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人形狂想曲  作者: オーメル


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第二百三十六話 第一次疑似超越計画

 彼等の恋愛成就を行う為には、そうであると思わせない必要がある。

 最初からそのような目的で動くことを示してしまえば、叶うものも叶わなくなってしまう。それは人間の意識的問題であり、同じ思考回路を形成しているデウス達も抱えている問題でもある。

 他者に操られること。それを是とする人間は少ない。利用されることを嫌い、己の選択は全て己の意思によって選んでいるのだと思わねば納得はし辛いものだ。

 故に今回の計画は誰にも悟られずに成功させねばならない。村中殿には事情を説明してあるものの、それ以上誰かに話すつもりは毛頭無かった。

 新設された会議室の中には何時もの男三人と、彩達デウス組。G11もこの席に座り、彼女は一人肩身が狭そうに端に居る。

 

 部屋の中は重苦しい沈黙に支配されていた。

 最初からそのようにすると決めていたので誰もが表情を真剣にしていたが、春日とG11だけは具体的な内容について一切語られていない。

 だが、俺達の表情を見て只事ではないと二人は理解している。それ故に何も知らないながらも表情は俺達と変わらず、寧ろ余計に酷くさせながら俺を見ていた。

 ここまで真剣な空気となるのは嘗ての軍侵攻が起きた時以来だ。態とらしく複数の書類を用意し、立ち入り禁止も指示した上で複数人のデウスや傭兵に警備をお願いしている。

 厳重警戒。その言葉の意味を此処に居る誰もが理解していて、それだけに大事だと思うだろう。

 実際はこれほど大事にする必要の無いものだが、一応機密の部類には入る。他の無関係な人間に聞かれることは避けておきたかった。


「全員集まってくれて有難う。 皆多忙な様子だったから最悪の場合、資料を送るだけにしようかと考えていた」


「この空気……余程の内容なんだよな?」


「勿論だ。 事は軍にも影響を与える話になる」


 軍との話は二人にはしている。俺としては出来る限り溝になってほしくないと頼んだが、彼等二人の表情は複雑なものだった。

 俺が頼んだから飲み込んだものの、そうでなければもっと彼等は要求していただろう。街の重要人物が殺されかけたのだ。苛烈な批判と多数の要求をすることは予想していた。

 その状況で軍にも影響を与えかねない話をする。その言葉は確かに春日に届き、眉を一瞬だけ動かした。 

 軍との歩調を合わせるのは春日にとって喜ばしいものではない。今もまだ軍に助けられているので何も言わないが、本音は助けてもらいたくなど無いのだろう。

 そして、それはこの場に居るG11も一緒だ。彼女の場合は軍から逃げてきた立場であり、可能な限り関わり合いになりたくない身でもある。

 こうして此処に居る以上は多少なりとて関わり合いになることが決まっているものの、この話を聞いた直後の彼女は退室したかっただろう。

 その証拠に今の彼女は顔を俯かせている。胸に湧き出る静止の声を必死に止めている姿に、しかし俺は慰めの言葉など送らない。


「話はこの前の十席同盟達との話し合いにまで遡る。 そこで俺を狙って殺し合いが起きたのは皆知っているだろうが――相手側が彩に近付いた」


「……それは! もしや、彩様と同じ状態になったのですか?」


「いいや、彩と同列にまではなっていない。 だが、かなり大幅な強化が施されたのは事実だ」


 超越者。そのステージに僅かであれども彼は辿り着いた。

 その性能は他のデウスを凌駕し、此処に居る面々で勝てる確率は一気に下がったのだ。彩が居ない限り勝機が下がり、最悪彼が此処を襲った際に大きな被害が出てしまう。

 その報告をすると、誰もが表情を険しくさせる。一番酷いのは春日で、一番マシなのは村中殿だ。

 超越者の存在そのものは知らなくても、彩の成した多くの出来事を彼等は知っている。その性能が如何に脅威的なものであるのかも、当然ながら理解の範疇だ。

 これで軍は一つの手札を手に入れた。これが量産出来る代物であれば、軍が再度日本の覇権を手にすることも不可能ではない。

 いや、世界の覇権すらも狙えるだろう。疑似的なものとはいえ、超越者は超越者。それが人間に牙を剥けば、大量虐殺は避けられない。


「……お前は高確率で到達しないと宣言していた。 にも関わらず、到達した者が出た。 これはどういうことだ?」


「一言で表すならばバグだ。 あの個体は普通の方法で到達せず、己の自己愛でシステムを壊してみせた。 狂気的なまでの想いが無ければそんな真似が出来る筈も無い。 ――あれは俺達が何も話さなくても、到達していただろうさ」


 最後が言い訳じみてしまったものの、俺の意見は全て事実だ。

 V1995の存在は誰にとっても予想外だった。本来ならば適正な手段でもって構築する筈の道を、彼は己の狂気で生み出して走り抜いてしまった。

 反則も反則。条理を無視するのは彩だけで十分だというのに、追随する存在が生まれるのは勘弁だ。

 しかし、だからといって俺に責任が無い訳ではない。説明そのものは彼等に彩の存在を理解してもらう為に話したが、それが到達の引き金になった可能性はあるのだ。

 

「今回の出来事は予想外も予想外。 誰もが予測出来なかったし、今後軍側にも彩のような存在が生まれないとも限らない。 だから、その前に此方も一度試してみようと思うんだ」


「試す?」


「そう。 彩が覚醒した切っ掛けは、俺と彩の間に明確な愛情があったから。 ならば、同様の存在が居ればデウスの限界を超えることも不可能ではない」


 資料の表紙を指差し、全員がその表紙のタイトルを見る。

 第一次疑似超越計画。やけに漢字ばかりな計画名であるが、内容は自体は非常に簡単だ。

 即ち、人間とデウスの間に恋を芽生えさせる。その果てに愛を抱いてもらい、人為的に限界を超えてもらう。

 半ば実験めいた説明ではあるものの、その本質は恋愛だ。

 愛し合えずに友人同士となっても良いし、本当の夫婦になっても構わない。強制で恋愛関係が生まれるのは極稀で、普通は拒絶反応の方が先に来る。

 だから、この計画そのものは参加したい者だけが参加する。施設も準備したし、参加者達には暫くの間は仕事を休ませることを予定している。

 全員がそれを読み、真っ先に春日が俺を見た。そこに何かしらの意志を感じるものの、努めてその視線の意味を尋ねることはしない。

 決めるのは己だ。そして、誘うのも己だ。


「これは確かに疑似的に覚醒したデウスを生む実験ではあるが、同時に人とデウスの共生を加速させる計画でもある。 もしこの計画が成功すれば、間違いなく人々とデウスは同じ土の上で生きていられる事を証明出来るんだ」


「軍備を進めつつ、共生も進める。 案としては悪くない。 だが、参加者は多くはないだろうな」


「そうだろうな。 良くて十組、悪ければ五組居れば万々歳だろう。 しかし、これは数を重視したものじゃない。 重要なのは成功するのかしないのかだ」


 成功すればそれが一ケースとなる。

 失敗すれば別の試みに挑めば良い話であり、決して悪かったと嘆く必要は無い。互いを隣人として協力し合う関係でも構いはしないのだ。

 人間同士、デウス同士で夫婦になったとしても極論としては良いのである。

 春日とG11をくっ付ける為には、彼等だけを対象にする訳にはいかない。街全体にまで範囲を伸ばし、他に参加者を募る形にした方が自然だ。

 他に参加者が居ないとも限らないし、芽は出来る限り育てていきたい。此処がどちらにとっても過ごし易い街となれるよう、俺は尽力したいのだ。

 資金も然程必要とはならず、参加希望については基本的に看板や新聞で呼び掛ける。

 どうだと周りに語り掛けると――中々に好感触な頷きが返ってきた。

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