第五十七話 新たな者
周囲に人気の無い廃墟の内の一つ。
可能な限りデパートから離れたその内部にて、俺達は五人組と正面から向き合っている。
体格が大きく頭髪の無い丸い頭の男。細身で目を鋭く尖らせ、無造作に髪を伸ばし放題にしている男。髭も髪も伸ばす過ぎて昔日のホームレスそのものといった、しかし最初の男と同じくらい体格の大きい男。
その後ろには人間とは思えない美を放つ少年と少女の姿。二mに近い体格があるんじゃないかと思わせる男達は総じてゴミ捨て場で拾ってきたかのような黒や紺のジャケットを羽織り、黒いシミを多く残す暗色系のズボンを穿いていたが、後方の二人は酷く普通の恰好だ。
少年は黒シャツの上に茶色のフード付きの上着を羽織り、紺のジーンズ姿。少女はワンピースの上に赤いジャケットを着ている。
質としては少年少女の方が遥かに高く、特別扱いをされていたのは明白だ。
その内、少女の方が手を震えながら上げている。黒の瞳は不安に揺れていて、サイドポニーの茶髪も揺れていた。
明らかに気弱な風体を見せる姿はこの中では浮いているものの、それでも何かを発言してくれなければ進まない。特にこの重苦しい気分は俺としても好ましいものではない。
「どうぞ」
なので俺は意識的に笑顔を浮かべて、中学生程に見える少女に語り掛ける。
それに対して彼女は一瞬痙攣するように震えるも、立ち上がってその目をシミズに向けた。
「あの……そちらの方、デウスですよね?」
「――――」
少女のシミズに向けた問いかけに、的になったシミズは無言で銃を向ける。
シミズが少女に向けた感情は殺意。黙っていれば殺さなかったというのに、言ってしまったのであれば慈悲は無い。
そう言わんばかりの態度に、少女は益々その震えを加速させた。最早輪郭がブレている程の揺れ方は尋常ではなく、一気に瞳から雫を垂らす様は哀れと言う他にない。
何も言わず、俺はシミズの肩を掴む。その仕草で彼女は俺の言いたい事を解ってくれたのか、一先ず殺意を収める。
しかし武器は向けたまま。何かあれば即座に殺すという姿勢は崩さず、それを止めさせる程の理由は俺にはまるでなかった。
シミズがデウスと見抜くのは難しい部類じゃない。世の中には人間でありながらデウス並の美貌を持つ者も超能力者として存在するものの、その数は極めて希少だ。
それにそんな存在達は大概保護されるのが常なのだから、デウスと考えるのは自然だろう。
かといって、それに素直に反応するのはシミズの失敗だ。
反応せずに困惑顔をすれば表だってそうだと言う必要は無くなる。例え皆がそうだと言っても、確信が無いのであれば殆どの場合口を噤むものだ。
しかしそれはもう出来ない。ならば隠すよりも此方も攻める方が有利不利を打ち消せる。
少しでも付け入る隙を作ってしまっては余計な情報を漏らしてしまうかもしれない。特に俺達が追われている理由は絶対に他には話せない。
「そう。……そして、お前達も」
「……はい」
最初に顔を見た時、そうではないかと思っていた。
むさくるしい男達ばかりだからその綺麗さが浮き彫りになった訳では無く、目の前の少年少女は何処に居たとして輝ける美しさだ。特に少年は短めに切られた金の髪と碧眼によって王子様めいた美貌を持っている。
少女の場合は厳密に言えば小動物めいた可愛さだろう。その怯え方も含め、此方の庇護欲を擽る姿をしている。
そうなるように作られたと考えるのは早計かもしれないが、もしもそう作られていたとしたら脱帽ものだ。製作者は人間の欲というものをよく解っている。
おどおどとする少女は次に繋げる言葉を探していた。それに少年は溜息をついて、今まで結んでいた口を開く。
「尤も、今の僕達はデウスとしての活動はほぼ不可能だ。何せ戦闘の所為であちこちが破損状態だからな。移動するのが精々といったところだよ」
「では武器も?」
「ああ。保存エリアそのものは生きているが、接続する為の内部配線が全部断たれている。エネルギー供給率も二割が限界。通信系統も軒並み起動すらしない有様だ。正直な話、今の僕達はちょっと力持ちなだけの人間とそう変わらない」
この旅の中で彩達以外のデウスを見た。なので今更他のデウスが居たとしても不思議には思わない。
少年の言葉にワシズは素直に頷いた。どうやら内部のスキャンを勝手に行ったらしく、ワシズの行動に少年は眉を顰める。デリカシーに欠ける行為なのは理解しているが、此方も確りと把握しておきたいので無視させてもらう。
さて、つまり今この場には複数のデウスが存在することになる。
これは戦力としては驚異だ。下手なPMCよりも俺達の方が戦力としては上である。彼女達をこのまま暴れさせれば複数の県を壊滅にまで追い込む事も難しくはない。
彩だけでも大分卑怯な強さを持っているのだ。それにプラスされるなど、相手にとっては地獄も同然である。
家族も同然だと思っているが、やはりその点は確り理解しておくべきだろう。特に彩に関しては特大の注意を払うべきである。
少年の現状説明に頷きで納得の意を示していると、ズボンに入れていた端末が震えた。
発信者を見ると、そこに表示された名前は彩だ。どうやら残りの仕事も全て終わらせてきたのだろう。
通話ボタンを押し、端末を耳に当てる。
「こちら、只野。今は適当な廃墟に入ってる」
『位置はスキャンで把握済みです。こちらも装備の殆どを集めきりましたのでワシズを連れて撤退します』
「難民達の様子はどうだ?」
『今はまだ起き上がってはいませんね。ついでに車も複数頂きますか?』
「そうだな。二台分出来れば持ってきてほしいが、運転は可能なのか?」
『大丈夫です。乗り物関係の知識も全て入っています。寧ろ人間よりも上手い自信はありますよ。……それでは、ワシズに片方持ってこさせます』
「悪いな。後、一つ情報だ。……五人の内、二名はデウスだ。ただし移動くらいしかまともに出来ないらしい」
『!、了解しましたッ。急いで戻ります』
通話が切れ、端末をズボンに戻す。
一先ずまだ誰も起きてはいない。ついでに武器も大量に入手した。彩達の容量がどれくらいなのかは定かではないものの、この分なら使い潰すつもりで使用しても問題は無い。
車も確保出来た。ガソリンがあるだけ走れば、これまでの歩行以上に距離を稼げる。
尤も、ガソリンが尽きた段階で車はそこら辺に放置だ。ガソリンを買う金は無いし、スタンドがあるような道を進む訳では無いのでどうしても道中で進まなくなるだろう。
取り敢えず、情報は貰った。後で彩達に詳しい情報を話し合いの場で出すつもりだ。
五人組の役目はもうこの時点で終わった。後はどんな風に過ごしてもらっても一向に構わない。
「情報は貰いました。お礼として今私のメンバーが車を持ってきますので、そちらを使ってお逃げください」
「は?まさかアンタ等、本当にそれだけの理由で助けたのかよ」
「勿論です。我々にとって貴方達の情報は非常に有益でした。車を渡す程度安いものです」
「幾らそこのデウスが戦力として成り立っているとはいえ、相手は何回も軍の護衛を潜り抜けて輸送トラックを襲った連中だ。デウスが大丈夫でも、お前さんが危険過ぎる。付け狙われるぞ」
髭の男は何故か俺の心配をし始める。余程俺の求める内容のラインが低過ぎたのか、鷲の男はまだ何かあるだろうと視線で告げていた。
あの難民達が公道に住み着く危険な者達だとは知らなかった。他の組織だった者達かと思ったのだが、世間というのは酷く狭い。こんな事でそれを感じたくはなかったが、一度敵対した以上は今後の活動は注意する必要があるだろう。
一応は俺は顔を外には見せていない。デウス組も隠れながらの排除を基本にしたお蔭で確率としては低い筈だ。
注意はしても、その必要性は個人的に高くはない。素直な意見で言えばそうなのだが、そう考えられるのもやはり一騎当千の彼女達が居るからだ。
髭の男も今はシミズしか居ないと思っているから心配しているのだ。これで彩達を見れば何も言いはしない。
「大丈夫ですとは言い切れませんが、手は打ってありますのでご心配なく。それよりも貴方達は今後について考えるべきです」
言い切り、廃墟の窓から車の近付いてくる音が聞こえた。
よろしければ評価お願いします。




