第五十三話 争いの火種
銃声の音はデパート全体に響き渡っている。
俺の耳に嫌という程聞こえた音はデウス全員にも聞こえており、故に行動は早い。
即座にワシズ達が相手の様子を偵察しに行き、全員が全員武器を手に持つ。俺も腰に差しっぱなしだった拳銃を引き抜き、音の方向に警戒を向ける。
十中八九、俺以外に入った五人組の発砲だ。何を目的として突然発砲したかは定かではないが、武器を使い出した時点で尋常ではない理由だろう。
相手の喋っている内容を聞ければ良いのだが、姿も見えない程離れていては聞こえはしまい。
せめて怒鳴ってくれればと思うも、発砲の直後から相手は沈黙を貫いたままだ。
「生体反応は?」
「五つのままです。誰かに向かって撃った線は低いかと」
そうなると、相手は何か別の物を目的として攻撃したことになる。
その理由を知っていれば逆手に取って此処から離れられるのだが、此処は素直に偵察を行っているワシズ達からの報告を聞く他に無いだろう。
万が一の事も伝えてある。ワシズであれば好奇心に身を任せて行動しそうではあるものの、シミズが居る限りその辺は抑えてくれる筈。何よりも自分達の行動が俺達にも影響すると理解しているのは確かだ。
子供としての側面を持っていても、内面は完全な子供ではない。こと戦いにおいて、彼女達は力強いのはよく理解している。
俺達は相手から徐々に距離を離していく。これまで以上に慎重に慎重を重ね、言葉を重ねる数も極端に減らした。
本当に重要な内容でなければ簡単なジェスチャーを交える。殆ど指を向けるばかりだが。
静寂を重視して進む俺達の耳に、二発目の銃声がデパートに鳴る。
一瞬の雷鳴にも似た音は俺の恐怖心を煽ろうとするものの、既に銃声には慣れ切ってしまった。完全に平気である訳では無いが、かといって極端に怖がることもない。
理由が解らない方が余程恐ろしい。もしも例の集団が偶然武器を手にして振り回しているだけの者であれば、一時の興奮に任せて誰かを害しかねない。
更に+するとして難民であれば一般市民を襲わないとも限らない。そういう相手の方が俺達には都合が良いが、かといってまともに相手をしたくはなかった。
「――ワシズ達より報告です」
耳元にまで口を寄せた彩は近過ぎであるが、その声は酷く真剣そのもの。
実際に内容も極めて簡潔であり、纏めるのであれば連中は外の者達に向けて発砲したらしい。
彩達の使っている周辺スキャンは今はデパートに集中している。外まで範囲を広げず、デパートの中限定でスキャンの質を上げた訳だ。
それ故に外の様子はあまり気にしないようにしていたのだが、どうやら俺達が漁っている間に別の誰かが外に現れたらしい。しかも内部に居る五人組とは敵対しているようで、こうして思考を纏めている間も複数発の銃声が耳に届いている。
外側の様子はシミズが確認した。どちらも身形は汚く、髭を伸ばし放題にして服装も泥だらけであれば先ず確実に難民と見て間違いない。
「難民同士の縄張り争い……?」
考えて、思いついたのはそれだけだ。
後は復讐や単に殺したいからといった理由が思いつくものの、そんな単純なものかと思ってしまう。
世の中何かと単純な事の方が多いと言うが、難しい事だって有り触れている。そう簡単に楽な方向に思考を傾けるのは、即ち脳死を指し示すだけだ。
それで良い筈も無く、故に先ずは離脱を優先した。一先ず正体らしい正体は解り、彩のスキャン範囲も一気に拡大。
判明したのは先程までは五人だったが、今では十人を超えている。その中で未だ五人組しか発砲していないという事は、相手側は単純に戦うだけが目的ではない可能性もある。
しかし、そんな事は俺達にはどうでも良い話だ。助ける理由も何も無いならさっさと逃げる。
その方が危険も少ないだろうと避難階段に向かい、彩は即座に扉を開こうとしていた俺の腕を掴んだ。
「避難経路方面に複数人の反応を掴みました。このまま不用意に出れば撃たれる可能性が」
「……っと、済まない」
そうだ。スキャン範囲が絞られていたという事は、あの時登っていた俺達の姿を見られていた可能性もあるということ。仮に見られていないとしても、避難通路からこっそり逃げようと考えるのは誰であれ必然だ。
その経路は潰すべきであり、つまりこの状況が終わるまでは俺達に出る手段は残されていない。それこそ地中にでも潜らなければならず、そんな事をすれば音で相手に気付かれるだろう。
此処は例の自然が多い場所に近い。何があるか解らない以上はさっさと抜けたかったというのに、それを完全に封鎖させられた。
一瞬、脳裏に苛立ちが沸き立つ。舌打ちをしそうになるのを舌を噛んで痛みで誤魔化し、どうするかと頭を巡らせた。
「ワシズ達は今も見ているのか?」
「はい。リアルタイムで通信を続けいますが、物陰に隠れながら情報を集めている模様です」
「解った。無理しない範囲で情報を集め続けてくれと言っておいてくれ」
「解りました」
一先ず、新たに出現した大人数の難民は五人組に集中している。
今ならば多少動いた程度でも気付かれはしないだろう。――最速で決着を付けるなら、あの五人組を沈黙させることだ。互いの目的が不明であるものの、一先ず味方をしておけば相手の信用を取り敢えずの範囲で獲得する事は出来る。
この時点では怪しい奴扱いを免れないままだが、俺達にとってはどうでも良い。抜けきれば二度と近付かないようにすれば良いのだから。
必要なのは情報だ。こうして無駄な時間を浪費するのは安全な場所だけだ。
彩が肩を叩く、顔を向ければ彼女は自身の耳を人差し指で叩いた。同時に携帯端末が突然に動き出す。
要するに聞けということだ。直ぐに耳に携帯端末を当てると、複数人の男達の声が聞こえた。
『くっそ……ここまで来やがって』
『俺達が居なくなったって別に何てことはねぇだろうぉが』
『正信、止めとけ。こいつらは俺達を連れ戻そうとしてる訳じゃない。――余計な話を拡散させられないように始末するつもりなんだよ』
『別に良いじゃねぇか!?あんなのが近くに居るならさっさと連絡するのが道理だろうがよ!!』
『確かにそうだが、どうやら連中は軍の失敗を世間に広めたいみたいだ。それをもって自身達の待遇改善運動を起こすつもりなんだろ。付き合ってはられんがな』
三人の男の声には必死さが出ている。
特に一番誰かに文句を言っている人物は半ば叫び声も上げていた。五人の内の三人が話していたということは、残りの二人は無言を貫いていることになる。
しかし、どうやらこの五人組が悪人であるという印象は感じられない。人間は死の間際でその本性が見えるそうだが、彼等の話を聞く限りにおいては正常な行動を起こしていると見える。
反対に彼等を追い詰めている者達の行動は正常者のものではない。失敗がどの程度の範囲かは解らないが、運動を起こす規模であれば相当なものだ。
きっとその失敗は今も拡大しているのだろう。そしてその情報を軍は必死に隠そうとしている。――――脳裏に一夜を明かした青年の姿が浮かび上がった。
「彩。可能な限り隠密で周辺の人間を気絶させられるか」
「出来ますが、私は反対です。この件に手を出せば軍と絡みます。私やワシズ達の存在が明るみに出れば今は落ち着いている追求の手が増える可能性がありますが……それでもですか?」
彼女の言っている事は真実だ。何一つ間違ってはいない。
間違っているのは俺だろう。そんな事は解っている。
「俺の想像の通りなら、恐らく最終的には関わる事になるぞ。なら突然そうなるよりもある程度知っている状態で関わる形にしたい。突発は正直もう御免だ」
「想像の通り?それはどういう……」
「少し前に出会った青年の件だ」
説明を省き、短い言葉で俺の言いたい事を纏めた。
彩の表情が変わる。理解の通った表情は、成程と一回呟いた。
「理解しました。五人組の言葉も加味すれば、あながち有り得ないとも言えません。他に何か情報がある可能性もありますし、それが軍を揺するネタにもなります」
「さらっとえげつない事を言ったなお前」
まぁ良いと意識を切り替える。自分で決めた手前、俺も動かなければ嘘だろう。
迅速に、確実に、彼等を守って他を沈黙させる。次なる戦いに、俺の銃を握る手が強まった。
よろしければ評価お願いします。




