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人形狂想曲  作者: オーメル


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第二百二十一話 明日の空を見る為に

 ――――会計で自分の分だけを清算し、店内から足早に出て行く。

 表情は自然と笑みに変わり、事前に小型端末で連絡を入れていた通りにワシズとシミズは隣に並ぶ。

 両者共に異常無しの言葉を告げ、そうかとだけ答えた。

 彼等にあの言葉を告げた直後、二人は急に身体を硬直させた。そのまま二人は視線だけを向け合い、即座にG11は顔を逸らしている。春日は彼女のその姿に驚きを露にしたが、直ぐに気落ちした。

 きっと彼は僅かながらに希望を抱き、そんなものは所詮希望でしかなかったのだと落胆してしまったのだろう。

 実際はG11は顔を赤く染めていたのを見ていたので違うとは解っているが、敢えてそのままにしておいた。

 このまま彼等だけにしておくべきだ。そう考えた自分は決して間違いではないだろう。

 

 去る際に春日からは救援の眼差しを送られたものの、本人が出会いを望んだのだ。もしも本当に気不味い空気があったとしても、それも体験せねば空気を読むなんて出来る筈も無い。

 俺は恋のキューピッドではないのだ。実際に何かをするのであれば、自分から動かねばならない。

 せめてもの声援としてサムズアップを送り、そのまま店内を出た。暫くは無言の空間が広がるだろうが、春日ならば即座に仕事の話でも始めてしまうだろう。

 そこからどう動かすかはG11次第だ。彼女も彼女で決して脈が無い訳ではないので、もしかすればもしかするだろう。

 楽しみだ。非常に楽しみで、このまま独占して見続けていたい。

 

「どうかしたの? そんなに楽しそうな顔をしているのは珍しいね」


「良いことがあってね。 今日は気分が良いんだ」


「春日とG11、居ない。 理由?」


「あはは、流石に解るか。 まぁ、今は何も手出ししないでくれよ」


 二人にも注意を促し、肯定の返事が彼女達から出たのを聞いて元の場所へとゆっくり戻り始めた。

 三人で歩くと非常に目立つ。視線は突き刺さり、春日達と歩いた時以上の数だ。ワシズとシミズも彩と同様に最初期に戦ってくれたデウス達。他のデウスとは違うからこそ、有名人扱いされるのも頷ける。

 彼女達が積極的にこの街に関わろうとしないのは、恐らくこの眼差しを受けるからというのもあるのだろう。

 羨望も、情景も、彼女達には等しく不要だ。

 只のデウスとして接してほしいのが彼女達の本音であり、しかして成果がその願望を許さない。

 ワシズとシミズはそっと俺の手に自身の手を繋げる。まだまだ誕生から時間が経過していないが故に、その所作は子供らしさに溢れていた。

 

 素直に甘える様は彩には無い。彼女の場合は誰も居ない時に甘える事が殆どで、実際に公衆の面前で甘えられると少々気恥ずかしさも覚えてしまう。

 だが、甘えてくれる程度に追い込まれなくなったのは事実。街の様子も、人々の表情も、最初の頃よりは遥かに明るくなった。

 発展に発展を重ね続け、次はどのような変化がこの街に起こるというのか。

 その未来に興味が刺激されながらも、恐らくまともにゆっくりする時間は僅かしかないのだろうなと半ば確信もしていた。

 彩が納得しなければ、この世界は巻き戻される。今まで作り上げたものが軒並み消され、全て最初の時点で開始させられるのだ。もしも次が始まったとして、またこの面子が揃うとは限らない。

 寧ろ揃わないと思った方が無難だ。――そして、そう思う記憶すら無くなってしまうのだろう。

 

「彩はどうだ。 なんか最近一人で色々やってるみたいだが」


「なんだか練習してるみたい。 私達にも詳しい事は教えてくれないけど、何時もエネルギー限界までやってるみたい」


「彩、私達の三倍は持ってる。 限界、有り得ない」


 シミズの意見にそうだなと俺も肯定する。

 彼女のエネルギー上限は既存のデウスよりも遥かに多い。それが限界になる事自体が有り得ず、起こり得る理由としてはやはり彼女の能力だけの力だろう。

 道理を捻じ曲げる力。不可能を可能に変えてしまう力は、どうやら想像以上に燃費が悪いようだ。

 だが、その程度で済んでいるのは彩だからこそ。他が真似をしようとすれば、恐らく更なる代償行為が必要となるだろう。そもそも発動すらしないというのが基本の筈だ。

 今までの能力はほんの表層。本質を軽く撫でた程度であり、そこから更に進めば必要となる燃料は増えていく。

 それを彼女は学び続けている。沖縄奪還におけるワームホールの破壊にはどうしても彼女の力が必要となる以上、邪魔立てするのは流石に出来ない。

 無理をさせたくはないが、彼女は今昔の己を取り戻さないといけないのだ。それをするなと告げるのは、これまで足掻いた様々な彩達を否定することにも繋がる。


「彩はそのままにしておこう」


「了解。 じゃあ、今度は私達」


「独占だー!」


 繋いでいた手が、今度は腕になる。

 子供らしいその行動に微笑ましさを覚え、仕様がないなぁとらしくもない言い訳をしながらそのまま二人と一緒に歩く。

 犯罪者などまるで見当たらないように見える一本道の道路の両脇には露店が見え、彼等はこの街に元々居た人物ではない。そもそも日本人ですらなく、金髪を短めに刈り上げた屈強な体格の男は友好的に此方に手を振る。

 まるで知人のような態度に苦笑し、何となく興味の湧いた俺は足を止めた。

 露店はどうやら食い物屋だったみたいで、売られている商品ジャンルは基本的に肉ばかり。それこそ祭りで見るような唐揚げやフランクフルトがあり、物珍しさは無い。

 しかし、プラスチックの円柱の箱には百円の硬貨が多く入っている。商品自体も少なくなっているようで、人気であるのは誰がどう見ても歴然だった。

 値段もこの時勢で考えれば破格と言える程に安い。この街の状況を考えれば、誰だって安く買いたいだろう。


「おっと、まさか止まってくれるとは思わなかったぜ?」


「なんとなく、ですよ。 それにしても随分安いですね。 何処で仕入れているんですか?」


「此処の外にある牧場さ。 売り物に適しているかを調べているみたいでな、協力する代わりに安くなってるんだよ」


「……成程、あそこでしたか」


 この街の外にある牧場と言えば、肉を求めて野生の動物を集めていた時の施設だ。

 今も稼働しているのはG11から直接聞いていたが、ついに調査段階にまで辿り着いたらしい。一応は街の人間が皆食べていた動物と一緒だったので危険は少ないと考えていたが、何かしら病気を持っている可能性も否めない。

 元々は野生で暮らしていた動物達だ。故に早々には売られていなかったのだが、軍が入った事で調査することも不可能ではなくなったのだろう。

 俺とワシズとシミズで唐揚げとフランクを購入し、その場を去る。

 あの外国人は何時もこの場に居るぜと言っていたので、安く食いたくなればこの露店に寄るのも有りだ。

 

「お、意外に美味い」


「美味しいね! 最近は食べる事も増えたけど、これなら毎日でも食べたいかも」


「変換効率も高い。 彩に差し入れ、する?」


「そうだな。 後で聞いてみるか」


 奥さんにプレゼントを贈る旦那かよと内心でツッコミつつ、三人で仲良く歩きながら雑談混じりに肉を食い続ける。

 牧場が正式に販売可能となれば、此方が率先して宣伝するのも悪くはない。徐々に拡大すれば、他の街に提供してこの街の資金源の一つにしたいな。

 現在はまだまだ軍に頼っている部分が存在している為、協力をしろと言われれば断るのは難しい。

 向こうも彩が恐ろしいので手を出さないが、もしも彩という存在が居なければ様々な無理難題を彼等は要求したことだろう。

 変化の中心点は此処なのだ。まだまだデウスを道具として使いたい者達としては、この街を潰したくて堪らない。

 そうだとも。未来を憂いていても、それで何かが変わる訳ではない。

 仮に沖縄奪還が無事に終わったとして、それで俺の人生が終わりである訳がないのだ。一つの危機が終われば、また次の危機が始まる。


 考えるべきは、明日の空を如何にして見るべきかだ。

 唐揚げを食べながら、何でもない道を歩く。こうして平和に歩けることを目指すのが、俺の目標だ。

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