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人形狂想曲  作者: オーメル


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第二百六十一話 咎は誰だ

「お帰り。 村中殿が電話対応はしてくれたぜ」


「メールでその件については知っているが、すまなかったな」


 無事に元の街にまで戻り、手にした情報を早速纏め上げる。

 具体的な数は不明であれども、あの場に居た軍の戦力や質に能力。施設の設営進度や怪物共の出現範囲も出来る限りPCに残し、完成したそれらを上位陣に伝達させる。

 残り僅かとなった期間において、遅々として進んでいない状況は最悪だ。このまま何もせずに居た方が良いのかと迷うものの、迂闊に手を出してはやはり問題へと発展してしまう。

 関連情報から出てくる状況は、極めて酷いの言葉のみだ。もう少し進んでいれば悩まずに済んだのだが、最早何も進んでいないと言っても過言ではない。

 村中殿もこの結果には渋面だ。最初にそれを設定したのは軍であるにも関わらず、彼等が約束を果たしてくれるとはとてもではないが考えられないのである。

 

「これは……さて、どうしたものですかね」


「海の方は此方が一掃しましたが、それでもこれからまた湧き出すでしょう。 進んでいるのは今だけです」


「怪物共の質を見誤った結果でしょうな。 軍は間違った対応を取る事が多いものですが、今回は些か以上に問題ですぞ」


 初めて村中殿は隠さずに深刻な表情を浮かべた。

 それもその筈。今回俺達が出す戦力に設備を立てられる者は居ない。テントのような簡易な物であれば設営出来るが、そこで弾薬の管理やデウスの応急処置など出来る訳が無い。

 脆い壁の前では雑魚の一撃すら耐えられず、そのまま突破を許される。故に重厚な壁を軍が作り、そこに電源設備や各種道具類を入れるのだ。

 つまり基地は前提なのである。それが無ければ攻める準備すら進まず、連中の攻撃が活性化しかねない。

 基地の完成こそが攻撃の準備が整う合図でもある。故に、それが完成されない限りは此方も戦力を出すことは出来ない。

 そして俺達が戦力を出さない以上、諸外国の目も必然的に鋭くなる。

 注目の戦いが延期するなど、彼等は絶対に許しはしないだろう。幾ら相手の戦力が多くとも、そのようなことは最初から想定されていたものである。

 

 最悪は幾らでも想定出来た。

 彩が居ても戦況は決して良い訳ではない。多少は跳ね返せてもそこで終わりとなるのは確実だ。

 だから軍主導で進めてほしいのだが、この分だと最悪の場合延期が起きかねない。誰か別に権力のある人間が急かさない限り、此方の声にも満足に答えてくれるかも解らない状態である。

 今頃軍の内部はどのように話を進めているのだろう。喧々囂々としているのか、静々と焦りを内に秘めているのか。

 どちらにせよ、それで進まないのであれば意味が無い。故に緊急で三人の話し合いが起きるのも必然だった。

 今している仕事を各々の部下に任せ、小会議室に籠る。

 少ない紙束を全員が持ち、彩達の証言を頭に叩き込んで一つの机を囲むように全員が座った。周囲は防音の壁に囲まれ、入り口を護るのは彩とG11という最強戦力。

 絶対に話を漏らさないという意思でもって、先ず最初に全員が行ったのは溜息だった。


「さてはて、予定とは随分異なる状態になりそうですな」


「予定よりっていうか最悪の状態になるだろ、これ」


「確率は大きいな。 まだ時間はあるが、此処から一気に作り始めたとして果たしてまともな物が出来るのか」


 堅牢な建物をただ建てるだけなら今から全力で動かせば間に合うだろう。

 だが、化け物に対抗出来るだけの建物となると間に合う確率は低い。酸性の攻撃や単純な打撃や斬撃に対抗するには、分厚い鉄の壁ではなく複数の金属を混ぜた多重装甲でなければならない。

 しかしそれでも突破される可能性は大きく、現に基地の幾つかが潰された例は存在している。その情報そのものは秘匿されていたが、ネットの海に漂い続ければ誰かが流してくれるのだ。

 証拠画像や有識者によって詳細な情報が載せられているので、彼等の準備にどれだけの手間が掛かるかは解っていた。

 重機を用意するのにも、人を動員させるのも、ましてや予算申請が通るのも時間が掛かる。それら全てを加味した上でデウス達による一時的な空白地帯の作成も行わねばならないのだ。

 単純に考えれば、六ヶ月というのは酷く短い期間である。

 それでも軍はやると決めたのだから、彼等はそれをせねばならない。自身で決めた約束を破るようであれば、流石に次は何処も容赦しないだろう。

 

「助けますか?」


「いえ、逆に向こうが拒否するでしょう。 それに彩が一番軍を嫌っている。 そんな彼女に無理矢理手助けをしろと言うのは、俺の本意ではありません」


 村中殿の言葉に頭を振る。

 彩や他のデウスに対して助けろと俺が言えば、彼等は素直に言う事を聞いて助けてくれるだろう。その胸の内に不満を抱えながらも、俺を信じて嫌な事もしてくれるのだ。

 それを俺はさせたくないし、させるだけの理由を持っていない。何故俺達が軍の遅れている作業を助けねばならないのか。復興について助けてはくれているが、そこはそれ。これについてはただ軍が勝手に手助けをしているのだと俺が宣言すれば、それこそが真実となる。

 どちらが悪か。これを論ずれば、有識者の誰もが軍を指差す。

 そうであることを望み続ける限り、誰も彼もが軍を悪と決め付けるのだ。美しき戦乙女を穢した存在に対し、一般市民は容赦など掛ける筈もない。

 デモは鳴りを潜めたとはいえ、潜在的な敵は無数に存在している。今はまだデウスという戦力によって幾らでも状況を覆せるが、軍内のデウスが居なくなれば彼等は再度燃え上がるだろう。

 デウスが居なくなる機会――沖縄奪還がある意味においてはチャンスである。


「今は様子見に徹しましょう。 あちらから接触してきても此方のスタンスは崩さずに居るよう努めてください。 居ないとは思いますが、賄賂なども受け取らないようにしましょう」


「あいよ。 こっちもそろそろ軍から切り離すよう動くとするか?」


「それも良いでしょうな。 軍の手助けも徐々に必要では無くなっております。 残り数年の間に切り離せば、癒着だと騒がれることも無くなるでしょう」


 急速に復興が進み、最早以前までの貧しさはそこにはない。

 豊かさが進む程に軍の必要性も薄まり、最終的にはデウスという軍が警察としての役割を担っても良い。流通に関しても企業が許諾すれば独自の方法で運搬も可能だ。

 配達は人間が行えば、デウスに依存することも無くなるだろう。全てが全てデウスに任せてはいけない。それは彼等の不満を溜める行為であると同時に、人間の堕落をも生んでしまうから。

 愚痴を吐き合い、結果出てくるのは軍と距離を置くことだ。そろそろ此方も軍とは別の路線を進む時であり、これが新しい未来へと行く道であると信じていた。

 何を犠牲にして未来に進むのか。それを決めるのは俺達一人一人であり、別の一個人ではない。

 法があっても、上からの重圧があっても、最終的に道を決めるのは本人だけである。故に俺達もまた、軍という存在に依存せずに自由となるべきだ。

 何が起こるのかはある程度予測を立てられる。明確な対立構造が生まれるのは未だ先であるが、決して遠くはない将来であるのは間違いない。

 

「沖縄奪還が終わるまでは距離を置くまでとしましょう。 直接会うのは基本的に禁止とし、もしも軍の人間が直接街の内部に入った場合は観光に留めさせてください」


「では雇った傭兵達にそれとなく監視させましょう。 沖縄までは暇を持て余しているでしょうし、丁度良い小遣い稼ぎとでも思ってくれるでしょうね」


 この日、軍がこの街の重要施設に入ることは出来なくなった。

 それを知るのは少し先。しかし、その少し先では最早取り返しのつかない事態が起きていた。

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