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人形狂想曲  作者: オーメル


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第二百四話 対立構造

 何かを見ていれば、何かを見失う。

 全てを認識して立ち回るのは如何なる人間でも不可能であり、それが出来たのならば誰もが注意散漫に陥らずに事故など起こしはしないだろう。

 軍における沖縄奪還。半年後と設定された時間の訳を聞き、更には事後承諾とはいえ既に進めていると話に聞いた。此方の了解を得ずに進めたのは流石組織と皮肉ってしまったものの、力関係で言えば彼等の方が依然として上であるのは変わらない。

 頷くしか方法が無く、確りとした理由がある以上は否定する道理も無し。そのままこの本部から元の街に戻るのかと思いきや、元帥殿直々に足を止められた。

 要件は彩について。やはりあれだけの戦闘力を持つ彼女を調べたいと思うのは当然で、元帥殿は引き渡すのではなく模擬戦を提示した。

 条件は模擬弾のみの一対一。デウス戦に限定し、人間は一切邪魔しない。


 対戦相手は十席同盟が一人、XMB333。

 今は十席同盟の施設に居るものの、呼べば直ぐに来るとのことだ。断る事も許可されたが、会議の終わった直後で他の高官の目もある。

 此処で断れば情けないと俺を侮るだろうし、それは最終的に街を侮る事にもなってしまう。

 何よりも、そろそろ彩の方が限界だ。散々に俺を拘束しろだの罰しろだの言い続けた所為で普段の二倍は無表情を深めている。

 この上更に余計な発言をされれば彼女が爆発しかねない。激怒の炎を鎮火させる為にも一度戦闘をさせるべきだ。

 十席同盟ならば彼女の事も知っているだろう。手加減をしてくれるとは毛程も考えてはいないが、彼女が怒り心頭な理由くらいは察してくれる筈だ。

 

「どうかね?」


「構いませんが、直ぐに始めるのですか?」


「ええ、地下に模擬戦用の場所があるのでそちらを。 彼女については一時間もすれば来るでしょうな」


「では、その間は休ませていただいても?」


「構いませんとも。 案内を一人呼びつけましょう」


 これから先も高官達にはやることがある。模擬戦なんて見る余裕も無く、各々がすべきことを成す為に早々に部屋から去った。

 残ったのは八木少将だ。彼だけは残り、何故か案内役を買って出る。

 それが善意ではないのは一目瞭然。彩も納得はしていないようで、何なら自身でマッピングした地図を使って適当に休息を取るつもりだったのだろう。

 セキュリティ云々も彼女ならばまるで関係が無い。だが、体面を気にする以上は素直に受け入れるのが吉である。

 後方をデウス組が歩き、前方を俺達二人が歩く。

 軍服と私服の人間が並んで歩く光景はこの建物の中では不自然極まりなく、相手が少将であると知りながらも複数の視線を感じている。

 そんな状況に八木少将は舌打ち一つ。俺だって歓迎していない状況故に、その気持ちはよく解った。


「どうせ君は此処で断ればあの街が侮られると思って受けたんだろ?」


「ええ。 貴方のような人間は疵を見つければずっと責め続けますから」


「生き残る為ならば必要なことだ。 他者を蹴落とさずに生きてきた人間など一人も居ない。 君のその生き方とて、無数の人間を潰して立っている」


「勿論。 ですが、俺が潰したと認識している相手は総じて悪人も悪人だ。 生かす道理などありません」


「それについては残念ながら同意だ。 デウスという素晴らしき兵器を玩具のように使うなど、正気を失っているとしか思えない」


 俺の所為で死んだ人間は無数に存在する。傭兵も、指揮官も、何も知らぬ兵士も、俺の行動によって死ぬ事になった。

 胸を痛める犠牲もきっとあっただろう。遺族に恨まれないなどと思うのは、最初から考えてはいない。

 殺しているんだ。当然、殺されもする。何時か自分が暗殺されるとしても、それについて一切の憎悪を抱くことは無いだろう。

 ただ、俺が意識して潰そうと考えた人間については同情の余地は無い。

 人間にも劣る畜生が善意で活動するデウス達を虐げる条理など認めはしないし、命を引き換えにしてでもそんな畜生は必ず殺す。それについて責められても懐が痛くなりもしない。

 悪因悪果。弱肉強食の世界において、ただの畜生程潰し易い人間は居ないだろう。

 落ち着いた八木少将の声は静かだ。胸の激情を抑え込んでいると解っているからこそ、何の歪みも感じない声音には高位の人物特有の感情操作が見え透いている。

 それだけ耐える事が多かったのだろう。同情はするものの、それだけだ。そして八木少将もまた、俺に僅かな同情も抱いてほしくはないと思っている。


「このエレベーターの下が模擬戦場だ。 内部の空間はかなり広いし強化防弾ガラスのお蔭で俺達が被害を受けることも無い。 とはいえ、報告の通りなら殆ど防弾ガラスの意味は無いだろうな」


「そうでしょうね。 彼女が全力を出せば、この施設を丸ごと火の海に沈める事も可能でしょう」


「実に勿体ない。 それだけの力があれば何処でも重宝されるだろうに」


「――いえ、何処に居ても今の私にはなれなかったでしょう」


 一階のエレベーターから下に進む中、八木少将は手放しの称賛を彩に送った。

 それだけ彼は彼女の実力を評価していて、デウスという括りの中でも素晴らしいと認識しているのだ。

 彼女程であれば如何なる場所でも先陣を切り、戦乙女の長として他を率いただろう。その姿は俺にも簡単に想像することが出来てしまい、だからか彼女は即座に否定を入れる。

 その文言に八木少将は僅かながらに驚きを露にするものの、その眉を困惑気に寄せる。


「それはどうしてだい? 君は他よりも特別だ。 それだけの機能を増設するのは大変だったろうし、耐え切ったのは見事としか言い様が無い。 こんな男が傍に居ては十全に活躍するなんて夢のまた夢だ」


「では、私はその夢を掴んだのですね」


「……なに?」


「だって私は既に満ち足りています。 愛した方と一緒に過ごせる日々を幸福と言わずに何と表せば良いのでしょう――――それに、八木少将は一つ勘違いをしています」


 八木少将は明確に勘違いをしている。

 彼女が特別なのは何か特別な処置を施されているからではない。元からあったシステムが表に出てきただけ。

 それを使えば十席同盟全員が彼女と同様の活躍をすることが出来るだろう。それを彼女も確信していて、だからこそ夢を掴めたのだとそんな嬉しい事を言ってくれる。

 エレベーターが止まる。扉が開き、その先には酷く広大なコンクリート空間が迎えてくれた。

 その先に進みつつ、彩は八木少将に訂正の言葉を送る。その意味を知るのは俺達だけで、八木少将では絶対に辿り着く事は出来ないだろう。

 最も彼女の力に近付くには、デウスが道具であるという事実を先ず最初に否定せねばならないのだから。


「私の機能は最初から入っていたものですよ。 増設された訳ではありません」


「どういうことだ? 既存のデウスのカタログにはそんな機能は……」


「ええ。 私も最初は他のデウスと一緒でしたし、こんな力があるとも認識していませんでした。 ですが、あるのです」


 提供するのはそれだけ。どうやって引き出すのかについては自分で調べろ。

 最後に突き放して、彩は俺と視線を交わす。怒り心頭だから言葉が刺々しくなるものかと思っていたが、彼女は酷く丁寧に軍人に対応した。

 それはもうすぐ解消する機会がやってくるからなのか。俺の事を考えてくれたからなのか。

 どちらにせよ、無闇に敵意を撒かない姿勢は他者にも評価されるに違いない。それがデウス全体の評価となるのも近いだろう。

 その調子だと俺は彼女に視線でメッセージを送り、頬を僅かに染めた彼女は首肯して八木少将の案内通りに別部屋に向かった。

 

「君達はそこの階段を登れば元帥殿が居る場所に付く」


「解りました。 それでは後で」


 シミズを伴いつつ、階段を登っていく。

 登り切ったその先には、無数のデウスに警護された元帥殿の姿があった。

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