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人形狂想曲  作者: オーメル


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第五十九話 小屋

 歩く速度とは比較にならないスピードで世界が左から右に過ぎ去っていく。

 その中には無数の街並みがあり、普段であれば休憩の為に止まっていた筈の場所を通過していた。僅かながらに難民の姿もあり、俺達はその横を通る。

 彼等も少し前の俺達と同様に歩いていた。きっと俺達が歩いていた頃に止まってくれたトラックの運転手もこんな感じに見ていたのだろう。

 あらゆる景色が今まででは信じられない速さで過ぎ去っていく光景は科学の強さを否応なしに感じさせ、自分達が一昔前の時代の人間にも思えてしまう。無論此方が新技術を用いている割合が圧倒的に多いのだが、これに関しては多分に感性によるところが大きい。

 燃料はガソリンタイプ。これは五年前であれば当たり前だが、今では既に当たり前から外れつつある。

 日本は島国だ。他の国家からの輸入が絶たれれば、あらゆる物が不足する。特にエネルギー問題は深刻だ。襲われた初日に複数の発電施設は破壊され、その所為で配電が間に合わなくなった。

 

 故に新しく開発された太陽光発電システムが今現在の主流となり、発電施設破壊後からのエネルギー問題のほぼ全てを解決している。

 車も解決された物の一つだ。やはり移動手段は今の人類において絶対に必要で、着手するまでの期間も他より遥かに短い。軍用の車から始まったその技術は今や世界中の何処でも見るようになった。

 それに伴いガソリン車は姿を消していき、今ではレトロの分類に含まれている。実際は五年程度しか時間は経過していない筈なのに、やはり皆にとって安全圏が構築される前の頃を長く感じていたのだろう。

 人間は嫌いな時間を長く感じ、楽しい時間を短く感じる存在だ。五年を数十年規模の長さにするほど、あの頃は地獄だったのだと今乗っている車を見渡しながらしみじみ感じていた。

 しかしその車ももう間もなく乗り捨てなければならない。

 走り始めて早半日。十二時間も走った結果、ガソリンは今にも無くなりそうになっていた。

 

 これまでの間に明確な傷は出来ていない。給油が出来ればまだまだ動ける状態を保っているものの、俺の予想通り周辺には給油の可能なスタンドの一つも見つけられなかった。

 そもそものスタンドが既にかなり減っている状態だ。余程東京に近くなければスタンドを見つけるのは難しい。

 他の可能性としては自力での調達くらいなものだが、それに関しては絶望的だろう。故に俺達が給油など出来る筈もなく、メーターが零を指し示した後に静かに動作を停止させた。

 端末を起動させ、現在位置を調べる。車を発進させた位置から今の位置まで、既に俺の足では一日で辿り着けない距離の場所にいる。

 これでますます五人組に会える可能性は減った。しかし、それについては何も文句は無い。

 リュックを背負い外に出る。外は暗闇に包まれ、ライトの一つも無ければ歩くのも困難なままだ。

 

「異常はありません」


「OK。ライトを使う」


 自前のライトで道を照らす。

 あるのは比較的無事なコンクリート舗装のされた道と、元はガードレールがあっただろう崖だ。

 崖の下には薄暗いながらも家々の明りがあり、そこが街であると解る。明日になればきっとこの道にも車が通るだろうと暗闇に支配された道を通る。

 街灯がまるで無いことから規模としては小さいものか、或いは節制を極端に強めているかのどちらかだ。

 街の状態が解らないので迂闊に近付くような真似はしない。もしも以前の街のようにゴーストスポットならば、俺達は一目散に逃げる必要が出てくる。

 それに今居る位置は決して安全域ではなかった。――端末の位置では未だ埼玉であるものの、極めて現状は長野に近い。

 

 それはつまり例の大百足が出る範囲に入った事になる。

 五人組から貰った情報はかなり詳しいものだ。具体的な敵の数に、軍の位置、そして今後進むと思われる方向。

 どうやって調べたのか甚だ不明であるものの、情報そのものは非常に有難かった。後はこれが事実であるかどうかを調べるだけなのだが、それをするには実際に百足の出現位置にまで行かなければならない。

 今居る位置よりも三日程離れた場所に森がある。虫系の怪物は総じて自然のある場所を住処とするため、そこに百足が居たとしても不思議ではない。

 問題なのは彼等がそれを見てから日数がある程度経過していることだ。彼等の教えてくれた場所から三日と言ったが、実際は更に近い可能性がある。もしかすればこの場所まで来ている線も否定出来ない。

 

「何処かで野宿するか?車まで戻るのも構わないが」


「車は早朝時に人の目を集めやすいですし、此処は近くに潜める場所を探しましょう」


「なら一先ず進もう」


 車はどうしても目立つ。昨日まで無かった存在が朝有ると人は気にするだろう。

 しかも中に明らかに汚れている奴が居れば普通に警察に通報されてもおかしくない。車ももう動かせない以上、隠れられる場所を探す方が賢明だ。

 その為にも街に沿うように作られている道を進みつつ、隠れられる場所を探す。

 街の明かりは少ないまま。まるで死んでいるような静けさを感じつつも、これ自体に然程の違和感は無い。

 今や夜中を歩くなんて自殺行為とも言われるくらいだ。出てくるとすれば何らかの団体くらいなものだろう。

 暫く進み続け、壁の上部が砕けている小屋のような建物を発見する。スキャンによって建物の耐久が決して高くない事が解り、内部の状態も住むには適さない。

 見た目も以前は白く綺麗な壁だったのだろうが、今は土と泥で汚れ切っている。屋根の部分は珍しい事に瓦だ。

 その瓦も欠け放題で雨でも降ろうものなら濡れるのは確定である。絶対に雨の日や冬の季節には入りたくない場所であるものの、今休憩をする分には問題は無かった。


「ま、ちょっとの辛抱だな。陽が昇り始める頃に出よう」


「解りましたが……これでは食事も不味いかもしれませんね」


「そうだな。今日の夕飯は抜きにして、歩きながら食えそうな物でも決めとこう。どうせこんな場所じゃあ満足に寝れもしないしな」


「はい」


 リュックを汚れた床の上に置くのは抵抗があるものの、量が量だ。持ったまま選ぶのは俺では苦しいし、こんな事で彼女達の手を借りる訳にはいかない。

 そう思ったのだが、そういえば俺には非常食という歩きながら食べられる食品を手にしていた。ワシズに頼んで円柱の箱を取ってもらい、少しだけ変形したそれを見る。

 賞味期限は未開封の状態で十年。五年前に作られた物であれば余裕のクリアだ。一年や二年の誤差があっても問題にはならない。

 それを開けず、俺は片手で持つ。食べるのは歩きながらだ。

 端末に表示された時刻は深夜の二時。あの出来事から考えれば、これくらいの時間になっても不思議ではない。

 寝ようと思えば寝れるが、寝ないと決めた以上は寝るつもりは無い。朝は辛いかもしれないが、人間一日寝なくても死にはしないと俺は経験則で知っている。

 

「……眠らない以上、少し確認をしよう」


「解りました。現状では大百足の討伐をするのですよね?」


「俺達の進路に入っていればだけどな。それに相手は何も百足だけじゃない」


 俺達が大百足を気にするのは進路上に居るからだ。それが進路上から居なくなったのであればスルーする。

 五人組には覚悟云々を話したが、そもそもこの大百足を軍は追っているのだ。無理に此方が挑まなくとも、軍に任せられるのであれば任せてしまえば良い。

 問題は、軍がその百足を発見出来ていないということなのだが。

 これに関しては俺達が発見し、何らかの手段で匿名で連絡を入れるしかない。五人組はまったく端末を持っていなかったので連絡を入れられなかったが、俺であれば見つけて連絡する事も不可能ではないのだ。

 しかし、それをすれば軍側に俺の端末の履歴が残る。彩の操作によって現状はこの端末を使えているものの、安易にそんな真似をすれば発見者の追跡を連中は行い続けるだろう。


「……先ずは進路の確認だな。俺達の進む道には残念ながら例の森は含まれている。迂回路もあるにはあるが、調べてみた限りだとかなりの遠回りになる上に、遠回りの最中には基地もある。県境の検問なら兎も角、流石に基地で俺達の姿を発見されたら調べられるだろうな」


「それは私達が居るからですか?」


「それもあるけど、俺自身調べられたら不味い物を持ってる。特に武器や缶詰がヤバいな」


 俺の持っているHGなんて、完全に軍の人間の武器だ。実質ハイエナも同然の方法で手にしたし、缶詰は缶詰で軍用のマークがはっきり入っている。

 中々に物々しい説明文が羅列されている缶詰は、後にも先にもこの缶詰だけだろう。

 故に、俺だって調べられる訳にはいかない。だからこそ大百足の討伐も視野に入っている訳だ。

 彩が全部悪い訳では無い。そもそもの原因を辿れば、俺達は冤罪である。本来ならば訴えたとしても向こうは文句を言えない筈なのだ。

 ここら辺が世の中の世知辛さであると同時に、人間の闇だった。

 いつかはそこから脱却出来るだろうか。出来れば良いなぁと思いつつ、確実性のまるでない希望に暫し思いを馳せた。

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