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人形狂想曲  作者: オーメル


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第二百三十七話 異種族交流

 発表は新聞や看板で行う。

 それは予定通り実行され、誰からも邪魔されることは無かった。希望者数は最大で二十は取っておいたが、最終的に集まった組みは僅か九程度。

 予想通りであったとはいえ、まだまだデウスと人間の間で恋愛関係を構築するのは一般的ではない。

 現状は彼等が異端であり、同時にそれを変えていくのも彼等である。集まってくれた者達の不安気な顔を見ながら、俺は一先ず励ますことから始めていた。

 用意された居住施設は大きなマンションだ。なるべく一ヶ所には纏めたくはなかったものの、それでは管理に時間が掛かってしまう。

 なるべく一ヶ所に纏め、その上で階層を分けて二人だけの生活を基本とするようにしておいた。同じマンション内で情報共有をするのは良しとしているし、何なら家族と相談し合っても構わない。

 

 その中には当然春日とG11の姿も存在している。

 彼等は俺がこれを提案してから最速で書類を用意した者達だ。殆どを用意したのが春日であるのでG11は荷造りをした程度であるが、既にそれをしている時点で結婚の意志はあると言っても過言ではない。

 どちらも恥ずかし気にそっぽを向いている様子は微笑ましく、まるで学生の恋愛を見ているかのようだ。

 村中殿は今回参加はしない。傭兵周りの仕事に忙しく、基本的には報告を聞くだけだ。

 部屋内は二人が生活出来るだけの十分な空間を設けている。九組の男女を同じマンションに住まわせるのは本来は難しいが、そこは再建中であることが幸いした。

 

 いくら人が集まっているとはいえ、まだまだ空きスペースは存在している。

 再利用は幾らでも可能であり、管理も基本的には他と一緒だ。維持費は必要であるものの、このマンションもやがては定住を求めた者達によって埋め尽くされるだろう。

 その前に雛形を作り上げておき、一種の流れのようなものを作り上げたい。余裕がある内だからこそ今回の準備は順調に進んだのであって、そうでなければ一ヶ月程度は掛かっていただろう。

 さておき、俺達も協力した上で荷物運びも行い、彼等が住むだけの環境は一日で整った。

 荷物が多い人間も居たが、そこはデウスの力。彼等であれば如何に重い物でも軽々と持ち上げ、洗濯機や冷蔵庫の設置なども業者要らずだ。

 

「これで一先ず、全員の住む環境が出来上がったと思います。 まだ足りないのであれば自主的に足してほしいのですが、一応このマンションに住める期間は二ヶ月です。 それ以上住みたいのであれば、確りと契約を交わしてください」


 マンション一階の談話室。広めの空間に全員を座らせ、最終確認として俺が皆の前で確認を行う。

 実験期間は二ヶ月。その間は家賃は取らないし、仕事に行かなくとも構わない状態にしている。食料も事前に話を付けたので、無償で提供することも可能だ。

 マンションで二ヶ月過ごし、その後も住みたいのであれば俺を挟まない形で居住契約を結んでもらう。

 そうでなければ再度荷物を纏めて元の家に戻ってもらうことになり、デウス達もその点は一緒だ。例外など存在しないし、成果が出たからといって特別何か手当てが出てくることも無い。

 それは最初に周知させ、その上で九組の人間とデウスが集まったのだ。彼等の求めるものが真剣な同棲であることなど一目瞭然である。

 どちらも互いを意識していた。まだ周りの目があるので大胆な行いは無いものの、二人きりとなった後にどうなるのかは流石に予想が付かない。

 節度を守れと此方が言うつもりは無いものの、周りへの迷惑については注意が必要だ。そこは厳命し、彼等も納得して頷いてくれた。


「基本的に此方から何かを求めるつもりはありません。 最初に説明した通り、普通に過ごしてもらって構いません。 その上でデウス側が覚醒するも、正式に恋人同士になるも、自由とさせていただきます」


 春日の仕事については部下に任せてある。

 部下も春日の忙しさについては常に気にしていた。これが息抜きとなることを願って、彼等は快く春日が一時的に抜けることを承諾してくれたのである。

 この辺は人徳の成せる業だろう。普段から街の人間に寄り添っているからこそ、部下達は彼を規範として行動している。

 春日の部下は最初に出来た頃よりも遥かに増えた。分担させれば補うことも不可能では無いし、春日もその点は既に解っている。

 解っていて、それでもトップに立つ人間の一人として負担を強いる真似はしない。そこが人気の一要因なのだろう。

 説明を終えた者達は互いに会話をしながら部屋へと戻っていく。監視をするつもりが無い以上、暫くの間は何も無い時間の方が多くなるのは想像に難くない。

 

「春日、G11。 これを難しく考えるのは止めてほしい」


「解ってるとも。 要は婚活みたいなもんだろ?」


「婚活……ま、まぁそうだな。 そういうもんだと思ってくれ」


 この場で婚活の意味を解っているのは俺と春日だけだ。

 他の面々は首を傾げるだけで、彼等にそれについて説明はしない。ただ、もっと重要な意味を孕んでいる分婚活とは大分違うだろう。

 春日は何時も通りだ。周りに人が居るというのも理由だろうが、既に心の整理がついている。

 反対にG11はまだまだ羞恥の方が先に来ている状態だ。これが慣れるのは相当に時間が掛かるだろうし、切っ掛けが無ければ恐らく永遠に解決しないだろう。

 この場を提供するのが俺の限界。それ以外の努力については全て春日の肩に掛かっている。

 成すか成さずか、それは春日次第。軽く肩を叩き応援を送れば、彼は胸を叩いて自信を示した。――そして、彼は何時も通りにG11に声を掛ける。

 その声にすら彼女は驚きの混じった返事を送ってしまい、今後の先行きが非常に不安になってしまう。

 だが、彼がやれると信じているのだ。それを俺も信じて、今は他の参加者達と同様に別れて仕事場へと赴く。

 

 何時ものデスクが並ぶ部屋の中には村中殿だけ。

 彼は年代が年代故か直接紙に情報を書いて書類としている。彼の部下達は日夜希望者達と共に鍛錬に励み続け、その練度を推し量ることは俺には出来ない。

 ただ、その現場を見ていたシミズは軍の兵士と互角と評しているので、決して他よりも見劣りしない質を保証してくれるだろう。

 傭兵達を集め、統率を取るのは村中殿だ。だが、トップが彼であるというだけで全てが纏まる筈も無い。

 一つ一つのグループは個別に活動し、金の為に策を練る。その過程において裏切りも当然加味せねばならず、決して味方ではないというのが実情だ。

 世の中において金の力は偉大ではあるが、金だけでは決して人を操作することは出来ない。予想も出来ない事態が訪れることを考え、対策を練っておくのは不自然ではないだろう。

 村中殿にはそれを任せ、今もあちらこちらに手紙やメールを送っている。その苦労は尋常ではなく、間違いなく彼が居なければ街の存続は無かっただろう。


「全員所定の位置に入りました。 これで後は、彼等の働き次第で結果は変わるでしょう」


「強制しない実験。 有り触れていますが、このような形で行うのは珍しいものですね。 ……成功すると思いますか?」


「正直に言えば、成功の有無については然程気にしていないんです。 勿論成功すれば良いのですが、それよりも春日とG11が結ばれるのが優先ですから」


「確かに、そうですなぁ。 彼も若いとはいえ、働き詰めでは婚期を逃してしまう。 今の内に気になる者と仲を深めておくのは悪くありませんね」


 俺達と村中殿だけの空間となると、決まって口調が改まる。

 別に意識した訳ではないのだが、それでも自然と出てしまうのはどうしようもない。それに、彼との会話は殆どが穏やかなままに終わる。

 その仕事内容とは裏腹に、彼は温和な存在だ。戦いとは無縁の出来事であれば只の好々爺として日々を送っていた。

 そんな俺と彼は揃って同じお茶を飲みながら、一枚のモニターに目を向けた。

 映し出されているのは一つの部屋。その中には二人の朧気な人影が見え、近くも遠くもない距離で立っている。

 それが誰であるかは――今更言う必要もあるまい。

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