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人形狂想曲  作者: オーメル


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第二百五十一話 兆し

 ――始まる選別。

 ――総勢五万にも及ぶ技術者達の群れは、一丸となって街の門を通る。

 ――そこに老若の差は存在せず、同時に男女による差別もまたありはしない。

 ――皆が平等に、公平に試験に参加するのだ。

 ――そして、その傍には国から派遣された特殊な人間の影も存在している。


 彼等は一様に同じ目的の為に派遣されていた。中には秘密裏に街を支援していた筈の国からも派遣され、全体の数割に他国の人間が紛れ込んでいる。

 勿論、人種としては全員が日本人だ。ハーフであろうとも見た目が日本人に近ければ街に送られ、その情報を持ち帰るよう厳命されている。未知の技術を求めて、あるいは国の平和のために。

 そんな志を掲げているのは僅かであるが、しかし己の決意によって行動を起こしたのは間違いない。

 街は情報の開示を全力で避けていた。口外してはいなかったものの、あらゆる潜入工作員を排除した時点で隠したいと思っているのは当然だ。

 彼等には潜入工作員としての心得は一切無い。あるのはただの技術的野心のみであり、もしもデウスの設計図でも回収出来ようものなら今後の将来は約束されるだろう。


「笑止」


 門を通る人の群れを上から眺めつつ、G11はそんな彼等の思考に唾を吐く。

 如何様な理由を持っていようとも、彼等がやっているのは窃盗だ。武力による強盗を選ばなかったのは利口ではあるものの、所詮はそこまで。

 確かにこの街のセキュリティには依然として僅かな隙間が存在する。それは復興途中だからこそであり、今も全力を掲げて隙間を塞いでいる最中だ。

 現状は大部分をデウスに頼っているし、デウスはそのことについて理解はしている。街の人間達が極めてデウスに対して友好的であるからこそ、警備をしているデウスも全力で守り通すのだ。

 此処は楽園。デウスが求めた理想の地。

 如何に設備が完全ではなくとも、此処でしかデウスはデウスとしての本分を全うすることは出来ない。もしも此処から追放されてしまえば、闇の中で摩耗し息絶えるだけだ。


 只野信次という男にG11は非常に感謝している。

 楽園を構築したというのもあるが、自身が大切だと思わせてくれる人間とも引き合わせてくれた。春日との日々は非常に刺激で満ち溢れていて、それは他では体験出来ないだろう。

 故に、その楽園の邪魔をする存在に慈悲は必要無い。一般参加者達が居るからこそ殺害という手段に走れないが、拘束手段は他にもある。

 国が送り込んだ人員は果たして幾人に登るだろうか。一国がまさか一人や二人しか送らないということは無い筈だ。

 現に今もG11の通信には大人数のデウス達からの報告が流れ込んでいる。

 その全てを把握するのは難しいものの、彼等はなるべく数と国籍だけの報告に留めていた。

 数から解ることは、その国がどれだけこの街に関心を向けているのかということだ。一番に多いのはロシアであり、二番目に中国が並ぶ。

 逆に少ないのは元々が小国であるバチカンであったり、対処箇所が多過ぎるアメリカだ。

 

「何処もかしこもデウス、デウス、デウス。 人としての格の差はどうしてこんなにも幅があるのだろうな?」


 眼下の者達を見降ろしながらの独り言に、答えるデウスは誰も居ない。

 己等の創造主。親として彼等は完璧ではなく、逆に不完全な箇所が多過ぎる。いっそその立ち位置にデウスが成り代わってしまえばと思うも、デウスに出来ない事を人間は出来る。

 それは様々であるが、最たるものは生命の創造。人が子供を作る過程を知りはしても、デウスには機能そのものが搭載されてはいない。

 これは単純に人間が人工的にそれを行えないからだ。代理出産という方法はあるにせよ、様々な投薬によって試験管から子供が誕生することは無い。

 それが出来ればデウスにも子供を与えることが出来るかもしれないが、今後それが生まれる可能性は低いだろう。

 愛する誰かとの子供に、G11は思わず春日を想像する。

 もしも彼との間に子供をもうけることが出来れば、一体どのような見た目になるのだろうか。

 

 少しの間それをイメージして、何を言っているのかと首を振る。

 子供が欲しいと思うには春日との関係は深くはない。仲が良いとまでは言えるものの、愛し合っているかと尋ねられては首を傾げざるをえないのが実情だ。

 何となくG11はその事実に嫌な感情を抱くも、直ぐにそれを削除する。

 仕事の際にはここまで彼の事を思い出すようなことは無かった。何故今になって思考領域を占領しようとするのかと疑問を抱きつつ、一部の人間が逃げる姿を視界で捉える。

 当て嵌まる国籍はドイツ。どうやら露見したことに慌てて逃走を開始したようだが、デウス相手に逃走劇をするのは流石に分が悪い。

 門付近に居るデウスは総勢で三百以上。更にその監視以外にも街には何時も以上に警備が厚くなっている。

 

 それは相手が逃げた裏路地であっても一緒だ。

 寧ろ裏側の方こそ配置された人数が多く、即座に捕縛の報告が入った。

 突然の逃走にざわつく技術者達であるが、そこは案内を任せたデウスや街の人間が説明する。今この街がどれだけ他所から見て魅力的で、盗みたいのかを。

 普通はあの手この手で黙くらかすのが常套手段ではあるものの、悪事は正直に公開するのがこの街だ。

 彼等は他所の国から技術を盗もうとする者達の話を聞き、表情を硬くさせながらも僅かに喜悦を覚える。

 人は優劣を常に気にするものだ。それがどんなものであれ、他者よりも先を歩いていると解れば心に余裕や喜びを覚えてしまう。

 日本は割合で言えば他所よりも多く解放している。そして、今後の未来を担う街で一技術者として活動出来る事実は誉だ。

 安全な場所で、街の一助となれる者となる。それは正しく、他者よりも前を進んでいると言えるだろう。


 ――想定通り、となったか。

 解っていたことだ。軍の人間と長く関わったからこそ、他者の抱く性質を操作するのは容易い。

 媚び諂う真似もG11は経験している。それが処世術となったが故に、聞き心地が良い言葉を送るのは半ばデウスにとって必修事項だ。

 これが必修とならないとすれば、それは特別な結果を叩き出した者だけ。

 G11は元は教官だ。特別強者ではなく、人間の言葉には常に気を払わねばならなかった。


『調子はどうだ、G11』


『春日様! はい、滞りなく全て捕縛しております。 ……ですが、予定よりも随分多いようでして』


『マジか。 それだと牢屋が足りなくなっちまうな……』


 突然の通信。

 それがデウス相手であれば注意の一つでも送るが、相手が春日であれば話は別だ。

 普段通りの敬語を使いながら現時点での問題を挙げる。それに対して春日は苦い声を漏らすも、直ぐに別の場所を手配すると答えた。

 しかし、牢屋として機能する場所は最初に設定した場所以外には無い。此処は街としての機能を優先しているので、他者を捕縛し続ける幽閉所のような施設は極めて少ないのだ。

 

『何処に牢屋を? 使える場所は無かったと記憶していますが』


『無ければ作るまでよ。 丁度隣の席に信次が居たから、彩に作ってもらえば問題ないさ』


 無ければ作るまで。その言葉は誠に道理であるが、それが完成するまでは時間が掛かる。

 だが、彩が作れば一瞬だ。絶対に解除出来ない牢屋を造作もなく建てる事が可能であろうし、もしも阻止の為に彩を攻撃しようとも勝てる見込みは一切無い。

 これは人間だからではなく、デウスも含めた全生命が対象だ。同じデウスだからこそ、彩と呼ばれる存在は絶対的王者である。

 部下となるだけでも分不相応。ましてや、同じデウスだと思われること自体が彩にとって侮辱になるだろう。

 友人や恋人になるなど論外だ。それが出来るなど、最早人間であるとは考えられない。

 只野信次。その存在は確かに希望であり、同時に常軌を逸した怪物の一人だ。彼が動けば他の組織は全て警戒し、戦いよりも逃げを優先とする。


 本人は分不相応な地位に居ると苦笑しているが、デウス達にはその地位すらも小さく感じるのだ。

 間違いなく頂点。座るべき席は――世界の流れを決める最高決定者。

 彼が否と言えば即座に彩が殲滅を開始する。いや、彩以外にも彼女と共に戦ってきたワシズとシミズも排除に乗り出すだろう。

 敵対の意志など示すべきではない。素直に恭順し、跪かねばならない相手だ。

 

『お、信次の奴からOKサインが来たぞ。 場所は後で教えるから、出来れば何処かに集めておいてくれ』


『解りました。 では早速行動を開始します』


 門での騒動は未だ終わらない。

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