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人形狂想曲  作者: オーメル


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第二百四十七話 錆だらけの塊

「デュアルドライブ……今、見つかりました。 どうやら以前収集したデータ群の中に紛れていたようです」


「あっちにあったのか。 で、内容は」


「機密ではありますが、ランクは然程高くはありません。 軍の中でも重要視されているようにも思えない情報ばかりでした」


 共に歩きながら彩の情報に耳を傾ける。

 デュアルドライブ。二人で一対とするシンクロに近いシステムであり、完成した次は部隊間での情報伝達のラグを零にすることが目標に掲げられていた。

 突飛な行動も急ごしらえの作戦にも戸惑わず、強力な化け物を群で打倒するのが最終目標だ。それは確かに強力ではあるものの、個という存在を潰す行為でもあった。

 知っている通り、感情はデウスの起動に必要な要素だ。それを取り外せば自動で停止し、まったくの戦力外となる。

 彼等は感情によって強くなる機能を備えていた。そうでなければ打倒出来ないのだと、柴田博士も確信を持っていた。

 故に、このデュアルドライブが頓挫するのは当然だ。感情の消失を狙い、指揮官の想定通りに動くロボットでは想定以上のスペックを発揮することなど不可能の極み。


 彼等は最初の段階で間違えていた。

 いや、そもそも機械に心が搭載されていることの意味を理解していなかった。それがどのような力を持つのかを考えず、彼等はずっと都合の良いロボットとして扱ってきたのだ。

 だから簡単に破棄することが出来てしまったし、感情を向ける事も多くはなかった。言ってしまえば自業自得であり、しかし全てを軍の所為にすることも出来ない。

 公開することは出来なかったとはいえ、柴田博士も他に情報を残していれば感情の意味について考える余地も残っていただろう。

 それによって状況が変化していた可能性はある。結局は大部分がロボット扱いしていただろうが、今よりも彼等の感情を支持する軍人は多かった筈だ。

 結局のところ、全てはたらればの話である。今此処でそれを論じても意味は無いし、それを次の周回に任せることも出来はしない。

 

「あの二名がデュアルドライブの被験者だったのですね」


「ああ、変な偶然だよ。 お蔭で軍への評価も真っ逆さまだ」


「元からあまり高くはなかったのでしょう? 幾ら下がったところで彼等はあまり気にしませんよ、本当のことを言われているだけですから」


「辛辣ゥ……」


 彩の冷め切った評価に思わず言葉が漏れるも、全面的に同意だ。

 やはり軍など、とは言いたくはない。しかし軍が齎した結果は全て悪い方向にばかり傾いている。

 それはこれまでの功績が人々の間から忘れ去られてしまう程で、今もなお炎上騒ぎは継続されていた。最近は俺が出した動画によって企業群も炎上しているので、最早今の日本人に信じられる企業はあまりにも少ない。

 かといってこの機会に乗じて外国企業が支部を日本に作るのも不可能だ。

 大陸の被害も無視出来るものではない。守る場所が多いが故に解放されていく速度は遅く、現在のままでは全てを解放するのに百年単位で必要となってくる。

 元々の領土が少ない国程、ある意味この状況は有利であると言えるかもしれない。今は世界的な危機なので自身の国家だけを考えている場合ではないかもしれないが、少なくとも自国に敵が居ない事実は大きな安心感に繋がる。

 

 同時に、国民はそうなれるよう尽力した為政者を褒め称えるのだ。それによって世界中から高評価を貰い、生活者の数も劇的に増加していく。

 労働力の増加はそのまま自国が完全に復興するまでの速さに繋がる。当たり前かもしれないが、人は怪物の討伐だけに注視すべきではない。

 如何に周りから優秀だと思われるよう尽力するか。日本にはデウスという下地があったが、その評価も軍のやり方によって現状は地の底だ。

 加えて、俺がやったこととはいえ日本企業の悪い部分も露呈させた。諸外国からの日本の評価は更に落ちているのは明々白々である。

 

「一先ず、この一件について軍に抗議しますか? 文言ならば幾らでも出てきますが」


「いいや、引き取ると言ったんだ。 ここで軍と小競り合いをしても意味が無いし、R-1殿にも迷惑が及ぶ。 それに、この件を知ったデウス達がどんな行動を起こすのか予測が付かない」


「順当に考えるのであれば自害、ですかね。 自主的にコアを破壊すれば、その時点で彼等の活動は完全に停止します。 記憶のバックアップも現在はしていませんしね」


「そこら辺も出来れば復活も出来るんだがなぁ」


 この街には彼等の記憶をバックアップする場所が存在しない。

 勿論用意しようと思えば用意出来るのだが、支払う事になる金銭が非常に多くなる。それこそ俺達では追い付けない程の金が出て行くのだから、軍が彼等を捨てた理由にこれも含まれているのだろう。

 故に、自害でもされれば二度目の生は存在しない。彼等は人間と同様に死ぬことになる。

 とはいえ、そうなるのはやはり戦場の中だけだ。人間では彼等を殺すのは不可能に近く、仮に成功したとしても身体を破壊するには専用の道具が必要となる。

 俺は実際に修理の場を見て初めて知ったが、彼等の身体に穴を開けるには彼等に使われている物と同じ素材が必要だ。

 それを考えるに、停止に追い込んでも破壊は一般には出来ないだろう。

 そして、一般で解決出来なければ誰がやったかなど調べようはある。デウスの能力をフルに活用すれば余程手掛かりが無い限り発見は可能だ。


「まぁ、あの二人以外は順当に回復する気配があるんだ。 二人についてはゆっくりとケアしていこう。 その内に自己を確立してくれれば、そこを切っ掛けに人間らしさを手に入れてくれるかもしれない」


「希望的観測ですが、そうするより他に無いでしょうね。 ――次が無ければですが」


「……そうだな」


 今は護衛が居ない。だからこそ、彩は真実を口にする。

 俺がこれだけ未来を語っていても、次があれば意味が無い。彩が幸福を勝ち取らない限りは未来は続かず、俺のこの努力も水の泡となるだけだ。

 本当に気にするべきは沖縄についてだが、それに注力し過ぎては足元が疎かになる。

 味方が突如敵となるような事態は避けたいのだ。例え軍相手でも負けるつもりは毛頭無いが、迂闊に手を出させないようにするのが一番良い。

 同時に、民衆からも一定の支持を得る。そうすれば世間からデウスが人の波に混じる隙間を作ることも可能となるだろう。

 悪人は一切許さぬ。デウスを守るには日本という国が生き残ってもらわねば困るのだ。

 だからこそ企業の闇を晒し、少しでも無残な扱いを受けていたデウス達を引き取った。それが力となり、彩が求める未来を勝ち取れると信じたから。

 

「彩が納得するような結果を出してみせるさ。 その為にも、悪人には退場してもらわないといけない」


「ええ、ええ、その通りです。 貴方の未来の為にも邪魔者は一掃せねばなりません」


 彼女の為に、俺の為に。

 未来を停止させない為にも、足を引っ張る悪は総じて滅ぼす。それは怪物もそうであるし、それらを生み出したであろう存在も同じだ。

 滅人滅相。俺達の為にならないならば、皆悉く滅んでしまえ。

 胸に渦巻く強大な感情。何時如何なる時も発生するその意志に、しかし振り回されるような真似はしない。

 心に理性を嵌め、確りと自身を律するのだ。そうでなければただの破壊者となる。

 

「今はまだ、軍は生き残らせる。 少なくとも沖縄が終わるまでは協調路線を続けるままだ」


「解りました」


 誰も解らぬ未来を描く為には、今を続けるしかない。

 それを俺も彩も解っていた。

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