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人形狂想曲  作者: オーメル


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第二百七十五話 厄災級指定討伐対象

 彼女の過去は何処か自分と重なるところがある。

 自身を凡百だと断じていることや、一組織に深く関与していること。そして軍に苦労させられていることも似ていて、彼女の記憶の中の存在であっても他人の気がまるでしない。

 これが原初。彩と只野信次の出会いであり、保存された記憶の中でも最古の代物である。

 これ以上の過去は存在せず、現在まで連綿と俺と彼女は関係を変えて関り続けるのだ。それは時には友人であるし、時には敵でもあるだろう。

 あるいは仕事上の付き合いをするだけの淡泊な関係だったこともあっただろうし、俺達の現在の関係そのものの決して異常な部類には当て嵌まらない。

 この世界基準で言えば驚異的であっても、『彩』から見れば当たり前の話だったのだ。

 彼女の話の中には幾つもの驚きが混ざっていた。彩を生み出した本当の親が俺であったこと。俺という存在が一研究者としてデウスを生み出す程の実力を持っていたこと。

 そして、軍の関与の仕方がまるで変わらないことだ。

 

 彼等は現状、彩の所為で手が出せないでいる。

 デウスを知らない軍の頃であれば容赦無く脅迫行為をしていただろうが、デウスを知っている軍であればどうしても手を出すことに二の足を踏んでしまう。

 知っているか知らないか。その事実によって路線が異なるだけで、彼等は自身の要求が通らなければ如何なる手段を用いてでもその要求を通そうとする。

 派閥は違うものの、デウスの道具扱いも彼等の強制力が成した業だ。

 力ある者は全てを従わせることが出来る。その真理に軍は異常な程に沿い、結果として彩というより上位の力によって完全に抑え付けられる形となった。

 

 最早軍はこのまま何も変わらないのだろう。

 いや、繰り返しているのだから変わらないというのは必然なのかもしれない。彼等が認識出来るのは現在だけで、繰り返しの人生全てを体験している訳ではないのだから。

 俺も同じく、そして彩も例外ではない。必ず記憶を消される始まりが確定されている以上、誰であっても歴史の流れそのものを正確に理解することは出来ていないのだ。

 この繰り返しは彩が納得するまで続く。その納得の内容はこれまで姿の確認すらされていないもう一体の超越者の撃破。

 

「皆は、あの沖縄の奥に居る超越者を見たのか?」


「勿論です。 我々の悲願であるのですから、観測も戦闘も行っています」


 姿を見たことも戦ったこともある。

 その情報がどれだけ貴重なものかを解る人間が果たしてどれだけ居るのか。何も知らない人間からすれば信憑性なぞ零を突き抜けてマイナスに突入しているが、知っている人間からすれば全てを聞きたい。

 彩が超越者ということで、やはり人型が超越者として選ばれ易いのか。それとも知性の差によって超越者は決まるのか。

 法則性は一切不明であるものの、手にした力は強大無比だ。まともな戦闘が成されないのだから、最終的には同格同士が激突するのみである。

 

「では、もう一体の超越者はどんな存在なんだ」


 知らず知らず、唾を飲み込む。

 対策を立てるには先ず情報がなければならない。それを元に大勢を決め、露払いに使う戦力も割り振る必要がある。

 軍は完全に露払いに全力を傾けてもらうつもりだ。街のデウス達も沖縄制圧に動かすだけで、積極的に奥を目指してもらうつもりはない。

 なるべく時間を掛けて地固めを行い、着実に潰しながら奥地を目指す。

 その戦いに彩は参戦させず、彩が作った武器だけで戦況を進める予定だ。頭の中で幾つかのパターンを構成しているが、それも彼女の情報次第で容易く崩壊するだろう。

 暫くの沈黙が続き、『彩』は機械の身体に関わらずに近くに置いてあった水のペットボトルを口にする。

 緊張しているのは彼女も一緒だ。口が渇くなんて感覚を彼女は持っていないし、その身体に実装されているとも思っていないが、それでも水を飲みたくなったのだろう。

 

「あれの姿を最初に見た時、軍は件の存在を一種の厄災に認定しました」


「厄災?」


「そうです。 あれは超越者でありながら、一つの個体ではないのです」


 一つの個体ではない。超越者という名称が存在していながら、彼女は矛盾する言葉を呟いた。

 疑問に思うのは当然だろう。そして、彼女もそれを理解している。それでもあれと言った彼女は、超越者という名称を外さないのだ。


「人ではなく、獣ではなく、それこそ我々が戦ってきた怪物達でもありません。 それを何に例えるべきかと尋ねられたら――海でしょうね」


「海? それは生物なのか?」


「生物ではあるのでしょうね。 あらゆる臓器や細胞の一つ一つに至るまで水のように動かし、その超越者は星を飲み込んで生きています」


 告げられた内容に絶句した。

 なんだそれは。単体でありながら群体であり、群体でありながら単体のように生きる存在など聞いたことがない。

 それに星をも飲み込む規模であるならば、対象の質量はとんでもないことになる。その質量がそのまま流れ込めば、即座にこの地球も終了していただろう。

 雪崩れ込んでいないのはワームホールの影響か。それとも、液体でありながら物理的なダメージを嫌ったのか。

 生きている以上、本能であれ理性であれ持っている筈だ。そして理性で活動をしているのであれば、この相手は想像を絶する程に人を追い詰めるのが上手い。


「ですが、件の超越者にはおよそ理性と呼べるものはありません。 あれは単純に暴食だけで動いています」


「暴食だけ? ――まさか」


 俺の予測は外れてくれたが、暴食というワードに不穏なものを感じた。

 暴食という本能のみで活動しているのであれば、件の相手は何も考えていない。食らい続け、貪り続け、果てには星を飲み込んで巨大化して、未だ足りていないなど規格外も良いところだ。

 それこそ別世界にすら穴を穿って進行している。だが、一体どうやってあの怪物達が活動しているのか。

 星が食われたのであれば生きている者は存在しないことになる。例え生き残ったとしても、その数は微々たるもので収まる筈だ。

 それならば我々が殲滅出来ない道理は無いし、今頃は束の間の平和くらいは築けていたかもしれない。

 この世界で繁殖をしたと考えることも可能だ。海の生物であれば殆ど手付かずなので、数を増やしていても違和感は少ない。

 ――いや、やはりどうやってワームホールを潜り抜けたのかで詰まる。

 

「星を飲み込んだのであればあの怪物達は何だ。 まさか死体が動いているとは言わないよな?」


「死体ではないですが、あれらは全て飲み込まれた際に海の一部になりました。 今の今まで表に出ている怪物達は、謂わば海の一部が流れ込んでいるのです」


「あれが海の一部? だが、明らかに実体だったぞ」


「それこそが超越者の特権です。 我々が法則を無視して物を作り上げることが出来るように、海も捕食した怪物達の姿形を再現しているのです。 ……恐らく無意識で使っているのでしょうね」


 彼女の話を聞けば聞く程、海という存在が本能的であることが伺える。

 流れ込んだ怪物達は海の一部であり、推測だが倒しても意味が無い。海にどれだけの貯蓄があるかは不明だが、あれだけ殺して未だ減った気配が無い辺り、ほぼ無尽蔵だと考えた方が良いだろう。

 そして、超越者としての力量も素人。というより、只単に力を垂れ流し状態にしているだけと見るべきだ。

 それでも俺達はここまで追い込まれた。質量の暴力と言わんばかりに海は力を垂れ流し、俺達は絶滅の危機に瀕したのだ。

 これが俺達が倒さねばならぬ相手。遥か予想外の相手に、全ての対策は塵と化した。


 

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