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人形狂想曲  作者: オーメル


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第三十八話 平和

 入り口には二人の衛兵と思わしき者が居る。

 恰好は正に日本の警察服そのもの。改造されている様子も見えず、しかしそれが公式の物であるかは不明だ。

 今も昔も警察の恰好そのものに変化は無い。やっている業務も変わらず、治安維持が主な仕事である。だが日本そのものがある程度領土を奪還してからは警察だけでは対処出来ない犯罪も発生していた。

 先の対傭兵が主な内容だ。街一つを丸ごと飲み込むような戦いを警察組織だけで解決するのは難しく、故に軍隊が出動するのである。

 街によっては警察が何をやっているのか解らないと疑問に思う子供も居るのだから、軍隊の出動数は明らかに五年前に比べて増加していた。それが良い事ではないのは、誰が見ても解るだろう。

 であるからこそ、衛兵の如く警察が居るのは非常に珍しい。中世の時代でもないのだから、普通は交番に居るものだろう。

 

「――お、見ない顔だな」


「こんにちは」


 笑顔を作って進む。当然そうすれば警察と会う事になるのだが、互いの接触は酷く友好的なものとなった。

 警察によっては穏やかな者も居る。今回はその穏やかな者に当たったのだろう。両脇に居る内の片方が未だ街の外を見ているあたり、どうやら片方は監視を続けるつもりのようだ。

 それはそれで有難い。必要以上に目が無いのであればその分抜けやすい。

 警察からの言葉は必要以上に優しさに溢れている。俺が旅をしていて補給がしたい事を告げれば、目の前の巨漢としか言い様の無い警官は心配気な眼差しで大丈夫かと優しくスーパーの位置を教えてくれた。

 そして感謝だけ警官に送り、そのまま内部に入る。恐ろしいまでの笊警備に暫く唖然とするも、足は動かさなければ流石に怪しまれるとスーパーへと進む。

 内部の状態は今までの街に比べるとあまりよろしいとは言えない。

 

 遠目で見た限りでも状態は良くないと解っていたが、こうして近くまで見るとその酷さがよく解る。

 全体的に罅割れが目立ち、修復が始まってもいない建造物が多い。生活音のする建物も数多いが、そのどれもこれもが何時倒れるかも解らない状態だ。

 辛うじて商業施設群は綺麗な状態であるが、しかし綺麗だからこそ際立って目立つ。

 まるでそこだけに力を注いでいると言わんばかりの綺麗さなのだ。流石に疑問に思うのは当然だろう。

 民衆の恰好も遠目で見た時とそこまで変化は無い。シャツにズボンといった出で立ちなのは男ばかりで、女は多少なりとて恰好に差異が起きていた。

 

「……なんだここ」


 歩いているからこそ解る。

 此処は異常だ。何が異常と言えば、全てが異常でしかない。

 街全体のイメージを決定付ける筈の住宅地が殆ど壊れているも同然の状態で、確り修復されているのは商業施設ばかり。特に企業系の商業施設はほぼ全て綺麗な状態となっており、個人商店の部類は必死に直した痕が目立つ。

 衣服も男性は皆色が違うだけで一緒だ。女性だけが種類が存在し、気のせいか女性の方が笑顔が多い。

 そこまで考え、ふと周囲の視線を感じた。

 直ぐにそちらに顔を向けずに周囲を眺めるように確認すると、どうにも多数の男性が俺を見ていた。

 俺の恰好は彼等とは明確に違う。普段はシャツにジーンズといった姿なのだが、今回は装備を隠す為に黒の上着を着こんでいる。

 

 だからこそこの街の男性とは違い過ぎている。

 故に他所から来たと解るのは明白で、それが解るという事実そのものも一つの異常だった。

 彼等が余所者に向ける視線の種類は一体どれだろうか。無数に有り過ぎる所為で感情が定まっておらず、しかし幾つか伝わってくるものを拾い上げるとしたら嫉妬(・・)だ。

 何に嫉妬しているかは俺にも解らない。だが何割かは嫉妬しているのは確かで、それらが俺に害を与えないとは限らない。

 まるで傍に時限爆弾があるような感覚だ。迂闊に触れてはならないと無視を貫くものの、スーパーに進めば進む程に視線の数が増えていく。――そうなっていけば女性側も何割か視線を向けるのは道理だ。


 こんな環境で迂闊に携帯端末を使う事は出来ない。彩達には心配させてしまうが、これは街を抜けるまでは端末を使わない方が良いだろう。

 判断を下し、十五分の果てに辿り着いたスーパーは他と比べても巨大なものだ。客数も決して少なくはなく、昼を過ぎても暇になっているようには見えなかった。

 入口に貼られているチラシには三割引きの文字。全商品を対象にしているらしく、計算していた金額よりも安く済ませられるのならばそれは良しだ。

 そのまま中に入り、プラスチックの買い物籠を掴む。あちらこちらを彷徨いながらスーパーの状況を確認すると、客層の殆どは女性だ。年代も十代から五十代まで幅広く、しかしどうしても男性の数が少ない。

 最早ここまでくるとその異常性の一部が解ってくる。それを示すかのように、レジ台に居る店員は皆男性しか存在していない。

 

「成程」


 短く呟く。同時に買い物を全て済ませる。

 欲しいの現状食料と水のみ。食料そのものは缶詰を大量に購入して大丈夫なので、後は水を詰め込めるだけ詰め込むだけだ。この街が最初の時点で異常を感じていたのは確かだが、しかし現状俺はそれを一部しか知らない。

 他の者も一度此処に訪れれば解る範囲のものだ。故に、俺は未だ全貌をまったく把握していない。

 だがそれで良い。俺達の目的は別に此処の解明そのものではなく、今は脱出。此処は補給をするだけの地点なのだから、妙な動きは怪しまれるだけだ。

 買い物は酷く順調に終わった。リュックの中やサブポケットに袋ごと詰め込み、若干足早に一度通った道を進んだ。

 道中は最早全て普通には見えなかった。

 無数の視線に、崩れ掛けの建造物。よくよく見れば建造物に住んでいる人物は窓から見える限り全員男だ。

 そして少し表から見える裏路地に顔を向ければ、そちらにも多数の目が此方を見ている。その殆どが野獣染みた眼差しであり、つまりはそういうことなのだろう。


 進めば進む程に異常が解るようになってくる。最初に入ってから僅か三十分程度。調べようという気も全く無いというのに、寧ろ向こう側から積極的に何かを見せているように民衆は動いていた。

 それが一体何であるかは不明のまま。特に興味の無い俺はそのまま警官の居る場所まで向かい――件の警官は二人共揃って消えていた。

 それは殺されていた訳では無い。ただ単純に、言ったままに、二人が居ないのだ。

 あるのは警官の衣服のみ。それ以外は何も無く、だからこそ次にすべきことはあっさりと頭に浮かび上がる。

 何も無いまま済めば良かった。世の中普通ではない事の方が多いのだと思っていても、何もこんな辺鄙な場所で起きてほしくはなかったのだ。

 背後に感じる無数の気配、気配、気配。どんどんと数を増していき、恐らくそれは二桁では済まされない。

 

「――此処は、ゴーストスポットだったんだな」


 俺の言葉に、一瞬だけ時が止まった。

 その隙を見逃さず、腰に差して隠していた拳銃を引き抜く。撃つのは相手ではなく空だ。

 一発、二発、三発。肩に感じる確かな衝撃に眉を寄せつつ、三発程撃った俺は振り返った。

 そこに居るのは無数の人。ただどれもこれも、まったくもって理性の欠片が存在していない。まるで往年のゾンビ映画が如く、何かを求めて此方に向かう様は怪物の如しであった。

 規模の小ささ、街の損壊状態、奇妙な男女比、そして労働させられているのは片方の性別のみという事実。

 余程この()の為政者は男性不信を患っているのだろうなと感じつつも、そこには恐れは無い。

 何せ――彼等の中に特別恐ろしい武器は存在していないのだから。

 全てが接近武器である時点で俺には時間稼ぎのチャンスがある。それをどう使うかなど決まっているようなもので、そして友軍の宛もすぐ傍にあった。

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