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人形狂想曲  作者: オーメル


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第二百九十七話 目覚め

 彩が干渉を開始したと同時に端末の回線も閉じた。

 現在は他の面々の視覚や聴覚から情報を得ているが、全力で戦っているが故に不安定になっている。これまでのように上手くは繋がらず、ノイズが常時流れている状態だ。

 流石に大軍勢を相手にするのに三人だけで戦うのは無謀極まりない。今は彩が作った武器によって軒並み破壊出来ているものの、何れ本体の方が先に故障するだろう。

 増援は近い。最初から目的地を知っているからこそ全十席は脅威的な速度で進むが、それでも障害物は当然ある。

 十席の面々は今、彩達が通った場所をなぞるように進んでいるのだ。そこでは敵も無数に湧き出し、軍が開発した兵器では中々突破は難しい。

 それが出来ている時点でデウスの中でも優秀であるのは確かだ。他でもない彼等だからこそ沖縄本島で孤立した状態でも戦えているのであって、普通のデウスでは間違いなく何処かで潰されていた。


 軍の方とは既に連携し、十席無しでの防衛線を構築し始めている。

 負担は大きく、穴が開く危険性が大きいものの、やらねば人類の生存圏に多大な被害が出るのは明白。最早逃げ場の無い状況で高官達は覚悟を決めるしかなく、声を大にして指示を飛ばしている。

 屑と言えば屑だが、生に貪欲である部分は皆一緒だ。絶対に生き残らんとしているからこそ、俺達の意思は生という一文字を勝ち取る為に一丸となっている。

 邪魔立てをしないからこそ命令は恙なく通り、意見も活発だ。

 兵士達には交代で休憩しつつ常に物資供給を続け、機関銃の如くデウス達はそれを持っていく。中には味方の分を全て持っていって空中で物資提供を始めるデウスも居た。

 そうしなければ戦線を維持出来ない程現状は不安定で、やはり不安が残る。

 

「彩はどうだ」


「端末に反応はありません。 まだまだと見るべきでしょうね」


 彩が干渉を開始してからまだ十数分しか経過していない。

 しかし、俺達にとって一秒は一分や一時間と一緒だ。長く伸びた時間経過は焦りを生み出し、端末に表示された時間を見る回数も否応無く増えていく。

 ノイズが走りながらも見えるワシズやシミズ、X195の視界は常に無く動き回っている。

 同じ場所になど一瞬たりとて存在せず、時には撃破した怪物の身体を蹴って空中戦を始めている様子も伺えた。

 必死さを隠さずに前面に出した形相は今までとは異なっている。新たに出現した巨人に対して至近距離で弾を撃ち込み、強引に胴体を蹴り飛ばす。

 鎧の内部は不明ではあるものの、守っているということは何らかの形で本体があるということだ。

 鎧は酷く人間的な構造をしていて、関節部には隙間がある。そこに弾を吐き出し続ければ、何れ限界を迎えて動かすことが出来なくなるだろう。

 ワシズ達が狙ったのは膝だ。その内側に攻撃を集中させ、バランスが崩れた瞬間に身体を倒した。

 

 端末内は揺れに揺れ、土砂や木が宙を舞っている。

 倒した訳ではないものの、転倒させた時点で再度起き上がらせるには時間が掛かるのは確かだ。そのまま再度三人は雑魚の掃討に動き、彩にまで到達させないよう半円の形で戦っている。

 しかし、徐々に徐々にと彼女達のボディにも傷が付き始めていた。

 最初は汚れだけだったのだが、度重なる攻撃によって皮膚装甲にも破損が生まれている。他にも罅や擦り傷も生まれ、機械的な輝きが外に露出状態だ。

 ラッシュによるラッシュ。傾きは敵に寄っていき、このままでは早い内に押し切られる。

 ワームホールは変わらず大穴を開けたままだ。何れ完全に閉鎖されるとしても、まだまだ時間が掛かってしまう。

 

『信次! もう到着する!!』


「PM9か! 倒れた巨人側に全員居るッ、早くしなければ押し切られそうだ!!」


『ッチ、焦らすなよ!!』


 最早文面を送る暇すらないPM9の絶叫に、俺は何も言えない。

 まったくもってその通り。俺達は他者を完全に信用していないからこそ、予想外の事態に完全な対応が出来ていなかった。

 十席側が本来の行動を取っていれば間違いなく間に合わなかっただろうし、そうなれば俺達の戦いは敗北だ。

 十席の存在は軍においても、俺達においても必要だったことになる。それをよくよく理解した上で、端末に目を向けた。

 

「XMB333より通達! 十席がワームホールに到着しました!!」


「直ぐに彩達の支援に回せ! 彼女の生存を第一としろ!」


「了解!」


 この戦いの勝敗は彩が生き残るかどうかにかかっている。

 軍も誰もがそれを理解していて、十席を戻すことを指示しない。端末では新しく加わった十人が戦闘に参加し、先程よりは動く時間も減っている。

 とはいえ、あちらは此方よりも弾薬が少ない。軍の仕様に合わせた弾薬を彼女達は持ってはおらず、どうしたとしても弾薬の共有は不可能だ。

 ワシズ達側が予備の武器を提供すれば話は変わるが、それをすればワシズ達の弾薬も一気に消費される。

 だが、時間を稼がねばならないのは事実。よって最終手段として彼女達に指示を下しつつ、V1995が巨人を殴り倒す様を見た。

 俺が最後に見た時はまだまだ振り回されている姿しかなかったが、今では完全に自身の力を掌握しているようだ。

 デウスの中で最も強大な力を得た今、彼が彩に次ぐ力の持ち主であるのは言うまでもない。

 本人もこれが彩の為になると解っているのか、行動が酷く精密だ。銃を使うのは距離が離れた時だけで、基本は拳とナイフで接近戦を軸としている。

 逆にSAS-1やZ44といった最初から接近戦を想定していない装備を持った者達は彩の傍に陣を築いていた。

 地面に杭のようなものを打ち込み、ガトリングを地面に固定する。Z44のボディは黒い装甲に覆われ、耐久力という意味ではこの中の誰よりも硬いだろう。

 反対にライフルを構えるSAS-1は装甲服のような物は着ていない。その場で立ち止まるにはあまりも無防備が過ぎるものの、他の面々が前衛と防衛の二つを行うことで大物殺しを遂行している。

 

 援軍は正しく、俺達にとって頼もしいものだ。

 これまでとは比較にならぬ速度で殲滅が続き、ワシズ達三人は一時的にエネルギー回復の為にSAS-1付近に移動する。

 会話らしい会話は無い。共に戯言に興じる時間も余裕も無いし、状況把握は最初から全て終わっている。

 彼女達の電脳は高速で情報のやり取りをしている筈だ。だからこそ直ぐに陣形を組めたし、ワシズ達が後方に下がることも出来た。

 精鋭中の精鋭。デウスの頂点。その言葉は決して甘く見てはいけないものだ。

 戦闘経験の多さで言えば参加出来ない彩を除けば最も多い集団である。普通の戦場よりも地獄に近い戦場の方が経験した数は多いだろう。

 

『信次ッ、ワームホールが封鎖されるまで後どれくらいだ!!』


「現在の速度なら残りは約一時間だ! ただしそれは、何も邪魔が無ければになるけどな」


『最高な話だな! 解ったよ!!』


 銃撃音で声が聞き取り辛いものの、それでもPM9の舌打ちが端末に届いた。

 地獄のような環境で一時間も耐えるのは困難だ。相手の覚醒が進めば進む程に能力も段違いに変化していき、それに合わせて姿すらも変わっていく。

 最初は俺達のよく知るような姿ばかりだった。だが今は、新しく角が生えたり腕が増えたりと明確に変化が確認出来る。

 そして、変化した個体の生命力も増加している。急所に一撃でも叩き込めば即死だった個体ばかりの中、変化した個体達は一撃で倒し切れない場合が多い。

 しかしそれでも、まだまだ倒せているのは確かだ。

 このまま覚醒がゆっくりであれば。そう思った俺の思考は間違いではなかっただろうが――――ワームホール内の怪物は俺の思考を読み取ったかの如く激しく蠢き始めた。

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