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人形狂想曲  作者: オーメル


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第二百六十三話 馬鹿騒ぎ

 彩の強烈な熱線は容易く彼等の足を止めた。

 何処からの攻撃だと兵士達は慌て、デウス達は攻撃方向から予測して彩が居た地点に全速力で迫っている。

 しかし、既にそこに彩はいない。攻撃を放った直後から移動を開始し、反対方向の木の上に彼女は立っていた。

 デウスよりも速い移動だ。人間の目では捉えられないし、例え見つけたとしても攻撃をする頃には遥か彼方である。相手からすれば、彩の攻撃方法は中々に恐ろしいだろう。

 とはいえだ。相手は此方を攻めて街の力を奪うつもりである。その方法は間違いなく現在デウスを縛っているあの装置であろうが、そんなものを街のデウス達に付ける訳にはいかない。

 何よりも、これは本来まったく必要ではない戦闘だ。この戦闘をする時点で時間と資源の無駄であり、後で此方から軍に盛大に文句を送るつもりである。

 街に居るデウスは順調にその数を増やし、現在は千に届かんばかりとなった。これは基地が保有するであろうデウスの三倍以上で、つまり連中は基地約三つ分を相手にすることとなる。

 

『此方春日。 住民の避難を完了させた! そっちはどうだ!!』


「此方只野。 彩が敵に一当てした。 今は全軍が停滞中だ」


『了解! こっちは村中の爺さんと一緒に傭兵達を動かす。 デウスに関してはG11に連絡を繋げてくれ』


「解った。 此方でも何か動きがあれば即座に知らせる。 防備を固めててくれ」


 モニターの一つから春日の声だけが届き、情報の交換を行う。

 テレビカメラとしての機能も有しているが、戦場の真っ只中で映像を映している余裕は無い。基本的に画面の一部は映像を表示されずに音を垂れ流すだけとなる。

 チャンネルを村中殿とG11にも設定しておき、何時でも通信が繋がるようにしておく。

 春日と村中殿が傭兵達の指揮に動くのは予想の範囲内。というよりかは、事前に決めていた通りにデウスを指揮するのはデウスとなっただけだ。

 現状の役職トップのデウスはG11であり、彼女が現場の指揮を執る。

 防衛と強襲。部隊を二つに分け、攻撃側は別の場所から外に出て攻撃を仕掛けるのだ。これを最初に決めた時は対軍を想定していたが、まさかのテロリストである。

 いや、元は軍だったので軍は軍ではあるものの、正規のものでない以上は質に関して疑問が残る。


『信次さん、全体のスキャンが完了しました。 戦車は存在せず、歩兵の装備も旧式の物を使っています。 我々用の武器も初期の頃の物です』


「全体的に旧式の装備で周りを固めている訳か。 他には?」


『食料を運んでいる車両がありますが、あまり多くはありません。 良くて三日しかもたないでしょう』


 彩の情報を聞けば聞くほどに、彼等の準備には杜撰さが目立つ。

 型落ち品でも名作と呼ばれる銃器は存在する。ましてや人間の身体であればどんな銃でも致命傷を与えることは可能だ。

 取り回しの悪さを本人の技量で補うことが可能であれば、軍が使わなくなった装備を使っても不思議ではない。だが、デウス用の装備については常に最新にせねばならない。

 初期の頃と言えば、人間が漸く反撃を開始した頃だ。その当時品であれば性能は間違いなく高いであろうが、あくまでも人間が使う中の話である。

 嘗て彩達と雑談で話したことがあった。デウス用の装備は新しい敵にも対応出来るようにと、日進月歩で性能の向上が続けられている。

 その為、旧式の装備では相手の肌や殻を貫通出来ない場合が多く、デウスに対して使ったとしても貫通出来るかどうかは部位によって変わるらしい。

 最新の物であればデウスの肌装甲を貫通することは出来る。そう考えると、デウス戦において相手側は相当の不利を背負っていることとなるのだ。

 同時に、食料も多くは無い。軍に露見しない形で集めるとなると、自然と数が少なくなってしまったのだろう。

 故に短期決戦は必要不可欠。こうして突発的に始まったのは、相手の動揺を誘うと同時に食料不足の問題を何とか解決しようと考えたから。

 

「時間を掛けてやればやる程に相手側に余裕は無くなる。 とはいえ、長期戦に持ち来めば此方も物資を消費する。 短期決戦でやるというのならば――此方も同じ方法でやってやろうじゃないか」


 此方は無駄な消費をしたくない。相手はそもそも余裕が無い。

 双方共に物資は消費したくなく、であれば行き着く先も同じ。ならば敢えて、相手に合わせて此方も短期決戦で終わらせよう。

 彩にそのまま足止めと監視を続けさせ、G11にチャンネルを接続する。

 直ぐに相手は出てくれたが、周りの音は大分騒々しい。大人数が走っているような音は、中々に耳に堪えた。


「G11殿。 彩からの情報です。 食料を運ぶ以外の車両は存在せず、デウスを含めて全員の装備が旧式である」


『であれば、掃討は容易です。 飛行ユニットの存在はありますか』


「彩からの報告には上がっていません。 此方も彩から送られる映像を見ていますが、その存在は確認出来ませんでした」


『了解です。 であれば、物資の消耗を抑える為に短期決戦で決めましょう』


 G11も考えることは一緒だ。

 敵戦力の規模は大きいが、持っている装備そのものは決して質が良いとは言えない。寧ろ悪い部類に入り、その程度の武装しかしていないのであればなるべく早期の段階で終わらせた方が情報操作もし易いだろう。

 軍からも戦力は出される。あちらは責任を取る為に全力で制圧に動き出すであろうし、解決するのに然程の時間を求めることもない。

 早速武装も殺傷力が高い物を準備させ、防衛と攻撃の比率を攻撃側に寄せてもらう。

 最終的な割合として七百もの軍勢が動き出すこととなり、目的地に到着するまでに多数の人間に軍勢の姿を目撃されるだろう。

 それに対する言い訳としては昔から使われている演習とでもしておけば良い。もうじき沖縄もあることから彼等も察してもらえる。

 人間は主犯格を含めた少数を残すとして、後は殲滅だ。今回彼方側に移った人間は現在のデウスの体制に異議を持っているか、単純にデウスそのものを従えたいと考えているかのどちらか。

 生かすだけの道理は無く、逆に生かしても此方にメリットを与えてはくれない。ただただ無駄に資源を消費するだけの豚になるくらいならば、あの世に送って日本全体の消費を抑えた方がずっとマシである。

 

 外はこの街が始まってから二回目の大騒動に陥っている。

 物が異常な速さで行き交い、全体に周知する為に拡声器を使った大声が鳴り響いていた。普段の静けさとは無縁なだけに、まるで別の街に来てしまったような感覚を抱いてしまう。

 この街で市民が居る状態で戦うことは一度あった。だが、それはまだ理解のある者達が居たからこそ避難も協力もスムーズに進んだ。

 今回はそれを知らない者達も居る。彼等がどのような行動を起こすのかは解らないし、あまりにも雰囲気の読めない行動を取るようであれば気絶させてでも避難場所に放り込むつもりだ。

 それで死なないのであれば、非難されようとも俺は指示する。

 市民の安全を守るには、デウスが本当の意味で人々を守るには、まだまだ俺達には経験が足りていない。故に今回の事態を、俺はある意味一つの訓練のようにも捉えていた。

 それしか意味を見出せないということもあるが、少しでも糧があるとデウス達も思ってくれれば奮起してくれるだろう。


「さて、相手はどうする」


 俺達が準備を終わらせる方が先だ。相手はそれに対し、何をしてくるのか。

 予想出来ない未来に対し、空中に向かって溜息を吐いた。

 

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