表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人形狂想曲  作者: オーメル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

292/308

第二百九十二話 神の龍

 一進一退の攻防を続け、軍と街のデウス達は前線を徐々に引き上げていく。

 それに合わせて兵士達も続々と応急処置や補充を済ませ、一世一代の代進撃と言わんばかりに攻め立てる。彼等の勢いは海の攻撃一発で容易く折れてしまうだろうが、そうなるまでの間に沖縄本島に足を掛けることは出来るだろう。

 その間に誰も認識していない別動隊が目的を完遂する。通信は常に端末のみに固定させ、相手も彩だけに限定して他は護衛をしている状態だ。

 状況は良いとは言えない。別動隊がかなり無謀な真似をしているのは承知の上だが、実質的に囮として機能している軍側の消耗が大きくなっている。

 予定外の出来事が起きた事に加え、やはり元々の敵の量が膨大だったのだ。どれだけ鳥や鯨が処理をしようとも、それを上回る大群がやってくればどうしても漏れが発生する。

 その漏れた敵がデウスや兵を襲い、結果的に多量の死者を発生させることになった。

 兵士達の最後は無残なものだ。デウスの視覚情報で捉えた限りでは、食料として食われた存在はほぼ居ない。無慈悲に身体を粉砕されるか、毒のようなものを注入されて苦しみの果てに絶命している。


 一部では阿鼻叫喚の地獄絵図が作り出され、指揮所でも怒声混じりに指示を飛ばしている状態だ。

 それでも前には進んでいる。如何に損害を出そうとも構わないとする姿勢は嘗ての日本軍を思い出し、間違いなく愚かな戦いの一つとしてこの作戦は本に残るだろう。

 だが、本に残るのは遥か後の話。今この段階では彼等は必死になって目的を遂行する他無く、故に損害報告をそこかしこで聞くようになっても高官達は眉を寄せるだけだ。

 死者など皆見慣れて言える。どれだけ無残な姿を見せ付けられたとしても、彼等が怯む道理は存在しない。

 するのならばすれば良い。それでも最後に勝つのは我等だと信じ、沖縄本島を目指した戦いは泥沼に近い様相を見せていた。

 

「屋久島、奄美の占拠が完了しました! 周辺環境の調査も問題ありません!!」


「そのまま防衛に必要な部隊だけを残して本島を目指せ! ……この状況で休憩など出来るものか」


 忌々し気に画面を見る元帥殿を横で確認しつつ、そうだなと内心で頷く。

 夜に休むつもりだったが、此方の予想を超えた速度で海の活性化は始まっている。それに合わせて敵の勢いは急激に増していき、最早一部の隙もありはしない。

 戦えているだけ奇跡的だ。彩の放った二体が存在しなければ前線は容易く崩され、此処まで敵が来ていたかもしれない。

 怪物達は無作為に襲っているだけだ。獲物の居ない状況ならばそのまま人の居る場所にまで向かってくるのは想像に易い。

 補給した装備も直ぐに尽きる。大量の敵を打倒するには大量の装備を持つしかなく、各デウス達は容量限界まで装備を積んでいるだろう。

 それでも質量という法則は残酷だ。虫だけでも数万は飛び交い、群れでデウス達を破壊する。

 

 残酷な結末を起こしながらも彼等は必死に戦い、その様は神風にも似ている。

 実際にその場を見た訳ではなくとも、それでも当時の人間も同じ事を思う筈だ。無謀に突撃だけを繰り返すなど、愚策も愚策。とてもではないがスマートな解決方法とは言えない。

 だが、そのお蔭で彩達に向ける意識が喪失している。端末からはリアルタイムで位置情報が送られ続け、本島とは目と鼻の先にまで到達していた。

 このままの速度を維持出来ればかなり早くワームホールに到達出来るのだが、そう簡単にはいかない。

 彩達が停止する。本島間近で停止することがどれだけ愚かであるかを彼女達が知らない筈が無い。何かが立ち塞がったとみるのが妥当だ。

 視覚情報を取得し、彼女達が立ち止まっている原因を確認する。


 本島の間近に居たのはやはり大型の怪物だ。

 ただし、その大部分が液状化して海に滴り落ちている。その体躯は間違いなく鎧を着込んだ巨人で、全ての部位が太い。

 手には大型の中華包丁を持ち、その包丁も大部分が液状化している状態だ。早急に作りましたと言わんばかりの存在ではあるものの、そのサイズは龍にも迫る勢いである。

 当然、歩くだけでも甚大な被害を齎すのは間違いない。間に海があるからこそ渡れないが、包丁を遠くに投げ飛ばしでもすれば拠点なんて一瞬で終わりだ。

 相手の頭部は兜によって隠されている。その顔は彩に向き、他よりも意識しているのは明白。

 このまま巨人を無視することは可能だ。ワームホールの作業時に確実に邪魔されることを加味しなければ、元から相手をする必要性が無い。

 故に、撃破は必須だ。理不尽なまでの巨体を滅ぼし、再生成が完了するまでに出来る限り目的地に辿り着く。

 

『液状化しているので衝撃弾は有効です。 ですが、今のままでは豆鉄砲も同然。 ――この辺りで十分ではないかと意見します』


「……解った。 遠慮せずに使ってくれ」


『はい。 では暫くの間通信不可となります』


 彩の報告の後、全ての通信が切れた。

 新しく何かを起こすのだろう。鯨や鳥よりも強大で、通信を維持出来ないような存在を出すつもりだ。

 暴れれば味方にも被害が出る。だからこそ誰も居ないあの場で起こし、それを彼女達が居る場所を示す合図とするのだ。

 全て隠し通せるとは思っていなかった。だからこそ、状況を見極めた上で何時露見させるかを考えていたのは事実だ。彼女の方から言ってくるとは思っていなかったが、自身で決めた以上は確実に何か大きな事を起こす。

 その証拠に、直ぐに指揮所には緊急を知らせるアラートが鳴り始めた。

 これが鳴る理由は単純だ。――即ち、指揮所に甚大な被害が起きるかもしれないということ。

 此処から現在の前線までには距離がある。現代ならばミサイルのような長距離兵器でもなければ届かない位置に俺達は存在し、当然ながらデウス達は持っていない。

 

 ならば敵の長距離攻撃かと皆は警戒するだろうが、勿論違う。

 通信兵達は一瞬だけ絶望した表情をするものの、突発的に発生した高熱源反応に意識を向ける。

 直ぐにデウスに映像を送るよう指示を出し、視覚情報から発生状況を確認。他にも様々なシステムを走らせて情報を得ようと通信兵が個別に指示を出そうとするが、そんなものは入って来た映像によって一気に無意味と化した。

 

「……何だ、あれは」


「詳細不明! 鳥や鯨に近い反応を示していますが、こちらの方がより反応が巨大です!!」


「更に反応増大! 姿が見えます!!」

 

 最初、それは巨大な光だった。

 空へと一直線に伸びる太い太い光の柱は、徐々に徐々にと形を変えて一体の兵器へと変化していく。

 二本の腕に、二本の足。蛇のような尻尾を持ちつつ、その顔は種類は異なれど龍に近い。背中には三対六枚の光翼が生え、二の腕には炎の剣が装着されていた。

 外側の皮膚は白く、内側の皮膚は黒い。魚の目玉のような黄色の瞳には敵に対する殺意がありありと見え、歪んだ口元に見える歯は全てが尖っている。

 機械的な要素は何一つとして存在しない。何処までも何処までも生物的で、しかして実際に意思は持っていない筈だ。

 敵意の大元は彩である。そして、その体躯を動かすのは歴代の彩達だ。


『No.1000。 ――光龍(ブリューナク)


 静かに、力強く。

 そう告げる声は彩のものではなく、しかし彼女の声だ。

 誰が突然通信を入れたのかは声だけで解る。その声から察するに、この能力を考え付いたのは最初の彩なのだろう。

 光翼で空を飛びながらブリューナクは天に向かって咆哮する。巨人と龍が対峙する様に現実性は無く、まるで神話の戦いを見ているかのようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ