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人形狂想曲  作者: オーメル


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第二百六十五話 滅びの歌

 戦場が整い始めていく。

 軍が動き、街のデウス達も只野の指示通りに動き始める。最早彩の足止めは必要ではなく、残りは目的遂行の為に動けばそれで良い。

 ワシズもシミズも彩の元へと向かい、x195も別の場所から彩の居る地点へと合流に向かう。

 テロリストの集団を遠目に見つつ、彼女は林の中で適当に土を利用して認識を阻害させるマントを作り上げた。足止め目的であれば態々作り出す必要は無かったが、万が一彩の向かう地点に彼等が行っては面倒なことになる。

 最悪の場合は諸共に吹き飛ばせば良いものの、それでは軍が何の為に出撃したのか解らない。負担させるべきは軍であり、自分達ではないのだ。

 到着した地点は廃墟が乱立する死んだ街。もしもそこにテロリストが入り込めば、人間では発見は難しいだろう。

 彩にとっては知ったことではないが、それで沖縄奪還に支障が出るのは困る。人死にに心が動かない彩であったが、只野に繋がる全ての事象についてだけは極めて迅速な判断を下すことが出来ていた。

 

 己の装備品を見る。

 普段使いの銃に、追加で精製した二丁の銃。作った武器は大量殺戮を目的とした兵器であり、下がった人間やデウスをなるべく一撃で殺す為に作られたものだ。

 当然ながら怪物にも有効であるので、人に向かって撃って良い代物ではない。本来であれば罪悪感の一つでも湧くものだが、彼女に限ってはその心配は皆無であった。

 全員の合流を待ちつつ、彼女の思考は別の箇所に向く。

 今の彩には沖縄以降の未来が見えていない。正確に言えば、沖縄以降の事を考える必要性に疑問を覚えているのだ。

 無間に続くループ。その終わりを決めるのは己で、妥協しようと思えば妥協は出来る。

 極論すれば只野が無事であればそれで良いのだ。ワシズやシミズの存在に何も感じないと言えば嘘になるが、切り捨てることは容易である。

 

『どう、調子は』


「百までは理解した。 それが繰り返しの中で思考錯誤して作られたものであるとも認識はしている。 作るには少々問題があるがな」


『まぁね。 私達の目的は沖縄に居る超越者の撃破だもの。 それ用の武器を作ろうと思えば、どうしたって条理を無視した物が出来上がってしまう』


 唐突に話し掛けてくる『彩』の声に、彼女は些かの動揺も見せずに答える。

 彩だけの領域に存在するテレビの山の中で、少女の形をした『彩』は彼女の言葉に満足そうに頷いた。互いに繋がっているからこそ、その言葉が虚勢でないのは明らかだ。

 様々なループがあった。その中で作られた兵器群は、決して現代で完成されない存在だ。

 移動する機械の犬のように、それはどうしても今を生きる彼等の予測を凌駕する。百も理解していれば沖縄戦も順調に進むであろうと『彩』は納得し、しかし次に告げた言葉はでもというものだった。

 

『理解しきれていないのは、まだ貴方が躊躇しているからだわ。 私達の力の規模が巨大であるからこそ、あの人を巻き込んでしまうのではないかと考えてしまう』


「……否定はしない。 現に、お前達が作り上げた物は信次さんを巻き込む可能性がある」


『でも、それじゃあ勝利は掴めないわ』


 現状のままでも沖縄戦に突入することは可能だ。

 彩が周りの被害を一切無視すれば、一気に最奥に居る存在にも会えるだろう。だが、会えただけでは意味が無い。

 勝利を掴むには完全な習得が必要だ。幾ら『彩』が情報を提供したとしても、それを現在の彩が理解して掌握しなければ使いこなすことは難しい。

 流転した回数は四桁を超えている。百という数字も全体から見れば少なく、どうしても未だ近代的な物のみしか彼女は使えない。

 必要なのは只野が巻き込まれる可能性を承知の上で使う意思。彼女達が嫌悪しているそれを飲み込んだ上で、良しと認めねばならない。

 これは己の意思次第。誰の要因も無く、自身で決めねば進歩は無い。

 だからこそ、彼女は迷うのだ。それをしなければならないと思いながらも、只野を巻き込む事実に不快を感じて。

 

「最終的には決断しなければならない。 それは解っている。 だが、最後まで足掻くのは良いだろう?」


『勿論。 最終的にどちらに転がるかはともかく、力は手に入れなきゃならないからね』


 只野を巻き込むのを容認した上で力を得るか、それとも彼を守りながら力を得る方法を見つけ出すか。

 勝負が始まるまでにどちらかに進まねばならず、そして『彩』が知る限りにおいては前者しか到達していなかった。愛した男を殺してしまうかもしれない恐怖に戦いながら力を振るう。

 それで全力など出せる筈もない。ましてや相手が只野と彩との繋がりを知覚すれば、必ず盾として利用するだろう。

 そうなれば彼女は力を出せずに負けるだけだ。あらゆる結末を経験したからこそ、その記憶は一種のデータベースとなって現在の彩に蓄積されている。

 より良い未来の為に。全てはそれを目指して。

 

『皆が皆、協力を惜しまないよ。 必要な知識はあそこから幾らでも引き出して良いし、私達を表に出しても構わない。 例え私達を見ても常人には理解されないからね』


「そうするつもりだ。 その時には一騎当千の活躍をしてもらわなければ困るぞ」


 ――解ってるよ。

 その言葉と同時に『彩』は再度内側に引っ込んだ。直後、彩のセンサーに接近する誰かを捉える。

 高速で進む信号の正体はワシズとシミズ、そしてX195だ。二人と一人は各々別方面から目標地点に進み、間もなく到達しようとしている。

 『彩』と彩との会話を誰かに聞かれる訳にはいかない。世界の秘密を握っている以上、それを外部に漏らせば大きな騒ぎとなるのは明白。 

 ワシズやシミズ相手であれば話しても構わないかもしれないが、何が起きるか解らない世の中だ。特に今回のように、首謀者が異なる(・・・・・・・)戦いが起きているのだから、気にしないなど愚かでしかない。

 博士の残した未来のデータの中でもこの戦いは存在していた。しかし、その詳細な情報は一切記載されてはいない。それは他の情報も一緒であり、単純に博士本人が然程気にしていなかったのが理由として大きいだろう。

 唯一違うのは沖縄だけ。あれが最後の戦いにして超越者としての彩が負ける戦いであるからこそ、確りと細かく情報は残されていた。

 それでも彩が首謀者は違うと断じたのは、一重に過去の彩達の記憶があってこそ。

 過去の記憶に居た首謀者も名前の知らない人物であったが、記憶を遡るに一つの基地を任せられるような存在だった。

 

 他者との繋がりを強め、全員が一丸となって怪物共を日本から追い出す。

 いわゆる熱血漢めいた人物であり、だからこそ率いていた者達も相当な練度を持っていた。中には十席同盟の一部も居たのだから、今回のテロリストとは月とスッポンの違いである。

 頭が変われば群も変わる。質の明確な劣化が発生しているのは、単純に只野達の勢力が大きくなったからだ。

 影響力が増せば人々の精神も変質する。デウスを大切にする勢力が増えたからこそ、熱血とは正反対の勢力がテロリストになるのは必然だった。

 

「お待たせ!」


「……到着」


「此方は誰にも見られていません。 そちらは大丈夫でしたか?」


「此方も発見されてはいない。 連中は未だ私を探しているだろうが、直ぐに動き出すだろうよ」


 四人が揃い、装備の確認を行う。

 全員が彩の手によって強化された専用装備を持ち、既に敵勢力についても完全に捕捉している。今から攻撃しろと言われれば即座に行動に移せるくらいには、彼女達の準備は整っていた。

 だが、彼女達の仕事は攻撃ではない。その役目は軍に譲っているし、彼女達も積極的に攻めるつもりは皆無だ。

 時間は約十二時間後。その後に、彩は誰もが思い浮かぶような言葉を胸の中で呟く。

 ――殲滅だ。

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