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人形狂想曲  作者: オーメル


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第五十八話 圧倒

 廃墟前に二台の車が止まる。

 それを一応の形で警戒したものの、出て来た彩とワシズの姿に俺とシミズは武器を降ろした。

 その反応を見た五人組も警戒を解除し、そのまま廃墟の中へと彼女達を入れる。他に何らかの音も聞こえず、シミズのスキャンでは異常無しの結果が出た。

 五人組は新たに入って来た二名の姿に絶句する。何せ入って来た人物が二名とも美形で、武器を持っていた様子からデウスであるのはほぼほぼ確定だからだ。

 五人のデウスが軍によるものではなく、一般の者達によって居ることがどれだけ奇跡的なのかは俺も解っている。

 当の彩達三人もそれは理解しているだろうが、特に顔には出さなかった。

 

「お疲れ。悪いな、殆ど任せちゃって」


「構いませんよ。本当は貴方を少しでも参加させたくはなかったのですが、やはり内容と人数が噛み合っていませんでした。今回は誰にも発見されずに制圧したものの、次も同じ結果に終わるかは解りません」


「そうか。……無茶をさせた。後で何か願い事があれば聞くよ。殆ど出来ないだろうけどな」


「解りました。ではその時に――――さて」

 

 二十人以上の規模の敵を殺さずに二人で気絶させる。しかも短時間で。

 明らかに仕事としては難易度が高過ぎる。彼女達二人でも危なかったというのだから、如何に俺の要望が無茶だったのか解る。恨みを買いたくないからと殺しは避けたものの、やはりこれは一般的に馬鹿な真似なのだろう。

 やるならお前がしろと罵倒が来るような戦いだ。だから、彩が俺の言葉に妖しく笑った件については無視した。

 撫でて撫でてとせがむワシズに意識を移して撫でまくり、癒しを感じながらも彩の言葉を耳で聞く。

 最後の二文字は、嫌になるほど冷めていた。暖かかった空気が一気に凍てつき、その温度変化に風邪でも起こしそうな程だ。

 いきなり態度を豹変させた彼女の姿に、五人組もきっと困惑だろう。


「二人もデウスが居たというのに、随分と粗末な様だな」


「なんだと……!?」


「誰も守れないデウスに存在価値があると思うのか。例え壊れようとも守るのが我々だろうに」


「……黙れッ。俺だって好きでこんな無様を晒してる訳じゃない」


 彩の言葉は何処までも辛辣だった。

 人を守る。その行動が出来ないのならば、デウスに生きる資格は無い。

 極論過ぎるかもしれないが、実際デウスの誕生理由は正しくそれだ。本来の活動を行えないのならば、通常は修理か破棄になるだろう。

 彩の言葉に少年は悔しそうに、少女は怯えながら顔を俯かせる。絞り出すように放たれた少年の言葉には、紛れも無い憤怒と悔しさが含まれていた。

 あの子達とて、本来はデウスとして活動したかったのだろう。それが出来ていない現実は二人にとって惨めで、悔しいものでしかない筈だ。可能ならば修理をしたいと思うのは当たり前だと納得出来るものの、思考の内の数割は冷静に計算を始めていた。

 

「身体が全快なら、あそこで前に出ていた。僕の武器ならあんな連中を始末出来ていたんだ!――アンタが僕を侮蔑出来るのは機能が無事だからだろうが。どうせその内アンタも俺と同じ様になる」


「ほう」


「あの場を制圧したのは二人のみ。そして今この場のアンタ等の四人で全員だ。こんな真似をしている時点で絶対に軍からの支援は無い。同様に、研究所からも支援は無いだろうさ。そこの男にアンタ等全員の修理を行えるコネも金もあるとは思えない。……何でアンタ等がそんな男の命令に従っているのか甚だ疑問だ」


 少年の内容は全て合っている。

 俺にコネは無く、同時に金も無い。どうして素直に願いを聞いてくれるかも疑問というのは、俺達にとっては秘密の内容なので決して話せはしない。

 彩が辛辣ならば、少年も辛辣だ。ただ対象が彩ではなく俺であるという点で違い、その部分には個人的に触れてほしくはなかった。

 俺はその事実をずっと前から自覚しているし、最近もデウスの一人に言われたばかり。だから今更傷付くなんて脆い心は持っていないものの、一番それに対して敏感なのは彩だ。

 何時でも動けるように座っていた状態からゆっくりと立ち上がる。三人の男はそんな俺に顔を向けるが、今はそれに関して気にする余裕は無い。

 彩の周囲の温度が間違いなく下がった。黒い何かを纏っているようにも幻視出来てしまい、彼女が爆発寸前であることが簡単に解る。素直になれと言ったから彼女は俺に対して拗ねたり甘えるようにと感情豊かに接するようになったが、それはつまり悪意も素直に表に出やすくなった。


「成程。言いたい事は解った。……やはり貴様は負け犬だよ」


「なに?」


「罵倒するなら直接私を罵倒しろよ。他の人間を交えなければ貴様は罵倒の言葉を吐けないのか?」


「そんなことは――」


「無いと?では言ってみせろよ、お前も一端の兵士ならそれくらい出来るだろ?」 


 場を彩が制圧していく。言葉だけで少年は追い詰められ、その顔からは徐々に憤怒の炎が消え始めている。

 ここで争いには両者共に発展させるつもりはない。それは双方の雰囲気から解るが、何か別の要因が混ざり始めれば容易に戦いにまで発展する。

 戦力で言えば此方が勝つ。男達三人ではデウスの一人も止められず、勝てるとしたら俺を人質にするくらいか。

 ワシズとシミズは互いに視線を交わしている。恐らくは何か通信で話しているのだろうが、正直に言って何を考えているくらいかは解る。

 この場を収めるのを一体誰がやるかだ。デウス組が出てもこの言い合いは止まらないだろうし、男三人でも少年の言葉を止められるとは思わない。

 そもそも彩が止まれば良いのだ。彼女を止めれば、それだけでこの場は静かになる。……とくれば、俺がやる以外に他に居ない。


「そこまで。彩、言い過ぎだ」


 両手を叩く。この険悪な空気に一端の間を作り、全員の視線を集めた。

 俺を守る為の前に出ていた彩は振り返る。そこには意識して作った俺の不機嫌な眼差しがあり、彼女はその手の眼差しに酷く弱い。


「この少年の言っている事は全部事実だ。そんな内容で一々怒っていたら簡単に騙されるぞ――すまないね、ウチの彩が迷惑をおかけしました」


「あ、いや……こっちこそ……」


 何で自分は仲裁役をしているのだろうか。そんな事を思いつつ、静かに俺の横に移動した彩は頭を下げる。

 謝罪なのだろうが、この程度では最早彼女に対して怒りはしない。気にしないよと告げ、目は三人の男達に向ける。


「我々の邂逅はこれから先無いでしょう。貴方達がどんな風に今後過ごしていくかもまったく知りません。……ですが一つだけ、お願いがあるのです。それを助けられたお礼の一つとして数えてほしい」


「……おう。どんなもんでも来いや」


 今後、この五人組は難民達の居る場所を進もうとはしないだろう。

 行くとしたら他の無人の街か。そこで食料や日用品を漁りながら過ごしていくかもしれない。もうまったく会わないだろうが、それでもデウスが身内に居るのであればお願いしたいのだ。

 

「どうかそこの二人を無下にはしないでくれ。どれだけ厳しい状況でもだ」


 軍内のデウスを知っているからこそ、俺はそれを望む。

 本当の意味でデウスが守りたかった者を守れるように。人も捨てたもんじゃないと失望されないように。

 少年も少女も目を見開いていた。特に少年の驚きは顕著で、きっとそこには先程の罵倒も含まれているのだろう。

 三人も予想外の願いに驚いていた。他にもっと俗な願いが来ると身構えていたに違いないが、直ぐに苦笑を返す辺りで漸く俺の根っこが解ったのだろう。

 鷲の男が考えるのも馬鹿らしいとばかりに息を吐き出し、近くに居た少女を力強く撫でた。

 少年も髭を生やした男に撫でられ、その首が左右に揺れている。


「アンタがそんなにデウスに好かれてる理由が解った気がするよ。だから、まぁ、解ったよ。甘やかしはしないがな」


「それで構いません。甘くするのと優しくするのは違いますから」


 唯一残った丸坊主の男は、自身の頭を撫でながら穏やかに返した。

 それだけで俺はもう何も言わなかった。先程までの寒さは消え、今は暖かさを感じる。この暖かさでもってデウスを抱き締められるのなら、デウスも本当に自分から人を守ろうとするだろう。

 今はまだまだ数は少ない。けれど何時かはこんな時代が訪れてほしい。そう思いながら、俺は別れを告げて車に乗り込む。

 何故か運転席を彩に取られてしまったが、本人が運転したいのであれば文句は無い。

 そのまま任せ、俺達は誰にも見られずに走り出すのだった。

 

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[良い点] こんな言葉意味ないだろ
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