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人形狂想曲  作者: オーメル


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第六十八話 壊滅

 轟音、閃光、衝撃。

 無数に発生するそれらは容易く人間の鼓膜を破壊し、近くに居れば人体を傷付ける。

 対するは人類最後の防波堤。怪物に対しての無双を目指した守り人は、しかして現在装備している武器だけでは撃破に時間が掛かると判断していた。

 地上を駆け、空を翔け、無数の鉛玉を打ち込み続ける。既に百も二百も殲滅出来る程の弾を吐き出し切り、銃身からは煙が昇っていた。その全てはたった一体の為に――そう命令されたから、縛られた守り人はそれしか行動を許されない。

 ジープを加速させながらそれを見る兵の一人は、彼女達の攻撃力の低さに歯軋りを覚える。

 一緒に乗る三人はその歯軋りの理由をよく知りつつ、故に止める事はしない。今この場であればどれだけの文句を言ったとしても気にしないし、彼等とて同様に思っているのだから。

 

「ウチの所の指揮官は何してやがる!化け物退治を一回もしてない無能かよ!!」


「……俺が集めた情報によれば、今回の我が指揮官殿の戦績は百戦中七十八勝だそうだ。内、七十七勝に関しては軍学校の模擬戦だがな」


「つまり素人だと?……その模擬戦の勝利回数も甚だ疑問だな。指揮官殿の家系はどうだった?」


「バリバリの上流階級だ。つまり本人の能力ではなく、コネで此処に入れたという訳」


「最高ね。上は何考えてんのよ」


 一人の男性兵士が集めたという情報は、今現在の状況を示すには十分な情報だ。

 その言葉を聞いた直後に叫んでいた年若い兵士は窓枠に拳を叩き付け、怒りに打ち震える。眦は限界までつり上がり、誰が見ようとも怒髪天を貫いていたのは瞭然だった。

 そして、その怒りは此処に配属された誰もが濃度は異なっているものの持っているものだ。

 一回目は相手の種類は判明していなかった。だから装備に関して不備が起こるのは当然であり、その中でも兵達は工夫を凝らして突破しなければならなかった。

 一回目は結局のところ取り逃す結末(・・・・・・)になり、デウスが周辺警戒をしながら兵達が足取りを探すようになる。

 地下に潜った百足は地鳴りを鳴らさず、しかも本来の移動予測よりも離れた位置に結局は出現した。その情報は一般市民より齎され、ある意味彼等一般兵の評価は落ちてしまったといえる。

 

 彼等の今回の指揮官もその点については注意をしており、唾を吐きながら部隊長達に罵倒を重ねて――今回の作戦案を提示した。

 しかし、その作戦はとても作戦とはいえない。ただ静かにデウスを百足の弱点部位である頭部にまで進ませ、一斉射でもって絶命させる。一般兵の仕事としては基本的にデウスのバックアップで、故に対大型に関する兵装は一切積んではいなかった。

 この時点で作戦の失敗は誰の目にも明らかだ。その百足が数十人規模のデウス達に対して静かなままであるとは思えないし、一斉射程度で確実に死ぬ保証はどこにも無い。

 それを一人の部隊長が殴られるのを覚悟して質問した時、返って来た言葉は酷いものだった。


『デウスは単体でも小型や中型と肉弾戦で勝てる。であれば、そんなデウスに専用の装備と数を与えれば大型を撃破するのも容易かろう。実際に本部で情報を確認したが、あの百足程度のサイズならば五体で撃破出来るそうだ。……ならば、君達が足を引っ張らない限り何の問題もあるまい?』


 何の問題もない――筈が無い。

 五体で撃破が出来たのは十分な練度と、それを対象にした装備があったからこそ。確かにそれ無しでも撃破を可能にしたデウスは存在したが、その総数は僅か十体程度だ。

 その内、一般兵の中で強く思い出されるのは十体の内の一体について。大柄で、かつ粗暴。勝利に飢えた野獣は時に偶然と言い張って邪魔をした味方を殺す凶暴性を秘めており、他の九体についても大なり小なりその精神性に異常が残る具合になっている。

 最近ではその内の一体が死亡したと本部から通達が来て衝撃が走ったが、それは只の余談だ。

 つまるところ、現状の彼等は対大型を想定した武器を一つも持っていない。デウス側の練度だけは他のデウスから移された戦闘データによってある程度の補完は済んでいるものの、一般兵の中には新人も含まれていた。

 

 最悪。正にその二文字が兵士達の中に漂う空気の正体だ。

 百足は既に移動を開始している。その向かう先は軍のデータベースにも登録されている街であり、予定であればそこに住む住人は皆シェルター等で避難している筈だ。

 本来であれば大型が近くに居る中この避難方法は悪手である。巨体一つで容易に潰せるのだから、隠れるよりも逃げる方が生存の確率は遥かに高い。

 それをしていないのは指揮官によってそれを止められているからだ。如何な理由でそれをしないのかを兵士達は尋ねたかったが、傍に居る二体のデウスがその質問の全てをシャットダウンさせている。

 

「兎に角、現状は極めて不利だ。早く百足の足を止めなければ待っているのは虐殺だ」


「んな事は解ってる!だからさっきから百足の足を狙ってるんだろうがッ、お前等もやれよ!!」


「……無駄なのは解っている筈だが?」


 百足を止めなければ街を襲うのは確実だ。移動をしているのもただ単にデウス達の攻撃を煩わしいと思っているからで、決して辛いと逃げている訳では無い。

 解決策はただ一つ。相手がその街に到達される前に足を落とす。百足は巨体の身体を維持するため、普通の百足同様に無数の足を保有している。

 その一本一本がやはり人間が扱える武器では切断出来ず、されどデウスの銃であれば切断は不可能であってもバランスを崩壊させる事は可能だ。そして一度崩れれば、力を入れ辛くなった百足の足は容易く元には戻らない。

 そこから先は只管に火力押しだ。現状出せる限界火力を総動員し、頭部だけを直接攻撃する。それならば最終的に撃破する事も不可能ではない。

 しかし問題点として、デウスの命令権を持っているのは指揮官のみ。一部例外が含まれているとはいえ、基本的に命令権を保有するのは指揮官クラスだ。

 その指揮官が直接撃破を基本にしている以上は足止めの案は使えない。この点は柔軟性のある命令を出せない指揮官側の問題だろうし、そもそも殆どの失敗の裏には指揮官の存在がある。


「こうなりゃ手榴弾全部投げるか?」


「止めろ。それじゃあ自決も不可能になるぞ。……どうせ今回の一件は既に騒ぎになっている。責任を取るのは指揮官と、現場に居た俺達だ。街一つ消滅にまで発展すれば軍は責められるだろうから、俺達はスケープゴートとして処理されるだろうさ」


「聞いてねぇぞそんなこと!?」


「少し考えりゃ解ることだろうが。馬鹿かよ」


 絶叫する年若い兵士に、運転する眼鏡を付けた兵士は冷静に罵倒を飛ばす。

 そう、その通りなのだ。今回の件は現場からでも今後の状況が解ってしまう。百足はこのまま街に到達し、暴虐の限りを尽くすだろう。そして追加の部隊が専用装備を持って百足を撃破し、何も出来なかった彼等達を生贄として処理するつもりなのだ。

 恐らく現在の追加部隊は彼等の元に向かう準備をしている頃だろう。それが終わり、此方に到着した時には全てが遅い。この百足の攻撃によってどれだけ街の被害が出るかも不明であるし、到着した追加部隊に如何程の被害が出るかもまったく想像出来ないのだ。

 最初の段階から彼等の士気は低かった。今は絶望の未来に対して更に低くなり、残るは自棄になった者だけ。

 これで勝てる見込みなど無い。誰もが舌打ちをしたくなる現状に――しかし一発の銃弾が撃ち込まれた。

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