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人形狂想曲  作者: オーメル


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第二百六十話 平穏維持の難しさ

「兎に角、そちらの勝手な言い分では納得出来ません。 私に文句を言いたいのであれば、十分な証拠を用意してからにしてください。 では」


『ちょ……!』


 通話を強制的に切り、溜息を零す。

 PM9の言葉は結局、個人の憶測しかない内容だった。彼女がもう少し冷静であれば迅速に証拠を集めようとするだろうが、それで集まるモノなど大した代物ではない。

 買い物等で多くの人間に俺達の姿は見られている。監視カメラにも俺達の姿は映っているだろうし、街に居たという言い訳をもしもしていれば此方が崩れていただろう。

 だが、俺が言い放ったのは買い出し。街で不足している物を購入する為に街を訪れていたと言えば、少なくとも筋は通る。

 監視カメラを辿れば南下していたのは流石に解るので疑惑は残ったままだが、決定打が無ければ軍も動けない。そして、決定打がある場所には監視カメラのような人工の設備は存在しないのである。

 完全とは言わないまでも、捕まえるのにはあまりにも証拠が揃わない。向こうは地団駄を踏み、此方は悠々と偵察内容を持って街へと帰れるのだ。


 勿論、街にも俺について色々聞かれていることだろう。

 具体的な情報を知っているのは一部の人間であり、軍との対話を行うのであれば恐らく村中殿が担当する。であれば、此方が用意した急ごしらえのシナリオにも合わせてくれるだろう。

 春日や普通のデウスであれば些か不安であったが、彼であれば問題は無い。その証拠に通話が切れた直後に村中殿から一通のメールが舞い込んできた。

 内容は問題無しの一言のみ。それを即座に削除して、端末を懐に仕舞いこむ。

 手間は増えたが問題は無い。今後の活動に多少は影響を及ぼすであろうが、今回の攻撃がプラスに動くと直ぐに誰もが理解するだろう。

 遅々として進む気配の見せない基地設営に、何時までも出現し続ける怪物の群れ。

 両方を一気に解決するには、やはり大量破壊兵器による自傷覚悟の攻撃しか選択肢が無い。予め退避していれば、その動きを察知して敵の方が動き出す。


「一応監視カメラに映らないように街には入らない道を選ぶぞ」


「解りました。 それで、PM9はどうでしたか?」


「子供みたいに怒ってたよ。 ありゃ随分焦ってたな」


「それはそれは」


 含みのある言葉に、どうしたと俺は彩に問い掛ける。

 お気になさらずと彼女は告げるが、ミラー越しに見える彼女の表情は随分と怪し気な笑みだ。まるで作戦が成功したかのような顔に、あの攻撃には他に狙いがあったのかと少し思考を巡らせる。


「あまり考えずともよろしいですよ。 少々鬱憤が溜まっていたので晴らしただけですから」


「……OK。 深くは聞かないよ」


 彼女の真意は解らぬが、爆発するよりは何処かでガス抜きした方が良い。

 今回はあまりに過激であるものの、それだけ彼女は何か大きな不満を抱えていたのだ。果たしてそれは軍に対してか、それとも街に対してか。

 如何に親しい間柄であっても踏み込んではならぬ領域が存在する。俺と彩に情報を隠す意図は無いが、やはりどうしても踏み込まれてほしくない場所はあるのだ。

 それは趣味というものであるかもしれないし、感情というものであるかもしれない。

 何が駄目なのかは人それぞれ。故にそのラインを認識した時、大事な場面でもない限りは一歩引くべきだ。

 彼女には彼女の意志がある。それを尊重せずして、この生活が維持されることはないだろう。そして、これはX195やワシズとシミズにも言えることである。

 

「街には入らないとのことでしたので、街に戻りながら野宿出来る場所を探しますね。 それとも車中泊にしますか?」


「残念ながらこの車の座席は倒れてくれないんだ。 車中泊をするのは出来れば勘弁願いたい」


「では何時も通り廃墟探しから開始ですね」


 X195の言葉に肯定を返し、俺達はそのまま一目散に戦場から離れていった。

 残りの時間を全て帰還に使えば、予定の時間に無事に収まる。少し余裕があれば怪しまれない程度に街に近い商業施設で何かを買っておくのも良いだろう。

 丁度彩の内部領域に大きな空白が出来たので、大量に買っても持って帰ることは出来る。

 道中の雑談代わりに街で不足している物を彩達に聞いてみるも、明確に答えをくれたのはワシズとシミズだけだ。

 彩は俺以外の他人について然程意識を向けないし、X195もあまり積極的に外に出るタイプではない。ワシズとシミズはデウス達の訓練に積極的に参加して交流を深めている。

 街の復旧作業を手伝っていたことも合わさり、顔については知られている方だろう。

 白髪の双子が文句無しに褒める店があれば、そこは絶対に素晴らしい店である。そんな言葉を何処かで聞いたような気がして、俺は少し二人に感心した。

 

「やっぱり家電製品はまだ足りてないね。 お金は払えるんだけど、あそこは通販の配達外だから届かないんだよ。 そもそも通販の品揃えもあんまり良い訳ではないけどね」


「パソコンを求む声が多い。 至急希望」


「電化製品か……」

 

 復旧に伴い、家電の普及も徐々に始めてはいる。

 しかし住人の増加によって間に合っていないのが現状だ。早急に集めるにしても価格は高く、物によっては性能の格差がはっきりと出てしまう。

 何処かの会社に発注するにしても、一体どれだけの数を用意せねばならないのかが解らない。

 最高性能を求めてしまえば、その予算は莫大なものとなるだろう。故に、普及そのものは慎重にならざるをえない。

 それを双子も理解はしている。デウスの方がよりシビアに性能差を気にし、少しでも強靭な肉体を構成しているのだから。

 その上で内容を振ってきたということは、それだけ求める層が多いのだろう。


「まぁでも、欲しいって言っている奴が多いんだ。 なら本格的に何処かの企業に用意出来るか聞いてみるか」


「軽く数百以上は必要だと思うから、一企業だけじゃ駄目だろうね」


「予算を組むにしても、一体どれだけの金が無くなることやら。 この手の話は何時も頭が痛くなる」


「スキャン推奨」


「解っているとも。 此方の情報が流出される懸念は少しでも潰しておきたいからな」


 企業が誰かから依頼を受け、送る予定のパソコンに余計なパーツやソフトウェアを入れる懸念がある。

 それに対抗するには俺達の知識不足は避けようがない。穴を防ぐ為にはデウスに任せるしかなく、しかしそれをしても完璧とは言い切れない。

 未だ存在は知らないが、デウスを破滅に導くようなウィルスが無いとも限らないのである。もしも他所からそのような物が流れ込めば、街が大騒ぎとなってしまう。 

 それでも、不満を溜め込まれて居なくなってしまうよりはマシだ。これもまた避けては通れぬ道であり、発展における難事の一つとして受け止めねばならない。

 計算するのは苦手ではないが、考えることが多くなると頭痛が酷くなる。

 嘗て工場で働いていた頃とはまるで異なる生活に、どこか過去のブラック企業という言葉が脳裏を過った。

 再度小型端末を起動して、未だ生きているPC販売企業を探し始める。それに合わせて家電製品を販売している会社も探し始めるのだが、平和だった頃と比較すると値段は大きく違う。

 

「あ、目が死んでる」


「お金、掛かる」


「あの……作りましょうか?」


 技術というものには大きな価値がある。

 それは解っているが、どうにかもう少しでも安くはならないものかと思ってしまうのは避けられない。彩の提案を感謝しながらも断り、春日や村中殿にどのような理由で話を通そうかと別の方向から頭を悩ませることになってしまった。

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