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人形狂想曲  作者: オーメル


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第二十二話 生存本能

 洗濯が終わった俺達は足早に外を目指して歩き続けていた。

 街への滞在時間は四時間程度。短過ぎる長さ故に観光の一つも出来なかったが、それでも先程までの結果がもう一度起きるくらいならばこの街から離れた方がずっと良い。

 背後で小さく歩く彩は先程の件から気不味いままだ。俺は気にするなと言ったものの、彼女は妙に自虐的な部分がある。同時に、子供達が妙に彩に距離を取っているのも気掛かりだ。

 あの一件は俺も絶対に止めなければならないと思っていた。その源泉は定かではなくとも、このまま止めなければ何かが起きると何処かが訴えていたのだ。

 その結果は間違いではない筈だと思っているが、しかし同時に俺はその何かに目を向けなければならないとも考えていた。結果的にそれが彩にとっての地雷に直結するとしても、話し合う必要性はあるのかもしれない。

 

 互いの間に言葉が無い。此処に向かっている間は雑談の一つでもあったのに、今では暗いままだ。

 どうにかこの雰囲気は消さなければならない。でなければ今後の生活も息苦しいままだ。これが一期一会ならばそれでも良いのかもしれないが、長い生活になるならばこんな沈黙は不要でしかない。

 話題を振るべきは俺か。どんなに気にするなと言ってもあまり前向きにならない彼女に、さてどうやって前を向かせるか。

 別方向の問題は俺にとって最大級だ。今までも大分酷かったが、今回はこれまで以上である。

 慰めの言葉があまり効果が無いのは解った。であれば、慰めだと思わせない言葉が最適なのだろう。

 

「何時までも暗くならないでくれ。俺は気にしていないし、お前がそんな調子だとこっちも調子が狂う」


「……はい」


「はぁ……現状問題は増えてるんだ。だから暗くなるんじゃなくてそれについて案を考えよう」


 実際問題、俺達を襲う懸念のある組織が増えたのは確かだ。

 軍は一番の巨大組織であり、物量で迫られれば確実に此方が詰む。今は北海道奪還に向けているお蔭で回される戦力がほぼ零だが、それが終われば此方の捜索にも力を入れるだろう。彩はデウスが疲れ切っている為に奪還は不可能と告げていたが、本当にそうなるかは解らない。

 俺達は軍の全てを知っている訳ではないのだ。何か新装備が生まれている可能性も否定出来ない。

 デウスの扱いが基本的に不遇なのも俺は理解した。あの頃のようにデウスは何処でも真に人類の守護者として呼ばれる事は実際には無く、寧ろ兵器としての側面を前面に押し出されている。

 現実は嫌な事ばかりだと文句を吐く人間は多く見た。今まではそこに本当の意味での共感は出来なかったが、今では吐き捨てたくなる程理解出来る。

 そして、そんな現実は更なる相手を勝手に運んできた。

 

「連中、あれで諦めるとは思えない。何かしらの手段を講じて襲ってくるだろうが、何か考えはあるか?」


「……考えるとして、まず相手の目的から選択肢を絞るべきです」


 未だ暗いながらも彼女の出した言葉は、成程確かにその通りだ。

 相手の目的はデウスの入手。彩だけが目的になっていたのは早々に解ることで、俺は所詮彩に命令を下す為の装置に他ならない。それが相手側の認識であり、実際にそうであるのは事実でもある。

 しかし俺は彼女をくれてやるつもりは無かった。断固とした姿勢を崩さなかったからこそ、あの場で中田は命令装置を無視して直接本体と話をする選択をしたのだ。

 結果は先程の通り、彼女の殺意を買っただけ。あのままどうなるかは定かではなくとも、間違いなく彼女が何かの行動を起こす。その行動はきっと、中田にとっては悪夢に繋がる筈だ。

 

 ではそうなったとして、それでもデウスが欲しければどうするというのだろうか。

 単純に捕獲を考えるにしても、そもそもそれが出来るなら最初からしていただろう。俺を人質にするという案もあるが、それをされるくらいならさっさと彼女を逃がす道を俺は選択する。

 彼女は聞かないかもしれないが、全員の生存なんてどの道難しい。生きたくても何処かで脱落するのなら、彼女を生かせる道を選ぶべきだろう。

 一先ずの可能性としては人質が最有力だ。他に案があるとすれば――ふと、俺の視線は下で此方を見上げる子供達に向いた。


「……そうだ。デウスが欲しいのなら何も彩だけを狙う必要はない」


「……あの男性は確かPMCの社長でしたか。では生まれたばかりのこの子達でも十分に結果を出せるでしょう。我々は誕生時点で戦闘行為を可能にしていますから」


「それはきっと怪物に対してだよな」


「そうです。ですから、人間相手であれば勝ちは揺るぎません」


 その情報を相手側が知っていたとしたら、いや知っていたと認識している上で考えた方が良さそうだ。

 先ず彩だけを狙う必要性はこれで薄れた。俺を人質に使う線は未だ残されているものの、それでも彩を狙わなくなるだけで成功確率は跳ね上がる。

 俺達が全力で守りに入ったとして、それでも戦闘の経験があるのは彩だけだ。あの軍との戦いも結局は彩だけで倒したようなものなのだから、俺の経験には入らない。

 つまり今後、彩だけで戦闘を解決させる事は出来ない訳だ。もしも彩が囮に引っかかってしまったとして、俺以外にも切り抜ける為の戦力が必要となる。その時の戦力は、ワシズとシミズであるのは言うまでもない。

 

「この子達に戦いをさせるって言うのか」


「御気持ちは重々に。ですが、生存を第一とする以上は避けられません」


 その言葉は、嫌になる程正論だ。

 ワシズもシミズもその為に本来は存在しているデウスだ。明確に怪物と戦う事以外に作られたからこそ、怪物と戦えるスペックを保有しながらも想定される敵は人間だ。

 俺が忌避感を抱くのは、子供組がやはり子供にしか見えていないから。中身は完全に人間を超越しているとはいえ、それでも俺には自分よりも遥かに小さいワシズとシミズが子供にしか見えていなかった。

 だがそれを言うなら、彩だって俺よりも脆さを感じる見た目だ。女子高生にも見える彼女が戦場に立つことだって本当は忌避感を覚える筈なのに、それが薄い。

 彼女の圧倒的強さを見たからなのか、やはり俺の中で彩は人間ではないのだ。

 

 もしもワシズやシミズが同様の活躍を見せたらどうだろう。俺はやはり、目の前の子共達すら簡単に戦場へと送り出してしまうのか。

 それが現実的だとはいえ、それでも嫌だと思ってしまうのが俺だ。馬鹿だと言われようとも、簡単に彼女達に全てを任せてしまうような男にはなりたくなかった。

 そんな俺に力が無いクセに何をと、冷静な自分が告げている。どうせ何も出来ないのだから頼るしかないだろうと。

 

「ワシズ、シミズ。先程の男性は貴方達を欲しがっている可能性があります。最悪の場合、只野様を人質とする可能性も否定出来ません」


「ですが彩様、私達はデウスです。人の守護者として設定された以上、戦闘を是とするのは必然かと」


「確かに我々は人類の守護者です。ですが今回の相手に従った場合、待っているのは人類対人類ですよ。貴方達は人類全体の数を減らしたいのですか」


「それは……肯定出来ません」


「ならば、排除(・・)を選びなさい。そうでなくては真に護らねばならない人類が居なくなります。それは我々の存在意義の消失に他なりません」


 俺が決められなかったのを見て、彩は二名に言葉を送る。そこには毅然とした顔があり、暗さはない。

 だが子供組は何処か怯えながらの反論の言葉を返し、秒も掛からずに彩に更に返された。その彩の力強い言葉に、子供組は震えすら走らせて沈黙を貫く。

 あまりにも酷い話だと、何も知らない者からすればそう見えるだろう。

 俺でもそう見えてしまうのだ。今のは明らかに彩の方が悪役だと。――――そして、そうさせてしまったのは俺なのだ。

 俺が優柔不断だったから彩に悪役を任せてしまった。本当なら俺は彼女達の保護者として動かねばならない筈だ。

 

――街の何処かで、銃声が響き渡る。


 新しく起きた騒動は、そんな俺の悩みなど関係無しに迫り来る。戦いなどに興味は無いというのに、人の欲望は何処までも深く深くなっていくのだ。

 

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