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人形狂想曲  作者: オーメル


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第二百四十話 R-1

 ヘリの騒音が耳に響く。

 街に設置されたヘリポートには軍用の黒いヘリが存在し、それは此方の持っている代物ではない。

 扉が開かれ、数人のデウスが中から姿を見せる。その全てが十席同盟に所属している一般デウスであり、最後に出てきた人物を護衛する為に今回ヘリに乗り込んでいたのだ。

 最後に姿を見せたのは、彼等にとっての上司であるR-1。無精髭を擦りながら此方に快活な笑みを見せる彼に対し、此方も笑みを浮かべて応じた。

 今回の突然の訪問は俺が起こした行動について、軍側が詳細な情報を得たかったからだ。

 現状は此方の味方をするしかない軍であるが、さりとて全てを庇うつもりは彼等には無い。俺達側に非があるようであれば、即座に謝罪と賠償を求める姿勢を取るだろう。

 

 付かず離れず。完全な味方ではないからこその姿勢は、逆に此方が信用するに足る理由だ。

 無条件で様々な物を貰うよりも、明確に何を求めているのかをはっきり形にしてもらった方が行動を取り易い。

 R-1が此処に来たのも実に解り易いものだ。本人にとっては災難だったろうが、これで俺を責める理由を彼等は失うことになる。

 二回目の出会いではあるが、彼は非常にコミュニケーション能力が高い。ほぼほぼ敵地に近い状況でも笑顔で挨拶を交わし、会話の全てに老人のような経験則が滲み出ている。

 戦場という意味であれば俺はまだ子供だ。対して、彼は常に戦場で己の生を掴み取った歴戦の勇士。

 元から差は歴然ではあるものの、雑談だけでもその部分を強く感じさせた。


「すみません、こんな場所にまで態々来ていただいて」


「いや、俺も戦いばっかは流石に飽き飽きなもんでな。 息抜きに何かねぇかなぁと思ってたもんさ」


「そう言っていただければ幸いです。 御話は此方の部屋で行いましょう」


 会議室と名付けられた部屋に入る。内部に人は居らず、本来であれば護衛役の彩もいない状態だ。

 彼女は今、例のマンションの監視を任せていた。彼女も十席同盟とは会いたくはないだろうし、それが過去を余計に刺激しそうな人物であれば尚更だ。

 それでも本来は護衛を置くべきであろうが、これはアピールも兼ねている。

 俺は彼等に信を置いていると示す為にも、これから提示する情報が真実であると証明する為にも、今この場に居るのは俺だけなのだ。

 そしてR-1もそこには気付いているだろう。気付いた上で特に指摘せずに接してくれるのだから、器が違うとしか言いようが無い。

 この場合の比較はV1995となってしまうが、やはり潜り抜けた修羅場が違うと性格にも影響を与えるのだろうか。

 席に座り、予めテーブルの上に置かれていたパソコンの電源を押す。立ち上がった画面には余計な情報は無く、現在は公開する情報以外は全て彩の内部に送っている。

 

 一種のバックアップのようなものだ。今まで使っていたパソコンを一時的に真っ新にしたのは少し勇気が居ることだったが、こうでもしないと簡単に他の情報を盗み取られてしまう。

 そのまま画面をR-1相手に見えるように回転させ、前に差し出した。暫くの間確認する作業が始まるものの、そもそものスペックが違うので確認作業も直ぐに終わる。

 今回此方に兵を差し向けたPMCに、依頼をした会社達。彼等が送り付けた依頼書もそのまま見せ、更には兵士達の自供した書類も見せている。

 一種過剰な域なのかもしれないが、事が事だ。完璧な無傷を示すには相応の物を見せねば軍も納得しない。


「他にも調査に出向かせた者達からの音声データもありますが、聞きますか?」


「いや、流石にこれだけ開けっ広げに見せられたら納得もするもんさ。 これでウチの上層部も納得するだろう」


 テーブルに置いていたペットボトルに無造作にR-1は手を伸ばし、勝手に飲む。

 我が家の如く振舞う姿は俺の前でなければ甚だ失礼だと言われてしまうだろうが、この身勝手さを何故か似合っていると思ってしまう。

 彼の風貌が故か、俺のイメージと合致しているが故か。どちらにせよ、当たり前のように生活してもらうのも悪くは感じない。

 ただ、一般的に彼の態度は悪いのだ。それだけは忘れないようにしながら、重苦しさとは無縁の緩い空間で俺も緑茶を飲む。


「それにしても初めて此処に来たが、随分とまぁデウスの数が多いな。 脱走兵ばかりじゃないんだろ?」


「いえ、全て脱走兵ですよ。 最初期に加わった者も含め、軍の強いた生活に耐え切れなかった者達しかこの街には居ません」


「成程なぁ。 だが、質は確かなんだろう?」


「それは勿論。 士気も質も非常に高いですよ」


 デウスの総人口は今の所一気に増えはしていない。

 だが日本各地で潜伏していた者達が徐々に徐々にと集まり始め、最初期組に鍛えられながら来るべき時まで自身の刃を磨いている。

 彼等は一度逃げた。だが、その逃げは自身が生きる上で必要な逃げだ。これを馬鹿にすることは出来ないし、しようとも思わない。

 彼等の活躍はただそこに居るだけでも良いのだ。それだけで核の如く抑止力となり、迂闊に手を出すことを躊躇させられる。それでも手を出すようであれば、今回のように無残な最期を遂げるだけだ。

 人心を掴むのは力だ。どれだけ綺麗事を述べたとしても、結局は力による平和は必要となってくる。

 兵力を持たない平和など机上の空論だ。現にこの街の平和を保てているのも力があってこそで、それをR-1も感じていることだろう。

 

「……ちなみになんだが、良い飯屋はあるのかい? デウス相手でも商売をしてくれるような飯屋がさ」


「それは勿論。 食べたいのでしたら直ぐに用意させますが」


「本当か!? いやぁ、こんな見た目だが酒を飲んだことが無くてな。 試しに飲んでみたかったんだ!」


 最早仕事は終わった。

 そう彼は思ったのか、即座に自身の都合を話し始める。デウス向けの飲食店は確かにあるし、何なら普通の飲食店よりも人気が高い。それは美男美女が美味しく料理を食べている姿が見えているからだろうが、そこに連れて行けばR-1も納得してくれるだろう。

 今から予約して間に合うかどうかは解らないが、無理なら無理な別の候補がある。

 酒を求めているのであればそこに力を注いだ飲み屋に行けば良い。彼の需要を全て満たせるかは不明であるものの、不満だらけな状態にだけは絶対にさせないつもりだ。


「それでしたら予約を頼んでみますか。 中々に人気なお店でしてね、皆からの評判も高いんですよ」


「本当か? 俺ぁカツ丼を食べてみたいんだが、そういうのはあるかい?」


「どうでしょうね。 色んな国の料理メニューが載っていますから、もしかすればあるかもしれません。 残念ながら私は行ったことがありませんので」


「そうかい、そうかい。 そんなら楽しみにさせてもらおうじゃねぇか。 俺にとって食事ってのは初めての行為なんでな」


 十席同盟でも枠組みとしては軍の一部だ。上層部から食料の提供は最初から存在せず、これまで彼は食事を一度もしたことが無い。

 ならば、最初に食べる物は良いものにした方が良い筈だ。不味い物を食わせてしまえば二度と彼は食事を楽しめなくなってしまうかもしれない。

 常に持っている小型端末で例の店に連絡を取る。以前春日に頼まれたのが功を奏し、番号だけは通話記録に残っているのだ。

 暫く話を進め、何とか二つの席を用意することは出来た。しかも専用の小部屋であり、周りが壁で囲まれた状態であれば内緒話をしたとしても問題にはならない。


「予約時間は二十時です。 大丈夫ですか?」


「問題ねぇな。 こっちは明日の昼まで掛かると事前に言ってあるからよ」


 妙に慣れたウインクが送られ、俺は思わず苦笑する。

 抜け目の無さは経験故か。意外に愛嬌もある姿は、既にこの街に馴染もうとしていた。

 

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