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人形狂想曲  作者: オーメル


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第二百六十九話 二つの路線

『全員無事に集まったな』


 話し合いの場は軍の総本部。その内の会議室を用いて行われ、俺は街の防音室からテレビ通話で顔を出している。

 元帥殿が設置してくれたカメラによって全員の顔が見えるが、どれもこれもが渋面だ。会議に直接顔を出さないのはどういうことだという意見がありありと見え、話し合いを始める前に既に嫌な予感を覚えてしまう。

 此度の議論は今後について。責められるのは軍である筈なのに、その場は此方にとって非常にアウェーだ。発言全てを拒否されかねない程に、現場は冷ややかとなっている。

 元帥殿もそれは解っているだろうが、今は兎に角進行を優先した。

 テロリストに加担した人数と、その殺傷数。捕縛した数には街のものも含まれているので此方が何か発言する必要は無く、これは参加した兵の数についても一緒だ。

 

 その次に此方の被害についても話し、首謀者の詳細な情報開示も行われた。

 人間として屑な男ではあったが、学歴や性格は非常に良かったそうだ。軍での勤務態度も決して悪かった訳ではなく、デウスに対する扱いだけが唯一の問題だった。

 武器の入手ルートもやはり内部で取引をしていた者が居たそうで、関りのあった人間は既に捕縛済みだ。今は尋問中であり、遠からず関係者は全員出てくることだろうと元帥殿も述べている。

 俺も知らない確認事項を全て終え、一先ず意識を切り替える目的で茶を飲む。

 あらゆる準備に軍が知らず知らずの内に関与していた。それに気付けなかったのは彼自身が巧妙に偽装していたのもそうだが、何よりも全員が沖縄奪還に意識を引き摺られていたからだ。

 

『此度の問題が発生原因は、我々が足元を見ていなかったからだ。 私も含め全員が未来の決戦に向けて意識を向け過ぎた。 勝利の為にはデウスが必要であると理解しているからこそ待遇改善を行い、それが反対派を煽る結果となってしまったのだ』


 俺に送られた電話はきっと平和的に解決する手段の一つだったのだろう。

 彼を何処か適当な場所に亡命させれば、テロが起きても軍が内々で阻止出来た。頭が無い群体など烏合の衆も同然である。

 そのまま不穏分子を粛清することで自軍の引き締めも行い、結果的に良い方向に持っていけたかもしれない。

 だが、それは最早叶わぬ話。誰が出ようともあの当時の男の言葉に頷く人間は居なかったであろうし、例え居たとしても協力者は必須だ。その協力者が断ってしまえば、逃げることなど出来る筈も無い。

 

『彼の行いは罰せられて然るべきだ。 しかし、同時に我々は反省せねばならない。 ――そして彼に対しても我々は謝罪は必要だ』


 漸く話が此方に映った。

 彼等の視線は先程から一度も変わっていない。ここまで話は全て所謂説明のようなもので、今回の会議の重要点はここからだ。

 一先ず、俺は街の代表として話さなければならない。個人としての意見はここではまったく通用しないのだから。

 

「此度の出来事は全て軍の失態であると我々は考えております。 その点については、皆々様からの理解は得られると思いますが」


『その点については此方も了承済みだ。 今此処に居る者達もそれに反論は無いし、どのような反論を口にした所で無意味であろうしな』


「有難うございます。 本来であれば責任を取るという名目で物資の一部提供や何かしらの権利を得たいところですが、我々は沖縄奪還という決戦に向けて足並みを揃わねばなりません。 足を引っ張るような行いは愚かでしょう」


『では、賠償は何も無いと?』


 俺の言葉に一人の高官が声を上げる。

 それに対してまさかと返す。流石に何も賠償が無いままでは誰も納得しない。何か良からぬ考えを持っているのではと余計な邪推をされ、その対応に奔走させられてしまう。

 今回、街への被害は皆無だ。デウスのボディにダメージが及んだことや弾薬の消費などは発生しているものの、彩のお蔭で実質無制限でそれらを用意することは出来る。

 賠償を求める場合、技術を貰うか賠償金を貰うくらいだ。それが莫大となれば流石に軍の運営も傾きかねず、故にあまり大きな額を請求することは出来ない。 

 なので、現実的な範囲に収めた賠償金を先ずは求める。それが第一の賠償だ。


「そちらが出せる限りで構いませんので、賠償金の支払いをお願いします。 そして、一つお願いしたいことがあるのです」


『構わない。 言ってみてくれ』


「――沖縄奪還後、軍は我々との協力関係を解消してください」


 現実的な範囲の賠償金なんてたかが知れている。

 少額程度で納得するつもりはないし、こっちの方が重要だ。案の定周りは俄かに騒がしくなっていき、沈黙とは無縁の状態へとなっていく。

 協力関係の解消。それ即ち、俺達はお前達と敵対するかもしれないと匂わせたのである。

 そう安々と通してはならない条件であるし、もしも頷けば今後大きな出来事が発生した際に再度協力関係を築くことは難しい。

 次に結ぶことが出来たとして、それはきっと随分先のことになる。

 そして、そこまで軍が待ってくれる筈も無い。回復すれば話は別だが、その頃には此方も大きくなっているだろう。

 これを宣言した時点で融和は無い。この場は決して正式なものではないものの、彼等の頭の中で俺達は仮想敵として君臨することとなる。

 今直ぐ潰すか、沖縄奪還の疲弊した時を狙って潰すか。

 そんな考えが頭の中で浮かんでいるに違いない。彼等の騒がしさが落ち着くのを待っていると、元帥殿は大きな咳払いを行う。


『質問をしたいのだが、よろしいか?』


「構いません。 どうぞ」


『では、何故解消を? 確かに只野殿が最も嫌うデウスの酷使を我々は行い、少なくない犠牲者を生み出した。 加え、今も只野殿と協力関係を結んでいない事実に納得していない指揮官も居る。 だが、長期的に見ればその数も減っていくと我々は確信している。 必ずやデウスと人間の共存を成し遂げ、健やかな社会になれるよう手を結ぶつもりだ。 ――それでも解消を望むのか?』


「勿論です。 最早我等は貴方達を信用してはおらず、出来ることならば軍に居るデウス達を全員保護したい程です。 ……ああ、そう言えば我々の元に来たデウスの中には心など不要と言わされ続けた者も居るそうです。 貴方達の傲慢さがデウスの未来を破壊したと言っても良いでしょう」


 組織内に複数の派閥があったとして、外側から見ている者には関係無い。

 デウス本人の口やデータから数々の不信に繋がる情報が送られ、情緒不安定なデウス達は今も人間的な生活を出来るよう努力している。

 彼等は兵器としての側面を持っているが、同時に人間としての側面も持っている。

 双方共になくてはならず、一つでも欠けてしまえば歪な人形が誕生するだけ。そして、それを助長させていたのが軍である。

 そんな組織に対して信用も信頼も抱く筈が無い。長期的に見れば軍内でのデウスの待遇は改善されていくだろうが、必ず内部で反発は受けるのだ。

 最初からそうなるように設計されていないから、歪みが生まれる。

 土台を育てる時間はあったのに、彼等は最初に選択を誤った。その成果が目の前にあり、俺は落胆と失望を同時に受けたのだ。

 俺達の走る路線は交わらず、平行線のまま。一切の干渉を行わないかわりに、一切の干渉を許さない。

 これが俺の求める最大賠償。金も要らず、物資も要らず、求めるはただただ自由だけ。揺らがぬ俺の態度を前に、しかし軍はそう簡単に頷くことはない。

 当然だ。これを素直に受け取ってしまえば、彼等は今後彩の襲撃を受ける可能性もあるのだから。


「何か意見があれば自由にどうぞ。 その全てに対して、私は反論させていただきます」

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