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人形狂想曲  作者: オーメル


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第五十五話 避難誘導

「なんだぁ!?」


 野太い男の叫び声に全員が身構えた。

 デパート中に広がる無数のガラスは銃声の音と共に割れ、近くに居た難民は慌てて逃げ始める。

 瓦礫の山を盾にして、或いは車そのものを盾にして、突如とした乱射に対して各々防御の姿勢を行った。突然の乱入は、しかし彼等難民だけが驚いていた訳では無い。

 内部に居る案内受付所のカウンターに隠れていた五人組もまた、各々驚愕を露にしていたのだ。

 今も乱射の轟音は止まず、全弾撃ち尽くすと言わんばかりの行動は――何も知らない難民にとっては弾薬などまったく気にしていないと思わせた。

 つまりはその背後に大規模な組織が存在し、有名所で言えばやはり軍そのもの。次点で偶々見掛けて助けようとしている武装組織だが、どちらにしても難民にとって相手に出来る存在ではない。

 

「一体なんだってんだ」


「解らん。だが、此方に撃ってこないという事は話の解る奴等かもしれんぜ」


「よせ、コイツは直ぐに希望を持つぞ」


 三人は各々口を開けるも、警戒の目は解けない。

 その銃声が次の瞬間には自分達に向くかもしれないのだ。気を抜ける筈も無く、故に彼等は自身の持つ装備から手を離せない。

 彼等の命綱は、片手で持てるHGのみ。他の武器を奪えるチャンスが無かったが為にこの程度の装備となり、恐らく相手方の難民はもう間もなく武器を乗せた車が到着する頃合いだ。

 そうなってしまえば今の銃声も止む。拮抗状態になるとは言えないものの、それでもこの蹂躙は無くなるだろう。

 その隙に脱出するのが彼等にとっての最後の希望だ。カウンターの真反対にある扉を開き、一般通路と業務用通路に別れた道を業務用に進み、途中にある避難用階段より脱出する。

 勿論安心に抜けられる保証は無い。寧ろ逆に襲われる確率の方が高い。それでもやらねば生き残れないのだから、五人組の取り巻く状況は限りなく詰みに近い。


「……別に何にも言うなって言ってねぇんだから、あっちの連中の事なんか忘れて好きに話せや。これが最後になるかもしれないんだしよ」


「……あの、その」


「……まぁ、無理にとは言わねぇけどよ」


「……」


 三人の内、髭を伸ばしっぱなしにした体格の大きな男は溜息を吐きそうになりながら扉付近に居る二名に話しかける。それに対して片方は何かを言おうとして、もう片方は無言のまま。

 その姿は何かを話したいというものではなく、言われたから何かを話そうとしていると表現するのが正しい。

 その様子に声を掛けた本人は直ぐに興味を失ったように視線を二人から外した。何も話そうとしないのならば、これからも命令しなければ話そうとしないだろうと思いつつ。

 一先ず、状況が完全な詰みから外れたのは事実。これからずっと閉じ籠るのは食料も含めて不可能であると解っているからこそ、動ける内に動こうと全員が全員タイミングを待った。

 ――事態が更に急変したのは、その僅か一分後のことだ。

 最初は五月蠅かった銃声が静まった。それに関しては別に何の疑問も無いが、疑問が向く相手は難民側だ。

 銃声が静まったのなら、逆襲の時間である。どれだけ銃弾を撃ち込まれたとはいえ、何人かは死んでいようとも数人程度は武器を手にしている頃だ。

 

 それに合わせて撃つのは道理。耳が馬鹿になりそうな銃声だが、それでも大まかな位置は掴める筈。

 素人には決して出来ない。それを五人組は全員理解しているからこそ、相手の行動に疑問が残るのだ。一体どうして威嚇も含めた射撃行為をしないのだと。

 無駄弾を嫌う。それは構わない。此方の武器を持っている者を知られたくない。それも解る。

 しかし、現状は恐らく全て握られた状態だ。五人組を誰も狙わずに追って来た難民だけを狙い撃ったあたり、情報が不足している訳ではあるまい。

 或いは、何処かから全員の会話内容を聞いている可能性がある。

 恐ろしい話だが、戦いの場にもしもは存在するのだ。そして、五人組はそれを調べる術を知らない。


「一体何が起きた?」


「解らん。だが迂闊には出られん。このまま暫く待つか」


「賛成賛成。置きエイムとかされてたら最悪だ」


 誰にも解らない。解るのは、この襲撃を行った者だけ。

 困惑に包まれる最中、銃声によって暫く鈍くなってしまった耳の調子が戻る。同時に一人の歩く音を全員が捉え、その方向である扉に銃を向けた。

 一般通路でも業務用通路でも、足音の方向から此処にしか来ないのは確定している。

 であれば、狙いは間違いなく五人組。敵か味方かは解らず、指は常に引き金に当てていた。

 暫くの間無音が広がる。呼吸するのも止めて相手の反応を待つ彼等は、今にも死んでしまいそうな緊張感を抱いていた。

 どうしてこんな目にと一人の男が愚痴を吐き――それを合図にしたのか扉から小さなノック音が鳴った。

 あまりに突然のノックに慌てて引き金を押しかけたが、寸でで止める。心臓が口から出てきそうな気分を味わいつつ、ノック音の正体が姿を見せるのを待つ。


「――聞こえていますか?」


 やがて扉の先から若い男の声がした。

 声から判別出来る年齢としては二十代か三十代くらいだろう。予想よりも若い声に、しかして誰も気を抜かない。

 今時少年兵なんて腐る程に居る。世界中の人口調整として、少年少女を戦場に手伝いに向かわせているのだ。時には地雷撤去の走破もさせられ、少女の地雷原突破なぞレディーファーストの再来である。

 故に相手が若いからといって容赦をする必要は無い。世界平和は今や幻も同然なのだ。弱肉強食は昔もそうだったが、今はそれ一色に染まってしまった。

 絶対強者と世界に認められたのなら、それは真実絶対強者だ。力こそ全ての風潮は、単純な者程解り易い。

 

「……聞こえていると仮定して話させていただきます。此方は諸事情により貴方達を救助する目的で行動させていただきました。もしもまだ助かるつもりがあるのでしたら、私に付いて来ていただけますと幸いです」


「嘘だな」


 断じた声は、常に冷静さを保っていた細身の男。

 鷲の如く鋭い眼差しを扉に向け、自身の得物である鈍く発光する銀の銃を構える。彼だけは如何な状況でも冷静に考え続け、この中での頭脳担当をさせられていた。

 今の状況は自分達にとって余りに都合が良過ぎる。何かあると考えるのは必然で、若い男というのも怪しさを加速させた。これを信じさせるには五人組にとっての味方である証拠が必要だ。

 そして、そんな要素が五人組の中には存在しない。何処かと特別繋がっている訳では無く、日々の糧食は廃墟を漁って手に入れるのみ。

 時には自身の成果を奪われる環境は、単純に劣悪に極まっている。

 奪い、奪われる。そんな日常を過ごせば疑心暗鬼になるのも当然だ。救いなのは五人の内三人が最初に難民となった頃からの知り合いだった為に孤独を免れたこと。

 

 そうでなければ今頃は全員孤独だ。チームを組まねば生き残れなかった事も多々あった三人は、故に築いた絆の深さが違う。

 であれば、他の二人がそれに対して否を出す事も無かった。

 無言を貫き、ただただ銃を向けるだけ。若い男も嘘だと言われた直後に無言となったことから、三人の中で図星の二文字が浮かび上がる。

 しかし、そうなれば目の前の相手は今直ぐ殺害した方が身の為だ。もしも連絡の一本でも入れられてしまっては逃げ道を完全に封鎖されることになる――いや、もうなっているかもしれない。

 覚悟を決める時だ。今この場で動くか、動かないか。

 視線を交差させ、彼等は共に頷き合う。ここで動かないなんて嘘だと。


「……そう思うのは当然だと思いますが、そちらには選択肢らしい選択肢は無いのでは?」


「確かに、その通りだ。――俺達に出来るのはこれくらいでね」


 足音を消しながら扉に近付く。若い声の言葉にそうだと返しつつも、その目には殺意を滾らせていた。

 指を三の形にし、次に二へ。そして一へ移行し、腕を下ろした瞬間に一番体格の大きい男が唸り声を上げつつ一気に扉を開けた。

 そして男は見る。明らかに私服同然の姿の男の姿を。

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