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人形狂想曲  作者: オーメル


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第二百四十四話 不足者の誤解

 体の良い厄介払い。

 浮かんだ言葉を口には出さず、しかし沈黙が支配する場所においては誰もが理解している言葉だ。

 欠けてしまった部位を直したとしても、心の損傷を負っているのであれば意味が無い。損傷部位が修復されたことで多少なりとて元気を取り戻したデウスは居るものの、本部より送られたデウス達は依然として何も話さず何も意志を表に出さない。

 ただ此方の意志の通りに動くだけの操り人形。壊れたデウスと表現するのが正しく、こんな状態にさせた軍に怒りすら湧いてきてしまう。

 いっそ苦情でも送ってやろうかと考え始め、既に起きてしまった事実を責め立てるのは無駄だと頭を振った。軍に文句をぶつけて彼等が直るのであれば、それこそ苛烈なまでに責め立てよう。

 彩達に頼んで直接軍の高官を拉致し、脅し付けることも出来る。


 だが、それをしたところで彼等は直らないのだ。

 そんなことを考えるよりも、俺は彼等にとっての最善を模索するしかない。それこそがR-1にとっても一番の喜びになるだろうし、俺達の喜びにも繋がる。

 さて、と完全な修復を終えた彼等と顔を合わせる。大き目の部屋を事前に用意しておいたので人数そのものは何の問題も無いが、大人数のデウスと相対するのは何度目でも慣れるものではない。

 特に相手が警戒をしていると、どうしてもどう話せば良いのかと悩んでしまうのだ。別に普段通り喋っても問題は無いのだろうが、それで嫌われるのはあまり喜ばしくは無い。

 

「既にR-1殿から話を聞いているかもしれませんが、今日から貴方達はこの街で生活をしてもらいます。 予定よりは人数が多くなっているので何人かは緊急の部屋を用意しますが、その後に他と同じ部屋を用意しますので我慢してください」


「此処でも私達デウスは軍と同様に怪物の撃破や防衛を行います。 加え、生活支援という仕事も加わりますので仕事そのものは多くあると認識してもらって構いません」


「強制をする意志は御座いません。 誰かは何処かの仕事に従事していただきますが、基本的に付きたい仕事を選択してください。 我々はデウスを虐げるのではなく、共生することを目的としていますので」


 X195と互い互いに簡単な説明を行う。

 その後に予め呼んでいた複数人のデウスにこの街の地図や詳細な職務内容が書かれたテキストデータを送ってもらう。

 ちなみに製作者はG11だ。デウスに理解させるには、同じデウスに作ってもらった方が良い。

 突然送られたデータ群にデウス達は多少の動揺を見せるが、送り主とデータ情報を見て直ぐに気を引き締める。

 これから先において、最終決定権を持つのは軍の上層部ではない。最初の数枚分のデータを見た後であれば、最高責任者が誰であるかなど解るだろう。

 

「詳細な情報はデータで送りました。 これらをよく熟読し、一週間以内にこれから御配りする希望届を担当デウスに渡してください。 ……ここまでで何か質問は?」


 R-1が事前説明をしていないとは考えていない。

 相手は依頼した側であり、事前説明はしていて当然だ。そうでなければデウスが集まるというのも考え難く、恐らくまともに説明していないのは特に欠損の酷かった本部のデウスだけだ。

 そのデウス達も無表情で情報を読み込み、次の指示を待っている。質問の意志など存在せず、やはり想像の通り彼等は単純に命令を待つことしか出来ていない。

 それではこの先を生き残れる可能性は低い。全てを命令によって支配されてしまえば、いざ命令が無い状況で動きが止まってしまう。

 積極性は常に必要だ。故に、全てを封じていた状況を打破しなければならない。

 この質問一つでも積極性が試されていると解っているのは、果たして何人居るだろうか。遠くの扉横に背を預けているR-1に視線を向けると、彼はウインク一つを送るだけ。

 解っているからこそ、自分で気付かねばならない。そういうことだろうと俺も彼等に何も言わず、暫くの間は待ち続けた。

 その間彼等は隣同士で話し合いを始め、意見を纏めていく。元々人間を軽く凌駕する思考速度を持っているからこそ、疑問を纏めるのも迅速だ。

 人間のように無駄な質問を浮かばせはしない。それは非効率的だと断じている。


「あの……二点程よろしいですか?」


「どうぞ」


 おずおずと手を挙げているのは、この中で一番質問をするようには見えない子だ。

 ロングの茶髪に翡翠の瞳を持った庇護欲を掻き立てる子供。彼女のようなデウスが最初に質問を行うのは予想外だったが、否と言うつもりは一切無い。


「有難うございます。 では、その、今回の決定には政治的な理由はあるのでしょうか。 既にR-1様から説明を受けてはおりますが、裏が無いとは思えないのです」


「――それは、数が数だからですか?」


「そうです。 確かに私達はお荷物でしたが、かといってこれだけの人数を送るのは常識的ではありません。 何かしらの取引によって私達が送られたのでしたら、どうかその理由を教えてもらえませんか」


 彼女の尋ねた質問は、謂わば確認のようなものだ。

 己が政治の道具にされたのではないか。もしもそうだとしたら、政治的な理由で置かれている自分達はこの街でも酷い扱いを受けないとも限らない。

 先程の俺の説明にしたって信じられる余地は零だ。全てが此方側で提供されたものばかりなのだから、現状において素直に行動するのは愚策としか言いようが無い。

 スパイ活動をするのであれば寧ろ率先して言いなりになっても良いのだろうが、少なくとも彼等はあらゆる基地と本部から見捨てられている身。

 このままでは己が死ぬと決まっているが故に、本音を俺にぶつけてきたのだ。

 ならば、此方も本音で語れば良い。何も含むところは無いし、何も隠し事は無いのだから。


「政治的理由は特にありませんよ。 そもそも今回の話はR-1殿から個人的に依頼されたものです。 軍側の説得は全てR-1殿が行い、此方はそれを受け入れる準備をしただけ。 R-1殿は単純に、今の貴方達が輝ける場所を用意したかっただけですよ」


 そうですよねと視線を再度R-1に向けると、頬を掻きながら苦笑する男が一人。

 どうやら図星だったようで、その姿を他のデウス達も確りと視認した。俺は信用出来なくとも、十席同盟のR-1ならば信用も信頼も置くことが出来る。

 彼等が此処に来たのもR-1を信用したからなのだから、ここで不審を抱けば矛盾が生まれてしまう。

 そして実際、彼等はR-1殿に尊敬の眼差しを送っていた。単独で外部の人間と交渉し、軍にも声を掛けて自分達の境遇を改善させようとしたのだ。

 そんな相手を好意的に見るのは当然であるし、裏があっても彼等は感謝する。ここら辺が俺とR-1の違いだなと頷きながらも、第一の質問に対する答えを締め括った。


「此度の依頼はR-1殿にお願いされたからというのもありますが、下心も含めた上で受けました」


「下心ですか?」


「そうです。 皆々様は自身を使えない存在だと卑下しておりますが、此処で必要とされるデウスの能力は戦闘だけではありません。 担当によるものの戦闘の方が少ない可能性も十分にあります」


 復興と発展。

 その速度を脅威的なまでに加速させるには、デウスの力は絶対に欠かせない。本音を言えば防衛用の戦力すらも回したいくらいなのだから、幾ら居たとしても不足している状態だ。

 それに動物の世話も力仕事ばかり。腰を痛めてしまうような仕事もデウスが居れば分担して早く終わらせられるだろう。

 

「まだまだ戦いは続きます。 戦闘技能が求められているのを否定するつもりはありません。 ですが、ゆくゆくはその力も不可欠とはならなくなります」


「そこまで断言出来るのは何故ですか?」


「それが第二の質問ですか? ……であれば、答えは一つです」


 戦後は絶対に訪れる。それは世界の戦後ではなく、日本の戦後だ。

 未来へのレールは既に敷かれている。ならば、迷うことなど有りはしない。


「既に未来は見えていますから」


 知る者にしか解らない言葉に、質問をした少女は首を傾げるだけだった。

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