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人形狂想曲  作者: オーメル


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第二百二十話 過ぎ行く時間に残る愛

 俺と春日と、新しく増えたG11。

 本来であれば仕事中の彼女を食事に誘うなど有り得ないのだが、俺の中で湧き上がった疑問が待ったを掛けてしまった。

 小型端末でワシズかシミズを呼び出し、現れた二人にG11の代わりに厳重な警戒を頼む。これから起きる事は予想が付かず、一部の邪魔も入り込ませない為にも最も信頼出来る内の二人に任せたのだ。

 俺が小声で頼む時点で彼女達も今回の事は内密であると察し、その表情を真剣なものに変える。元から仕事ではあるので遊ぶのは論外であるが、それでも真剣になってくれたのであれば何も言うことは無い。

 後で何か頼まれ事を聞くと告げ、二人は足早にビルの上へと飛び跳ねていった。

 速度は戦闘時のものだ。一切の遊びを廃して徹底的に街の巡回を行う姿に、今回犯罪行為を行う輩は全員捕縛されるだろうなと少し同情した。

 

 G11は申し訳無さそうにしていたが、俺が無理矢理誘ったのだ。

 何も気にする必要は無いし、彼女達も基本的には誰かに頼まれない限り時間を持て余している。気楽に頼んでも構わないと言ったのだが、G11としては俺のデウスであるという点が頼み辛いそうだ。

 最初期の街を支えた彩達三人は、俺の専属であるという事を含めて同じデウス達にも特別視されている。

 今はまだ神聖視されていないが、あの沖縄奪還を彼女が成功させれば余計に特別視は進むだろう。それこそ誰かが彼女達を崇めかねず、そうなればそう簡単に彼女を表には出せなくなる。

 街でのびのびと彼女達には暮らしてほしいのだ。出来れば神聖視されるような事態は避けてほしいと思いつつ、手頃な飲食店に三人で入った。


「三人で頼みます」


「かしこまりました。 内密な御話でしたら特別室を用意しますが……」


「いえ、今回はプライベートですので普通席で構いません」


 元々格式高い店ではないが、俺達の組み合わせは特殊だ。

 全員が役職としては高位。その上頻繁には会わないが故に、この食事を仕事上のものと判断されても不思議ではない。

 現に目の前の店員はやたら丁寧に店端の席へと案内している。周りからの視線も無数に感じ、しかしてそんな程度で俺達の動きに変化が起きることは無い。

 いい加減慣れたものだ。最初の頃は無数の視線を感じれば尻込みしてしまったが、今では当たり前のように前を進める。

 席に座った俺達はメニュー表を手にし、適当に注文。G11だけは事前に食事を済ませていたということで、珈琲を頼むだけだ。

 

「……それで、どうして私が呼ばれたのでしょうか。 特別室を使わないことから重要度は低いと思いますが」


「深い意味は有りませんよ。 ただ、最近私は何処かに行ったりする事が多いでしょう? お蔭で街の現状について掴めていない部分が多くなってしまいました」


「なんだ、現状把握の為に捕まえたのか? それなら俺が教えりゃ良いじゃねぇか」


 隣に座った無粋な春日の脇腹に肘を打ち込む。

 突発的に企てた事ではあるが、先程の話と合わせれば多少なりとて察することも出来るだろうに。隣で激痛に呻く男はまったく察する事が出来ず、向かい側に座っていたG11は少し慌てていた。

 

「んん、失礼しました。 確かに春日から話を聞くのも良いですが、やはり実際に巡回をしているデウス達からの話も聞きたいのです。 上に送られる情報は、やはり幾分か現場の意見を削られてしまうものですから」


「成程、解りました。 私に送られた情報でよろしければ、全てを開示します」


「お願いします。 では先ず、街の復興状況から頼めますか」


 G11の話を聞きながら脳裏で描いている策。いや、策というより確認は春日とG11の関係性だ。

 俺はデウスに関係する決定権を有しているものの、基本的に彼等の役目は平時において警察組織に近い。

 巡回し、犯罪者を取締り、それに加えて現在も続く復興作業の手伝いなどが彼等の仕事だ。

 当然市民と深く接する立ち位置であり、信頼関係が構築されていなければとてもではない任せられる仕事ではない。しかし、元々市民にとってデウスは人類の味方と認識されている。

 信頼されるだけの土壌は最初から存在し、その上で自身達を苦しめようとしていた軍の存在を排斥する一助も担った事で誰も彼もが彼等を信じた。

 更には勤勉な仕事風景も見せることでより信頼を深め、市民は彼等に対して不満を抱くことは無い。

 彼等の取り纏めであるG11が人類に反旗を翻さない限り、街の平和は世界の何処と比較しても続くだろう。

 そして、そんな市民達と接するのは春日も一緒だ。彼は市民の代表であり、街の風景を決める最終決定権を持つのは間違いなく彼である。

 

 彼が認めねば、デウスがこの街で活動することなど無かっただろう。

 それだけに、彼とG11は話をする機会が必然的に増える。互いが互いに害するつもりが無い以上、構築されるのは信頼関係で相違ない。

 現に料理を待っている間に続くG11の話の内容には春日も口を挟み、二人で構築していっただろうことが伺える。

 互いに尊敬し合う関係はデウスと人間の共存において理想的だ。だからこそ、と考えてしまう。

 G11の口調が彼に対してだけ軽くなるのが尊敬だけであれば構わない。それだけでも奇跡的な進歩とも言えるし、少し前を思えば喜ばしい情報だ。

 しかし、本当に尊敬だけなのか。そこが確認すべき事柄であり、ひょっとすれば春日の希望を叶えられるかもしれない。

 

「――以上が現在の街の状況です。 春日様、何か他に付け足すべき情報はありますか?」


「ん、こっちは無いな。 軍の方は今の所穏やかなもんだが、それはこっちのデウスが監視をしているからだ。 少しでも監視の目が緩めば即座に諜報活動を開始しかねない。 これからも監視の方は厳重にな」


「勿論です。 私達にとって軍とは必ずしも必要な組織であるとは言えませんので」


「はは、言うねぇ。 あっちはデウスの生産や兵器生産工場を持ってるってんのに」


「そのどちらも握っているのは研究所の方ではないですか。 彩様がいらっしゃる限り、研究所がどちらを贔屓するのかは目に見えていると思いますが」


「違いない」


 俺を無視するかの如く二人で話す姿は酷く親し気だ。

 それにG11の意見は間違ってはいない。柴田博士の情報によって今や研究所は完全に此方を贔屓するつもりでいる。

 俺専用の小型端末には秘密裏にデウス用の新型兵装を送るつもりのようで、一旦はストップ中だ。

 いきなり送られても困るし、この街には軍が居る。何処で嗅ぎ付けられるか不明である以上、迂闊に貰うのだけは避けておきたかった。

 それでも研究所が味方である事実は此方を安堵させるのに十分だ。その理由が軍にメリットが無いからというのも、此方の信頼を加速させてくれる。

 感情論での信頼関係も大事だ。だが、俺と研究所の関係なんて未だ浅過ぎる。信頼よりも利害による関係の方が今は良い。

 だが、それを此処で言うつもりは無かった。極秘情報であるというのもあるが、単純に言ってみたかったことが別にあったのだ。

 運ばれる料理によって会話が中断し、机に順番に並ぶ。

 俺はカレーで、春日は生姜焼きだ。どちらもカロリー高めの正に男子といった食事であるが、G11は何も気にした様子も無い。

 

「おお、生姜焼きなんて何時振りだっけか。 いやぁこの街で食べられるなんて嬉しいもんだ」


「私がこの街に来た時はまだまだでしたからね。 此処まで進んだのは軍のお蔭ではありますが、切っ掛けは間違いなくお二方です」


「よせよせ、俺なんて大した事はしていないさ。 本当に凄ぇ奴はこいつだよ」


「確かに切っ掛けは俺だったが、此処まで進めたのは間違いなくお前の功績でもある。 謙遜しないで大人しく受け取っておけよ」


「そうですよ、春日様も尽力していたのを私は知っていますから」


「……ははは、参ったな」


 頬を指で掻く春日の頬は赤い。

 明確な照れが浮かんでいるのは事実で、G11はそんな彼の事を微笑ましく見つめている。

 

「しかし、なんだ。 俺の知らない間に二人は意外と仲が良くなってたんだな」


『――は?』


 初めて二人の声が重なった。

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