを停止して完全に元の状態を取り戻し、ワシズから返された装備を内部に格納した。

 

「さぁ、速く行きましょう!もう間もなく来ますよ!!」


「というか既に見えてる!豆粒サイズだけどありゃ数十秒で此処に来るね!!」


「ワシズ、今は真面目に」


「微妙に解り辛い天然っぷりを見せるな。ほら行くぞ」


 俺は彩の背中に乗り、ワシズ達は弾切れとなった武器から対人用の武器に持ち換える。

 これではデウスの一部分を止める事も出来ないが、そもそも今の彼等に誰かを破壊するつもりは毛頭ない。

 ただ逃げる。それだけを目標に、攪乱を剥がした彼等は全速力で駆け出した。既に信次は経験のある事だが、やはり人間の出せる速力を遥かに凌駕したスピードを彼女達は発揮している。

 無数の山々を超え、時折見える廃墟を通過し、本来ならば一日は使用して進む距離を数分程度にまで短縮させていた。

 だが、相手も相手だ。デウスの新しい部隊は彩が攪乱を剥がした事で新しいデウスの反応を三つ捉えた。

 最初は逃げ出した百足の討伐部隊かと彼女達は予測したのだが、目視で確認した瞬間にそれは違うと確信させられたのだ。

 距離が距離だった為にズームをしても正確な姿は認識出来なかったが、服装がそもそも異なっている。

 デウスが出撃した場合は例外を除いて黒の軍服だ。頭部は同じく黒いヘルメットによって隠され、その相貌を人間が拝むには軍に所属する他にない。

 

 発見したデウス部隊は送られた映像からの指揮官の命令によって二手に別れ、片方は通常通りの任務に就いた。

 もう片方は追う方を任せられ、高速で逃げ出した三名の存在を追い始める。そこに込められた感情は同情であり、見つからなければ良かったのにという気持ちで占められていた。

 

「今の姿はもしや……姫?」


 その中で一体のデウスがヘルメットの中で独り言を呟く。

 呟かれた単語は他の誰もが聞こえず、そのまま空に溶けていった。もしも他に聞こえた者が居たならば、彼女は更に言葉を紡いだだろう。――その意味を知る日は存外に近いのかもしれない。

 二つの勢力が本格的に重なり合い、交じり合う。これより先は幾千幾万と続く地獄の世界が待ち受けていた。

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