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人形狂想曲  作者: オーメル


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第五十六話 一人軍隊

 拳銃が刹那の時間、彷徨う。

 扉を開けた先には銃を抜かずに立つだけの青年と、似合わないAKを持った少女が居た。

 危険性で言えば少女の方が武器を持っている分危険だ。此方に銃口を見せていることからも、彼女が撃てないと即断する事は出来ない。

 これが武器を持っているのが青年で、そうでないのが少女であれば迷わなかった。直ぐに引き金を押しただろう。

 だが迷い、それが彼等にとっての致命の一撃となる。

 狭い通路で響く複数の轟音。少女――シミズの放った銃弾は一直線に彼等の拳銃を狙い、その威力に耐えられなかった彼等の手は容易に拳銃から外れる。

 近くに落ちたその銃は拾おうと思えば直ぐに拾えるだろう。しかし、そう行動するには少女の銃の向ける先が問題だ。

 まったく一度も視線を逸らさず、冷静に撃ち抜くその姿。今もなお銃を向けた先頭の顔面に狙いを付けている様子に油断らしい油断はまったくない。

 慣れている。そう評する以外に無い彼等は、しかし青年の言葉で視線を外すしかなかった。


「シミズ。隠れていろって言った筈だが?」


「こっちの方が確実。責任は私」


「はぁ、後で彩にどやされるぞ」


「大丈夫。理由は作れる」


 

 まるで兄妹の会話だ。片手で顔を抑える青年の姿も合わさり、とてもではないが戦場の風景には思えない。

 そうであるからこそと言うべきか。彼等に緊張感らしい緊張感など無く、そちらの相手など余裕だと五人組には思わせた。

 怒りが湧く。されど、それをそのまま表に出してはならない。

 ここまで余裕であれば恐らく他からも銃口が向けられている。精度も幼い少女で拳銃だけを弾き飛ばす程だとすれば、下手な真似は即ち顔面を吹き飛ばされるだけにしかならない。

 大人しくするのが最上。叫んだ手前とても情けないが、情報も何も無い状態では大人しくする以外の選択肢が浮かばない。

 両手を上げて降参のポーズを取り、それを見た他の者達も静かに銃を床に置く。完全に降伏の構えであるものの、青年――信次にとってはそんなポーズは無駄でしかなかった。


「降参のポーズをする前に立って走ってくださいッ。何時あの難民達が起き上がるかも解りません!」


 さっさと立って走れ。青年の真剣な顔と簡単に背中を見せたその姿に、一先ず彼等は言う通りに駆け出した。

 業務用の通路の途中にある避難用の階段を驚く程簡単に抜け、デパートから距離を取る為走り出す。青年は端末を操作して何処かに連絡を取り、シミズは後方を走る五人組を冷たく監視していた。

 その目は中学生というにはあまりに似合わない。世の中の深い闇を見て来たと言わんばかりに、シミズは五人組の一挙手一投足を見つめている。

 当然、そうなればまともに反抗する事など出来ない。一向に話そうとしない二人はシミズの顔を驚いたように見ているが、それだけだ。男達も異次元の少女の美しさは認識しているものの、その目の所為で邪な感情など抱けない。

 もしも抱けば、問答無用で射貫かれる。そう思わせられながらの走破は、彼等の胃を必要以上に痛めつけていた。

 

 やがてデパートから離れ、一つの小さな廃墟の中に入る。重いリュックを持っていた信次は荒い息を吐きながらそれを降ろし、そのまま剥き出しのコンクリートの上に胡座を掻いた。

 此処が青年達の拠点だとでも言うのか。思わず周辺を見渡し、そのあまりに何も無い状態に絶句する。

 これでは此処に立ち寄っただけだ。警戒装置も無い状態では、万が一相手が接近していても気が付けない。

 にも関わらず信次は安心したような表情を見せる。それが示すのはつまり、此処は青年達にとっての安全地帯に他ならない。

 

「あー、自由にしてもらって良いよ。シミズも必要以上に警戒するのは外だけで良い。後数分もすれば他も戻ってくるだろうさ」


 青年の言葉に、シミズはそっと銃を降ろした。

 この時点でどちらの方が上なのかは確定された。少なくとも、シミズよりも青年の方が上の権限を持っている。

 それ即ち、情報を入手するとしたら青年以外に無いということだ。思ったよりも若い青年の姿に、これは簡単に情報が手に入るのではないかと五人組の中で一番頭の回転の速い鷲のような目を持つ男が口を開く。

 

「あんた、一体何者だ。俺達を助けるなんて後の事を考えてるのか?」


「……いいや、俺達はあんた達の事もあの難民達の事も何も知らないし、知ろうとも思わない」


「な――――ッ、じゃあなんで助けた」


 青年の言葉に一同は絶句するものの、一早く覚醒した鷲の男は目を鋭くして怒りを込めて問いかける。

 その様は信次側の方が有利であるのを忘れさせる程だ。シミズの手が上がりそうになり、完全に狙いを定める前にそれを見ていた信次が手を上げて静止させる。

 問いかけられるのは想定の内。別に何か困った訳では無い。強いて言えばシミズの姿が露見したくらいだが、驚きが少なかった事によりどうやらデウスと気付かれなかったようだと信次は判断した。

 

「悪いんだけど、君達の声を盗み聞きさせてもらった。その中にちょっと確かめたい情報があってね。訪ねさせてくれよ」


「知ってどうする」


「……覚悟する必要があるかもしれない。俺の持っている情報と合っていれば、少なくとも戦いは避けられない」


「……お前」


 青年の呟きには多分に憂いが籠っていた。

 そして、五人組もその言葉に目を見開いた。その目には何故お前がそれを知っているのかと語り、思わぬ言葉に僅かながらの希望を感じずにはいられない。

 少なくとも、あのデパートにおいて一瞬で難民を黙らせる力が青年達にはある。

 その力があれば万が一にも勝てるかもしれないと思うものの、しかし確実に勝てるとまでは思えない。

 元々彼等五人組の目的は、広がりつつある被害の元凶を軍に伝えようとしていた。それがこんな形で達成されるのであれば五人組にとっては悪い話ではない。

 気にすべきなのは、その戦うというのがどういう意味なのかだ。迂闊に五人組から話して勝手に納得されては、彼等が理解に及べない。

 なので最初に吐くべきなのはお前だと鷲の男は告げ、その大胆さにシミズは男の頭部に銃口を押し当てた。

 尋問というにはあまりに物騒極まりない。しかし、信次側も正確な情報が欲しかったのは事実だ。悪いが素直に話してもらう為にもと、今度は静止の声を上げなかった。


「怪物の出現、軍による街一つの消失、その情報は何処にも出ておらず、ネットの方も封鎖されている。件の怪物の姿は百足だ」


「……OK。どうやら互いに持ってる情報を公開した方が良いみたいだ」


 信次の出した情報は彼等五人も知っている。

 というよりかは実際に目にもした。その被害が現在どれほどのものであるかも理解しつつ、信次に自身達が持っていた情報を公開した。

 全てを照らし合わせて完成したのは、安全だと思われていた内地で未だ暴れ続ける大百足と軍の戦い。そして、そこに介入しようとする難民の姿である。

 完全な形となって浮かび上がった情報は信次が想像するよりも遥かに危険で、軍が失敗したと解るだけの理由を持っていた。

 その大百足は現在地中に逃げ、居所は判明していない。デウスの広範囲スキャンにもヒットしなかったことから大分地中に潜っているようであり、しかし五人組はその大百足の居る場所を把握していた。

 それは偶然だ。彼等もまさか見つかるとは思わず、故に対応が一歩遅れた。その一歩が難民側に利用しようと考えつかせる結果になってしまったのだ。

 重苦しい沈黙が続く室内。しかしそのままでは何も解決しないと信次は次の言葉を発しようとし――五人組の中で唯一の小女が震えながら手をあげていることに気付いた。

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