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人形狂想曲  作者: オーメル


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第二百九十話 地獄の息吹

『目標地点に到達しました』


 蛍光灯が室内を照らす。

 指揮所内は今も報告が相次ぎ、損害の報告が四方八方から飛び交っていた。

 それは俺達街側のデウスも同じ。一つのモニターに無数に送られる情報は瞬きを一つするだけで更新されていき、とてもではないが全てを把握することは出来ない。

 最終的な結果を表として提示されて初めて認識出来る程度。最終的な被害は千単位であるものの、拠点を設営出来た際の被害想定と比べれば随分と少なくはなった。

 此処で三分一は無くなると思っていたのだ。多少は盛ってあったとはいえ、想定よりも遥かに下の被害となったのは軍にとって僥倖ではあっただろう。

 しかし、それでも死んだ人間は多数存在するデウス達も行動不能となった個体が続出したものの、あちらには記憶のバックアップが存在している。

 

 死ぬ数分前の状態までは戻せないが、それでも殆どの記憶を持った状態のままボディの再構築は可能だ。

 対して、街側のデウスにバックアップは無い。人間同様に死に、二度と元の状態に戻らずに生が終わる。彼等の反応が消えるということは、即ち彼等の未来を失うこと。

 こんな戦いで消えて良い者達ではなかった。何時までも何時までも生き抜いてほしかった。

 そんな本音を胸に抑え込み、記憶達と同じく何処か他人事めいた視点で現状を把握していく。

 損害は少なく、弾薬等の消費も想定の範囲を超えない。一見すれば順調そのものではあるものの、そうであると実感出来る楽観主義者は今は居ない。

 誰もが口を噤んでいた。そこにあるのはこれからに対する恐れだ。

 何が待っているのかを知っているのは俺達だけであり、彼等はそれを知らない。此方がそれを知っていると解っているので聞きたい筈だが、気を逸らす余裕が無い筈だ。


「そのままワシズ達と合流してくれ。 最小構成で最短に進むぞ」


『了解です。 ……覚醒が早いですね』


「ああ、今回は早めに目覚めるかもしれないな」


 静かに二人で会話をしながら予測を立てていく。

 最早記憶達も静観の構えだ。騒ぎ立てるよりも、今は先ずこの現状を何とかする方が先決だと判断したのである。

 無数の情報も提供され、それを選別しながら一番突破力を持っているデウスを選考。軍の十席の力も借りたいが、流石に今それをすれば怪しまれるどころの話ではない。

 文句の嵐が吹き荒れるだろうし、事情説明を元帥殿は求める。

 それについて説明したとしても十席達は各々別の部隊で隊長役を担っている状態だ。解体して再編成する手間を考えると、事前に決まっている以上に弄るのは得策ではない。

 これまで通り、俺達は自陣営の組織内で完結させるべきだ。そして、その上で編成するのであれば予定通りのものとなる。


「事前予測と異なり、敵生体の数は千を超えています!」


「此方は敵陣営に足を踏み込んでいる状態だ。 その程度で怖がるな!!」


 通信兵達の恐怖混じりの報告を元帥殿は一喝し、直ぐに指示を下していく。

 だが、千を超える規模の敵に耐え続けるのは至難の業だ。未だ鳥の攻撃は続くものの、潰された先から新しい個体が沖縄から湧き出している。

 既に一体の鳥では対処は不可能。かといって軍では足止めが精々。専用装備が通用しない以上、どうしても兵士の方に負担が寄るのは避けられない。

 これが最初の難関だ。此処を比較的安定させてこそ、次への攻撃に移れる。

 夜の空は鳥が光っているお蔭で然程困ることはない。地面にも敵が居るものの、そちらに関しては液体化していない。

 一度生み出した存在は出来ないのか、或いは何かに接触すると強制的に液状化を起こしてしまうのか。

 完全覚醒を済ませていない海であれば後者の線が強い。現に水陸両用の個体は上陸した直後にデウスの一斉射によって死体になった。

 

「デウスに通達。 相手は何かに接触している間は液状化する。 空の敵は鳥に任せ、陸上の敵に集中して攻撃してくれ」


『空に関しては新しい物を出します! 全員は陸に向かわせてください!!』


「構わないが、その状態で彩は動けるか?」


『一時的に処理を別のデウスが行います。 彼女達ならば問題は無いでしょう』


 彼女達――即ち、歴代の彩達だ。

 確かにこの激戦を敗北という形であれ過ごした彼女達であれば何の不満もない。そちらが戦闘に参加するには彩がボディを複数体用意せねばならず、そうなれば今度は彩と通信を維持するのも難しくなるだろう。

 鳥の処理も歴代の彩に任せてしまいたいが、それでは万が一の際にラグが生じる可能性がある。既に敵超越者は近く、歴代の彩達に干渉をしないとは言い切れない状況だ。

 新しい方を任せたとして、彩にも範囲攻撃の手段を残しておく。

 彼女が抱えている資源にも限界がある。あの鳥に加えて他に巨大な兵器を生み出そうとすれば、抱えている分の資源は完全に零となる筈だ。

 何処かで一度資源回収をしたいが、かといって安易にそれを行って位置を特定されたくはない。

 敵にも、ましてや味方にもだ。こんな決戦中に考えるべきことではないが、邪魔をする人間は絶対に現れる。

 

「上空に高熱源反応!」


「プラズマの発生を確認!」


「何も無い場所から出てくるぞ……一体どうなってんだッ」


 サイズは鳥と同じ。新しく出現する姿は、鳥ではなく鯨だ。

 空飛ぶ鯨は白く発光し、自身の色も白一色。辛うじて瞳が黒いだけであり、戦場を照らす巨大生物は一種神秘的だ。

 鯨が口を開き、大量の怪物を入れていく。捕食し、体内に収めた鯨は身体に電撃を纏い、夜の戦場を更に照らしていく。

 鯨の役割は捕食と視覚の確保。デウス達なら平気な夜間戦闘も人間ならば難しく、夜戦装備をしても明るい方が戦い易いのは事実だ。

 殲滅と補助。その両方を熟せる鯨は頼もしい存在だが、その代わりに触れれば殺すような性質は持っていない。

 捕食を回避すれば何れ鯨の電撃も停止し、ただ空を漂う存在に成り果てる。勿論、そんなことにはならないように鯨を操作をしている歴代の彩は必死に予測ルートを算出している筈だ。

 相手は沖縄から怪物を送り込んでいる。大軍を纏めて運んだ以上、一定のルートはどうしても起きるものだ。

 そうしないようにしたとしても、否応無しに流れが生まれる。津波の向きによって全員がそちらに流されるように、大きな流れを脱することは容易ではない。

 

「空中からの敵の攻撃停止! 陸上は未だ続いていますが、そちらも順調に殲滅が続いています!」


「あの二体に救われたな。 このまま一気に殲滅しろ!」


 空への脅威はこれで薄れた。

 とはいえ油断出来ない状況だ。ある程度の警戒は置くべきではあるが、陸上の方により重きを置けるのは軍にとって有難いだろう。

 そのまま殲滅を続けていく。死んで、殺して、破壊して、破壊されて。

 どちらも一歩も退かずに攻め立て、どんどん物資も消耗していく。足りるのかどうかについての内訳を俺達側は深く知らないので心配になるが、軍人の俺の記憶が問題無いと告げている。

 俺達側のデウス達も質に関しては問題無い。心配をするだけの必要性は皆無であり、懸念事項はやはり覚醒率だ。

 

『全員集合しました。 抜けた分は生き残った者達で再編成し、我々は独立部隊として活動可能です』


『やっほ! 私達は五体満足で大丈夫でっす!!』


「よく生き残った。 ――それじゃ、そのまま沖縄を目指すぞ」


 夢の中で向き合ったもう一人の俺は単独での先行を求めた。

 だが、それでは彩が何処で想定外の負傷を起こすか解らない。故に、単独は単独でも小隊単位で進む。

 メンバーは家族全員。彩の分の弾薬等を全て他の面々が持ち、そのまま基地を通り過ぎて沖縄に向けて海へと飛び込んだ。

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